「物語」の意味
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直木賞作家・桜木紫乃が創作の苦しみを克明に描く、新たな到達点!
守るものなんて、初めからなかった――。
人生のどん詰まりにぶちあたった女は、 すべてを捨てて書くことを選んだ。
母が墓場へと持っていったあの秘密さえも――。
直木賞作家の新たな到達点!
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本作は少し変わった趣向で描かれていまして、物語の主人公が、小説を書いているのです。
いくつかの新人賞に応募もしたけれど、いずれもボツ。
そんな応募原稿に目をとめた編集者からいくつかの指摘があり、
書き直してみるよう勧められた主人公・令央が、ひたすら小説を書いて行きます。
内容はほとんど、自分の身の上のことそのまま。
令央の母・ミオと、自分、そして妹・美利のこと。
実は、母と自分しか知らないことなのですが、美利を生んだのは自分自身。
つまり、令央は自分の娘を妹としてこれまで生きてきたのです。
しかしその美利も今は自立し、家もとを離れて暮らしている。
ビストロのバイトで食いつないでいる令央よりもよほどしっかりしている。
そして秘密を共有し、美利の母として生きていた母もつい先頃、病で亡くなっています。
こんな心の空白と、長く秘密を抱えていた心の鬱屈。
彼女はこれを「小説」として吐き出さなければ
どうにもならなくなっていたのではないかと思います。
作中、こんな文章がありました。
令央は「虚構」を信じたかった。
すべて嘘に塗り替えてしまえば、おのれの真実が見えるはずだ。
あのとき何が足りなかったのか、
あの日どうすれば良かったのか、
あの人にどう接すれば間違わずに済んだのか。
それらの答えはすべて現実ではなく再構築された虚構の中にある。
著者桜木紫乃さんの小説の捉え方が垣間見えるようでもあります。
とはいえ、小説を書くときには過去の自分の至らなかったこと、
ダメなところ、苦しかったこと等と真っ正面から向き合わなければならない
ということで、これはかなり辛いのではないかと思います。
私なら、目を背けたままでいたいかも・・・、
だからやっぱり小説は書けないな、と思ってしまいました。
「小説」とは、「物語」とは何なのか。
そんなことを考えてみるのによい作品だと思います。
図書館蔵書にて(単行本)
「砂上」桜木紫乃 角川書店
満足度★★★.5