映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「北緯四十三度の神話」 浅倉卓弥

2008年12月23日 | 本(その他)
北緯四十三度の神話 (文春文庫)
浅倉 卓弥
文藝春秋

このアイテムの詳細を見る

北緯43度。
これでピンと来るのは、やっぱり私が札幌人だからでしょうか。
著者浅倉氏は札幌出身ですから・・・。
デビュー作「四日間の奇蹟」は、とても面白く読みました。
さて、これは札幌が舞台の物語。
(実際には、どこにも「札幌市」という具体的名称は出てきませんが。)

姉、菜穂子は、28歳大学助手。
妹、和貴子は27歳ラジオ局アナウンサー。
この二人の姉妹の、微妙な心のゆれを描いた情緒深い作品です。
もともと、とても仲の良かった姉妹なのですが、
二人が中学生の時に、両親が事故で亡くなり、
その後は祖父母の家で暮らすことになる。
そうでなくても、自己形成において大事な年頃です。
姉は、両親に代わって妹を守らなくては・・・という意識にとらわれ、
妹の方は、いつもできの良い姉と比べられることで反感を抱いている。
大きな環境の変化とも重なり、二人は次第に疎遠な関係となっていきます。
そしてまたさらに、姉の友人樫村が妹の婚約者となったことで、
いよいよ二人の感情がゆれる。
姉、菜穂子は二人を祝福しつつ、自分の奥底の感情をもてあますのですね。
実は菜穂子も・・・というのは、読者にも十分感じられるのですが、
その答えはどうなのか。
答えというよりは、菜穂子自身の決着の付け方なのかも知れませんが、
それは最後に表わされます。

こんな関係でも、二人ののしりあって大喧嘩にはならない。
自分の中に沈み込んでいくだけなんですね。
このあたりが、まことに北国の雰囲気でしょうか・・・。
でも、本当はどんなに思いがあっても、口に出して言わなければ伝わらない。
どんなに、口に出して説明しにくい感情であっても、
それを伝えようとする努力を失ってはいけない。
ラジオアナウンサーである和貴子は、それを語っています。

この二人の微妙な感情が停止してしまったのは、
実はその樫村の突然の死のためなのです。
両親や大切な人、かけがえのない人々を失ってしまった姉妹の悲しみが
根底に流れていて、切ないのですが、
このストーリーは、そこからの再生の物語。

結末は、札幌の長い冬が明けた春のように、明るい日差しが待っています。

このミス大賞を受けた方・・・というには、あまりにも印象が違うんですが、
良い作品だと思います。
特に、男性の著者が、このように細やかな女性の気持ちを綴るのには
参ってしまいますね・・・。

満足度★★★★☆