疑似家族でも
* * * * * * * * * * * *
尾木遼平、46歳、元刑事。
ある事件がきっかけで職も妻も失ってしまった彼は、
売りに出している家で、3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。
そんな彼のところに、家出中の少女が新たな居候として転がり込んできた。
彼女は、皆を和ます陽気さと厄介ごとを併せて持ち込んでくれたのだった…。
優しくも悲しき負け犬たちが起こす、ひとつの奇蹟。
第25回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞、W受賞作。
* * * * * * * * * * * *
伊岡瞬さん、私には初めての作家さん。
ミステリ好きでも、まだまだ未読の作家さんはたくさんいらっしゃいます。
全然読み切れない、というのが実のところでしょうか。
さて、本作の主人公は46歳、尾木遼平、元刑事。
ある事件で前科持ちとなってしまった彼は、
警察に復職できるわけもなく、妻とも離婚。
今はその日暮らしの警備の仕事。
ところが、親から譲られた古い家に、ふらりと舞い込んだ同居人が3人。
家はまもなく売りに出される予定とはいいながら、不思議な同居生活をしていたのです。
そんなところへある日また、家出中の少女が新たに転がり込んでくる。
彼女のおかげで家はなんとなく和み、疑似家族のような様相を呈してきたのですが、
そんな3日目、少女は殺人の容疑で逮捕されてしまう・・・。
尾木はやっかいごとに巻き込まれて、すぐに殴られたり蹴られたり・・・。
本作中も肋骨の骨折などがあって、身動きするのも大変そうなのに、
なんとか少女の濡れ衣を晴らそうと躍起になります。
・・・というか、そうしなければ組の者に殺されるかもしれない・・・と、
そんなタイムリミットまで背負ってしまうのです。
というわけで、ハードボイルドかつ、「家族」のほんのり感もある、
なかなか興味深い作品なのでした。
「同じ釜の飯を食う」などという言葉がありますが、
何度か家で食卓を共にすればぐっと親近感が増して、
家族のようになってしまうというのはわかります。
そして尾木たちのセリフがなかなかいいのですよ。
ちょっと皮肉めいてしゃれている。
むちゃくちゃびびるようなシーンも強がってキザなセリフ。
好きです、こういうの。
それで本作は、少女の濡れ衣を晴らすという目的で、
特に真犯人を捜すというストーリー運びではないのにもかかわらず、
最後には意外な犯人が浮かび上がるという、アクロバット的展開。
これ、伊岡瞬さんのデビュー作なんですよね。
全く驚かされます。
「いつか、虹の向こうへ」伊岡瞬 角川文庫
満足度★★★★.5
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます