星守る犬村上 たかし双葉社このアイテムの詳細を見る |
記事のためにこの作品を思い出すだけでも、
なんだかこみ上げてくるものがあります。
表紙の絵がいいですね。
どこまでも続くひまわり畑の中に、一匹の犬。
この話は、まあ、冒頭からネタ晴らしなので、お話してしまいますが、
原野の放置車両内に、1人の男性の遺体が発見されます。
死後一年から一年半近くも経っていると思われる。
ところが不思議なことにそこに犬の死骸もあって、
そちらはもっと新しくて死後三ヶ月くらい。
どうしてそのような状況が生まれたのか・・・、
物語は、七年ほど前にさかのぼります。
捨て犬だったハッピーは、ある女の子に拾われました。
お父さんとお母さんがいて、ごく普通の家庭です。
時々遊んでくれるのが女の子。
ご飯をくれるのがお母さん。
そしていつも散歩に連れて行ってくれるのがお父さん。
でも少しずつ時が流れて、もう女の子は遊んでくれなくなり・・・。
ご飯はお父さんがくれることが多くなり・・・。
お父さんは会社にリストラされ、その上お母さんからは離婚宣告され、
途方にくれました。
マンションを売ってローンを払ったわずかな残りを分けて・・・。
ただ一つの財産となった車でハッピーと共に旅に出ます。
なんというか、お父さんは「犬好き」というのではないんですね。
家族に捨てられ、もうお父さんに残された温もりはこの犬しかいない。
唯一残された、「友」なんです。
犬にとっても同じなんですね。
いつも散歩に連れて行ってくれたお父さんは、
たとえお金がなくても、
家族に捨てられたさえないおじさんであろうとも、
信頼は揺るいだりしません。
ここが犬のいいところですよね。
つい先日見た「HACHI」を思い出しますが、
このストーリーはもっと壮絶ですよ。
ひなびた1人と1匹の気ままな旅・・・、のはずでした。
でも、いろいろあって、長くは続きません。
しかし、意外とお父さんはこれで幸せな最後だったように思えるのです。
むしろ哀しみを誘うのは、
いつかお父さんが目覚めるのを待って、
ずっと遺体に付き添っていたハッピーの方なんですね。
やっぱり、犬って「待つ」動物なんだと思います。
ここまでは、本当はこの1人と1匹しか知らないはずのストーリー。
けれど2話目、続編の「日輪草」で、
この不思議な二つの遺体のことが気になり、
この男の足跡をたどろうとする人が現れるんですよ。
結局男の身元はわからないのですが、
こうなってしまったいきさつがわかってきます。
二人の旅を理解した人がいた。
このことは、
ひそかな二人へのお弔い、
そして鎮魂歌の役割を果たしているように思います。
これもまた、心に残るストーリーです。
それで、表紙をあらためて見る。
ああ、そうか。
お父さんとハッピーが踏み込んだ原野は、
ひまわり畑ではなかったんです。
ごく普通の雑草の野原。
遺体があったその場所に、その男性がひまわりの種をまいたのですね。
そしてあたり一面がひまわりの花に覆われる。
・・・とすれば、このひまわり畑の中のハッピーというのは、
現実にはなかった風景なんです。
ひまわり畑の中でお父さんを待っている、
こんな幸せな光景をはなむけに描いているんですね。
・・・うん。
また泣きそうになっちゃいます。
良い本です。ぜひご覧ください。
ティッシュのご用意もお忘れなく。
満足度★★★★★