本日は白人トロンボーン奏者のカイ・ウィンディングをご紹介します。少し変わった名前ですが、デンマーク生まれで子供の時に両親とともにアメリカに移住してきたそうです。彼の場合は何と言ってもJ・J・ジョンソンとのトロンボーン・デュオ、”ジェイ&カイ”で有名ですよね。1950年代前半にコンビを組み、プレスティッジ、サヴォイ、コロンビア、ベツレヘム、インパルス等に10枚を超える作品を発表しています(本ブログでも過去にベツレヘム盤を取り上げています)。ただ、双頭リーダーと言いつつ、知名度ではJ・J・ジョンソンの方が圧倒的に上で、カイの方は典型的な”じゃない方”扱いなのは否めません。実際、カイはジェイ&カイ以外にも50年代だけで10枚近いリーダー作をコロンビア等に残しているのですが、私はそれらの作品がCDで発売されているのを見たことがないですし、ジャズファンの間でひそかに愛好されているということもないようです。
本作はそんな地味なカイが1960年にインパルス・レコードに吹き込んだもので、カイの単独リーダー作の中で唯一市場に出回っている作品です。録音は1960年11月と12月に行われており、11月のセッションがロス・トンプキンス(ピアノ)、ボブ・クランショー(ベース)、アル・ベルディーニ(ドラム)、オラトゥンジ(コンガ)のリズムセクションにジョニー・メスナー含む4人のトロンボーン・アンサンブルが加わります。12月のセッションはリズムセクションがビル・エヴァンス(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、スティックス・エヴァンス(ドラム)に代わり、ジミー・ネッパー含む3人のトロンボーン・アンサンブルと言う構成です。
全10曲。歌モノスタンダードとジャズオリジナルが半分ずつで、選曲もバラエティ豊かです。1曲目はクルト・ワイルの定番スタンダード"Speak Low"ですが、エキゾチックなアレンジがされており、ナイジェリア出身のオラトゥンジが野性的なコンガで盛り立て、カイとトンプキンスが快調なソロを聴かせます。2曲目"Lil Darlin"はニール・ヘフティがカウント・ベイシー楽団のために書いたバラードで、カップミュートのアンサンブルをバックにカイとトンプキンスがゆったりとソロを取ります。3曲目"Doodlin'"はご存知ホレス・シルヴァーのファンキーチューンで、分厚いトロンボーンアンサンブルをバックにカイの咆哮するトロンボーン、トンプキンスの意外とファンキーなソロがフィーチャーされます。4曲目ガーシュウィン・ナンバーの"Love Walked In"は通常ミディアムテンポで演奏されることが多いですが、ここではムードたっぷりのスローバラードに料理されています。5曲目"Mangos"はソニー・ロリンズも「ザ・サウンド・オヴ・ソニー」でカバーした楽しいラテンナンバーで、"Speak Low”同様にオラトゥンジのコンガが大活躍します。
後半(レコードのB面)最初の"Impulse"はレコード会社に捧げたであろうカイのオリジナル。ただ、聴いていただければわかるようにスタンダードの"I'll Remember April”を急速調にした感じです。カイのパワフルなトロンボーンはもちろんのこと、ロス・トンプキンスがグルーヴィーなピアノソロを聴かせてくれます。この人、他ではあまり見かけない白人ピアニストですが、なかなか良い演奏をしますね。7曲目"Black Coffee"はペギー・リーの歌であまりにも有名な曲。実はこの曲からピアノがビル・エヴァンスに交代していますが、トロンボーンが主役なので言われなければ気づきません。ただ、続く"Bye Bye Blackbird"ではエヴァンスがさすがのプレイを聴かせてくれます。イントロの軽快なピアノもそうですし、カイのミュートソロを挟んで、40秒ほどではありますが珠玉のようなソロを披露します。その後に再びトロンボーンソロがありますが、そちらはジミー・ネッパーとのこと(ネッパーについては過去ブログ参照)。
ラスト2曲はカイが愛嬢に捧げた"Michie"のスローバージョンとファストバージョンが続けて収録されています。前者はゆったりしたトロンボーンアンサンブルとエヴァンスのピアノをバックにカイが情感たっぷりにバラードを歌い上げます。後者はドライブ感たっぷりの演奏で、力強いカイのソロに続き、目の覚めるようなピアノソロが挟まれますが、こちらはエヴァンスじゃなくて再びトンプキンスなんですね。ややこしいな。その後でトロンボーンソロを取るのはエフィ・レスニック(知らん!)と言う人らしいです。アル・ベルディーニのドラミングにシャープなトロンボーンアンサンブルも見事です。以上、全曲解説してしまいましたが、どの曲も聴きどころがあり、最初から最後まで聴く者を飽きさせない内容で、文句なしの名盤と思います。