足腰大丈夫な内に出来る限り、不要雑物処分・身辺片付け整理をしよう等と思い込んでからすでに久しいが、正直なかなか進んでいない。それでもここ2~3年には、押し入れや天袋、物置、書棚等に詰まっていた古い書籍類等をかなり大胆に処分してきた。ただ、中には「これ、面白そう・・」等と目が止まり、残してしまった書籍もまだまだ結構有る。その中に 漫画家赤塚不二夫著、元東京学芸大学附属高等学校教諭石井秀夫指導の古典入門まんがゼミナール「枕草子」(学研)が有る。多分、長男か次男かが、受験勉強中に使っていた「枕草子」の解説本・参考書の一つのようだが、錆びついた老脳でもなんとか読めそうな、まんがで描いたくだけた内容、その内いつか目を通してみよう等と仕舞い込んでいたものだ。ながびく新型コロナ禍、不要不急の外出自粛中、ふっと思い出して、やおら引っ張りだしてみた。当然のこと、本格的な「枕草子」解説本、参考書とは異なり、限られたサワリの部分に絞ったものであるが、学生時代に多かれ少なかれ齧っていたはずの日本の代表的な古典、清少納言の「枕草子」も、ほとんど覚えていないし、「古典」に疎く、苦手な人間でも、十分楽しめそうで、御の字の書である。
「清少納言は犬の涙を見た」・まんがゼミナール「枕草子」 その23
第9段 「上に候ふ御猫は」
天皇寵愛の猫を脅かした犬の翁丸は、宮中から追放されたが、舞い戻ってきて、役人に打ち叩かれて死んだという話を聞き同情していたところ、汚い犬が御殿の部屋の前にうずくまっており、翌日、清少納言が翁丸のことを思って同情の言葉を漏らすと、その犬は涙を落とし身体を震わせる。前夜、天皇の怒りを恐れて身を隠していた翁丸だったのだ。清少納言の優しさが出ている段。
帝御寵愛の猫は、高貴な位をいただき、「命婦のおとど」と呼ばれておまス。
命婦のおとどのお世話係・馬の命婦「まあそんな所でごろ寝してお行儀悪い。猫の貴族は中にお入り・・」「知らん顔しよってからに。おどかしたるで」
「翁丸、おきな まろ!」「命婦のおとどを噛んでもいいで!」
ウオッー、オン!、ギャーッ!
帝「何ということや、朕は全部見てしもたでっ!、一部始終を目撃しとったんやでっ!」
馬の命婦「これっ!、翁丸っ!」「申し訳けおまへん。お許し下だはれ」
帝「ふとどきな犬、翁丸を打ちこらしめ、犬島に流罪にいたせ!、すぐにやっ!」
役人「わあーっ!」「翁丸を捕らえろ!」「死刑や!、百叩きやっ!」
女房達「あーら、翁丸は、逮捕されてしもた」「かわいそうや。いつもいばってのし歩いていたのに・・・」
そして しばらくたって・・、
ギャイン、ギャイン・・・、
あれは翁丸の声やないの?
大変でおます!、蔵人お二人で、犬打ちのめしておらはる!
清少納言「流罪にされた翁丸が帰って来たんやね!」
清少納言「忠隆、実房の二人に止めよ!と伝えなされ!」
キャイーン!
清少納言「あー!、急に声の元気がのうなってしもた」
死んでしもたんで、御門の外にほかしてしもたどす。
清少納言「あー、かわいそうー、何とむごいことをする蔵人たちや!」
グオーン、朝日やのうて夕日やからね。
御殿の部屋の前に、ヨタヨタと犬がやってきた、
清少納言「おやっ、あのひどい様子の犬は、翁丸やろか?」
女房達「翁丸!」「そなたはぶたれて変形した翁丸やないか?」「返事してえな」「あかん、これは、違う犬や」「死んだのを捨てたと言うやし」「男が二人がかりで打ちましたからに生きてはおらんやろ」「食べ物もまるで食べへんし・・・」
清少納言「わては、翁丸としか思えへんのやけど・・」
翌朝
女房達「あーら、あの犬、まだおる」
清少納言「昨日は、翁丸はひどく打たれて死んでしもたそうやが、ほんにかわいそうやった」「翁丸は、何に生まれ変わったのやろ・・。打たれて死ぬとき、どないにつらかったやろねえ」
清少納言「あらっ!、この犬、泣いとる!」「やっぱり、翁丸やった!、ゆうべは素性を隠し、返事せえへんかったのや」
中宮定子「フフフ、とうとう、そなたの情にほだされたのやね」
原文だよーん
上(うへ)に候(さぶら)ふ御猫(おほんねこ)は、かうぶりにて、命婦(みょうぶ)のおとどとて、いみじうをかしければ、かしづかせ給ふが、端に出(い)でて伏したるを、乳母(めのと)の馬の命婦「あなまさなや。入り給へ」と呼ぶに、日のさし入りたるに、眠(ねぶ)りゐたるを、おどすとて、「翁丸(おきなまろ)、いづら、命婦のおとど食へ」と言ふに、まことかとて、痴れ者は、走りかかりたれば、おびえて惑ひて、御簾(みす)の内に入りぬ。
(注釈)
清涼殿に伺候している御猫は、五位の位に叙せられて、命婦のおとどという名で、たいそう可愛がられて、帝が大事にしておられたが、その猫が、縁先に出て、ごろ寝していたので、お守り役の馬の命婦が、「まあ、お行儀が悪いこと、中にお入りなさい」と呼んだが、日が当たっているところで、眠ってじっとしていたので、おどかそうと思って、「翁丸、さあ、命婦のおとどにかみつけ」と言うと、本当かと思って、愚か者の犬は、走りかかったので、猫は怖がりうろたえて、御簾の内に逃げ込んだ。
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