映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「螺鈿迷宮 上・下」 海堂 尊 

2008年12月24日 | 本(ミステリ)
螺鈿迷宮 上 (角川文庫)
海堂 尊
角川グループパブリッシング

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田口・白鳥シリーズの番外編的作品です。
舞台は東城大学医学部付属病院ではなく、その同じ町の桜宮病院。
この病院は確か前作「ナイチンゲールの沈黙」にも出てきたのではないでしょうか。
登場人物も重なるところが多く、
つまりこれは、大きな海堂ワールドの作品の一つなんですね。
ここでの主人公は天馬大吉という、まことにおめでたそうな名前の持ち主。
しかし、その実、運の悪いことは人一倍どころか何十倍。
彼は東城医学部の学生なのですが、目標を見失い、ずるずると卒業し損ねている。
あるとき、終末期医療の最先端といわれる桜宮病院の怪しい動きを探るために、
スパイとして潜入することに。

そこでは、余命数ヶ月と宣告された患者が、
終着の地として送り込まれてきているのですが、
ただボーっと死を待つのではなく、
病院のスタッフの一員として、働きつつ入院するというシステムをとっている。
いよいよの時まで、動ける限りはきちんと生き甲斐を持って生活する。
ちょっといいなあと思えるんですが。

看護ボランティアとしてやってきた天馬だったのですが、
運の悪さは極め付き。
そこで更に、超人的にトロくてドジな看護師、姫宮と遭遇。
この相乗効果で、腕は骨折する、頭は打つ、火傷はする・・・。
なぜか入院患者になってしまった。
この辺のくだりが実に面白くて、笑ってしまいました。

そこに登場するのが、怪しげな皮膚科の医師。
なんとこれがあの、白鳥だったんですねー。
しかし、笑っている場合ではありません。
なんと、この病院で毎日人が死ぬ。
いくら終末期の病院だって、
昨日までぴんぴん働いていた人が、今日亡くなって、
瞬く間に解剖を済ませ、火葬されてしまう。
そんなことが連日・・・。

一体この病院では何が起っているのか。
そして、白鳥は何のために、こんなところに身分を偽って来ているのか。
この辺が解くべき謎なのであります。

しかし、この話は、いわゆる「本格ミステリ」ではないですね。
何かのトリックや、意外な犯人や、驚きのどんでん返しがあるわけではない。
この著者は、多分この先、ミステリ路線よりも、読ませるエンタテイメント路線に行くのではないかと思います。
医療問題も絡めながら・・・。
ミステリファンの私ですが、それでもついて行きたいと思います。

さて、そのとんでもなくトロくてドジな看護師、姫宮さんは、
実は白鳥の秘書”氷姫”さんでした。サプライズ!!
こういうところがやはり楽しくて、
シリーズの次の本が文庫化されるのを、首を長くして待つことにします。

満足度★★★☆☆(・・・しいて言えば3.5。)