帰還したシェイクスピアを迎える女たち
* * * * * * * * * * * *
シェイクスピアの晩年を描きます。
1613年6月、「ヘンリー8世」上演中のグローブ座が火災により焼失。
ウィリアム・シェイクスピア(ケネス・プラナー)はこれを機に、ロンドンを去り、
20年ぶりに故郷、ストラットフォード・アポン・エイボンへ帰ってきます。
そこでは妻(ジュディ・デンチ)と独身の次女が暮らしています。
長女はすでに嫁いでいますが、同じ町にいます。
しかし、20年も帰らなかった夫・父の帰還に戸惑いを隠せません。
そしてシェイクスピアには一人息子がいたのですが、病で夭折しています。
その時シェイクスピアは多忙で、その葬儀にすら出席していませんでした。
そして今、17年前に逝った最愛の息子を悼むため、庭を造ろうと思い立ちます。
シェイクスピアは、ロンドンにあれば、偉大な詩人であり劇作家である彼を知らぬ者はなく、
誰からも賞賛され、敬われる立場であったでしょう。
ところが、家族の前では寄る辺のないただ一人の老人になってしまうのです。
妻は彼を寝室には入れず、客室に通します。
娘婿は、さっそく遺産相続の心配を始める。
町の人々はもちろん彼の名声を知ってはいるけれど、
宗教上のことから詩だの演劇だのは浮ついた遊びくらいにしか思っておらず、
あまり歓迎していない様子・・・。
どうにも身の置き所のない彼が、庭造りを始めるというのも納得。
葬儀には来られなかったけれど、
シェイクスピアは一人息子には少なからず期待をしていたのです。
それはもちろん、跡継ぎとして。
そして息子にも詩の才能がありそうなことを知って誇らしく思っていた・・・。
しかし娘たちは、女には「結婚して子どもを産む」以上のことを期待されていないことを悟っており、
弟ばかりが父にかわいがられることを、理解しながらもやりきれない思いでいたのです。
そしてなんと、妻も、娘も字が読めません。
かろうじて長女だけは読めるのですが。
これこそが、女に教育など必要ない、男子さえ生めば良い、
そういう当時の風潮を如実に表しています。
本作は、シェイクスピアの物語というよりも、この女性の立場を前面に描かれており、
そういう意味では極めて現代にマッチした作品なのです。
実は次女は字が読めないながらも詩を作っていて、
その詩を弟が書き留め、シェイクスピアがそれを目にしていた・・・という真実。
そうした意外な展開も興味深い、いい作品だと思います。
ケネス・プラナーが監督にして主演。
<WOWOW視聴にて>
「シェイクスピアの庭」
2018年/イギリス/101分
監督:ケネス・プラナー
出演:ケネス・プラナー、ジュディ・デンチ、イアン・マッケラン、
キャスリン・ワイルダー、リディア・ウィルソン
時代性★★★★☆
満足度★★★★★
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます