ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ソニー・クリス/アップ・アップ・アンド・アウェイ

2024-12-16 18:31:39 | ジャズ(ハードバップ)

ジャズサック奏者でソニーと言えば、何と言ってもソニー・ロリンズ、続いてソニー・スティットの名が挙がりますが、このソニー・クリスも忘れてはいけません(他にソニー・レッドなんてのもいますね)。本ブログでも過去に「ポートレイト・オヴ・ソニー・クリス」「アイル・キャッチ・ザ・サン」と言った作品を取り上げましたね。キャリア自体は長く、早くも1940年代後半のビバップ期から活動していますが、なかなかレコーディングの機会に恵まれず、50年代半ばにインペリアルやピーコックと言うマイナーレーベルに数枚のアルバムを残したのみ。その後は一時フランスに移住して活動したりしていたようです。

彼が3大ジャズレーベルの1つであるプレスティッジと契約したのは1966年。クリスは38歳になっていました。この頃は既に黄金のハードバップ時代はとっくに終焉し、ジャズマン達はそれぞれのスタイルに合わせてモードジャズ、フリージャズ、ソウルジャズ等の路線を歩んでいました。ところが遅ればせながら表舞台に登場したクリスはまるで10年以上時を巻き戻したかのようなバリバリのハードバップ、いやそれどころかさらに遡ってチャーリー・パーカーのビバップを彷彿とさせるようなスタイルでアルトを吹きまくります。

本作「アップ・アップ・アンド・アウェイ」は1967年8月に吹き込まれたプレスティッジ3作目。ここでもクリスは最新のヒット曲等を取り上げながらも、スタイル的にはパーカー直系のアルトを存分に聴かせてくれます。共演メンバーも面白いです。リズムセクションのシダー・ウォルトン(ピアノ)、ボブ・クランショー(ベース)、レニー・マクブラウン(ドラム)の3人はいかにも60年代らしい人選ですが、ギターにタル・ファーロウが入っています。主に50年代に活躍した白人ギタリストで(代表作「タル」参照)、60年代に入ってからは引退状態でしたが、本作が8年ぶりのレコーディング復帰だそうです。

全6曲。アルバムはまずタイトルトラックの"Up, Up And Away"で始まります。シンガーソングライターのジミー・ウェッブが作曲し、男女混合のヴォーカルグループ、フィフス・ディメンションが歌って全米7位、さらにはグラミー賞の最優秀レコードにも輝いた名曲です。いわば最新のヒット曲のジャズ化ですが、クリスはのっけから脳天を突き刺すようなハイトーンでパピッシュに吹きまくります。シダー・ウォルトンの華やかなピアノソロも良いです。最新ヒット曲はもう1曲あり、4曲目"Sunny"はR&Bシンガーのボビー・へブが歌い、前年に全米2位の大ヒットとなった曲のカバーです。相変わらずファナティックに吹きまくるクリスにシダーが華を添えます。

一方、いわゆる普通のジャズスタンダードも2曲あり、1つは”Willow Weep For Me"。私は実はこの曲暗くてあんまり好きじゃないんですが、もともとクドめの曲をクリスがさらにこってりブルージーに聴かせます。この曲はタル・ファーロウの独特のギターソロも挟まれます。私としては”Scrapple From The Apple"の方がおススメですね。ご存じチャーリー・パーカーの名曲で、パーカーを師と仰ぐクリスが入魂のソロを披露。タル・ファーロウとシダー・ウォルトンのソロもファンタスティックでズバリ本作のベストトラックです。

オリジナル曲も2曲あり、1つはホレス・タプスコットが書いた”This Is For Benny"。このタプスコットと言う人は西海岸で活躍していた黒人ピアニストでクリスとは関係が深く、翌年には全曲タプスコット作曲の「ソニーズ・ドリーム」と言う作品を残しています。なかなか魅力的なメロディーを持ったマイナーキーの佳曲でクリス→タル→シダーとソロをリレーします。ラストトラックの"Paris Blues"はクリス自作のブルース。曲名はクリスが一時パリに在住していたことと関係があるのでしょうか?タル特有の太い音色のギターソロにクリスのコテコテのアルトが絡みます。以上、人によってはクリスのアルトかややクドいと思う人もいるかもしれませんが、私は結構好きです。

 

 

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