映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

シチリアを征服したクマ王国の物語

2022年03月12日 | 映画(さ行)

戦争のこと

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イタリア作家ディーノ・ブッツァーティが1945年に発表した
児童文学をアニメ化したものです。

はるか昔、クマたちは山奥で静かに暮らしていました。
ある日、クマの王レオンスの息子トニオが人間に捉えられてしまいます。
レオンス王は我が子を救うため、クマたちを引き連れて山を下り、
人間が住む平地を目指します。
彼らの行く手には、残忍な大公や魔法使いがいて・・・。

本作が発表されたのが1945年というのに意味がありますね。
第二次世界大戦が終わった年。
大きな嵐が過ぎ去ったような世界の中で、
人々は、結局戦争とは何だったのだろうと考え始めたのだと思います。

本作はクマ対人間の争いを描いたものではありますが、
大人であれば、これは人々がこれまで何度も繰り返してきた
「戦争」の話だと気づくはず。

クマたちは何も争いたくて山を下りたのではない。
王の息子を探すために降りてきたのです。
そして人間界に興味もある。
一方人間たちは、クマが大挙してやって来たのを見て、攻めてきたと思い込む。
クマたちを見るなり攻撃を仕掛けます。
そうなればクマたちも応戦せざるを得ず、あっという間に戦闘状態です。

ところでこのとき、クマたちは山の中では普通にハダカで暮らしていたのですが、
人間界に近づくにつれて、帽子をかぶり、服をまとい、
ぞろぞろ歩きから、整然とした軍隊のような歩みに変わっているところも興味深いところ。

その時人間界を支配していたのは、私腹を肥やそうとする残忍な独裁者。
クマたちはその大公を打ち倒し、
クマ王レオンスがクマたちのみならず人間たちをも統治することになるのです。

しばらくは人もクマも友好的に平和なときが訪れるのですが、
支配する側につくと支配者は変貌しはじめるもの・・・。
たちまちに腐敗し、私腹を肥やそうとして、
ますます権力をカサに着るようになっていくのです。
それは、人もクマも同じ・・・。
そしてそれがまた、新たな争いのタネになっていきます。

本作ではそんなどさくさを解決しようと、海中で眠っていた大蛇を蘇らせるのです。
まあつまり第3者的な大きな戦力を借りるとでもいいますか。
しかしまたその大蛇自体が危険な存在で、制御不能。
本末転倒、ますます国土が荒廃する可能性もある。

国と国。
民族と民族。
これまで幾度も争いを繰り返してきた、これが、人類の歴史なんですね。

けれど、希望はあります。
小さい頃から人間界に来て、人間と共にあることを当たり前と思っている父王の息子トニオ。
そして彼といつも共にいた、少女・アルメニーナ。

人もクマもこだわらない彼らのような存在がいつかきっと、この世界を変える。
そう思いたいですね。

 

シネマ映画.comにて

「シチリアを征服したクマ王国の物語」

2019年/フランス・イタリア/82分

監督:ロレンツォ・マトッティ

原作:ディーノ・ブッツァーティ

出演(日本語吹き替え声):柄本佑、伊藤沙莉、リリー・フランキー、加藤虎ノ介、寺島惇太

 

寓話度★★★★★

満足度★★★★☆

 


哀愁しんでれら

2022年03月11日 | 映画(あ行)

いい母親、とは?

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土屋太鳳さんと田中圭さん出演ということで、
ラブコメだと思い込んで見始めたのですが、どうも違う・・・。

 

児童相談所に勤める小春(土屋太鳳)は、散々ダメな母親を見てきて、
そしてまた彼女の母親も小春が子どもの頃に出て行ってしまったということもあり、
人一倍自分は「いい母親」になる、と決意していました。

そんなある夜、祖父が倒れ、父は事故を起こし、
おまけに家が火事で半焼という不幸のどん底に落ちてしまいます。
しかし、8歳の娘を男手一つで育てる開業医・大悟(田中圭)と知り合い、
スピード結婚します。

ある友人はいう。
「シンデレラは一晩踊っただけの相手と結婚するのよね。
王子は、靴のサイズしか知らない女と結婚。
よくそんな知らない相手とすぐに結婚する気になるよね。」

小春があっという間にお金持ちと結婚したことへの
やっかみであるかもしれないけれど・・・。

しかし実際結婚して初めて分かることがある。
大悟は神経質なくらい娘を「正しく」育てようとします。
それは良き母になりたい小春と重なるところもあるのですが・・・。
娘ヒカリというのが、これまた一見かわいらしいのだけれど、
一筋縄ではいかない子で・・・。

どこかいびつで壊れた感じのするこの親子関係は、
時間を経るにつれてさらに狂わしいものに変貌していき・・・。

いやはや、ラブコメなどとんでもない。
サスペンス、いや、もはやホラーです。

貧乏でもいい、バカでもいい。
お気楽に喧嘩しながらも適当に過ごしていける家族がどんなに幸いなのか
・・・って、思ってしまいます。

<WOWOW視聴にて>

「哀愁しんでれら」

2021年/日本/114分

監督・脚本:渡部亮平

出演:土屋太鳳、田中圭、COCO、山田杏奈、銀粉蝶、石橋凌

 

「良い親」度★★★★★

ホラー度★★★★☆

満足度★★☆☆☆

 

 


「あの日、松の廊下で」白蔵盈太 

2022年03月10日 | 本(その他)

本当は何があったのか

 

 

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旗本・梶川与惣兵衛は、「あの日」もいつもどおり仕事をしていた。
赤穂浪士が討ち入りを果たした、世にいう「忠臣蔵」の発端となった
松の廊下刃傷事件が起きた日である。
目撃者、そして浅野内匠頭と吉良上野介の間に割って入った人物として、
彼はどんな想いを抱えていたのか。
江戸城という大組織に勤める一人の侍の悲哀を、軽妙な筆致で描いた物語。
第三回歴史文芸賞最優秀賞受賞作品。

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「松の廊下」と来れば「忠臣蔵」。

冒頭、浅野内匠頭が
「おどれぁ、何しとんじゃ。このボケカスがぁ」
と叫んで、吉良上野介に斬りかかるという描写がありまして、
そこでつい引き込まれてしまいました。

 

本作はちょうどその場に居合わせて、浅野内匠頭を「殿中でござる」といって引き留めた
梶川与惣兵衛(かじかわよそべえ)の視点で描かれています。

物語はその事件のおよそ3か月前から始まります。
京都から帝の使いの者が江戸へやってくる年に一度の「勅使奉答」の儀式の
饗応役についた浅野内匠頭。
その指導役が吉良上野介。

どちらも知る与惣兵衛は、
浅野内匠頭は親しみやすく柔軟で人情を重んじる懐の深い人、
吉良上野介は真面目一徹、私利私欲を捨てておのれの責務を果たそうとする高潔な人、
と思っていました。
しかるにあの事件後、世間は全く違う印象を2人に持つようになってしまっている。

浅野内匠頭は責任感が強く生真面目で、少し融通のきかない骨太の正義感。
吉良上野介は、自らの家柄を鼻にかけ、
賄賂をばらまいて幕府を裏で牛耳り、私腹を肥やす極悪人、と。

決してそうではない、ただ、双方の相性が悪く、
そしてまた様々なマイナス要因が重なってしまった・・・。

本作はそういうことの説明になっているわけです。

 

この儀式のことを熟知していて非常に頼りがいのある吉良上野介ですが、
この年、別件で京に赴くことになったのです。
それもほとんどこの饗応の準備期間中に。
江戸との連絡は書面にて、といっても早飛脚で片道4日。
質問を出しても返事が返ってくるのは最速でも8日後。
しかも、江戸に残されたメンバーというのが誰も彼も実務能力に欠ける・・・。
もちろん他にも指導的立場の人もいるのですが、皆プライドばかりが高いボンクラ。
そして身分の上下関係によって、直接的なことが言えない。
相手が気を悪くしないよう、常に気を遣う・・・。

所作の作法などはともかくとして、少なくとも以前の資料は必ずあるはずなのだから、
それをなぞればいいだけなのでは・・・と、
元事務方の私は相当イライラしながら読んでしまいましたが・・・。

ともあれ、組織や手順のマズさが根本にあって、
浅野内匠頭は心身共に疲労の極地にあったのは間違いないですね。
まあ、これとても想像の域を出ないわけではありますが。
いろいろなことを想像するのが歴史小説の醍醐味であります。
興味深く読みました。

「あの日、松の廊下で」白蔵盈太 文芸社文庫

満足度★★★★☆

 


「紅蓮の雪」遠田潤子

2022年03月09日 | 本(その他)

因縁の物語

 

 

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伊吹の双子の姉・朱里は20歳の誕生日を向かえた日、
なんの前触れもなく自殺した。
朱里の遺品の中から大衆演劇「鉢木座」の半券が見つかり、
それが死ぬ前の最後の足取りであることを知った伊吹は、
少しでも真相に迫るべく一座の公演に行った。
公演後、座長に詰め寄る伊吹の姿を見た若座長の慈丹は、
その容姿を見初め、入団を強く進めた。
伊吹は何か手がかりが掴めるのではと入団を決意し、
以降、訓練と舞台に追われながらも、「女形」としての人気も得始めていた。
そんなある日、ひょんなことから両親と鉢木座との繋がりが露見することに。
それは鉢木座の過去に秘められた禁断の事実だった……。
血脈に刻まれた因縁、人間の最果てと再生を描いた問題作。

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本作のメイン舞台は、大衆演劇。
旅芝居、ドサ回り・・・と、つまりはそういう言葉でイメージする旅の一座が舞台となります。
演目は時代劇ばかりではなくて歌や踊りもある、つまりはショーなんですね。
イケメンのおにいさんの妖艶な白塗りの化粧姿に、おばちゃまたちの黄色い声援が飛ぶ。
私は実際には見たことないですけど。

 

主人公伊吹は、そんな世界にはまるで縁がなかったのですが、
ある時、双子の姉が自殺。
その姉が亡くなる直前に「鉢木座」の演劇を見に来ていたことを知り、
気になって見に行くのです。
そこで若座長の滋丹にほとんど強引にスカウトされて、この一座に加わることに。

 

さてこの伊吹は大きな問題を抱えていて、それは人とふれあうことができないこと。
交流、という意味ではなく、人と体を密接したり実際に触れたりすることができない。
触られるとひどい緊張感や嫌悪感に見舞われてしまいます。
それができるのは双子の姉とだけだったのですが、
その姉も亡くなってしまいました・・・。
このことはどうも彼の家庭に問題があったようで、
端からはおしどり夫婦のように見られていた美しい父母に、
自分たち双子は全く愛情を受けたことがない、
父に至っては言葉をかけてくれたこともない・・・。

旅の一座の一員として、様々なことを学び、人々と交流しながら成長していく伊吹。
そして次第に解き明かされていく彼の過去。
そして父母とこの一座との関わり・・・。
そこには最も根源的なある秘密が隠されていた・・・。

 

なるほど~、この世界感に圧倒されます。
浸ってしまう一作。

図書館蔵書にて

「紅蓮の雪」遠田潤子 集英社

満足度★★★★☆

 


逃げた女

2022年03月08日 | 映画(な行)

想像しよう

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本作は、ガミという女性が友人の元を訪れ、
何か食べながらひたすらおしゃべりをすると言う作品。
特別に何か大きな出来事がある訳ではありません。
彼女たちの身の回りの事柄を見聞きしながら何を思い、
どんな風に想像を広げるのかは見る人の自由。
何が正解と言うこともないのでしょう、多分。

 

ガミが始めに訪れるのは先輩、ヨンスンの家。
彼女は、離婚して今は友人とルームシェアをして気ままに暮らしています。
でも若干近所の人と不和を抱えている様子。

次に訪れるのが、やはり先輩のスヨンのもと。
独身ですが、今、少し気になる人がいる。
しかし、以前酔ってつい関係を持ってしまった男が
ストーカ-のようになってしまっている。

そして、最後に偶然出会った友人・ウジン。
彼女とはある人を挟んで三角関係になってしまったことがあって、ちょっと気まずい・・・。

これら三人と話すのはとりとめもないことなのですが、
そんな中でガミは必ず今の自分のことをこう言うのです。

「夫とは結婚して5年になるけれど、今まで一度も離れたことがない。
今回、夫が出張になって初めて離ればなれになった。
愛する人とは何があっても一緒にいるべきだ。」

すなわち、夫とはラブラブで、幸せ・・・ということのようなのですが。
あくまでも私個人の想像としては、妻を常に近くにおいて自由にさせない夫。
ガミはそれが息苦しくてもう限界で、家を飛び出してきたのではないか・・・?

そのように想像してしまうというのは、
私の奥底の人生観のようなものが現れてしまっているだけなのかも知れず、
そう思うと、うかつに想像を巡らすのも恐くなってしまいますね。

単に、「女の幸せにも色々あるよ」、ということかもしれないし、
「平和な暮らしの中にも魔が潜んでいる」ということかもしれないし・・・、
あなたなら、どうですか?

私などでも気づく独特なカメラワークが繰り返されますが、
あれは、何なのでしょう。
もしかしたら、とりとめのない会話の中にも、
人によってズームアップ的に興味のひかれる部分があるよね、そうでしょう?
・・・と、言っているのかも。

 

<WOWOW視聴にて>

「逃げた女」

2020年/韓国/77分

監督・脚本:ホン・サンス

出演:キム・ミニ、ソ・ヨンファ、ソン・ソンミ、キム・セビョク、イ・ユンミ

 

日常度★★★★★

想像の余地度★★★★☆

満足度★★★.5


キング・オブ・シーヴズ

2022年03月06日 | 映画(か行)

史上最高齢の金庫破り集団

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2015年に実際に起こった事件の映画化です。
英国史上最高齢かつ最高額の金庫破り集団として、世界を驚かせた窃盗事件。

かつて、泥棒の王(キング・オブ・シーヴズ)と呼ばれたブライアン(マイケル・ケイン)。
裏社会から身を引き、妻と穏やかな日々を送っていました。
ところが妻が亡くなり、空虚な心を持て余しています。
そんなところに、知人・バジル(チャーリー・コックス)から、
ある窃盗計画を持ちかけられます。
ロンドン随一の宝飾店街「ハットンガーデン」の貸金庫から
現金や宝石、金塊などを盗みだそうと言うのです。
その気になったブライアンは犯罪家業に復帰することに。

かつての悪友たちを呼び集め、平均60歳オーバーの窃盗団を結成。
唯一若いバジルが、電気機械関係を受け持ちます。

誰もが若い頃の夢をもう一度・・・という感じで
気持ちだけははやるのですが、とにかくもうご老体。
トイレは近いし、耳は遠い、糖尿病だったりもする・・・。
連休中を狙って忍び入った場所は、警報装置さえ切れば、ほとんど誰も寄りつきません。
作業が長引き、二夜を要してしまいます。
しかも、その一日目が過ぎたところで意見が合わず、
リーダー格のブライアンが抜けることになってしまいます。
それでも二日目には成功し、大金と宝石類を手に入れた彼ら。

ところがねえ・・・、お定まりの仲間割れです。
ブライアンがいなければ、宝石をさばくルートが分からない。
そして警察もバカではない。
犯人像を割と早く割り出して、犯人たちを一網打尽にすべく尾行したり盗聴器をつけたり。
なかなかやりますな。

フィクションとしてのドラマなら、こんな警察の罠もくぐり抜けて・・・
ということになるのでしょうけれど。

結局、いかにも仲よさげに結集した窃盗団ではありますが、しょせん盗人。
エゴ丸出しでお宝は自分のものにしたい・・・。
いやあ、自分たちの歳を考えたら、残りの人生お金はそんなに必要じゃないのでは?
と、私なら思ってしまいますけれどね。

 

ともあれ、イギリスの名俳優の競演を楽しく見ました。

 

<WOWOW視聴にて>

「キング・オブ・シーヴズ」

2018年/イギリス/108分

監督:ジェームズ・マーシュ

出演:マイケル・ケイン、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、チャーリー・コックス、
   ポール・ホワイトハウス、マイケル・ガンボン、レイ・ウィンストン

 

窃盗計画度★★★★★

年寄りの冷や水度★★★★★

満足度★★★☆☆


今日子と修一の場合

2022年03月05日 | 映画(か行)

帰りがたい故郷の災害

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東日本大震災を題材としたオリジナル脚本。

監督・脚本が奥田瑛二さん、
スーパーバイザーとして安藤和津さん、
主演に安藤サクラさんと柄本佑さんのお二人、
と言うことでモロにファミリー映画じゃん・・・
などと突っ込みを入れるのが場違いなくらいに、じっくり訴えかける作品です。

 

南三陸町を故郷とする今日子(安藤サクラ)と修一(柄本佑)、
それぞれを描き出しますが、実際に二人には接点はありません。

まずは今日子の場合。

夫が病に冒され、一家の生計を担わなければならなくなった今日子。
保険外交員の仕事に就きますが、
上司から強要されてやむなく関係を持ってしまいます。
しかしそのことがバレて、家族から非難され、故郷を追われてしまいます。
まだ幼い子供もいたのに。

そして修一の場合。

暴力的な父親から母親を守るため、父を殺害してしまい、少年刑務所に服役。
刑期を終え、東京へ出て町工場で働き始めます。

東京で新たな生活を始めた二人。
そんな時に大震災が起こります。
故郷の家族には連絡も取れず安否も確認できません。
いえ、連絡をとることが可能だとしても、
自分はすでに追い出された身でもある・・・。

故郷の大きな災害を、遠く手の届かないところから
テレビなどを通じて見るしかないつらさ切なさに加えて、
とにかく今、自分の生活をなんとかしなければならない重圧。

ようやく二人が故郷に戻るのは、およそ一年の後。
すっかり波にのまれた街は、大きな建物の残骸や、家のあったらしき土台が残るばかり。
この何もないところから、また始めるのだ・・・
そう思って、二人はそれぞれに歩き始めるのでしょう。

この二人は人を殺めてしまったけれど、
この町ではあの日、あまたの人の命が失われた。
命の重みのあまりの軽さにおののきながら、
それでもやはり、それは大切なものだったという気持ちも同時にわいてきます。

震災を扱った中では、秀逸な作品だと思います。

<Amazon prime videoにて>

「今日子と修一の場合」

2013年/日本/135分

監督・脚本:奥田瑛二

スーパーバイザー:安藤和津

出演:安藤サクラ、柄本佑、和田聰宏、小篠恵奈、和音匠

 

人生ドラマ度★★★★★

震災を考える度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「ミステリと言う勿れ 1」田村由美

2022年03月04日 | コミックス

一般的に常識と思われていることを裏返してゆく

 

 

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解決解読青年・久能 整、颯爽登場の第一巻!!
冬のある、カレー日和。
アパートの部屋で大学生・整がタマネギをザク切りしていると・・・
警察官がやってきて・・・!?
突然任意同行された整に、近隣で起こった殺人事件の容疑がかけられる。
しかもその被害者は、整の同級生で・・・。
次々に容疑を裏付ける証拠を突きつけられた整はいったいどうなる・・・???

新感覚ストーリー「ミステリと言う勿れ」、注目の第一巻です!!

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月9のテレビドラマで絶賛放送中の本作。
私はすっかり気に入ってしまったので、原作本を手に取りました。
常日頃、コミックが原作のテレビドラマで気に入ったものがあっても、
原作を買おうとまで思うことはほとんどありません。
でも本作に限っては、整くんの「語り」を
もっとじっくり何度も味わいたい・・・という思いが強かったのです。

 

何しろ、始めのエピソードからものすごいインパクトです。
調度この一冊が、テレビドラマ第一回分となっていました。

 

ある日突然、主人公の大学生・久能整(くのうととのう)が、
殺人容疑をかけられて警察に任意同行されてしまうのです。
が、事情聴取される整くんが、
警察署内の人々のちょっとした悩みに答えてしまうという意外な展開。
そしてそんな中で見聞きする事件のあらましの中から、
彼は真犯人を突き止めてしまう・・・!
しかも真犯人は、ミステリではタブーの、あの・・・。

あえてネタばらしは避けますが、
一般的にミステリの組み立ての中ではタブーとされる犯人像を持ってきたあたりで、
「これはミステリではありませんよ・・・」と宣言した題名なのも
ステキだと思いました。
そうなのです。
ミステリ要素を持ちながら、本作は「ミステリ」ではないのでしょう。
本巻のあとがき的ページの中で、著者は、
これは「整がただただしゃべりまくる話です。」
と言っています。
舞台劇のようなイメージであるとのこと。

確かに。
そのしゃべりがメイン。
けれどストーリーの意外性もまた、素晴らしく光っています。
大好きです。

現在10巻まで出ているのですが、私はあえてまとめて大人買いせず、
月に1冊ずつくらいにして、じっくり読んでいこうと思います。
(先のストーリーはドラマでわかっているので慌てることはないですもんね。)

 

そしてドラマについては、いわゆる「常識」的な事柄を裏返していく、
訥々とした整くんの語りが心地よい。
菅田将暉さんのキャスティングもナイスです。
そしてこの長台詞をよくぞものにしてくれました。
菅田将暉さん、ありがとう!!

 

「ミステリと言う勿れ 1」田村由美 フラワーコミックスα

満足度★★★★★


「緑陰深きところ」遠田潤子

2022年03月03日 | 本(その他)

ヘンテコな取り合わせ、二人のロードノベル

 

 

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業を背負う男たち、奇蹟のロードノベル
兄さん、今からあんたを殺しに行くよ――。

大阪ミナミでカレー屋を営む三宅紘二郎のもとに、ある日一通の絵葉書が届いた。
葉書に書かれた漢詩に、紘二郎の記憶の蓋が開く。
50年前、紘二郎の住む廃病院で起きた心中事件。
愛した女、その娘、彼女たちを斬殺した兄……
人生の終盤を迎えた紘二郎は、決意を固めた。
兄を殺す、と。

2020年直木賞候補となり、いま最も注目を集める作家が贈る、渾身の一冊。

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カレー店を営む紘二郎の元に届いた一枚の葉書。
それが彼の記憶の扉をこじ開けます。
50年ほどの昔、愛した人と暮らした短いけれど満ち足りた日々。
しかしそれもつかの間、2人は紘二郎の兄によって引き裂かれてしまったのです。
無理矢理彼女を奪い去った兄。
しかもその数年後、兄は無理心中で彼女とその幼い娘をも殺してしまう。
自分だけは生きながらえて。

忘れようとしても忘れられないそのことを、
また強く蘇らせるこのハガキは、兄から来たものに違いない。
彼は、兄を殺すために、店を閉めて旅立ちます。

そんな彼の道連れになったのが、金髪の青年・リュウ。
その派手に染めた髪とは裏腹に、
家も財産もなくホームレスだといい、いかにも顔色も悪い。
リュウは、紘二郎が買った中古のコンテッサは
自分が店長を務めていた店で売ったものだが、欠陥車で危険だといい、
無理矢理についてきたのです。
大阪から大分・日田市まで、老若2人の風変わりなロードムービー、
じゃなくて、ロードノベル。

50年前の事件の真相は? 
そしてリュウの秘密とは?

 

非常に興味がそそられる作品です。
2人が向かった日田市は「進撃の巨人」の作者諫山創さんの出身地で、
あの、町を守る巨大な壁を思わせるような風景もあるということで、
私も最近興味を持った地です。

 

いかにも陰惨な過去の事件。
その落とし前の付け方もなかなか味があります。
自分が見ている人の一面。
けれど、自分が見ていなかった、見ようとしていなかった一面があるものなのですね。

遠田潤子さん、もう少し読んでいきたいと思います。

「緑陰深きところ」遠田潤子 小学館

満足度★★★★☆


水を抱く女

2022年03月02日 | 映画(ま行)

ウンディーネ、命をかけた恋

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水の精・ウンディーネの神話をモチーフとしています。

ベルリンの都市開発を研究するウンディーネ(パウラ・ベーア)は、
博物館でガイドとして働いています。
そんな彼女がある日、恋人ヨハネスから別れ話を告げられ、
「私を捨てるなら、殺す」と、強いまなざしで男を見据えるのです。
こんな強烈な場面から始まる本作。

ところがそのすぐ後、彼女は潜水作業員のクリストフ(フランツ・ロゴフスキ)と出会い、
恋に落ちるのです。
ウンディーネはこの恋に満ち足りたはずなのですが、
でも心の片隅にヨハネスへの心残りがまだくすぶっているようで・・・

「殺す」とまで言い放った情感は、そう簡単には打ち消すことができないのかも知れません。
神話のウンディーネは人間の男の愛によって魂を得るのですが、
男に裏切られ、男を殺して水中へ帰って行くのです。
「人魚姫」の童話も、この話が大もとなのかも知れませんね。

本作のウンディーネは結局誰を見捨て、誰を救おうとするのか、
そして自身はどこへ行くのか。

しっかり現代の街並みを描きつつもどこか幻想的。
独特な雰囲気を持った作品です。
ベルリンの街の模型のある博物館もいいですね。

そうそう、クリストフが溺れたウンディーネに心臓マッサージをするときに、
「スティン・アライヴ」を歌うシーンがあります。
救命講習でそのようにならった、と。
実は私も講習を受けたことがあるのですが、
講師は「もしもし亀よ」がいい、と言っていました。
そのリズムと回数がちょうどいい、ということで。
さすがヨーロッパ、「もしもし亀よ」より
「スティン・アライヴ」の方がカッコイイですよねえ・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「水を抱く女」

2020年/ドイツ・フランス/90分

監督・脚本:クリスティアン・ペッツオルト

出演:パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、マリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツ、

   アネ・ラテ=ポレ

 

女の情念度★★★★★

幻想性★★★★☆

満足度★★★★☆