![]() | 鷺と雪北村 薫文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
直木賞受賞作です。
基本的には、いつもの北村薫氏の『日常の謎』を解くミステリなのですが、
この本は、昭和10年前後が舞台となっており、
その時代背景が大変リアルに描き出されているところが、特色となっています。
主人公となるのは、良家の令嬢。
彼女も十分に聡明なのですが、
彼女が持ち込む謎をするすると解いてしまうのが、
彼女の家のお抱え運転手、ベッキーさんこと別宮。
これが当時としては異色の女性運転手。
戦争へ向かいまっしぐらという時代ながら、
この時代色の中、彼女たちの自由な思いは、読んでいてなかなか気持ちがいい。
まさに、今だからこそ語ることができる、昭和初期の物語なのです。
この本は三篇の連作となっていますが、
表題の「鷺と雪」の中で、女性の選挙権について、こんな文章があります。
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《女にも選挙権を》―――というもの、おそらくは、ただその権利が欲しいというより、
それを与えない《考え方》への講義に思える。
極論するなら、《女》という言葉さえ、ただの性別というより、
《力なきもの、弱きもの》に置き換えられそうだ。
人の世の進歩とは、権利や自由が、微かな日に大きな氷が解けるように、
ゆっくりと、より多くの人の手に渡っていくことではないのか。
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「男に仕え、良妻賢母となること」が、女の務めとされ、
むろん参政権もなかった。そんな時代です。
今では考えられませんね・・・。
でも、良妻賢母を期待されているというのは、今も根強くあるかな?
「人の世の進歩とは、権利や自由がより多くの人の手にわたっていくこと。」
このことには全く同感です。
・・・この考えによれば、
やはり世界は少しずつではありますが「進歩」しているのだろうと思います。
ただ、今は、国と国との格差があまりにも大きい。
このあたりではまだまだですね。
さて、このようになかなか興味深い作品ではあるのですが、
私にとって、北村薫氏の『珠玉』は、
「円紫さんと私」シリーズであり、
「時と人」の三部作なんです。
で、なんで今になってこの作品が直木賞なのか・・・と、
やや納得いかない・・・というのが個人的な思い。
「円紫さんと私」シリーズでは、当初、
著者は覆面作家として正体を明かしていなかったのです。
そこで、作者はこのシリーズの語り手「私」のような、
女子大生であろうという憶測がされていた。
・・・そう思われてもおかしくないくらい、
「女子大生」そのものの感性が現されていたのですね。
私自身もすごく等身大に感じられ、共感をもちました。
今作も、似たような女性が語り手なのですが、
なにぶんにもこちらは良家のお嬢様・・・。
まあ、決して気取った女性ではありませんが、
あくまでもお上品で、「共感」というにはいまひとつ物足りない。
どうもこの本をうまく表現できなくて、
実は結構前に読了していたのですが、書けずにいました。
・・・正直なところを記すまでにしておきます。
満足度★★★☆☆