合わせ絵のように工夫されたカバーは、上・下を読んでやっと一枚の美しい古代ローマの遺跡の写真になりました。リビアの町から望んだ夏の地中海の写真です。
このように穏やかな海からは想像できないような、800年におよぶ地中海の覇権をめぐって、キリスト教の世界とイスラム世界の対立が書かれています。
下巻の帯には『キリスト教連合 VS 「海賊」率いるトルコ軍』とありますが、大のイタリア好きの塩野さんの思いがよく表れていると思います。トルコのスルタンが認めたトルコ海軍総司令官でさえも、塩野さんによれば「海賊」となってしまいます。
塩野さんは、「二つの文化文明の優劣はさておき、持てる力を最大限に活用して向上しようとした意欲ということなら、中世前期は絶対にイスラム側が優れていた。しかし、それが海賊業に向けられてしまったことが、的にされたキリスト教世界の住人にとっては不幸であった・・・」としています。
「海賊」と決めつけてはいるものの、歴史年表の後方に隠れているようなことでも丹念に資料を調べて書かれているので、世界史で詳しくは学ばなかったイスラムの世界が、自分の中ではどんどん広がりをもってきました。旅行やテレビや本からイスラム世界の優秀さに気づき興味を持ったことは、自分ながら意外なことでした。
本の中の面白い話の一つに、絶頂期のヴェネツィアの貴族の娘チェチリアがトルコの海賊に襲撃され、当然のごとくにハレムに献上されます。その後スルタンセリムの正妃になり、その息子もスルタン、ムラード3世になるというのです。それぞれが一神教をかかげるイスラム圏とキリスト教圏との対立であっても、血ではつながっている・・・、なぜかほっとするひと場面でした。
そのムラード3世がトルコの海軍総司令官に任命したのが、これも元ジェノヴァの市民「シナム・パシャ」です。当時はキリスト教の子供たちが、海賊に拉致されスルタンに献上されて、イスラム教に改宗して、トルコで重要な地位に上っていくことは珍しいことではなかったようです。
スルタンの親衛隊「イエニチェリ軍団」も、支配下のキリスト教国からの選りすぐりを強制的に集めてきて、イスラム教に改宗させ、勇猛な少数精鋭部隊として教育された兵士たちです。こちらは「海賊」とは明らかに異なる正規の誇れる軍団です。
この本では、800年間の地中海を取り巻く、ジェノヴァ、ヴァネツィア、イタリア、ローマ法王庁、スペイン、フランス、神聖ローマ帝国、そしてトルコの横のつながりがわかって、過去に読んだ本の背景としても、遅まきながらうなずけるところも出てきました。
西欧中心の史観に慣れていた私には、イスラムの歴史は新鮮です。イスラムの世界の高度な文明は最近とても気になるところです。イスラムの文明なくしては、ルネサンスもなかった・・・とも聞きました。偏見なく、その歴史に近づいてみたいと思います。
時代の大きな流れを把握されました。なるべくしてなってきた、そうなのでしょうか。
これから読もうとしているところです。
なくてはルネサンスがなかった・・・のですか~~。
知らなかったです。
塩野七生さんの本も読んでみたいですね~~。
コメントは携帯でチェックしておりましたが、返信コメントが
遅くなってしまいました。
>ももりさん
歴史というものは、やはり覇者の歴史になるのですね。
そこを理解していないと、歴史の解釈に大きな過ちが出そうです。
「父が子に・・・」の本はなかなか含蓄に富んでいそうですね。
よく読まれていますね~!
>酒徒善人さん
「サイレント・マイノリティ」をやっと読みました。
表現が難しくて、ちょっと回りくどかった気がします。
それでも、塩野さんが執筆にかかるときの下準備のところは
とても興味深く、なるほどと思うところがたくさんありました。
>浜辺の月さん
そうなんですよ、イスラムの歴史は教科書でもあまり学びませんでした。
最近の報道では暴力やテロばかりが目立ちますが、
旅行をしてもっと別の視点から見る必要があると思いました。
>多摩さん
仕事で行かれているころは、まだイスラムの情報も少なかったのでは
ないでしょうか?
当時出張の話を聞いても、私たちが「常識」だと思っていることが、
まるで通じない世界だと思いました。
でもトルコに行って、モスクから流れるマイクをつかったお祈りの
声もあまり気になりませんでした。
心のどこかにイスラムの宗教を反発せずに受け入れようという思いが
あったのだと思います。