本日はアート・ファーマーです。ファーマーについては最近も「イヴニング・イン・カサブランカ」や「ファーマーズ・マーケット」と言った50年代半ばのプレスティッジ時代の名盤を取り上げてきました。この頃のファーマーはハードバップ路線ど真ん中でトランペットをバリバリ吹いていましたが、1960年代にハードバップが下火になると新たなスタイルを模索します。同時代に活躍したマイルスやリー・モーガンらはモードジャズ路線を突き進んて行く中、ファーマーが選んだのは楽器を変えることでした。
1961年10月にアーゴ・レーベルに吹き込んだ本作「パーセプション」を機に、ファーマーは本格的にフリューゲルホルンを使用し始め、以後キャリアを通じてこの楽器を吹き続けます。フリューゲルホルンはトランペットに似た金管楽器ですが、トランペットより一回り大きく、管の口径も広いことから、音的には優しく暖かみのある音色が出ます。一方でハイノートは出にくいので、激しい演奏には向かないようです(実際に演奏したことないので完全に受け売りですが)。結果、60年代以降のファーマーはソフトな演奏で売って行くようになります。
この頃のファーマーはソロ活動と並行してベニー・ゴルソンとの双頭コンボ、ジャズテットでも活動しており、本作「パーセプション」には当時のジャズテットのリズムセクションであるハロルド・メイバーン(ピアノ)、トミー・ウィリアムズ(ベース)、ロイ・マッカーディ(ドラム)が参加しています。ただし、テナーとトロンボーンはおらず、ファーマーのフリューゲルホルンにスポットライトを当てたワンホーン編成です。
全8曲。歌モノスタンダードとジャズ・オリジナルが半分ずつと言う構成です。アルバムはファーマーのオリジナル曲"Punsu"で幕を開けますが、ハロルド・メイバーンのピアノによるおしゃれなイントロを聴いた瞬間に「素敵な音楽が始まる♪」と思わせてくれますね。実際、その後のファーマーの歌心たっぷりのソロ、メイバーンの軽やかなタッチのピアノソロも期待に違わぬ出来です。7曲目”Change Partners"も素晴らしいですね。元々はフレッド・アステアが主演映画で歌っていた曲で旋律自体が魅力的ですが、演奏も最高です。この曲もハロルド・メイバーンのマッコイ・タイナーを彷彿とさせるような飛翔感溢れるソロに導かれるようにリズムセクションが躍動し、ファーマーも名人芸とでも言うべきメロディアスなソロを存分に聴かせてくれます。
以上、上記の2曲のみで名盤認定しても良いくらいですが、それ以外も哀愁たっぷりのスタンダード”Lullaby Of The Leaves"、ロジャース&ハートの2曲のバラード”The Blue Room"”Nobody's Heart"、オリジナルではファーマー作の軽やかなタッチの佳曲"Kayin"、レイ・ブライアント作のファンキーな”Tonk"も捨てがたい内容です。煙草片手にポーズを決めるファーマーのダンディなジャケットもカッコいいですし、地味ながらも隠れた名盤だと思います。