ステージおきたま

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吉岡秀隆の金田一、うむ?で始まり、うん!で終わった。NHKスーパープレミアム『悪魔が来りて笛を吹く』

2018-07-29 09:11:08 | テレビ

 先週のNHK、横溝正史週間だった。午後1時から始まるBSプレミアム、『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』『獄門島』と立て続けに3本。さらに対談番組までセットして、どうしちゃったの?NHK。

 なんだい、真昼間から映画三昧かい、いいなぁ、年金ジジイは!なんて皮肉言うなよ。録画だ、録画。見るのは10時過ぎ。当然だろ、農作業忙し過ぎだもの。

 市川崑監督、石坂浩二=金田一の横溝ミステリー、懐かしい!ついつい前2作、見入ってしまった。あのおどろおどろしさ、時折入り込む市川流表現、例えばセックスシーンは白黒で墨を流したような描写、クライマックスのドッキドキの盛り上げ方、そして、豪華なわき役陣、加藤武、大滝秀治、三木のり平、白石佳代子、渡辺美佐子、この間亡くなった常田富士男!さすが市川崑だな、一声かかれば全員集合だったんだろう。そうそう、こまつ座で御馴染み辻萬長さんが刑事役で出てたのにゃちょっとびっくり、嬉しくなった。

 懐かしの名作3日連続、理由がわかったよ。総仕上げは、新しくNHKが作ったスーパープレミアム作品『悪魔が来りて笛を吹く』だったんだ。つまり、この新作見せたくて、市川横溝、体よく客寄せに使われたってことなんだ。やるもんだよ、NHK!自分の番組に引っ張るために、3日もおとり餌ばら撒いてたってことなんだもの。贅沢!

 畜生、引っ掛かったな、そんなもん見てやるもんか!とは思ったが、今時、テレビが横溝撮るとどんなになるんだ?って誘惑に逆らえず、見ることにした。【脚本】喜安浩平【演出】吉田照幸。

 うーん、最初はねぇ、正直言って、吉岡秀隆が金田一?なんか坊やみたいじゃん、って気が乗らなかった。わき役陣もぱっとせず、まるっきり没落華族の雰囲気が伝わって来ない。なんだい、あの準主役美禰子のダサさって!顔立ちに気品もなけりゃゆかしさもない。だいち、あんな服着せるか?!あれじゃ田舎の姉ちゃんじゃん。役者もダメだけど、それ以上に演出がなってないんだ。堕落しきった元華族新宮利彦なんて、そこらへんの与太者だもの。最後の最後まで、時代に取り残されて淀んで行く上流階級、その気位と腐敗と堕落が見えてこなかった。

 しかも、市川流の手練手管で観客の好奇心を引き寄せるってこともない。横溝の禍々しい世界が、民放「××の事件簿」的に平板に描かれるだけ。おいおい、こっちは疲れた体で眠いの我慢して付き合ってんだぞ、もっと、これでもか!ってとこ見せて見ろよ。って、実際、途中瞼がくっついちまった時間帯もあったんだけど。

 ラストの解決タイムになって、一気に引っ張り込まれた。探偵もののお定まり、関係者一同を集めての謎解きって言うと、ポワロの昔から、探偵の得意然としたどや顔がつきものだ。それと散らばってた謎を拾い集めて組み立てるパズルの白々しさ!そこが好きになれずに、探偵小説からは距離を取ってきているのだが、今回の金田一は違った。

 苦渋に満ちているのだ。事件の底に横たわるどす黒い人間の悪業、畜生道。できれば、見たくない。逃げ出したい、そんな躊躇いにどこまでも逡巡しているのだ。真実を明らかにする者の気負いなどみじんもない。余りにも重く暗い宿命を背負わされてしまった犯人に、さらに追い打ちをかける深くやる瀬ない真実を告げることに、どこまでも戸惑い悩んでいる。ここまで落ち込んで思い悩む金田一には初めて出会った。

 とても受け止めがたい真実に遭遇し、すべての元凶が母親と知って狂おしく殴りかかる犯人、血しぶきの飛んだ母の顔には正気を超えて、性の喜びとも親子の和解ともとれる笑顔が浮かんでいる。期せずして抱き合う形になった母と子、その上に、なんと、ジョンレノンの「マザー」が流れるのだ!えっ、一瞬、驚きに頬が緩みかかったが、ああ、これはいい!これはぴったりだ!これこそラストに相応しい!見るものの胸を締め上げるシーンだった。

 この最後の20分、これで許せる。しばし物語の余韻に浸った。横溝の、ほとんど突っ切った狂気の世界がなぜか、もの悲しくも切ない人間秘話に感じられた。

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