◇計54匹で実験、28匹が成功 絶滅危惧種の生態解明へ

 大きな魚に捕食されたニホンウナギが、エラの隙間(すきま)からニョロニョロとはいずり出て生還――。そんな不可解な脱出劇を、長崎大が世界で初めて発見した。研究チームがまとめた論文は2021年12月中旬、米科学誌「エコロジー」に掲載された。謎の多い絶滅危惧種ニホンウナギの生態解明へ大きな一歩となりそうだ。【中山敦貴】

 脱出劇の「第一発見者」は、長崎大大学院水産・環境科学総合研究科博士前期課程1年の長谷川悠波(ゆうは)さん(23)。元々、ニホンウナギが魚に食べられそうになった時にどのように逃げるのかを研究しており、ニホンウナギを肉食魚のドンコのいる水槽に入れて動きをつぶさに観察していた。

 あれ? 20年9月、長谷川さんは研究室で水槽をのぞき込み、首をかしげた。実験の過程でドンコに捕食されてしまったはずの体長約7センチのニホンウナギが、水槽内を元気に泳ぎ回っていたのだ。

 水槽の周りに長時間撮影が可能なカメラを取り付け、再度観察したところ、びっくり。捕食されたニホンウナギがドンコのエラからしっぽを出し、細長い体をくねらせて脱出に成功していた。

 報告を受けた指導教員の河端雄毅准教授(38)は「今まで聞いたこともない」と目を丸くし、「これはすごい研究になるかもしれない」と太鼓判を押した。

 長谷川さんらは20年11月まで計54匹のニホンウナギで、ドンコに捕食された後に脱出できるかどうかを実験。その結果、半数を超える28匹が脱出に成功した。わずか6秒で脱出したウナギもいれば、130秒かかったウナギもいた。いずれも頭ではなく、しっぽを先にエラの外に出していたという。

 予想外の実験結果に「最初はたまたま脱出できたのかなと思っていたが、ただただ驚きだ」と長谷川さん。河端准教授は「ニホンウナギの生態については近年の研究で明らかになった部分も多い一方、捕食者からどう逃げるかについてはほとんど分かっていない。生存手段を解明する上で重要な発見だ」と強調する。

 毒を持ち、捕食者に吐き出されるなどして一命を取り留めるフグなどの魚もいるが、ニホンウナギは能動的に脱出する点が特徴という。細長い体形の理由を考える上でもヒントになりそうだ。

 ニホンウナギは13年に絶滅危惧種に指定され、資源保護のため、養殖途中の個体の放流も実施されている。魚が豊富な環境に憧れ、故郷の新潟から長崎大に進んだ長谷川さんは「脱出が得意で生き残りやすい個体の特徴を突き止めれば、どんな個体を放流すれば効果的なのかが分かるはずだ」と目を輝かせている。』

人間も逞しい生命力の日本鰻に学べきです。