ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

アート・ファーマー&ジジ・グライス/ホエン・ファーマー・メット・グライス

2024-10-26 10:01:18 | ジャズ(ハードバップ)

先日の「パーセプション」に引き続きアート・ファーマーです。ファーマーのスタイルの変遷については前回も話をしましたが、今日ご紹介するプレスティッジ盤「ホエン・ファーマー・メット・グライス」は1954年から1955年にかけての録音なので、ファーマーがバリバリのバップ・トランぺッターだった頃ですね。ジャケットの左側の人物がファーマーで握手しているのがコ・リーダーであるアルトのジジ・グライスです。

ジジについてもドナルド・バードと組んだジャズ・ラブの作品を中心に本ブログでもたびたび取り上げてきました。ジジは当時の黒人ジャズマンでは珍しくボストン音楽院で音楽理論を学んだエリートで、特に作曲能力に優れたものを発揮しました。もっとも、彼の作る曲は決して小難しいものではなく、あくまでビバップをベースにしながらメロディやハーモニーに工夫をこらしたものです。1950年代中盤はちょうどハードバップの黎明期にあたりますが、ジジの作る”洗練されたビバップ”がマイルス・デイヴィスやホレス・シルヴァーらの作った音楽とともにハードバップを形作ったと評価して良いと思います。

メンバーですが、1954年5月のセッションが、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)。1955年5月のセッションがフレディ・レッド(ピアノ)、アートの双子の弟アディソン・ファーマー(ベース)、アート・テイラー(ドラム)です。メンツだけを見ればホレス・シルヴァーに当時のMJQ2人を加えた前者の方が豪華ですが、後者もなかなか興味深いメンバーです。特にフレディ・レッドの他人名義の作品への出演は珍しいので貴重です(レッドについては過去ブログ参照)。 

全8曲、スタンダードは1曲もなく、7曲がジジ、残りがファーマーの自作曲ですが、どれも名曲揃いです。1曲目"A Night At Tony's"はオープニングを飾るにふさわしいアップテンポの華やかな曲。後にアート・ブレイキーもカバーしています。2曲目"Blue Concept"は別名を”Conception"とも言い、ジジが1953年にライオネル・ハンプトン楽団に在籍していた時に書いた切れ味鋭いバップナンバーで、クリフォード・ブラウンのパリ・セッションにも収録されています。4曲目の”Deltitnu"もそうですね。なお、同時期のハンプトン楽団にはファーマーも在籍していましたので、2人は当時からの付き合いのようです。続く”Stupendous-Lee”は他ではあまり聴かない曲ですが、ミディアムテンポの佳曲です。

後半(B面)は"Social Call"で始まりますが、こちらはスタンダード曲を思わせるような優美なメロディの曲で、実際翌年にジョン・ヘンドリックスが歌詞を付け、歌手のアール・コールマンが歌っています。今ではすっかり本物のスタンダードとして定着し、多くの歌手にカバーされています。続く”Capri"も私の大好きな曲で、ジジ自身もジャズ・ラブで演奏していますし(RCA盤参照)、ベニー・ゴルソンも「ニューヨーク・シーン」で取り上げた名曲です。"Blue Lights"は個性派ピアニストのエディ・コスタのバージョンがすっかり有名になりましたが、クリフ・ジョーダンやコールマン・ホーキンスもカバーしたマイナーキーの曲。ラストの”The Infant's Song"だけはアート・ファーマーの作曲ですが、こちらもしみじみとした美しいバラードです。

演奏の方ですが、この頃はバリバリと小気味良いトランペットを吹いていたファーマー、パーカー直系の流麗なアルトを聴かせるジジに、シルバーやレッドらリズムセクションも堅実な仕事ぶりです。ファーマーとジジはこの後も「イヴニング・イン・カサブランカ」でコンビを組むなど、蜜月関係を築いていましたが、その後は袂を分かちます。どうやらジジは性格的に神経質なところがあったようですね。その後も息の長い活動を続けたファーマーに対し、ジジは60年代に入ると早々にシーンから姿を消しますが、本作は彼の作曲能力の高さを知ることができる1枚です。

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