<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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古本バザールで鈴木明著「高砂族に捧げる」というノンフィクションを購入した。
「高砂族」という文字が目にとまり台湾が大のお気に入りの「外国」である私はそのままその本を手に取りレジに足を向けた。

初めて台湾を訪れたのは3年前の2007年。
ちょうど新幹線が板橋を起点に開通してほどなくのことで、私は「あこがれの国」台湾とそこに開通したばかりの日本が誇る新幹線を楽しみに、たった3泊4日の短い旅で訪れたのだった。

新幹線はともかく、台湾のその想像を絶する「外国とは思えない姿」に驚いた。
この国が担ってきた「日本」という遺産の重みをしみじみと感じたのだ。
しみじみと感じるといっても、そこは私のこと。
日本の過去の侵略が残した傷跡、なんて朝日新聞のようなねじ曲がった内容ではない。
よくぞこれだけ古き良き日本の雰囲気と精神面を残してくれていたもんだという感動をしみじみと感じさせてくれる旅だった。

台北の駅前はなんとなく国内で一般的なJRの駅前に似ていた。日本でもお馴染の居酒屋チェーンが看板を出し、百貨店は三越。路地に入るとお好み焼き屋にどら焼、弁当屋を沢山見かけた。
乗り合いバスも右側・左側通行の違いをのぞけばシステムは全く同じ。
食べ物もおいしいし、漢字がちゃんとした字なので迷うことがない。
最も外国を感じさせないものは、どこへ行っても日本語を話せる人が普通にいることで、これには正直びっくりしてしまった。

私は訪台する以前、日本語は山岳の少数原住民族(これが高砂族)と年配者しか話せないのではないかと想像していた。
ところが違った。
普通の若者がごく普通の日本語話すので(もちろん話せない人も多い)外国にいるという感覚をなくしそうになったほどだったのだ。

台湾はそれほど日本にとっては他のどこの国よりも特別な国なのだ。
ただ不孝なことは現代の日本人はそのような意識はほとんど持っておらず、中には「台湾は中国の一部だ」などという誤った認識を持っている人たちさえいる始末だ。

「高砂族に捧げる」は筆者が暖め続けていた台湾原住民に関するレポートを元日本兵中村輝夫氏が発見されたことをきっかけにスタートしたルポルタージュだ。
多くは太平洋戦争に従軍した高砂義勇隊の足跡をたどったレポートになっている。
そこには世間でよく非難されている日本時代の日本人による台湾人への差別や虐待、搾取といったものは書かれていない。
そのような負の遺産はむしろ作り話ではないかと思えるくらい、台湾原住民の日本人に対する感情が愛憎合いまみれていて、読むもの、つまり日本人を考えさせるのだ。

「もっとも記憶に残っているのは基隆でそれまで一緒だった日本人と別れた時のことで..........あの人たちは元気にしているのかな。病気はしていないかな」

という元高砂義勇隊の人たちからのインタビューが私には最も印象的だった。
日本時代の日本人よりも、むしろ1945年8月16日以降現代に至る台湾に対する日本人の態度が不義理でやるせないものに思えてならないからだった。

~「高砂族に捧げる」鈴木明著 中公文庫~


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