図書館から借りていた、葉室麟著、「青嵐の坂」(角川文庫)を読み終えた。本書は、著者創作の架空の小藩「扇野藩(おうぎのはん)」を題材にして描かれた長編時代小説「扇野藩シリーズ」の第4作目(最終巻)になっている。
第1作目「散り椿」、第2作目「さわらびの譜」、第3作目「はだれ雪」を読んだ後に読んだものだが、同じ扇野藩を舞台にした作品とは言っても、それぞれ、時代が異なり、登場人物も重なってはいないので、どの作品から読んでも差し支えないことが分かった。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにしている。
■目次
(一)~(三十)
解説 大矢博子
■主な登場人物
檜主馬(ひのきしゅめ、矢吹主馬(やぶきしゅめ))、那美、
佐助、お鹿婆さん、
檜弥八郎、檜慶之助、
千賀谷右京大夫定家(ちがやうきょうのだいぶさだいえ)、千賀谷左近将監仲家
千賀谷右京大夫正友、
丹生松右衛門、渡辺主膳、
叶屋善右衛門、松屋左衛門、白坂屋久藏、
升屋喜右衛門、力(りき)、
■あらすじ等
城下の大半を焼き尽くした大火「お狐火事」、追い打ちを掛けた大凶作、さらには幕府から命じられた隣国の弥生川護岸工事の出費等々で、財政破綻寸前に追い込まれていた扇野藩。
時の藩主千賀谷定家は、郡代の檜弥八郎を中老に抜擢し、藩政改革を行わせ、困難を脱しようとしたが、厳しい年貢の取り立てで、農民からは「黒縄地獄」と呼ばれ、弥八郎は、反発する旧態の執政達の罠にはまり、有らぬ賄賂の疑いを掛けられ、切腹に追い込まれた。弥八郎は、淡々とこれを受け、自分の後を継ぐのは「あの者であろうか」と言い残した。
あの者とは?、
弥八郎の娘の那美は、親戚筋の矢吹主馬の預かりとなり、嫡男の慶之助は、江戸で、世子千賀谷仲家に気に入られていた。
数年後、世子仲家が家督を継ぎ、側近の慶之助を連れて扇野藩に戻り、藩政改革へ取り組むことになったが、旧態の執政達の策謀、藩札発行を巡る商人達との策略攻防、慶之助の出生の秘密、慶之助と主馬の信念と覚悟。
那美と祝言を上げ、檜家を継ぐことになった主馬は、お救方頭取を拝命、苦難の道へ歩み出す。
「他人のままでいるしか無い」
「武家は利では動かぬ。義で動くものだ」
「政を行うということは、いつでも腹を切る覚悟ができているということだ。そうでなければ何もできぬ」
葉室麟作品には、必ずといっていい程登場する、多くを語らず、正義を貫く、清廉な武士、
悪に屈っせず、信念を貫いた武士を描いた作品である。
那美はふと気が付いたように
「堀川国広の脇差はいまどこにあるのでございましょうか」と訊いた。
主馬は澄んだ目で那美を見つめた。
「いまはわたしが差している。義兄上の覚悟を生涯、忘れぬためにな」、
・・・・・、
立ち尽くす那美と主馬の背中を押すように清々しい風が包んだ。
で、終わっている。
表題「青嵐の坂」は、主馬が、改革に乗り出す覚悟を決めた時発した言葉、「嵐の吹き荒ぶ坂を上っていくようなもの」から、「嵐の坂」をとり、青葉の頃に吹く強い風のことから、「青」の文字を加えたもののようだ。
ただの嵐ではなく、嵐に耐えた後でまっすぐに雄々しく育っていくもの、未来への希望を込めて、表題にしたのではないかと思われる。