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北緯四十三度の神話 (文春文庫) 浅倉 卓弥 文藝春秋 このアイテムの詳細を見る |
北緯43度。
これでピンと来るのは、やっぱり私が札幌人だからでしょうか。
著者浅倉氏は札幌出身ですから・・・。
デビュー作「四日間の奇蹟」は、とても面白く読みました。
さて、これは札幌が舞台の物語。
(実際には、どこにも「札幌市」という具体的名称は出てきませんが。)
姉、菜穂子は、28歳大学助手。
妹、和貴子は27歳ラジオ局アナウンサー。
この二人の姉妹の、微妙な心のゆれを描いた情緒深い作品です。
もともと、とても仲の良かった姉妹なのですが、
二人が中学生の時に、両親が事故で亡くなり、
その後は祖父母の家で暮らすことになる。
そうでなくても、自己形成において大事な年頃です。
姉は、両親に代わって妹を守らなくては・・・という意識にとらわれ、
妹の方は、いつもできの良い姉と比べられることで反感を抱いている。
大きな環境の変化とも重なり、二人は次第に疎遠な関係となっていきます。
そしてまたさらに、姉の友人樫村が妹の婚約者となったことで、
いよいよ二人の感情がゆれる。
姉、菜穂子は二人を祝福しつつ、自分の奥底の感情をもてあますのですね。
実は菜穂子も・・・というのは、読者にも十分感じられるのですが、
その答えはどうなのか。
答えというよりは、菜穂子自身の決着の付け方なのかも知れませんが、
それは最後に表わされます。
こんな関係でも、二人ののしりあって大喧嘩にはならない。
自分の中に沈み込んでいくだけなんですね。
このあたりが、まことに北国の雰囲気でしょうか・・・。
でも、本当はどんなに思いがあっても、口に出して言わなければ伝わらない。
どんなに、口に出して説明しにくい感情であっても、
それを伝えようとする努力を失ってはいけない。
ラジオアナウンサーである和貴子は、それを語っています。
この二人の微妙な感情が停止してしまったのは、
実はその樫村の突然の死のためなのです。
両親や大切な人、かけがえのない人々を失ってしまった姉妹の悲しみが
根底に流れていて、切ないのですが、
このストーリーは、そこからの再生の物語。
結末は、札幌の長い冬が明けた春のように、明るい日差しが待っています。
このミス大賞を受けた方・・・というには、あまりにも印象が違うんですが、
良い作品だと思います。
特に、男性の著者が、このように細やかな女性の気持ちを綴るのには
参ってしまいますね・・・。
満足度★★★★☆