映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

奇人たちの晩餐会

2014年12月12日 | 映画(あ行)
誰もがみっともなくて、おバカ

* * * * * * * * * *

毎週、身近な「おバカ」を呼んで晩餐会を開き、
密かに笑いものにしようという、人の悪い趣味を持つ編集者、ピエール。
その日選んだのは、税務署に勤めるピニョン(ジャック・ビルレ)。
彼はマッチ棒で建物の模型を作るのが趣味で、
そのことを話しだすと一人で何時間も喋り続けます。
しかしその夜、ピエールはぎっくり腰で身動きできず、
おまけに妻が愛想を尽かして出て行ってしまう。
晩餐会は中止となりますが、
ピニョンのいるこの家で、ヘンテコな出来事が繰り広げられていく・・・。


そこにいるだけでも奇妙な可笑しみを放つジャック・ビルレはさすが。
おバカというよりもむしろ「オタク」なのかとはじめ思ったのですが、
いや、やっぱりおバカでした。
すごく人はいいんですけどね・・・。


本作、こうした庶民というか下層階級を笑いものにする金持ち・・・という図式が、
いつしか逆転していくというところがおかしい。
いや、学があって金持ちといったって、結局同じ人間。
みっともなくてお馬鹿なのは同じ・・・と。


原作は戯曲なので、舞台はほとんどがこのピエールの家の中。
小道具として使われる電話が、なかなか重要な位置を占めています。
15年位前ということになりますが、まだ携帯電話は普及していない。
着信の番号表示もない。
そうした時代性がうまく活用されていいます。
ということはまた同時に、今では使えないネタでもあるのです。
だから、そうしたところを見るのもまた面白みがありました。


大笑いにはなりませんが、ニンマリと、フランス流のコメディを楽しみましょう。

奇人たちの晩餐会 HDリマスター版【DVD】
ジャック・ヴィルレ,ティエリー・レルミット,フランシス・ユステール,カトリーヌ・フロ,ダニエル・プレヴォスト
キングレコード


「奇人たちの晩餐会」
1998年/フランス/80分
監督・脚本:フランシス・ベベール
出演:ジャック・ビルレ、ティエリー・レルミット、フランシス・コステール、ダニエル・プレヴォスト

ユーモア度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

フューリー

2014年12月05日 | 映画(は行)
「お前ら行け。ここが俺の家だ・・・」



* * * * * * * * * *

ブラッド・ピット製作総指揮かつ主演ということで
期待していた本作ですが、まさに期待に違わず、迫力満点の力作でした。



1945年4月。
ドイツ侵攻を果たした連合軍ですが、苦戦しています。
ブラッド・ピット扮するのは、シャーマンM4中戦車フューリー号の車長。
“ウォーダディ”と呼ばれ、仲間から信頼されています。
その日、新兵ノーマン(ローガン・ラーマン)が新搭乗員に任命され、やってきます。
彼はいかにも育ちのいい、気の優しそうな青年。
でも、それではダメなのだ・・・。
ウォーダディはことさらに彼に戦争の現実を突きつけます。
そのたった一日のうちに、幾度もの戦闘があり、
そしてほんの一時のやすらぎの時を持ちながら、
戦士として否応なく成長していくノーマン。

しかし、まだ足りないとでも言うように、
彼らにはさらに過酷なミッションが下されます。
動くことができないフューリー号1台だけで、
300人ものドイツ軍部隊と戦うことに・・・。



一応女子なので、特に戦車には興味はありません。
けれど、殿方にはたまらなく血湧き肉踊るシーン多々なのだろうな。
アメリカのM4シャーマン戦車は、
ドイツのティーガー戦車よりも小さく性能も劣っていて、
その1対1の戦闘シーンはスリルたっぷりであるわけ。
また、そのティーガー戦車は、
現存する6台の内、実際に動く1台を博物館から借りだして撮影したと言いますから、
その力の入れようもわかります。
ですが、私としてはまあ、へ~、と一応スゴイと思う程度でしょうか。
やはり感動のありどころは、ノーマンの心の変化、
ウォーダディの心持ち、
そして、彼ら乗員5人の絆。
実話に基づくというところがまた、スゴイですね。



長く戦闘に加わっていたウォーダディは、
これまで目の前で亡くなった同僚や民間人、そして敵国人に対しても、
鬱屈した思いを抱えていたに違いありません。
「理想は平和だが歴史は残酷だ」
そうつぶやくウォーダディ。
そんな残酷に加担した自分を思う時、彼は生きて帰らないと決めていたようにも思えます。
だから彼は言う。
「お前ら行け。ここが俺の家だ・・・」
この時の、悲しそうだけど微笑んでいて、そしてまた恥ずかしんでいるような
ブラッド・ピットの表情がいい。
さすが。


これまであまり知られていなかったと思うのですが、
末期のナチスは女性や子供までを兵士に仕立て上げて、戦わせていたんですね。
軍の方針に従わないものは、縛り首にされているなどというショッキングなシーンも・・・。
本作は正義とか善悪の白黒をつける作品ではありません。
街を占領したアメリカ軍だって、
早速女性を引っ張りこんではヤってしまっていたりする。
軍法会議などなにもなしに敵将校を射殺。
それが戦争というもの・・・。
かつての日本でも本土決戦などということになったら、
同じような光景があったのだろうな・・・。
でも、ドイツ兵にもノーマン同様の、
きっと育ちのいい気持ちの優しい青年が、兵士として駆りだされていたわけですね。
そんなことを伺わせるラストもなかなかいい。



2014年/アメリカ/135分
監督:デビッド・エアー
製作総指揮:ブラッド・ピット
出演:ブラッド・ピット、シャイア・ラブーフ、ローガン・ラーマン、マイケル・ペーニャ、ジョン・バーンサル
激烈な戦闘度★★★★☆
戦場を生きる魂★★★★★

「グイン・サーガ 134 売国妃シルヴィア」 宵野ゆめ 

2014年12月03日 | グイン・サーガ
グインの力強いオーラは何処

売国妃シルヴィア (グイン・サーガ134巻)
天狼プロダクション
早川書房


* * * * * * * * * *

ケイロニアの皇女シルヴィアの行方が知れなくなった。
幽閉されていた闇が丘の館が何者かに襲撃され、
地下の水路深くへとその姿は消え失せてしまったのだ。
そして、死霊の口が語る彼女の大罪をめぐり、
シルヴィアには、"売国妃"の汚名が冠されることとなる。
また、大帝アキレウスの病状が思わしくなく、継承問題も持ち上がっていた。
容赦なくふりそそぐ多様な艱難に対処すべく、
グインはまた一歩前へ踏み出すのであった。


* * * * * * * * * *

「グイン・サーガ続編プロジェクト」も、もう第4弾になるんだね。
この表紙、シルヴィアなんだよね。
 可愛らしすぎ~って気がするけど。
まあ、そう醜いわけでもないんでしょうよ。
 仮にも、グインが好きになったんだからさ。


本作には、オリジナルにはない人物が登場するね。
 結構重要そうな役で。
地下水路から流されて、息も絶え絶えになっていたシルヴィアを救う人物、
 男装の麗人アウロラ。
 男装の麗人といえば、グイン・サーガのごくごく始めの方に登場したアムネリスがそうでした。
 金色の髪をなびかせ、勇壮に馬を駆る彼女に、
 私はすっかりオスカルのイメージを重ねたものだったんだけど・・・。
その後のアムネリスの運命を思うと、気の毒でな~んも言えないわ-・・・。
こちらのアウロラも色々とワケありの人物のようだけれど、
 まだ詳しくは語られない。
私は栗本グインから離れていってしまうようで、
 オリジナルに出てこない新登場人物が出てくるのは、
 なんだか寂しい気がするよ・・・。
そうだね、でもしかたのないことだよ。
 いつまでも同じ登場人物を使いまわしていては、ストーリーが膨らまないもんね。


シルビアはいっそ記憶を失くしたままのほうが幸せなのにね。
しかしこの物語は、彼女がささやかにでも幸せに安住することを許さないのだな。
う~ん、そもそもグインに愛されるなんて、これ以上安心なことはなかったのにね。
 ひねくれた嬢ちゃんだから困るよ・・・。
まあ、自業自得の部分はあるね・・・
というかすべて自分で蒔いたタネなんだよっ!!
 しばらく地下牢でおとなしくしててほしかったよね、実のところは。
だけど、ケイロニアも受難続きで、大帝アキレウスの病状重く、
 その生命も風前の灯。
 誰がそのあとを継ぐのか。
 後継者問題で頭を抱えるハゾス。
う~ん、このへんで物足りなく思うのは、
 今まで、グインさえいればこの物語はものすごい安心感があったんだよね。
 なにがあっても絶対大丈夫。
 グインがいるから、と。
 それは、グイン自身が何かに悩んだり記憶を失っていてさえも
 感じられる強いオーラのようなもの。
 でもなんだかこの辺り、心細く感じるんだよね・・・。
グインのオーラが薄れてますか・・・。
 でもそれはね、最も心強い後ろ盾、栗本薫さんがいないのだから仕方ないといえば仕方ない・・・。
グインのオーラが薄れたのは、栗本氏のオーラがないから・・・、
 そういうことかあ・・・。
 でも、それじゃだめじゃん!!
 オーラの薄れたグインなんて、そんなのグイン・サーガじゃない!
まもなくグインの愛妾に子供が生まれるわけだから、
 きっとそこから息を吹き返しますよ!!
 それを楽しみにしましょう・・・。


それにしても、イシュトヴァーンの2人の子供。
 シルヴィアの産み落とした子供。
 ケイロニアとパロの王家の血をひく子供。
 そしてグインの子供・・・。
 この子たちがやがてまたいつか不思議な縁で巡りあい、
 数奇な運命をたどっていくと思われるのだけど、
 そんな話になるまでは、あと100巻くらいでも全然足りない気がするね・・・。
 なんだかこっちの寿命が心配になってきたよ。
とりあえず、次巻を待ちましょう・・・。

「グイン・サーガ 134 売国妃シルヴィア」宵野ゆめ ハヤカワ文庫
満足度★★★☆☆


シャニダールの花

2014年12月02日 | 映画(さ行)
静かに清らかに美しく・・・生きられますか?



* * * * * * * * * *

人の胸に花が咲く・・・寓話的・幻想的な作品です。
「シャニダール研究所」。
そこでは特定の女性の胸に花を植え付け、成長させます。
その花が咲くと新薬開発のために億単位で取引がなされるのです。
その花の成長をケアするのが植物学者・大瀧(綾野剛)。
そこへ新任のセラピスト美月(黒木華)が来たところから、ストーリーは始まります。




チリ一つなく清潔に保たれた施設内で、ゆったりと時が進む。

しかし、花を植え付けられた少女たちは
何かしら精神の変調があるようでもある。
次第に心を寄せていく大瀧と美月ですが、
実は満開の花を切除した女性たちがみな、
命を落としてしまっていることを二人はまだ知らない・・・・。



生命の根源にも触れるような、静かで奥深い作品。
シャニダールというのは、
イラクのシャニダール遺跡で、
埋葬された骨と一緒に花の化石が発見されたというのです。
野蛮だと思われていたネアンデルタール人に、
死者を悼み花を捧げる“人間”の心の萌芽があった、
という説があるのだとか。
それにちなんだ名前ですね。
本作中の“花”の生育は
多分に提供者のメンタルに影響するようで・・・。

争いもなくただひっそりと花を咲かせ種を実らせ・・・
実はそのように生きるほうが幸せなのではないかと・・・
慌ただしく、嫌な事件や紛争の絶えない世の中を見ると、
時にそんな気持ちにもなりますね・・・。



登場人物みな若く、清潔感・透明感にあふれていましたが、
中でただ一人ここの研究所長(古館寛治)が
清濁合わせ持つ、最も人間味を感じさせる人物で、
存在感があふれていました。
静かで、清らかで、美しい。
やはりそれだけでは「人間」味には、欠けるようで・・・。



「シャニダールの花」
2012年/日本/104分
監督:石井岳龍
脚本:じんのひろあき
出演:綾野剛、黒木華、刈谷友衣子、山下リオ、伊藤歩、古館寛治

幻想度★★★★☆
満足度★★★☆☆

バツイチは恋のはじまり

2014年12月01日 | 映画(は行)
いくらなんでもこの仕打はひどい・・・、でも。



10年間同棲を続けた恋人と
いよいよ結婚しようとするイザベル(ダイアン・クルーガー)。
しかし、問題がひとつ。
「一度目の結婚は必ず失敗する」というジンクスが、彼女の家にはあるのです。
これまで結婚をためらっていたのもそのため。
しかし、誰とでもいいからとにかく一度「結婚」して、
すぐに別れてしまえばいいのだ、
と思いついたイザベルはすぐに実行に移します。



彼女は飛行機の隣席に座ったジャン=イヴ(ダニー・ブーン)に目をつけます。
彼はチョッピリお調子者で女っ気のない旅行雑誌の編集者。
まずは色仕掛けで結婚する気にさせようと四苦八苦。
しかし、問題はその後の「離婚」だった・・・。
彼女の理不尽な仕打ちも、笑って全てを受け入れるジャン=イヴに
いつしかイザベルは心動かされていく・・・。





デンマーク→ケニア→モスクワ→パリ・・・
ライオンと遭遇したり、無重力飛行を楽しんだり、
それは、ジャン=イヴが観光地を紹介する記事を書くためでもあるのですが、
なかなかステキな舞台背景となっていて、楽しめます。
しかし、ストーリー的には、初めから予想がついてしまいますし、
なにより、「嫌われるため」ではありますが、
イザベルが繰り出すジャン=イヴへの仕打ちがあまりにもひどくて、
嫌になってしまいます。
テレビだったらここでスイッチを切ってしまっていたかも・・・。
すべて自分の都合で、男の気持ちをもてあそび振り回す。
こんなことがあっていいわけがない!!と
憤りをも感じ始める。



だがしかし! 
ラストが良かった。
イザベルは十分に自分を反省します。
いきなり彼の元を訪ねて「ごめんなさい」と、
ちゃっかり胸に飛び込んで泣いたりしない。
彼との旅の思い出が十分に生かされて、
そして神聖な感じすらする感動的なラスト。
これにはジャン=イヴのみならず、私達もまいってしまいます。
このラストで、全て許せてしまいます。
イザベルに捨てられた元カレのその後が見られるのもイキです。
ダニー・ブーンはフランスで人気のあるコメディアン。
エンドロールのNG集も楽しめます。



「バツイチは恋のはじまり」

2012年/フランス/104分
監督:パスカル・ショメイユ
出演:ダイアン・クルーガー、ダニー・ブーン、アリス・ポル、ロベール・プラニョル、ジョナタン・コアン
コメディ度★★★★☆
ロードムービー度★★★☆☆
満足度★★★★☆