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もうレールの上を行かなくてもいい
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ノルウェー作品。
監督のベント・ハーメルはキッチンストーリーの監督さんでしたか。
どうりで、ごく普通の人のごく普通の日常をじーっと見据えるなかで、
なんともいえないおかしみがにじみ出てくる。
これも、そんな作品です。
ホルテンさんは鉄道の運転士。
とにかくまじめに何十年を勤務して、いよいよ定年退職日前夜。
予期せぬ出来事があって、最後の乗務に乗り遅れてしまいました。
これまで一度も足を踏み外したことなどないのに・・・。
しかしこれを期に、ホルテンさんは、
今まで体験したことのないことに足を踏み出します。
空港内をうろうろさまよったり、無人のプールで泳いだり。
そしてある風変わりな老人と出会うのです。
道端で酔って寝転がっていたこの老人。
彼は言います。
「人生、思い切ったことはなかなかできないもんだ。
でも、だからこれからがチャンスなんだ。」
ホルテンさんのお母さんは、施設に入っています。
今はもう、話しかけても何もわからない風だけれども、
実は若い頃はスキージャンプをしていました。
でも、当時は女性なので、競技には出られなかった。
それで彼女は息子にもジャンプをさせたかったのですが、
ホルテンさんは怖くてできなかった・・・。
そんなことが、彼の胸の奥の痛みとなっていまだに残っていたんですね。
とにかくセリフの少ない映画で、ホルテンさんもほとんど無表情だから、
その老人にホルテンさんがポツリポツリと語り始めて、
私たちもはじめてそんな事情を知る、という仕掛けです。
これまで彼が走らせていた列車のように、
ずっと決まったレールの上を歩んできたホルテンさん。
でも、もうレールの上をいく必要はないのだと気づいたのです。
ラストに思わず“うそ~!”とつぶやいてしまうシーンが待っていますよ。
特別おかしなことを話しているわけでもないのに、
どうしてこう、おかしみが滲み出てくるのでしょうね。
客観的に見れば、私たちの生活や人生、
実はこっけいなものなのかもしれません。
だから、まあ、そう肩肘はらずに、好きなことをしましょうよ
・・・そんなメッセージが聞こえたような気がします。
季節は冬。
雪に覆われた街。
真っ白な雪景色の中を走る列車。
つるつるの路面。
北海道人としてはとても親近感を感じてしまいました。
スキーのジャンプ台もね。
ノルウェーならではでしたね。
ふう、もうじきまたそんな冬が来ます・・・。
2007年/ノルウェー/90分
監督:ベント・ハーメル
出演:ボード・オーベ、ギタ・ナービュ、ビョルン・フローバルグ