何が面白いかと聞かれて困ることがある。例えば映画で言えば”とにかく痛快”とか”とにかく泣ける”とかの表現しかできない。小説でも同じ事が言え、説明が出来ない。”とにかく面白い、読んでみい”と言うことになる▼池波正太郎作品がとにかく面白い”となるのはテンポが一つの要素と思う。そしてもう一つ、その場面の描写に惚れ惚れとする表現があり情景が浮かぶところが多々ある。藤枝梅安では大根とか豆腐を煮たものを食べるシーンがよくあるがこれが本当に美味そうなのである。もし家でそれが出てきてら”これだけ?”とか言って叱られそうな料理なのだがこれが小説ではたまらなく美味しそうなのである▼池波正太郎作品には男と女の濡れ場と言うものは少ない。梅安では”おもと”とのこと、”半右衛門とおくら”などないことではないが多くはない▼感心させられた描写が真田太平記にある。真田信幸が本田忠勝の娘稲姫を徳川家康の養女として娶った婚儀の夜の寝間である”・・・もはや、信幸の声も絶えた。闇が、わずかにゆれうごき、灯台の火が、しきりに瞬く。足軽たちの酒宴の叫びも、一時、絶えたようである”。遠くから覗き見をしているような感覚にとらわれる。 HPに”紅葉の寺”旅行記を追加しました→http://inakaikeda.iza-yoi.net/tabi8.html
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