映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ラースと、その彼女

2008年12月22日 | 映画(ら行)

「大人になる」とは、誠実にに人と向き合うこと

                 * * * * * * * *

昨日、「地球が静止する日」を酷評してしまったのは、
この作品と連続してみてしまったからかもしれません。
まあ、比べる質の問題ではないのですが、
人の心を揺り動かすのは、結局こういうものなんだよなあ・・・と思う次第。
なんとも心に残る名作です。

主人公ラース(ライアン・ゴズリング)は、アメリカのとある小さな町に住んでいます。
兄夫婦が母屋に住んでいて、そこのガレージを改装したところに1人で暮らしている。
内気だけれど、優しくて、町の人たちには好かれています。
しかし、このごろ妙に人付き合いを避けるようで、様子が変・・・。
と思い始めたそんな頃、
突然「恋人を紹介する」といって兄夫婦のところに連れてきたのは、
なんと等身大の人形。
実はこれ、なんといいますか、大人の男性用のオモチャなんですよね・・・。
すごくリアルにできているという・・・。
下手をするとこれは変態モノ?と思ってしまうのですが、
しかし、そんな疑惑はすぐに払拭されます。
ラースは本気でその人形、ビアンカを生きているものと思っていて、大切に扱います。
夜は兄夫婦の家に寝かせて、自身は自分の部屋ですし・・・。

しかし、唖然として困惑してしまうのは周りの人々。
明らかに常軌を逸しているラースなのですが、
バーマン医師の忠告にしたがって、
ラースが思っているように、ビアンカを生きているように扱うことにするのです。
毎日服を着せ替えたり、
車椅子に乗せて出かけたり、
お風呂にも入れるし、
食事も用意する。

町の人も始めは怪訝に思いながらも、ラースを傷つけないよう、
ビアンカにボランティアの仕事を頼んだり、
洋服屋のモデルを頼んだりするんですね。
ごく自然にラースを受け入れて、そして、それを自分たちも楽しんでいる。
決して押し付けがましくも、わざとらしくもない、そんな様子がとてもいいのです。
思わず胸が熱くなります。

ラースがこのようにちょっと精神を病んだことには、
幾分かの理由があるようなのです。
ラースの母親はラースを生んですぐに亡くなっていて、彼はその死に責任を感じている。
父親に育てられたラースは、母性にあこがれていて、
しかし、そのあまりに女性を意識しすぎて、女性に触られると電気が走ったようになってしまう。
兄嫁のカリンもすごく好人物で、何かとラースに気を使うのだけれど、
彼女が妊娠した頃からラースの変調が始まったようだ・・・。
兄は妻に先立たれてすっかりふさぎこんだ父がいやで、ラースを残して、家を出てしまっていた。
・・・このように様々な事実が断片的に浮かび上がって来ますが、
特に解説はされません。
見るものの想像に任せられます。
そういう語りすぎないところも好感が持てます。

兄のガスも、この悲劇に一番頭を抱えながらも、
こうなってしまったことの責任は自分にあるのではないかと心を痛めます。
そんなある日、ラースは兄に問いかけるのです。
「自分が大人になったと感じたのはどんな時?」
ガスはなかなかうまく言えないんだけれど・・・と、つっかえながらも
「大人になるっていうのは、誠実に人と向き合えるようになることなんじゃないかな・・・」と。
(実はその前に、「セックスした時」というのが出てくるんですけどね!)
ちょっと気恥ずかしくてなかなか言えないような言葉なんですが、
でも、実に清々しくて正しい言葉だなあ、と思います。
それこそ、弟の問いかけに対して誠実に考えたから、こういう答えになったんですね。
世界中の人がみなこう考えれば世界はとても良くなるんですが・・・。
そういう意味では、この町の人たちは本当に成熟した大人ですね。
私も、この町に住みたくなっちゃいます・・・。

さて、しかし、このストーリーに、果たしてどうやって結末を付けるのか。
そこが心配だったのですが、実に、納得の結末が待っていました。
確かにこれしかないだろうというような・・・。
そこは、ぜひご自分で見て味わってください!

2007年/アメリカ/106分
監督:クレイグ・ギレスピー
出演:ライアン・ゴズリング、エミリー・モーティマー、ポール・シュナイダー、ケリ・ガーナー