今年7月に図書館に予約(リクエスト)していた、畠山健二著 、「本所おけら長屋(二十)」(PHP文芸文庫)が、約半年経ってやっと順番が回ってきて、先日借りて、読み終えた。
大人気の「本所おけら長屋シリーズ」の第20弾目の作品である。本書には、「その壱 おとこぎ」「その弐 ひきだし」「その参 とこしえ」の連作短編3篇が収録されている。
「本所おけら長屋シリーズ」は、江戸本所亀沢町の貧乏長屋「おけら長屋」の店子、万造、松吉の「万松コンビ」を筆頭に、左官の八五郎、お里夫婦、粋な後家女お染、浪人の島田鉄斎、等々、貧しいくせにお節介焼きで人情に厚い、個性豊かな面々が、次々巻き起こる問題、事件、騒動を笑いと涙で体当たりし、まーるく収めていくという時代小説で、とにかく愉快、面白い。
演芸の台本執筆や演出等の経歴を持たれる著者畠山健二特有の小気味よい文体、まるで江戸落語、漫才を聞いているようなテンポ良さに引き込まれてしまい、随所で、笑いを堪らえ切れなくなったり、思わず泣かされてしまったりする。
「本所おけら長屋シリーズ」のテーマについて、著者は、「品行が悪くても品性が良い」ことだと述べておられるようだが、「いつも馬鹿やっていながら、決して人を裏切ったり騙したりしない」全ての登場人物達に、読者も気持ちよくなり、人の優しさがジーンと心に沁みてくる時代小説になっている。
▢主な登場人物
万造(米屋の奉公人)、松吉(酒屋の奉公人)、お染(乙な後家)、
八五郎(左官)、お里(八五郎の女房)、
島田鉄斎(元津軽黒石藩藩士、浪人)、
徳兵衛(おけら長屋の大家)、与兵衛(乾物商相馬屋隠居)、
久蔵(呉服商近江屋手代)、お梅(久蔵の女房)、亀吉(久蔵・お梅の子)、
喜四郎(畳職人)、お奈津(喜四郎の女房)、
佐平(たが屋)、お咲(佐平の女房)、
金太(八百屋、棒手売り)、辰次(魚屋)、
お栄(酒場三祐、松吉の女房)、晋助、
聖庵(海辺大工町聖庵庵の医者)、お満(聖庵堂の医者)
お律(松吉の義姉)
お悠、お啓、お寧、
▢その壱 おとこぎ
海辺大工町の聖庵堂の医者お満が、聖庵から、公費長崎留学の話を持ち掛けられるところから始まっている。「お前の人生だ、他人が決められることではない。すべてお前が決めることだ」。その直後、鉄斎と万造が、合口で刺された老侠客三津五郎を抱えて聖庵堂にやってきて・・・。神田一帯を縄張にしている明神一家の内輪揉め?。一方で、神田松永町の紙問屋相馬屋舛治郎の用心棒澤田彦之進(鉄斎の旧知の人物)の倅新太郎(勘吉)が、おけら長屋へやってきて、相馬屋の窮状を訴える。2つの事件、関わりは?、またまた、お節介を開始するおけら長屋の面々。相馬屋の番頭米蔵が首吊り自殺、その原因は?、万造、松吉は、八百屋棒手売り金太を草履屋飯田屋の若(馬鹿)旦那弥太郎に仕立てて賭場に乗り込むが・・・・。博徒の掟を破っている明神一家、岩六、保二郎・・・、三津五郎の男気が炸裂、牛之助は?、南町奉行所同心伊勢平五郎が、鉄斎が、彦之進が、・・・。
酒場三祐で、八五郎が、鉄斎に言う。
「新太郎に、おけら長屋の人たちならなんとかしてくれるって言われたのによ、おいしいところは三津五郎さんに持っていかれたってわけか。ねえ、旦那」
「いや、おいしい思いをしたのは三津五郎さんだけではないかもしれんぞ。なあ、万造さんに松吉さん」
金太、万造、松吉が、賭場で、「丁」「半」の繰り広げる場面等は、「クスクス」どころか、大笑い、「ハハハハハ」。これでもか、これでもか、「ヤメテ、ケレー!」、腹がよじれる落語の世界だ。
▢その弐 ひきだし
下谷山崎町の柊長屋のおとき婆さんは、捨て子だった万造が2才~10才まで鋳掛け職人源吉に養育されていた同じ長屋の住人だったが、柊長屋を訪ねたきたという上野北大門町の三橋長屋のお蓮が、捨て子の探索をしているらしいことを知らせてきたのだ。お蓮は、おけら長屋の住人に負けていないお節介屋。もしかして、捨て子=万造?、おけら長屋の面々放っておくはず無く、松吉が動き、お染も動く。三橋長屋で、43才で病死した千尋とは?、お悠とは?、千尋の部屋の遺品、引き出しから持ち帰ったもの、袱紗、着物、簪を手掛かりに探索に奔走するが・・・。葛屋安兵衛とは?、木挽町一丁目の料理屋さくら屋のお悠?、「あれは、間違えなく、おれのおっかさんだ。ひと目見たときにすぐ分かった。わははは。母子じゃなけりゃ味わうことのできねえ阿吽の呼吸だったぜ。・・・」、それまで、両親に捨てられたと思っていた万造、実は、そうではなかった・・・。
万造が頷く。「お節介のお蓮さんにしちゃ上出来だ。それが粋ってもんだからよ」
鉄斎が鼻の頭を掻く。「千尋さんの部屋にあった、あの小さな箪笥の引き出しにだって、あれだけの秘め事が隠されていたんだ。人の心の中にある引き出しには、どれだけの秘め事が詰まっているのだろう。その引き出しは開けずに、そっとしておくのが優しさというものではないかな」
▢その参 とこしえ
聖庵堂の医者お満が、実家薬種問屋木田屋を訪れ、父親宗右衛門に、公費長崎留学の話をするところから始まっている。お満と万造をどうする?、お金が要る?、当然のことながら、おけら長屋の連中のお節介が始まり、てんやわんや。鉄斎が剣術大会に?、誠剣塾に現れた三沢重秋とは?、なりゆきで重秋の11才の娘美雪を預かることのなったおけら長屋では・・・。一方で、万造は、お満を、お悠に引き合わせ、プロポーズ?、おけら長屋では、難病の美雪は助からず、涙、涙。お満は、決意。木田屋第三番頭善助・お比呂夫婦と共に長崎へ旅立つ。どうする、万造?。お悠が、おけら長屋にやってきた。「おっかさん・・」「金太・・・」、「・・・お、お、お、おれの名前(なめえ)、きんたてえのか」、万造は気を失いかけてよろける。
翌朝、万造は、両国橋の真ん中に立って振り向いた。
これでもか、これでもかと笑わせ、泣かせ、感動させて、幕が下りるようなシーンである。
ところで、本書の裏表紙には、
「大人気シリーズ、ついに、シリーズ完結か!?」等と、
記載されている。
どうも、著者の畠山健二氏は、巻を追うごとに成長する登場人物達を、より大きな舞台で活躍させたいと考えるようであり、万造、松吉の「万松」コンビをはじめとするメインの登場人物に大きな転機が訪れる本書「本所おけら長屋(二十)」で、物語にいったん区切りをつける決心をしたようなのだ。「本所おけら長屋(一)~(二十)」を「第一幕」と称しているようで、「第二幕」については、目下構想中なのだという。
個性豊かな登場人物達が、今後どのような人生を歩むのか?、今後どんな展開になっていくのか?、是非、続編を期待したいところだ。
「第二幕」を期待しながら、新刊本に、「本所おけら長屋(外伝)」が有り、予約(リクエスト)してきた。この本もまた大変人気が高いようで、20数人待ち?、順番が回ってくるのはいつのことやらである。