新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

映画 『25年目の弦楽四重奏』

2013年07月24日 | 映画

遅い夜の時間にcannellaさんのブログでこの映画の素晴らしい内容を知りました。ぜひ観たいと調べてみると、26日までミニシアター・KBCシネマで上映中。間に合ってラッキーとばかりに、12時間後には映画館の中に・・・。 

四重奏、カルテット・・・。弦楽器の4人のメンバーとメンバーの一人娘が繰り広げる複雑で緊張感のある人間ドラマです。市中のどこにでもあるような愛、不倫、嫉妬、仲間意識とライバル意識、親と子の心のずれが、あるきっかけで4人の音楽家に一度に噴出すると・・・、というストリーになっています。

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カルテット《フーガ》のメンバーは、第一ヴァイオリンのダニエル、第二のロバート、ビオラのジュリエット、チェロのピーター。師匠格のピーターは、親子ほど年齢もかけ離れており、フーガの精神的拠り所でもあります。
ジュリエットの亡き母とピーターは昔は仕事仲間。母に先立たれたジュリエットはピーター夫妻の深い愛情の元で成長し、ヴァイオリンに打ち込みます。
ロバートとジュリエットは夫婦。その一人娘がヴァイオリン奏者を目指すアレクサンドラで、その才能を伸ばすためにダニエルに指導を頼みます。ダニエルとジュリエットはかつて愛し合った仲でした。5人の人物相関図はざっとこんなものです。



カルテット《フーガ》結成25年目のコンサートの練習中に、リーダー格のピーターがパーキンソン病に侵されていることが発覚、引退を表明しました。
メンバーに衝撃と動揺が走り、そこからいろいろな不満や葛藤や感情が噴出し、連帯が一気に悪化してしまいます。

ジュリエットは親同様のピーターがいないカルテットは考えられないこと、ロバートが第1ヴァイオリンを弾きたがっていることやフーガがダニエルの思うとおりに進んできたことへ不満、ダニエルがロバートは第1ヴァイオリンは無理だと言ったこと、ジュリエットも夫の才能を認めていないことなど、どうしようもなくバラバラになり始めます。
そんな中で憔悴したロバートは一夜の不倫に・・・。ジュリエットの怒りは収まらず、とうとう家から追い出し、悪化に歯止めがかからなくなってきました。


 そんな不協和音の中での練習中、ロバートは精確無比のダニエルに譜面を見ない演奏を提案、「情熱を解き放せ」と指摘しますが、お互いの音楽論は反発のまま。

娘アレクサンドラがダニエルにヴァイオリンの指導を受けるうちに、二人は真剣に愛し合う仲になります。それを母のジュリエットが知ると、娘と母親は激しくぶつかり合い罵り合い、あげくはアレクサンドラが子供の頃からいだいていた母への不平不満をぶちまけます。


ピーターの家での練習中に、娘とダニエルの仲をしった父親のロバートは、ダニエルと楽器や家具を投げ合い掴み合っての大ゲンカ。ダニエルもこの愛は逃したくないと必死に抵抗します。「音楽に敬意を払え」と怒ったピーターはみんなを追い出しました。
しかし、ある日、アレクサンドラは母親のインタヴュー番組を見てその愛情に気づき、ダニエルとの決別を決心します。

最年長のピーターは、いずれは自分が最初にこの楽団を抜けると思っていたのが、現実に自分が抜ける事で起こった破壊状態に、深く傷つき、深く悲しみ、亡き妻の美しいアリアを聴きながらこの現状をみつめます。


演奏会の日、ダニエルは椅子に座ると静かに譜面を閉じました。以前ロバートが指摘していたことです。それを見て、先ずロバートが、そしてジュリエットの閉ざした心が溶け出し、四人の目と心が合い、自然に美しい演奏が始まりました。

演奏が最高頂にさしかかった時に、突然ピーターの手が止まります。そして、静かに立ち上がると、「 休みなく演奏続ける “アタッカ” に、自分はついていけなくなりました。今までありがとう。自分の後はニナ・リーが引き継いでくれます」と、観客の最大の拍手の中で静かに舞台を去っていきました。3人のメンバーにも、もうあわてない音楽家の精神が戻っていました。

交代したニナの素晴らしいチェロで四重奏が続行されていきます。ひずみが生じ始めた《フーガ》は、ピーターが用意した筋書きに沿って、新しいメンバーとのハーモニーの中に25年目の演奏を再出発させたのです。

ストーリーとしてはこんなものですが、その間に入る演奏、アリア、メトロポリタン美術館に出てくる名画、雪景色のセントラルパークなど心にしっかり届くものがあり、実にすばらしい映画でした。

才能あるダニエルがなぜソリストにならなかったのかの問いに、「2,3回リハーサルするだけの仲間でなく、ずっと一緒に音楽を続けていく仲間が欲しかったから」と答えるダニエル。彼のみならず、カルテットを組む音楽家の心のうちを見たようでとても心を打ちました。


ベテラン俳優の楽器の使い方には全く違和感がなく、メロディーと完全に一致していて、さすがアカデミー賞受賞の名優たちといわれる所以です。相当に練習もしたそうです。
しかし、新しいメンバーに加わったニナ・リーは本物のチェリストで、弾きかたが全く違っていました。カメラを意識する俳優と、音を意識する音楽家の違いでしょうか。

 

この日の入場券は、ポイントがたまって「ただ」で入場できました。こんなすばらしい映画に申し訳ない気持ちもありますが、やっぱりタダは嬉しいですね~。

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