映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

市子

2023年12月26日 | 映画(あ行)

あらゆるマイナーな環境を背負って

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戸田彬弘監督が自信の主催する劇団チーズtheaterの旗揚公演として上演した
舞台「川辺市子のために」を映画化したもの。

川辺市子(杉咲花)は3年間一緒に暮らした恋人長谷川義則(若葉竜也)から
プロポーズを受けますが、その翌日、忽然と姿を消してしまいます。

途方に暮れる長谷川の前に、市子を探しているという刑事後藤(宇野祥平)が現れ、
彼女について、信じがたい話を告げます。

長谷川は市子の友人、幼馴染み、高校時代の同級生などを訪ね、話を聞きます。
そして市子がかつて違う名前を名乗っていたことを知ります・・・。

プロポーズを受けた市子は芯から幸せそうで、嬉しそうでした。
それなのになぜ、すぐに姿を消してしまったのか・・・。

市子は、いわばこの世に存在しない人物。
ただ共に暮らすだけならよかったのに、
「結婚」という制度に乗ろうとすることはできないのです・・・。

貧困、ネグレクト、性的虐待、ヤングケアラー、無戸籍・・・
あらゆるマイナーな環境を背負う市子ですが、
それをも果敢に1人で乗り越えようとする強さに、
いつしか引き込まれて行きます。

特にラストにはゾッとさせられる一方、
喝采を送りたいような気にもなってしまう・・・。

本当の名前はやはりアイデンティティを表出するもの。
別人の名を名乗らなければならなかった日々は、思い出したくない過去。
市子として生きたいと思い、そうして生きてこられた長谷川との日々は
彼女の生涯の中で最も輝く日々だったかも知れません。

でも結局、彼女は「市子」を捨ててもなお、自由を選んだのか・・・?
まさに圧倒され、ことばを無くすような物語。

<シアターキノにて>

「市子」

2023年/日本/126分

監督・原作:戸田彬弘

出演:杉咲花、若葉竜也、森永悠希、倉悠貴、中田青渚、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり

 

不幸度★★★★★

たくましさ★★★★★

満足度★★★★☆



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