本日はズート・シムズのユナイテッド・アーティスツ盤「ズート・シムズ・イン・パリ」を取り上げたいと思います。タイトル通りパリの名門クラブであるブルーノート・クラブで1961年に行われたライブを録音したものです。ズートはパリの街を気に入っていたのかたびたびツアーで訪れていたようで、1956年にも現地のレーベルに「ズート・シムズ・オン・デュクレテ・トムソン」を残しており、こちらも名盤の評価が高いです。ただ、同時期に多くのジャズマンがヨーロッパに移住した中、ズート自身は1985年に亡くなるまで終生アメリカを離れることはありませんでした。
ワンホーン・カルテットでリズムセクションはアンリ・ルノー(ピアノ)、ボブ・ウィットロック(ベース)、ジャン=ルイ・ヴィアール(ドラム)と言った顔ぶれ。うちルノーとヴィアールはフランス人でズートとは「デュクレテ・トムソン」でも共演していますね。ボブ・ウィットロックはウェストコーストで活躍したジャズマンで、アート・ペッパー、チェット・ベイカー、ジェリー・マリガンらと共演歴があります。
曲は全9曲。ズートのオリジナルが2曲、後の7曲は全て歌モノスタンダードです。オリジナルは1曲目の"Zoot's Blues"と7曲目の”A Flat Blues"で、おそらく即興のブルースではないかと思います。ズートはちょくちょく自作のブルースを演奏しますが、独特の味わいがありますよね。黒人ジャズマンの演奏するこってりしたブルースとは少し違い、1930年代のベイシー楽団っぽいややノスタルジックな味わいのブルースです。一方、スタンダードはどれもよく知られた曲ばかり。特に”These Foolish Things"”On The Alamo"”Too Close For Comfort"等の曲は上記「デュクレテ・トムソン」や「ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ」でも演奏されており、ズートのお気に入りの曲だったのでしょう。その他も”Once In A While"”You Go To My Head""Stompin' At The Savoy"と言った定番曲がズラリと並んでおり、正直新鮮味はあまりないですが、ズートはいつもながらのまろやかなトーンでミディアムテンポではスインギーに、バラードではムードたっぷりに歌い上げます。唯一”Spring Can Really Hang You Up The Most"だけは比較的新しい曲で、トミー・ウルフが1955年に書いたスローバラード。ジャッキー&ロイ等いろんな歌手が歌っていますが、器楽奏者ではズートが初めて取り上げたかもしれません(確証はないですが・・・)。こちらも絶品のバラード演奏です。