戦争のこと
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イタリア作家ディーノ・ブッツァーティが1945年に発表した
児童文学をアニメ化したものです。
はるか昔、クマたちは山奥で静かに暮らしていました。
ある日、クマの王レオンスの息子トニオが人間に捉えられてしまいます。
レオンス王は我が子を救うため、クマたちを引き連れて山を下り、
人間が住む平地を目指します。
彼らの行く手には、残忍な大公や魔法使いがいて・・・。
本作が発表されたのが1945年というのに意味がありますね。
第二次世界大戦が終わった年。
大きな嵐が過ぎ去ったような世界の中で、
人々は、結局戦争とは何だったのだろうと考え始めたのだと思います。
本作はクマ対人間の争いを描いたものではありますが、
大人であれば、これは人々がこれまで何度も繰り返してきた
「戦争」の話だと気づくはず。
クマたちは何も争いたくて山を下りたのではない。
王の息子を探すために降りてきたのです。
そして人間界に興味もある。
一方人間たちは、クマが大挙してやって来たのを見て、攻めてきたと思い込む。
クマたちを見るなり攻撃を仕掛けます。
そうなればクマたちも応戦せざるを得ず、あっという間に戦闘状態です。
ところでこのとき、クマたちは山の中では普通にハダカで暮らしていたのですが、
人間界に近づくにつれて、帽子をかぶり、服をまとい、
ぞろぞろ歩きから、整然とした軍隊のような歩みに変わっているところも興味深いところ。
その時人間界を支配していたのは、私腹を肥やそうとする残忍な独裁者。
クマたちはその大公を打ち倒し、
クマ王レオンスがクマたちのみならず人間たちをも統治することになるのです。
しばらくは人もクマも友好的に平和なときが訪れるのですが、
支配する側につくと支配者は変貌しはじめるもの・・・。
たちまちに腐敗し、私腹を肥やそうとして、
ますます権力をカサに着るようになっていくのです。
それは、人もクマも同じ・・・。
そしてそれがまた、新たな争いのタネになっていきます。
本作ではそんなどさくさを解決しようと、海中で眠っていた大蛇を蘇らせるのです。
まあつまり第3者的な大きな戦力を借りるとでもいいますか。
しかしまたその大蛇自体が危険な存在で、制御不能。
本末転倒、ますます国土が荒廃する可能性もある。
国と国。
民族と民族。
これまで幾度も争いを繰り返してきた、これが、人類の歴史なんですね。
けれど、希望はあります。
小さい頃から人間界に来て、人間と共にあることを当たり前と思っている父王の息子トニオ。
そして彼といつも共にいた、少女・アルメニーナ。
人もクマもこだわらない彼らのような存在がいつかきっと、この世界を変える。
そう思いたいですね。
シネマ映画.comにて
「シチリアを征服したクマ王国の物語」
2019年/フランス・イタリア/82分
監督:ロレンツォ・マトッティ
原作:ディーノ・ブッツァーティ
出演(日本語吹き替え声):柄本佑、伊藤沙莉、リリー・フランキー、加藤虎ノ介、寺島惇太
寓話度★★★★★
満足度★★★★☆