自分たちが上演した作品を、他の劇団の公演で見るってなかかな微妙なものだ。うろ覚えながら、菜の花座でやったことも覚えているし、台本かなり読み込んでいるからね。ついつい比較してしまう。しかも、のど元過ぎればのたとえ通り、過去はとかく美化されやすい。う~ん、あのシーンはこうするといいんだよな、とか、そのせりふ回し、違ってないか?ついつい、舅根性丸出しで見てしまうんだ。これはいかん!断じて良くない!とわかっていても、ついついそうなっちまう。
だから、今日の劇団ぬーぼー公演『法王庁の避妊法』も極力そんな身びいきをたしなめつつ見た。で、まず、最終的な感想から言えば、良かった!楽しめた!ってことだ。特に後半に入ってからは役者たちもしっかりと役をつかみ、作者の意図を伝えていたって感じた。荻野久作が、患者の死に打ちのめされて無為に過ごす日常から、研究行き詰まりを打開するヒントを得て助手とともに、小躍りしつつデータを探し回るシーン。研究の最後の決め手として、妻トメに計画的妊娠を迫り拒絶されるシーンなど、ぐいぐいと引き込まれるものがあった。特に、妻トメが、授かりものしての妊娠にこだわり、ためらい揺れ動く演技は出色だった。
装置もとても丁寧に作られていて好感が持てた。さりげない汚しの入れ方など、早速置農演劇部員に見習うように指示したくらいだ。遠見を上手に生かした照明も玄人好みの出来で納得だ。さらに、衣装も丁寧に季節ごとに変えていて、これまた気合いが入っているのを感じた。ただ、荻野夫人トメはともかく、他の百姓のおかちゃんたちの着物は、良いもの過ぎたし、そんなに衣装替えにこだわる必要はなかったのしじゃないのかな?そのために、やたら場転に時間がかかってしまった。これはちょっと本末転倒ってことだよ。実際の生活でなら、時が移れば着ているものも変わるって当たり前のことだけど、芝居では、そこら辺は几帳面になることはないのじゃないかと思う。それよりは、スムーズな展開をとりたいな、僕ならば。
さて、後半に入ってよくなるってよくあることだけど、これって、なんでなんだ?一つは、役者がだんだんと乗っていくってことがあるだろう。プロの芝居と違いアマチュアはたった1度が2度の公演だ。しかも、技量も不足だ。出だしから乗りまくりってわけにはいかない。どうしたって助走時間ってものが必要なんだ。それが一つ。
あと、もう一つ大きいのは、見ている側がその舞台に、あるいは役者に慣れるのに時間がかかるってこともあるんじゃないだろうか?特に、キャスティングが予期したものと違っていたり、役者の演技や演出に馴染めなかったりしたとき、その違和感を薄めていくのに、どうしても時間が必要なんだ。
そう、今回の舞台についてはたしかに後者の部分が大きかったな。何故って、以前やってるからね。荻野はこうだよ、とか、ハナさんはこうでなくちゃ、看護婦さんは、・・・みたいなものがなかなか抜けなかったってことなんだ。
じゃあ、次に、僕の感じた違和感に普遍性があったのかどうか。残念ながら、前半については、やはり、台本の良さを生かし切れていなかったように感じた。理由は簡単!笑いが少なかったもの。この本は喜劇としても大変良くできているから、すなおに役者が演じさえすれば大爆笑ものなんだ。お見合い相手のとり違いとか、産婦人科医と若い患者とのセックス談義とか、七人目を妊娠中のおかちゃんの逞しさとか、随所に笑いが仕込まれている。前半はあちらでくすくす、こっちでげらげらと腹を抱えながら、いつの間にか話しに引き込まれていくという仕掛けになっている。それが成功していなかったものね。
それでは、笑いが不発に終わった理由はなにか?役者が、あるいは演出が?この本の笑いの質を十分にとらえ切れていなかったことにあるんじゃないだろうか。ごめん、ナオミちゃん、勝手なこと言って!ああ、ここで間が必要なんだ、とか、その反応はどうなんだ?って歯がゆく感じることがままあった。それと、若い人特有のやりすぎで笑いをとろうって演技も何度かあった。それは違うぜって心中ひそかに突っ込み入れた時もあった。
じゃあ、お前やってみろよ、って言われると自信は全然ない。この本のようなおおらかで自然な笑いを書くこと、そして、そんな舞台を創ること、それが僕の究極の願いなんだけどね。作りたい作りたいと常々願いつつ、つまらぬ駄洒落やナンセンスでお茶を濁しているわけなんで、まったく、ここに書いたことは、そのまま僕自身に降りかかってくるわけだ。本当に笑いは難しい。
それにしても、この作品は考えさせるものがぎっちりと詰まっている。試験管べービーや代理母出産なんてものは当たり前になり、クローン人間だって身近な可能性となりつつある今、改めて、妊娠・出産について人間の本来あるべき姿はどうなのか、面と向かわねばならない課題が満載だ。この舞台を置農演劇部全員参加で見せた理由も、そこら辺、しっかり心に止めてほしいと思ったからだった。もっともっと多くの若い人たちに見てもらわなくちゃならない作品なんだよな。なのに!どうして見にこないんだよ、若けえ奴ら!!