ヘンテコな取り合わせ、二人のロードノベル
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業を背負う男たち、奇蹟のロードノベル
兄さん、今からあんたを殺しに行くよ――。
大阪ミナミでカレー屋を営む三宅紘二郎のもとに、ある日一通の絵葉書が届いた。
葉書に書かれた漢詩に、紘二郎の記憶の蓋が開く。
50年前、紘二郎の住む廃病院で起きた心中事件。
愛した女、その娘、彼女たちを斬殺した兄……
人生の終盤を迎えた紘二郎は、決意を固めた。
兄を殺す、と。
2020年直木賞候補となり、いま最も注目を集める作家が贈る、渾身の一冊。
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カレー店を営む紘二郎の元に届いた一枚の葉書。
それが彼の記憶の扉をこじ開けます。
50年ほどの昔、愛した人と暮らした短いけれど満ち足りた日々。
しかしそれもつかの間、2人は紘二郎の兄によって引き裂かれてしまったのです。
無理矢理彼女を奪い去った兄。
しかもその数年後、兄は無理心中で彼女とその幼い娘をも殺してしまう。
自分だけは生きながらえて。
忘れようとしても忘れられないそのことを、
また強く蘇らせるこのハガキは、兄から来たものに違いない。
彼は、兄を殺すために、店を閉めて旅立ちます。
そんな彼の道連れになったのが、金髪の青年・リュウ。
その派手に染めた髪とは裏腹に、
家も財産もなくホームレスだといい、いかにも顔色も悪い。
リュウは、紘二郎が買った中古のコンテッサは
自分が店長を務めていた店で売ったものだが、欠陥車で危険だといい、
無理矢理についてきたのです。
大阪から大分・日田市まで、老若2人の風変わりなロードムービー、
じゃなくて、ロードノベル。
50年前の事件の真相は?
そしてリュウの秘密とは?
非常に興味がそそられる作品です。
2人が向かった日田市は「進撃の巨人」の作者諫山創さんの出身地で、
あの、町を守る巨大な壁を思わせるような風景もあるということで、
私も最近興味を持った地です。
いかにも陰惨な過去の事件。
その落とし前の付け方もなかなか味があります。
自分が見ている人の一面。
けれど、自分が見ていなかった、見ようとしていなかった一面があるものなのですね。
遠田潤子さん、もう少し読んでいきたいと思います。
「緑陰深きところ」遠田潤子 小学館
満足度★★★★☆