映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ミッドナイト・イーグル」 高嶋哲夫 

2008年02月07日 | 本(ミステリ)

「ミッドナイト・イーグル」 高嶋哲夫 文春文庫

この話は、先に映画をみてしまいました 。
映画はほぼ原作どおりです。
ただ設定自体が違っていたのは、あの竹内結子が演じた西崎の妻の妹という役、
あれは、妻本人になっています。
離婚寸前の別居中の妻。

先に映画を見てしまって、ストーリーがわかっていてつまらなかったかというと、さにあらず。
映画でキャラクターや雪山のようす、銃撃戦等、いろいろなイメージが出来上がっているので、すごく入りやすかったのです。
そして、あの2時間程度の映画では説明不足でよく分からなかった点が、
詳しく書いてありまして、また改めて楽しめてしまいました。
夫婦が離婚に向かってしまった理由。
西崎が写真を撮らなくなったわけ。
伍島の自衛隊としての使命感。
無線マニア朝倉のユニークな人生観。
慶子の助手青木の意外な有能さ。
それから、これは映画には無かったのですが、西崎の非常に聞き取りにくい無線通話録音をクリアにする策。
やはり、じっくり読むことで全体像がさらによく見えてきます。

それから、西崎たちの雪山での状況は映画よりももっと過酷。
厳寒の中で、どのように生き延びるか、
敵に攻撃されることよりもまずその命題が立ちふさがっています。

ラストは、あの終わり方で無ければいいなあ・・・と、期待したのですが、
やはり同じでした。

先に映画を見てから、本を読む。
順番としては正解でした。
これは先に本を見てしまったら、映画は物足りなく感じたと思います。
今後も使える手です。
ダヴィンチ・コードなど、逆だったので最悪でした。

満足度★★★★

映画「ミッドナイト・イーグル」は、こちら


「砂漠の船」 篠田節子 

2008年02月05日 | 本(その他)

「砂漠の船」 篠田節子 双葉文庫

いろいろと、ジャンルにとらわれない小説を手がける篠田氏ですが、
これはかなりストレートな社会問題をからめた家族小説です。

主人公は妻と娘のいるサラリーマン、幹郎。
彼は東北の農村育ちで、父母は冬になると東京へ出稼ぎに出てしまい、
祖母に育てられたという過去を持つ。
そのため、何をおいても家族を大切にしたいというのが彼の生活信条。
勤め先でも、仕事優先はせず、家族と共に過ごす時間を優先。
家族のため転勤を拒否したことで、すっかり出世コースからはずれ、
閑職に回されているが、本人はそれをよしとしている。
また、住んでいる地域とのつながりを大事にしたいと思い
積極的に地域行事に参加する。
しかし、彼のそんな思いとは裏腹に、家庭に亀裂が入っていくのです。

実は幹郎の母は、あるとき出稼ぎから帰ってまもなく、自殺していた。
いろいろと過去を探るうちに、
彼があこがれた「のどかな暖かい田舎の暮らし、人々」
が、互いに常に監視しあうがんじがらめの閉塞された場所として、
母が苦しんでいた事実がわかり愕然とする。

ところが彼の妻、娘も同じように、その地域・家庭にがんじがらめにされていると感じ、抜け出したいと願っていたのです。
彼だけが何もわかっていなかった。

・・・このように結構重いです。重苦しいです。

けれど、やっぱり、篠田氏描く女性はたくましいです。
娘はやり方は間違っていたかも知れないけれど
必死に自分の生きる道を探して自立していく。

妻も自分の道をさがして自分の力で歩み始める。

彼だけが、職を失いながら新しい道を探す気力も無く呆然としている・・・。
やっぱり、こういう図式は篠田氏らしいか・・・。

満足度★★★


 


earth アース

2008年02月03日 | 映画(あ行)

200以上のロケ地、
野外の撮影日数4500日、
契約カメラマンはそれぞれの専門分野第一人者40名
・・・5年の歳月を費やして完成したというドキュメンタリー。
地球の野生動物たちの姿をとらえたものです。
堪能させていただきました。
まずは、このような映像を見せていただいたことに感謝!です。
実際に見ようと思って見られるものじゃないです。
空からの映像。迫力ありますね。
川のシーンから突然ものすごい落差で滝になって落ち込んでいくシーンなんて、
高所恐怖症の気がある私は思わずすくんでしまいましたもの。
すごい迫力と臨場感。
鳥や動物たちが無数の群れとなってわたり歩いているシーンも、すごいですね。
まだ、こんなに動物たちが残っていたんだ・・・と、ちょっと安心したりして。
いえ、油断はできませんが。
昔、江戸の空がピンクに染まったというトキの群れはあっという間に絶滅してしまいました。

旭山動物園のシロクマは確かにかわいくて、水泳好き。
でも、大自然の中のシロクマは生き抜くためにあえて、冷たい海を泳ぐのですね。
はじめに出てくる母親と二匹の子供たち。わ~なんてかわいい!!
思わずそうつぶやきたくなるのですが、
これから生き抜いていくための厳しさを思うと、単純に喜ぶのはおこがましいです・・。
ましてや、地球温暖化で、どんどん生きにくくなっているというのに。

水場や餌場を求めて、
砂漠を越え、ヒマラヤの山々を越え、あるいは、赤道付近から南極海までの旅・・・
この営みを彼らはおそらく人類の歴史よりはるか以前から繰り返してきた。
厳しくて美しいです。

クジラのあのような姿を見せられたら、
「捕って食うとは何事だ!」と非難されても仕方のないような気になっちゃいますね。
・・・この映画にもあるように、弱肉強食は自然の摂理でもあるのですが。
まあ、今の世の中、あえてクジラは食べなくても生きていけるわけですし・・・。
そんなこというと、「美味しんぼ」なら、「それは日本の食文化だ!」とおこられちゃいますけどね。

この映画を「かつてあった、もう見られない地球」の記録にしないように、
何とかしなければなりません・・・。
しかし、いったい一個人で何ができるでしょう。
せいぜいリサイクルに努めるくらい・・・?
すごく大きくて難しい問題ですが、
多くの人がこの映画を見て、ちょっとづつ意識を高めていく、
まあ、焼け石に水でしょうけれど、なにもしないよりはマシ・・・?。

2007年/イギリス=ドイツ/98分
監督:アラステア・フォザーギル、マーク・リンフィールド
出演:アフリカ象、ホッキョクグマ、ザトウクジラ

「earth アース」公式サイト
     美しい映像満載、メイキング映像などもあり、超オススメです!!!


「旧宮殿にて/15世紀末、ミラノ、レオナルドの愉悦」 三雲岳斗

2008年02月02日 | 本(ミステリ)

「旧宮殿にて/15世紀末、ミラノ、レオナルドの愉悦」 三雲岳斗 光文社文庫

舞台は15世紀末、イタリアはミラノ、
かのレオナルド・ダ・ヴィンチが探偵役となるミステリです。
彼は竪琴を弾く楽師であり、
組合から自分の工房を持つことを許された画家でもある。
また、希代の軍事技師であり、
建築家であり、彫刻家でもあると自称する。
いまさらいうまでもなく、すべてにおいて優れた天才ですので、
これまでも、さまざまな人が彼を探偵役にすえて物語を書いていますね。
私の好きな篠田真由美氏にもダ・ヴィンチが登場する作品があったと思います。
・・・そもそも、イタリアが舞台のミステリは、つい、篠田氏を思い出してしまいます。
絢爛豪華ですよねえ・・・。

ここでは、ダ・ヴィンチの他、
ミラノ宰相ルドヴィコ・スフォルツァと
その愛人とされるまだごく若く聡明なチェチリア、
この三人を軸にさまざまな事件・謎が提示され、解決されます。
消えた肖像画、失踪した令嬢、運び出された巨大な彫像。

特に、最後の短篇「ウェヌスの憂鬱」は、読者をぎょっとさせる仕掛けが施されていまして、「憎いね~、三雲さん!」という感じ。

一つ、ネタばらしになってしまいますが、一夜にして消えうせてしまった大きな彫像。
その謎は、実はロウでできたもので、それを燃やしたのだ・・・という話がありました。

ロウは、ほとんどカスも残らないという・・・。
う~ん、でもロウが燃える時って、結構においがするのでは・・・、と、私は思ったのです。
しかし、ストーリー中に表記がありましたが、
普段から明かりとして、ろうそくはそこここで使われているので、
においがするのはあたりまえ、ということなのですね。
そうです、まだ電気も無い時代、当然のことですが、
うっかりしていまして、虚をつかれた感じ。
ろうそく、松明、何かの油・・・そういうものを明かりとして夜を過ごしていた時代って、結構長かったのですよね。
電気がこうこうと明かりを放っている今では想像もつかない。
そういう夜の闇をすっかり忘れてしまっていている現代人・・・。
その昔の闇には、まさに魔が潜んでいたかもしれません。
今では停電さえめったにありませんものねえ。
私の幼少の頃にはしょっちゅうありましたが・・・。

ヨーロッパの古城、ところどころに仄かなろうそくの明かりがあるだけの深夜。
想像しただけで怖いですよ。
部屋から出て歩くのもいやだな。
・・・つい、寄り道でそんなことを考えてしまったのでした。

満足度★★★★