天使のナイフ (講談社文庫) 薬丸 岳 講談社 このアイテムの詳細を見る |
講談社文庫
この本は少年犯罪がテーマのミステリです。
桧山貴志は、過去に妻を殺されているのですが、その犯人は13歳の3人の少年。
少年法に守られた彼らは、逮捕ではなく、補導されるが、
被害者の家族である桧山にすらも名前も顔も明かされない。
少年法の理念というのはつまり・・・
「子どもの犯罪は、未熟なゆえに環境に左右されて起るものだ。
だから犯罪を犯した子どもは、それを処罰されるのではなく、
立ち直りのために教育的な働きかけを行って指導する。」
ということなのです。
可塑性に富んだ子どもは、多くの手助けがあれば立ち直っていく、とする。
しかし、このことは、被害者の家族を置き去りにしているのです。
少年たちには手厚い保護の手が差し伸べられるのに、
被害者側は、少年審判を傍聴することもできない。
被害者の家族は怒りや悲しみのもって行き場もないし、
そうすると、結局少年たちは自分たちの犯した罪の重さを実感することもないまま、ということになりはしないでしょうか。
こういう納得できない理不尽な痛みを抱えたままの桧山ですが、
その事件から4年後、
社会復帰しているその犯人の少年の1人が殺されたことを知ります。
一体その少年たちは本当に更生していたのだろうか
・・・そんな疑問を晴らそうと、残った少年やその家族を訪ねて回るのですが・・・。
少しずつ現れてくる真実。
果ては、亡くなった妻の意外な過去までもが現れ・・・。
少年法という重く、また功罪合わせ持つ難しいテーマにも係らず、
するすると興味を持って読めてしまいます。
普段、寝る前の読書はほとんど入眠剤代わりだったりするのですが、
この本は読むほどに目が冴えて一気読み。
少年法にからめて、複雑で皮肉な連鎖が現れてきます。
結局予想のつきがたい犯人像は、やはりミステリならではですし、
私のようなミステリファンはもちろん、
そうでない方にも楽しんでいただけると思います。
ここで注目のアイテムは万華鏡。
亡き妻が残した、手作りらしい手の込んだ万華鏡。
これは大切な事実を証明するアイテムです。ぜひ注目。
主人公桧山はコーヒーショップの店長さん。
こんなところもなんだかステキなんですよ。
男手一つでまだ幼い女の子を育てているあたりも、なかなか・・・。
満足度★★★★★