1/17、同/22と続いて……
皿が割れる音がして
「コンチキショー、出て行きやがれ!」
の怒声が言い終わらないうちに
「言われなくても二度と帰らねーよ!!」
と女性とは思えぬドスの効いた声が
壁の向こうから。
もう慣れてきた。
「二度と」を聞いたのは両手で足りない。
年中派手に喧嘩して、
だけれども本当に別れることはなく、
ごま塩短髪の七十絡みの夫が
「何遍言ってもできねえな、バカ」
「バカにバカ呼ばわりされたくないね」
紫に染めたいが白髪が勝っている頭と
唇には近年見かけない濃い赤をさした
妻が数日後には喚き合いながら
狭い狭い路地を並んで歩く。
近所迷惑甚だしい声高な口論の二人。
だが、漫才師顔負けの応酬だから
ただで寄席にいると思えば、
多少我慢もできる。
その境地に達するまでに隣家は
暦を随分掛けかえたけれど。
※※※
全国高校サッカー選手権一回戦。
監督となり苦節16年、初めての県代表。
小峰は競技場のいかめしい時計を見る。
既に80分は過ぎて残すはロスタイム。
1対0とリードしている。
近距離の守備にめっぼう強い武田を
スイーパーに送り出して、15分が経過。
力では上の全国常連校の分厚い攻撃に
チームは耐えていた。
主審はチラリと腕時計に目を落とす。
相手GKがピッチ中央まで上がり、
ゴール前に蹴り込む。
バイタルエリアは大密集。
スマートボールのように
敵味方の足、膝、足、踵と弾かれて、
最後はキーパーが身を挺して抑えた
……かに見えたが、こぼれて。
赤と黒の縦縞ユニの足が伸びる!
9年前の県予選決勝。
GKとCBが一瞬見合って敗れたシーンが
小峰の脳裏に蘇る。
そこに、コンマ秒早く武田の爪先!
近距離でのレーダーが危機を察知、
ダークオレンジのスパイクが!!
ボールはゆるゆるとラインを割り、
長い長いホイッスル。
※※※
小さな自分たちの暮らしのみに
視界を置いて生きている。
「なんだよ、茶がぬるいぞ、タコ」
「電気もガスも値上がりしてたんだ、
黙ってすすれ!」
今日も諍いながらも当人同士は
楽しいのだろう。
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