映画と本の『たんぽぽ館』

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「SOSの猿」伊坂幸太郎 

2013年03月13日 | 本(その他)
因果・・・原因と結果の話

SOSの猿 (中公文庫)
伊坂 幸太郎
中央公論新社


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三百億円の損害を出した株の誤発注事件を調べる男と、
ひきこもりを悪魔秡いで治そうとする男。
奮闘する二人の男のあいだを孫悟空が自在に飛び回り、問いを投げかける。
「本当に悪いのは誰?」はてさて、答えを知るのは猿か悪魔か?
そもそも答えは存在するの?
面白くて考えさせられる、伊坂エンターテインメントの集大成。


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本編では、2つのストーリーが交互に語られていきます。
一つは、人が困っているのを見ると、
ついなんとかしてあげたくなってしまうという遠藤二郎の話。
彼は昔からの知り合いから、息子の「ひきこもり」を何とかしてくれないかと相談を受けます。
彼は『悪魔祓い』的な技で、いくつかの精神的な問題を解決したことがあるのです。


もう一つは、「物事の原因を調べる」のが仕事の五十嵐真。
ある証券会社で、一株50万円を、50万株1円と誤って入力してしまったために
300億円の損害を出してしまったという事件が発生。
その原因調査を五十嵐が担当します。
原因といっても、もちろん担当者のミスです。
けれど、そのミスを犯した原因があるのではないか・・・と、
そんなふうに因果関係の意図をたどっていく。


井坂ストーリーによくあるように、この2つのストーリーは
途中から見事に関連しあって一つになるのですが、
しかし今作にはひねりがありまして、なんと時間軸がずれているのです。


結局「ひきこもり」の少年は、本当に「悪魔憑き」ならぬ「孫悟空憑き」なのか。
それともそういう「心の病」なのか、
というところに問題は収束していくのです。


これを見分けるのは確かに難しそうです。
結局結論はない。
でも作中にもありますが、どっちでもいいじゃないか、
というのに私も賛成。
不思議は不思議のままのほうが面白い。
荒唐無稽のオカルト話のようでいて、
理論的に納得しようと思えばできてしまう二重の結末を、大変興味深く読みました。

「SOSの猿」伊坂幸太郎 中公文庫
満足度★★★★☆