古い写真から蘇る思い出の山旅・その32
「安達太良山」
(3)峰ノ辻から、県営くろがね小屋へ
峰ノ辻から、県営くろがね小屋に下る登山道では、沢山の高山植物に出会えた・・・が、
花名が分からず・・・。
サラサドウダン?
アカモノ?
君の名は?
君の名は?
君の名は?
イソツツジ?・・かな?
◯◯ウツギ?
ナナカマドと鉄山の荒々しい岸壁
14時30分頃に、県営くろがね小屋(標高1,400m)に到着したようだ。
軒先に吊るされた「黒い鐘」、くろがね小屋のシンボル?・・とか。
鉄山の中腹に位置し、荒々しい山肌に囲まれて、硫黄の臭いが鼻につく、温泉付き公共の山小屋「県営くろがね小屋」。古来から湯治場として栄えていたが、江戸時代後期に土砂崩れにより全壊以後、岳温泉等に源泉を送るのみになっていたが、昭和25年に避難小屋として建てられた「くろがね小屋」に源泉を引き、登山者等に大変人気が高い山小屋になっているのだと言う。男女別の檜造りの小さな内湯が有り、乳白色の源泉掛け流し湯がふんだんに流れている。泉質は、酸性泉、神経痛、筋肉痛、関節痛、冷え性等に効能が有るのだそうだ。
その日の宿泊者は、数人?、数組?だったようで、夕食も、一斉にではなく、適当に呼ばれ、食堂兼サロンで、素朴で親切な管理人さんが、「おかわり、どうですか」等と、まるで給仕をしてくれるが如くの対応、非常に家庭的な雰囲気だったことが思い出される。
夕食後、確か、2回目の入浴だったと思うが、貸し切り状態の浴室でゆったりくつろいでいると、壁1枚、背中合わせの女湯に、女性一人が入ってきた気配がした。妻は、バトンタッチで、寝る前に入ることになっていたので、妻で無いことは確か。静寂な中、お互いの湯の音まで丸聞こえで、小心者の爺さん、出来るだけ静かにして湯船に浸かっていたと思うが、突然、声がかかった。
「窓、開けてますか?、気持ちいいですよ・・」。隣りの女湯から、顔も見えない見知らぬ女性の声。ドギマギして、なんと受け答えしたかも覚えていないが、「アッ!、ハ、ハイ、開けてます・・・」等と言ったのかも知れない。窓から顔を出して、隣りに挨拶する?等、そんな勇気等のとても無い小心者。多分、会話には、ならなかったと思うが、よほど、おしゃべりな女性(もとい、お話好きな女性)らしく、次々と声が掛かった。
「安達太良山、明日登るんですか?」、「いえ、今日登ってきました」、「どうでしたか?」、「ガスに覆われていて、全く展望無しでした」・・・から始まって、
その女性、塩沢温泉口から、滝、岩を巡って、登ってきたこと、安達太良山へは、明日登ること等、を話し出す。話し振りから、よほど健脚の女性のようであったが、どんな女性なのかは、想像するしか無かった。当時はまだ、酷い難聴にはなっておらず、壁越しでも、ほとんど聞き取れたが、小心者で口下手な爺さん、舞い上がってしまい、どんな受け答えをしたものやら・・・。こちらがもう少しおしゃべりだったら、もっと山の話が膨らんで、長湯になっていたかも知れないが、「明日、晴れるといいですね」、「では、お先に・・」等と、そそくさと浴槽から出たような気がする。
部屋に戻り、「女湯から声が掛かり、窓を開けて入ると気持ちいい」と言われたという話は、妻にした記憶は有る。実際交わした会話等、ほとんど覚えていないが、あの内湯での情景は、妙に頭にこびりついているのだ。
山小屋の灯
(つづく)