死んだはずの息子が生きていた??
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紅雲町でお草が営むコーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」では、
近頃町にやってきた親切で物腰がスマートな男のことが話題になっていた。
ある日彼は小蔵屋を訪ね、お草に告げる。
「私は、良一なんです」
お草が婚家に残し、3歳で水の事故で亡くなった息子・良一。
男はなんの目的で良一を騙るのか、それとも、あの子が生き返ったのか──?
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吉永南央さんの、小藏屋のシリーズ第8弾。
今回はちょっと重い、お草さん自身に降りかかる難問。
お草さんには良一という息子がいたのですが、
やむを得ない事情で、まだ幼い良一を残し婚家を出ました。
そして間もなく、良一は3歳で水の事故で亡くなってしまったのです。
お草さんはそのことに二重に負い目を感じていて、
老いた今になっても、良一のことは忘れたことがありません。
さてそんなある日、お草さんの元をとある男性が訪ねてくる。
その男は近頃、親切で物腰が柔らかいと小蔵屋でも話題になることが多いのだけれど、
彼はお草に「私は良一なんです」という。
数十年も前に死んだはずの息子が、どうして・・・?!
お草さんは、これは絶対に何かの詐欺に違いない、と思います。
年寄りの一人暮らしにつけ込んで、何らかの形で有り金を巻き上げようとする悪人。
彼は、その昔のお草に関わるものを証拠として取り出すし、
話のつじつまも一応合っている。
こんなのはインチキに違いないと思いつつも、もし万が一本当だったら・・・
という思いも消すことが出来ないお草さん。
本当に悩みが深いときは、親しい人にも逆に言えないものですね。
お草さんは由紀乃さんにも打ち明けられず、悶々としてしまうのです。
本巻はこの大きな出来事を軸に、店員久美さんのラブストーリーの続きや、
ご近所のアルコール依存症の人のこと、怪しげな宗教団体のこと・・・、
相変わらず平和なはずの町にも、人が生活する上での生々しい問題がチクチクと顔を出します。
いつも穏やかでいたい。
けれどなかなかそうは行かないものですね。
でもちゃんと互いに気にかけあっている人々の存在はいいものです。
ご近所にこんなお店があったら、私もぜひ行ってみたいといつも思う次第。
「初夏の訪問者 紅雲町珈琲屋こよみ」吉永南央 文春文庫
満足度★★★★☆
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