きのうの神さま西川 美和ポプラ社このアイテムの詳細を見る |
第141回直木賞ノミネート作品にして、
西川監督のヒット作「ディア・ドクター」の原案となった作品集です。
この中には5つの短篇が収められています。
それぞれバラバラのストーリーで、
映画の「ディア・ドクター」のように一つの話しになっているわけではありません。
ただ、お医者さんが登場する作品が多く、
また、僻地医療に関わるものもあって、
なるほど、これらが収束して「ディア・ドクター」になるのだなあ・・・と、
納得させられます。
実際に、「ディア・ドクター」という題名のストーリーもあるのですが、
映画とは別物です。
でも、考えてみると、この本の中にニセ医者は登場しません。
これら短篇のモチーフをつなぎ合わせる時に、
ニセ医者の登場が必要となったのかもしれません。
私が一番気に入ったのは、やはりこの「ディア・ドクター」なのですが
少しご紹介しましょう。
語り手の「僕」は理工系の技術者。
お父さんがお医者さんです。
お父さんは出世やお金儲けよりも地道な医療という主義で、
僕から見ても医師として、とても尊敬できる存在。
でも、本当は僕以上にお父さんに憧れ心酔していたのは、お兄さんだったのです。
ところが、どうしてかこの父と兄は昔からそりが合わない。
医者を目指していたお兄さんは、
挫折し、家を飛び出したきりほとんど戻らない。
さて、ある日そのお父さんが病で倒れ、
「僕」は何年もあっていなかったお兄さんと対面することになる。
このお兄さんとお父さんのエピソードが、
かなりリアリティを持って迫ってきます。
お兄さんがあまりにも熱い思いを寄せるので、
お父さんはかえって疎ましくなってしまう。
それでまた、お兄さんとしてはお父さんに近寄りがたくなってしまう・・・。
家族の中でも、こんな複雑な感情が交錯して、
ギクシャクしてしまうというのは、ありがちなのではないでしょうか。
この「僕」の、さっぱりして人懐こい感じも結構よくて、
お気に入りの作品となりました。
でも、想像を膨らませると、この「兄」こそが僻地のニセ医者なのかも・・・。
著者は、僻地医療を題材にした映画をつくりたいという思いが先にあって、
まず取材をしたそうなのです。
それはもちろん映画の中にも生かされていますが、
そこで描ききれなかった分が、この本の中にちりばめられています。
僻地の医師も大変だけれども、
患者の方もともすると我がままになりがち。
最新の医療として、点滴や薬を控えようとしても、
患者の方が納得しない、というような問題点を挙げてみたり・・・。
映画を見た方はぜひこの本も読んでみるといいと思います。
双方で、より現在の僻地医療の有様が見えてきます。
また、この本がいいのは、
そのように問題点をえぐるだけではなくて、
結局は人のために尽くしたい、
そういう医療の原点に返っていくところなんですね。
個人的には、この本が直木賞でもよかったのに・・・と思います。
ところで、この本の題名「きのうの神さま」ですが、あれ?
そういう題名の短篇はないんです。
・・・とすれば何を指しているのか。
うーん、どこかの文中にあった言葉でしょうか。
・・・見落としたみたいです。
どなたか、わかりましたら教えてください・・・。
満足度★★★★★