ステージおきたま

無農薬百姓33年
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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

"お話し"に泣く:こまつ座『シャンハイムーン』

2010-03-28 20:21:03 | 劇評

 明日はいよいよ置農食育子どもミュージカル『ベジタブル!ワンダフル!!』の初演!やっとこさっとこ、通し稽古ができた。ウソーー!ホント!!そんな稽古不足で初演向かえていいのか!?!よくない!!って責任追及の声は僕の中でもグワングワン響き渡っている。でもまずは皆さんにお見せできる最低の?レベルには達したと思う。後は精一杯やって勘弁してもらうだけだ。

 できれば2回通したいとおもったんだけど、ダメだしがあまりに多くて、2度目は直しを入れて終わり。いよいよ荷物の積み込み。今回は大きな装置はパネルだけなので、簡単簡単って思うのはまだ早い。荷が少ないてのは、実は意外と大変なことなんだ。何故か?荷物の締まりが悪くなって道中緩んでしまうからだ。しかも最初の荷造り。ここはきちんとパッキングの段取りを固めてしまわないと後々、苦労することになる。

 ってことで積み込み完了が12時55分。おいおい、あと35分で『シャンハイムーン』開演だよ。飯だって食ってないていうのに!よっしゃ、決断!顧問二人で部員を車輸送することにした。2台で2回転。10分前に全員滑り込みセーフで、フレンドリープラザへ。大混雑のロビーで大あわてで昼食。館長の阿部さんにせき立てられつつ客席に入った。

 さて、『シャンハイムーン』だ。結論から言うとよかった!泣けた!最後の最後まで涙腺全開だった。年取って涙もろくなってるってことは差し引いても、優れた舞台だった。改めて井上さんは素晴らしい劇作家だ!って叫んでしまった、もちろん心の中での話しだけど。

 井上さんには近代史を彩った人物が主人公になっている作品が結構多い。石川啄木、樋口一葉、吉野作造、前回は小林多喜二だった。、今回の作品は新作ではないが、これまた有名人魯迅だ。歴史上最上の知性と良心の持ち主たちを、井上さん独特の視点と作法で笑いと涙の感動舞台に仕上げてきた。

 これはある意味ずるい手法だ。だって、彼らの生き方そのものが今時の我々には圧倒的なんだもの。心を打つんだもの。中国革命のために生命をなげうって邁進した魯迅。権力や暗殺者の脅迫にも屈せず中国人民の未来のために発言し続けた魯迅。こりゃもう感動しないわけがない。最初から、すげーって感動バイブレーションが高鳴っているからね。

 でも、それをそのまま偉人物語にしないところが井上さんの凄いところなんだな。今回の作品では魯迅の生き方の本質に自殺願望を見いだして、それが”ちょっとしたきっかけ”から人物誤認症?なるものの発症へと展開していく。身近な人たちが過去に傷つけ人、裏切った人、世話になった人、そんな人たちに見えてしまい、悔悟の念にさいなまれるという仕組みだ。日本での恩師藤野先生、革命の同士愁僅女史、魯迅に触発された若き作家。魯迅はひけめを感じ、これらの人たちの幻影に詫び続ける。そして最後は、持参金を目当てに娶り、終生愛することのなかった第一夫人への冷たい仕打ちまでが明らかとなり、偉大なる革命家の素顔と自責の苦しみをかいま見せてくれる。

 さらに、誤認症が回復したと思ったら、今度は失語症。「みんなに面倒をかける」が「みんなにもんどうをかける、たんとうをなげる、」ついに「べんとうをたべる」と発語してしまう魯迅の滑稽さ。目指す言葉が出てこないって状況から巧みに笑いを引き出し、さらには失語の大爆笑の中で心情を吐露する魯迅に、笑いの涙はいつの間にか魯迅のせつなさへの共感の涙に変わっていった。こんなシーンってほんと凄い!笑いは笑い涙は涙じゃないんだから。おっと、そういえば、藤山寛美の松竹新喜劇もそうだったな。

 失語症となった魯迅が言葉を取り戻すきっかけ、これは冷静に振り返ってみれば、お話しとお手紙なんだ。これちょっと劇作的には上質とは言い難い。井上さん自身もたしかどこかの劇作法講義の場で、舞台で起こっていない出来事は極力書かない、ってことを上げていた気がする。そんな疑問はうすうす感じつつも、それでも泣かされてしまったのが今日の舞台だった。

 足長おじさんを続けた医者の前に、学資を出してもらっていた少女が成長し看護師となって現れ、一緒に貧民の医療に当たることを切望するとか、魯迅の第一夫人が養子をもらって未来に鎖をつなぐことになった手紙とか、60kmも離れた田舎から歩いて本を買いに来た少年たちを喜んで向かえる本屋の主人とか、ここにこう書いてしまえばたしかに臭い!なんかしてやられたって感じないわけじゃないけど、それがあの魯迅のでたらめな言葉のおかしさに縁取られて、とっても感動的な話しとして観客をぐいぐいと引き込んでいたってことだ。要するにお話しの魅力、お話しの魔力ってことなんだな。そんな魔法陣を見事に張ってくれた演出家、役者、スタッフに感謝しなくちゃなんないな。

 最後に、舞台装置、良かったなぁ!島次郎さんのもの、さすがだ。ラストシーンで舞台奥の窓が鏡になって後ろ向きの出演者全員の後ろ姿と表情が一緒に見えたときなんて感激だった。それと雨ね。窓の外に本当に雨が降ったもの。あの雨どうやったんだろう?

 おーい、ばらし手伝ったカナミ、チヒロ、どんな仕掛けだったったコメントにばらしてくれないか?

コメント (2)
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