圧倒的な北の女一代記
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父親の酒と暴力に支配される愛のない家――。
北海道の開拓村から奉公に出された百合江(ゆりえ)は、旅の一座に飛び込む。
「歌」が人生を変えてくれると信じて。
押し寄せる波に翻弄されながら一切の打算なく子を守り生き抜いた女の、
他人の価値観を寄せつけない「見事」な生が、
息もつかせぬ圧倒的な筆力で描かれる。
新感覚のストーリーテラー北に現る。
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北の地で繰り広げられる圧倒的な女の一代記でした。
北海道の開拓地、どうしようもなく貧しい家。
百合江はそこの長女です。
進学も、バスガイドになる夢も踏みにじられ、
酒浸りの父に売られるようにして釧路の薬屋に奉公に出る。
いつの時代の話かと思えばこれでも立派に戦後、昭和20年代のことです。
百合江は「歌うこと」に憧れ、やがて旅の一座に身を置くことに。
各地を転々とする生活はそれでも充実していましたが、
一座の男との間に子を宿し、故郷の釧路に帰ってきます。
しかし、その子の出産の日に、男は逃げ出してしまう。
百合江は妹・里実の助けを借りながらも、女児・綾子を育てます。
そしてまだ綾子が幼い頃に、里実の強い勧めで
百合子は結婚をすることになりますが・・・。
その結婚こそが悲劇の元。
思いも寄らない悲痛ななりゆきに、言葉を失います。
百合江と妹・里実。
そしてそれぞれの娘である理恵と小夜子。
4人の人生模様が交互に語られますが、
でもやはりこの百合江の生涯こそに圧倒されてしまうのです。
すがりつき、ぬくもりを確かめ合うような愛。
なりゆきで結婚はしたけれど、そこに愛があるのかわからない夫。
互いの気持ちは十分わかっていながら、踏み込めない愛。
様々な人との出会いや心残りがありながら、
でも多分百合江は自分の娘のためにこそたくましく生きた、
と、そう思えるのです。
「ホテルローヤル」で知っていた桜木紫乃さんとは別の著者を見たような・・・、
今さらですが私、ファンになりました。
「ラブレス」桜木紫乃 新潮文庫
満足度★★★★★
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