“遅れて来たハードバッパー”。ソニー・クリスに対する私のイメージを一言で表すとそうなります。キャリア自体は長く1940年代の後半から演奏活動を行っているクリスですが、長らくメインストリームからは外れた存在でした。50年代半ばにインペリアルというマイナーレーベルに何枚かリーダー作を残しており、一部マニアには高い評価を得ているようですが、お世辞にもそれほど親しみやすい作風とは言えませんし。その後ヨーロッパにも渡ったりしたクリスが名門プレスティッジと契約したのは1966年。以降、「ジス・イズ・クリス!」「アップ・アップ・アンド・アウェイ」そして67年発表の本作と充実した作品を次々と発表します。結局好調は長続きせず、70年代のフュージョン時代になると再び不遇をかこい、77年には胃ガンを苦に自殺と悲劇的なイメージが拭えないクリスですが、この頃の作品は60年代後半という時代にしては珍しい直球ハードバップとして、普遍的な魅力を放っています。
メンバーはクリス(アルト)、ウォルター・デイヴィス・ジュニア(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アラン・ドーソン(ドラム)。派手ではないが堅実な顔ぶれです。曲はスタンダードやビバップの名曲カバーが中心ですが、中でも“On A Clear Day”が素晴らしい出来。次々とメロディアスなアドリブを紡ぎ出すクリスの圧巻のソロに、デイヴィスのスタイリッシュなピアノが華を添えます。アップテンポの“Wee”や“Blues In The Closet”ではチャーリー・パーカー直系のバピッシュなアルトが炸裂。他はデイヴィスの自作曲でゴスペル風の“A Million Or More Times”、ビリー・ホリデイ作曲のブルージーな“God Bless The Child”、チャップリン作曲のバラード“Smile”とバラエティ豊かな構成。この頃キャリアの頂点だったクリスの魅力がつまった1枚です。