ぜんぶ一つになって返ってきた
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現存する被爆建物「旧広島陸軍被服支廠」をテーマに、
日本を代表する作家の池澤夏樹と黒田征太郎が言葉と絵と木工作品を交えた
新しい絵本を作りました。
主人公のネコとクスノキの対話を通して、
戦争、平和、そしていのちとは何かを読者へと問いかけます。
*池澤夏樹による解説「ヒストリー陸軍被服支廠」収録
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作家・池澤夏樹さんと画家・黒田征太郎さんによる絵本です。
1945年7月。
旅するネコが広島市郊外で大きなレンガ造りの建物を見つけて、
神社のクスノキにこの建物は何なのか、訪ねます。
「りくぐんひふくししょう」(陸軍被服支廠)と答えたクスノキ。
軍服や軍靴などの日用品を作る工場なのでした。
けれど少し先がのことが読めるというクスノキは、
なんだか怯えているようです。
8月が過ぎて9月。
ネコがまたここを訪れます。
山の向こうの広島の町が、建物のかけらばかりで
何にもなくってしまっていたことに呆然としながら・・・。
でもここの建物は前と同じくしっかり立っていて、クスノキも無事でした。
「この国のヘータイさんがうったたまやおとしたばくだんが
ぜんぶ一つになって返ってきた」
とクスノキは言います。
そしてその時、ひどい怪我ややけどを負った人々が大勢ここに運ばれてきて、
そして多くの人が死んでいったのだと・・・。
ストーリーは極力単純な文章で綴られていますが、
巻末に池澤夏樹さんによる解説「ヒストリー陸軍被服支廠」が収録されています。
それによるとこの建物は、被爆建物「旧広島陸軍被服支廠」として現存しています。
日本陸軍の軍需工場であった場所。
爆心地から2.7キロという至近地でありながら、
その頑丈な作りと地理的要因から、爆風に耐えて残った。
そのため、多くの負傷者が運び込まれる場所となったわけですが、
手当の術もなく、そのまま息を引き取った人が大多数。
遺体も前の空き地で荼毘に付され、近くの空き地に埋められたという・・・。
池澤夏樹さんは、確かに原爆を落としたアメリカは極悪非道だけれど、
日本の陸軍も同様であったとして、アジアでの非道ぶりを列挙しています。
そうした思いが「ぜんぶ一つになって返ってきた」という表現に繋がるのでしょう。
戦争を考えるためのきっかけになる一冊。
<図書館蔵書にて>
「旅のネコと神社のクスノキ」池澤夏樹 黒田征太朗
満足度★★★★☆
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