残照から夜に語り、晨は

第63話 残照act.3―side story「陽はまた昇る」
洗い髪をかきあげ歩く廊下、行き交う同僚との挨拶はいつものよう明るい。
今日もお疲れさま、そんなごく普通の挨拶だけれど一日の無事がそこには籠る。
自分と同じ山岳救助隊員はもちろん、刑事課の先輩も、警務課も交通課も警備課も互いの無事に笑いあう。
何を話すわけでもない、それでも同じ奥多摩山塊の峻厳に立つ共感はさりげない温もりをくれる。
そんな実感は日常の廊下から見つめられて、穏やかな感懐が心に微笑んだ。
―俺は、ここが家だったな
この十ヵ月前に義絶同然で実家を出た、分籍もして法律上から肉親と別れた。
そして自分で選んだ世界に立ち、最も長く暮らした場所はこの青梅署独身寮だった。
いつも川崎の家に帰ることは懐かしくて楽しみで、周太と周太の母が待つ場所が自分の幸せだと想う。
それでも、あと一週間で離れてしまう今いる場所はきっと、ずっと懐かしく慕わしい「家」の1つになる。
そんな想いと歩いてゆく廊下の見慣れた風景に、そっと英二は心から笑いかけた。
―ありがとう、
微笑んで食堂に入りいつもの席を見ると、予想どおりの二人が座っている。
人の好い笑顔と仏頂面に見えて笑っている顔、ふたつの日焼顔は愉しげに食膳を挟む。
あの笑顔も二十日前は片方違っていた、その懐かしい貌に一週間後また再び隣になれる。
だからもう光一と二十日も会ってない?そんな時間の経過に気がついて英二は首を傾げた。
―どんな気持するんだろう、光一の顔を見たら、
あと十日で第七機動隊に異動する、その時から光一は自分の上司だ。
アンザイレンパートナーであることは変らない、けれど公人としての関係は違う。
上司と部下、そんな立場での再会に自分と光一は何を想うのだろう?
そして始まる9月の1ヶ月間は所属部隊が別でも周太と同僚になる。
きっと、周太と同僚として過ごすことは最初で最後だ。
―この1ヶ月で、どこまで周太のバリケードを作れる?
最初で最後の1ヶ月、この期間が最初で最後のチャンスになる。
あと十日もせず始まりゆく1ヶ月の猶予時間、そこで最も援けてくれるのは間違いなく光一だろう。
唯ひとり帰りたい存在を救いたい、その為に不可欠なパートナーと自分はどれだけの繋がりに結ばれる?
そんな自信が今は正直ない、そんな時なのに駐在所で見てしまった涙は、尚更に不安を起こしてしまう。
―だから俺、美代さんの気持ちを気付きたくなかったんだ、
本音が心こぼれて溜息ついてしまう。
そんな前へ食膳と一緒に馴染みの笑顔が差し出された。
「お帰りなさい、宮田くん。ちょっとお疲れ気味かしらね?」
気さくな笑顔は軽く首傾げながら見上げてくれる。
この調理師とも毎日のよう顔あわせながら世話になってきた、その感謝と英二は微笑んだ。
「ただいまです、俺、疲れてる感じですか?」
「なんか元気ない感じよ、こんなときはシッカリ食べなさいね、」
からっと笑いながら手早く菜箸が動き、小鉢の惣菜が大盛になった。
それから小皿ひとつ追加してくれながら、母と同年配の調理師は微笑んだ。
「酢の物増量に梅干オマケしとくわ、夏場の疲れ気味は酢と梅が一番よ、」
体の回復に役立つ料理の意味を話してくれる、その言葉たちに恋人の笑顔が懐かしい。
よく周太も献立の話をしてくれた、あの穏やかな食膳につける時間は次いつ与えられるのだろう?
いまは見えない幸福の時を想いながら英二は素直な感謝に微笑んだ。
「お気遣いすみません、ありがとうございます、」
「どういたしましてよ、全部きちんと食べてね?体が資本なんだから、」
明るい笑顔から受けとったトレイの温かな湯気は旨そうでいる、それなのに空腹感がよく解からない。
こんな状態なのは美代の涙の所為だろうか?それとも15分前に決まった進路の緊張感だろうか?
そんな思案めぐらせながら食卓の間を歩いて、窓近い指定席の二人に笑いかけた。
「おつかれさまです、遅くなってごめん、」
「おつかれ、宮田。あれ?」
隣から笑ってくれながら、藤岡が軽く首傾げこんだ。
なんだろう?そう目で訊きながら箸を取ると、人の好い貌が笑ってくれた。
「アレだ、国村流に言ったらさ、悩ましい別嬪って顔になってんよ?なんかあった?」
悩ましげ、そんな言葉を藤岡が言うのが可笑しい。
可笑しくて箸を持ったまま笑いだすと、精悍な瞳が意外そうに笑った。
「国村さんってそういうキャラ?」
「そういうキャラだよ、見た目からだと意外ですよね?」
丼飯を抱えながら藤岡が応えてくれる。
その返答にも可笑しくて笑いながら英二は酢の物を口に運んだ。
確かに原にとっては意外すぎるだろうな?そんな納得の隣と前が話し始めた。
「ああ、気さくでも真面目だと思ってた」
「あははっ、確かに真面目なとこもあるけどさ。悪戯大好きってことは知ってます?」
「知らんけど、そうなのか?」
「はい、国村の悪戯の餌食になって無いヤツは青梅署にいないんです、」
箸を運びながら聴く会話に光一の悪戯が懐かしい。
それこそ自分は毎日のよう仕掛けられて、いつも可笑しかった。
そんな光一の悪戯も今、第七機動隊では一種の武器になっている。
From :光一
subject:無題
本 文 :コッチはフェイクで捕物、電話出れなくてゴメンね。俺はちょっと無理だけどさ、隣人は電話するんじゃない?
光一と周太が第七機動隊に異動した五日目の夜「フェイクで捕物」を光一は仕掛けた。
おかげで第七機動隊は盗聴器に対する警戒を強め、ランダムな時間に毎日探索を行っている。
この状況を作りだして第七機動隊舎内では周太を「監視」から晦ますことに光一は成功した。
―あれから周太は電話で名前を呼んでくれる時もある、でも…光一の電話は短くなったのは、
心裡めぐらす現実が密やかに胸を噛む。
光一はもう自分を私人としては必要としない?そんな考えに竦んでしまう。
だから尚更に美代の好意を気づきたくない、美代は光一にとって大切な姉代わりと知っているから触れたくない。
もう自分は「雅樹」に踏みこんで光一を傷つけたと解っている、周太のことも結局は奪ってしまった。
もう、これ以上は光一の大切な存在に触れて壊したくない、光一を孤独に追い込みたくない。
―美代さんのことで光一に嫌われたくないんだ、俺は…やっぱり俺は自分勝手で、残酷だ、
美代は光一の大切な家族、そして周太の大切な友達。
そう解っているから余計に触れたくない、だから美代の好意は気づかないままでいたい。
そう想って今日まで「ただの憧れ」だと片づけてきた、けれど今日の涙から逃げる事は赦されない。
『宮田に惚れてるからだろ?大事な友達なら逃げんなよ、』
そう原に言われて、もう逃げられないと気がついた。
それでも本音の自分は今、余裕なんて無くて美代のことを考える隙が無い。
馨の日記帳と晉の拳銃、周太と2つの家、引継ぎと異動、後藤の体と責務、光一の補佐と登山計画。
そこに30分前から救急救命士の件まで加わった、こんなに公私とも熟考が求められる今は時間が足りない。
―それでも逃げる訳にいかないよな、そう解ってるけど、
情けないけど弱音が苦しくなる、だから食欲も感じられないのだろう。
それでも逡巡ごと箸を運び口を動かす、その味もいつものようには旨くない。
でも食べなければ体から保たない、そんな想いごと何とか膳を腹に納めて箸を置いた。
「おまたせ、行こうか?」
既に食べ終えている2人に笑いかけて立ち上がる。
一緒に立ってくれながら、精悍な瞳が膳と英二を見比べて低い声が尋ねた。
「飯、一杯しか食ってないな?」
「酒の前ですから、」
さらり笑って返答に言い訳してしまう。
いつも酒の前だろうが飯はきちんと食べたい方だ、けれど今日は欲しくない。
そんな想いごと下膳口にトレイを戻すと廊下を歩きはじめた。
「屋上、誰かの部屋、どっかの店。どれにする?」
陽気な声が提案してくれる、そのトーンも人好い笑顔も「酒だ」と笑っている。
明るい酒の同期に和まされて微笑んだ隣、日焼顔が愉しげに唇の端あげた。
「地元の酒あるけど?」
「飲みたい!」
藤岡の即答で、店呑みは却下になった。
そのまま持ちよりで屋上に車座組むと、LEDランタンと星明りで乾杯した。
山で使うチタン製のマグカップから酒は香る、その豊潤な風味に英二は微笑んだ。
「すごく良い香しますね、地元の酒ってことは静岡の?」
「ああ、静岡は酒処なんだ、」
頷いてくれる日焼顔が和んでほころぶ。
その横で満足げな笑顔が愉しげに訊いてきた。
「宮田、何か悩ましげだけどさ、今日なんかあった?話すの嫌なら別に良いけど、」
今日は色々とありすぎだ。
そんな今日の中でも話せることに英二は口を開いた。
「今日から町の人にも異動のこと、話して良いって岩崎さんから言われたんだ。あと俺、救急救命士になる話を頂いたんだよ、」
あと本当は美代のことがある、けれど藤岡にも言い難い。
原は現場を目撃しているから話した、でも他には言えないと想ってしまう。
美代の負けず嫌いな勝気は涙を見せたがらない、だから泣いた事実を言われることは嫌いだろう。
そんな想いに口噤むことを決めて微笑んだ英二に、人の好い同期は嬉しそうに言ってくれた。
「へえ、すごいなあ、宮田。ソレって公式の話で来たんだろ、後藤さんからの話ってこと?」
「ああ、全国の警察で山岳救助隊に救急救命士を育てるんだけど、まだ試験段階なんだ。今回の成果次第で継続するか決めるらしい、」
「それで警視庁のテスト生は宮田ってことか、選ばれるなんて凄いなあ。がんばれよっ、」
素直な賞賛に同期で同僚の男は笑ってくれる、その笑顔は明朗に温かい。
こういう率直さが藤岡は良い所だ、嬉しくて微笑んだ前から原が訊いた。
「公費で学校に通うってことか?」
「はい、七機で勤務しながら夜学に通います。来年4月から2年間の予定です、入学許可が下りたらですけど、」
10月一日に願書提出をして通れば本決まりになる、そうすれば2年間は忙しいだろう。
だから出来得ることなら「50年の連鎖」から周太を絶つチャンスが3月までに欲しい。
そんな思案を隠して微笑んだ手許のマグカップに、原は一升瓶を傾けてくれた。
「宮田なら大丈夫だ、」
いつもどおり短い言葉、でも日焼顔は信頼に笑ってくれる。
チタンのカップで酒は表面張力に堪えだす、その満水に藤岡が笑いだした。
「すげえ、きっちり一杯に注げてる。原さんって酒は器用なんだ?」
「まあな、」
精悍な瞳ほころばせ、逞しい手は藤岡のカップにも酒を注いだ。
車座の3つ全てのカップが充たされて、酒の水鏡は天穹の星きらめかす。
その光に黄昏の涙を見て、思わずため息吐いた横から藤岡が訊いてくれた。
「宮田、さっきから溜息やたら多いけどさ?異動のことを町の人に話すの、やっぱ寂しい?」
「うん?まあ、そうだな、」
図星の近くを言われて微笑んで、その笑みがほろ苦い。
こんな自分をもてあましながら酒を啜りこむ、同じよう酒ひとくち飲んで人好い笑顔が言った。
「宮田の場合さ、秀介と美代ちゃんには泣かれそうだもんなあ?あの二人に話すのって覚悟が、うわっ?」
だから図星を突くなよ藤岡?
そう言いたい本音が酒と一緒に噴き出されて、LEDランタンの前が酒浸しになった。
途端に甘く芳香が充ちた屋上の空間に、英二は盛大に噎せこんだ。
「ぐぉっほ、ごほっ、原さ、ごほっすみませ、ごほほんっ、」
原のLED灯なのに酒を噴きかけてしまった、この失態に困ってしまう。
そんな隣からランタンに手を伸ばしながら、精悍な瞳が笑い声を噴いた。
「ふはっ、あははっ!あんたホント噎せるよなあ、あははっ、」
「すみませ、ごほんっ、らんたん濡れ、けほっ、ごほほんっ、」
「気にするな、防水仕様だし今は濡れてない、」
笑いながら原はランタンを確認してくれる。
その言葉に安心しながら酒を呑みこんで、なんとか噎せが治まった。
ほっとして息ついた手許に一升瓶が傾けられる、ゆっくり一杯が充ちると藤岡が訊いてきた。
「あのさ、もしかして既に泣かれたとか?それで宮田、ため息吐いて凹んでる?」
もうバレてるんだな?
そう諦観が笑いながら英二は酒に口付けた。
それなら藤岡に相談も良いのかもしれない、けれど素面では話し難い。
―恋愛沙汰を話すのに酒の力を借りるなんて、らしくないな?
いつも女性関係を話すのに素面も酔いも関係なかった。
元から深酒に酔うこと自体滅多に無いから、呑んでも素面と大差ない。
それでも今はどういうわけか「酒でも呑まないとやってられない」というヤツらしい?
こんな自分がなんだか可笑しくて、笑って英二は白状した。
「秀介にはまだ言えてない。でも美代さんには泣かれたんだ、原さんも目撃してるよ、」
事実だけを正直に告げてマグカップに口付ける。
チタンふれた唇から芳香ふくんで喉おりてゆく、その通り道が温まる。
ふわり吐息に酒を感じながら、少し心軽くなったことに英二は微笑んだ。
―口から出しただけで楽になるって、あるんだな、
口から出せない、そんな時間に馴れっこになっている?
そう気がついて数えた時間は1年に満たなくて、そして抱いている秘密の最初を思い出す。
もし馨の日記帳を見つけていなかったら違う今だった、そんな思案に傾きかけたとき同期が口を開いた。
「やっぱり泣かれちゃったんだなあ?美代ちゃん惚れてるもんな、で、どうした?」
藤岡から見ても解かるらしい、そう知らされてまた逃げ道が絶たれてしまう。
こんな袋小路の気分は初めてだ?この初体験に困りながら英二は微笑んだ。
「泣いてる美代さんが出て行くのを見送っただけだ。どうして良いのか俺、今ほんとに解らない、」
「そっか、宮田でも解らないことあるんだな、」
人の好い笑顔は軽く首傾げてマグカップに口付けた。
酒を啜りながら考えるようランタンを見ている、その隣で原が片胡坐に頬杖ついた。
精悍な瞳も灯を映したままで、大きな手のマグカップを膝元に置くと低い声が微笑んだ。
「このままでいいだろ、」
「え、」
声に視線を向けた先、日焼顔がランタンに笑ってくれる。
すこし困ったような照れくさいような笑顔は英二を見、原は言ってくれた。
「惚れられたからって態度変えんなよ、大事な友達なんだろ?今まで通り友達で大切にすればいい、」
ずっと「大事な友達」で大切にすればいい。
それはごくシンプルなことだろう、けれど納得が肚に落ちてくる。
今、途惑うまま「美代」がどんな存在なのか見えなくなって、重荷にしかけていた。
どこか美代を責めたい気持すら起こしかけていた、そんな不甲斐なさに英二は笑った。
「俺が態度変えそうだなって、解かりました?」
「まあな、」
頬杖のまま頷いて精悍な瞳が笑う、その表情が温かい。
こんなふう話せるようになると20日前には思っていなかった、こんな予想外は嬉しい。
そしてもう一つ予想外なことに気がついて、英二は質問と笑いかけた。
「原さんって、告白されたこと何回あるんですか?」
問いかけに、ランタンの車座で空気が止まる。
凛々しい眉顰めた原の顔は仏頂面が蔽いだす、その瞳が返答に詰まる。
このまま黙秘されてしまう?そんな空気に人の好い笑顔で藤岡が乗っかった。
「1回って事は無いですよね、今のアドバイスも経験者って感じだしさ?結構モテるんですね、原さんって、」
「…結構、で悪かったな、」
ぼそっと低い声が言って唇の端上げて笑う。
いつも寡黙なだけに原はちょっとした笑顔が際だちやすい、そういう所もある意味で得している?
この先輩の口を割らせてみたくなって英二は一升瓶を持つと、原のマグカップを表面張力まで満たした。
「原さんって口数少なくてミステリアスな雰囲気ありますよね、なんか受身だし、小さい頃からコアなファンがいそうです、」
一升瓶を置きながら笑いかけた先、仏頂面がまた笑顔に近づく。
満水のカップから酒を啜りこんで、低い声が可笑しそうに訊いてくれた。
「受身でコアって俺はマニア向けか?」
マニアって凄い表現だな?
そんな言葉に笑わされながら英二は率直に答えた。
「正直なとこ、センターでモテるってタイプじゃないですよね?」
「まあな、」
短い言葉で頷いて精悍な瞳が笑う。
自分でも解かってるけど?そう言いたげな笑顔の隣から藤岡が、からり言った。
「あ、それって解るな?戦隊ものならアウトサイドのブラックか、訳アリで味方になる悪役って感じだよな、」
―戦隊ものに悪役って、どうよ?
しかも「訳アリ」って限定が面白い、けれど納得してしまう。
そんな心の声のまま英二は笑いだした。
「藤岡、その表現で言ったら藤岡は何になる?」
「俺はイエローとかじゃない?三枚目ってヤツな、」
さらっと自分を三枚目限定して人好い貌が笑う。
こういう所が藤岡は良い、この陽気な同期に原も愛嬌の笑顔ほころばせた。
「俺がマニア向けのブラックで藤岡が三枚目のイエローなら、宮田はレッドか?」
「そうそう、熱血王子なイケメンセンターのレッド。またはラスボスとかさ、超カッコいい最強悪役っているじゃないですか?アレで、」
センターか最強悪役って両極端だな?
そんな感想が自分ごとなのに可笑しくて噎せそうで酒を飲めない。
ただ笑っているその車座で、藤岡と原の掛け合いが始まった。
「それだと副隊長はやっぱり隊長か?」
「あははっ、まんま適役っすよね。で、国村はブルーで美形の飄々キャラです、」
「なるほどな、確かに国村さんは綺麗だよな、」
「でしょ?脱ぐともっと綺麗ですよ、筋肉の付き方も完璧でさ、」
「脱ぐとって…その表現ちょっとどうなんだ?」
二人の会話を肴に笑い堪えて酒を呑む。
この二人も最初は全て正反対で噛みあうのか疑問だった、けれど今は良いコンビだ?
そんな想いと笑って見上げた先、銀砂はるかな河を夜空きらめかす。
―この空も、あと一週間で遠くなる、
十ヵ月間の日常だった奥多摩の空は、今夜も星に輝く。
この空を望郷に自分は想うだろう、そのとき今この瞬間もきっと懐かしい。

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第63話 残照act.3―side story「陽はまた昇る」
洗い髪をかきあげ歩く廊下、行き交う同僚との挨拶はいつものよう明るい。
今日もお疲れさま、そんなごく普通の挨拶だけれど一日の無事がそこには籠る。
自分と同じ山岳救助隊員はもちろん、刑事課の先輩も、警務課も交通課も警備課も互いの無事に笑いあう。
何を話すわけでもない、それでも同じ奥多摩山塊の峻厳に立つ共感はさりげない温もりをくれる。
そんな実感は日常の廊下から見つめられて、穏やかな感懐が心に微笑んだ。
―俺は、ここが家だったな
この十ヵ月前に義絶同然で実家を出た、分籍もして法律上から肉親と別れた。
そして自分で選んだ世界に立ち、最も長く暮らした場所はこの青梅署独身寮だった。
いつも川崎の家に帰ることは懐かしくて楽しみで、周太と周太の母が待つ場所が自分の幸せだと想う。
それでも、あと一週間で離れてしまう今いる場所はきっと、ずっと懐かしく慕わしい「家」の1つになる。
そんな想いと歩いてゆく廊下の見慣れた風景に、そっと英二は心から笑いかけた。
―ありがとう、
微笑んで食堂に入りいつもの席を見ると、予想どおりの二人が座っている。
人の好い笑顔と仏頂面に見えて笑っている顔、ふたつの日焼顔は愉しげに食膳を挟む。
あの笑顔も二十日前は片方違っていた、その懐かしい貌に一週間後また再び隣になれる。
だからもう光一と二十日も会ってない?そんな時間の経過に気がついて英二は首を傾げた。
―どんな気持するんだろう、光一の顔を見たら、
あと十日で第七機動隊に異動する、その時から光一は自分の上司だ。
アンザイレンパートナーであることは変らない、けれど公人としての関係は違う。
上司と部下、そんな立場での再会に自分と光一は何を想うのだろう?
そして始まる9月の1ヶ月間は所属部隊が別でも周太と同僚になる。
きっと、周太と同僚として過ごすことは最初で最後だ。
―この1ヶ月で、どこまで周太のバリケードを作れる?
最初で最後の1ヶ月、この期間が最初で最後のチャンスになる。
あと十日もせず始まりゆく1ヶ月の猶予時間、そこで最も援けてくれるのは間違いなく光一だろう。
唯ひとり帰りたい存在を救いたい、その為に不可欠なパートナーと自分はどれだけの繋がりに結ばれる?
そんな自信が今は正直ない、そんな時なのに駐在所で見てしまった涙は、尚更に不安を起こしてしまう。
―だから俺、美代さんの気持ちを気付きたくなかったんだ、
本音が心こぼれて溜息ついてしまう。
そんな前へ食膳と一緒に馴染みの笑顔が差し出された。
「お帰りなさい、宮田くん。ちょっとお疲れ気味かしらね?」
気さくな笑顔は軽く首傾げながら見上げてくれる。
この調理師とも毎日のよう顔あわせながら世話になってきた、その感謝と英二は微笑んだ。
「ただいまです、俺、疲れてる感じですか?」
「なんか元気ない感じよ、こんなときはシッカリ食べなさいね、」
からっと笑いながら手早く菜箸が動き、小鉢の惣菜が大盛になった。
それから小皿ひとつ追加してくれながら、母と同年配の調理師は微笑んだ。
「酢の物増量に梅干オマケしとくわ、夏場の疲れ気味は酢と梅が一番よ、」
体の回復に役立つ料理の意味を話してくれる、その言葉たちに恋人の笑顔が懐かしい。
よく周太も献立の話をしてくれた、あの穏やかな食膳につける時間は次いつ与えられるのだろう?
いまは見えない幸福の時を想いながら英二は素直な感謝に微笑んだ。
「お気遣いすみません、ありがとうございます、」
「どういたしましてよ、全部きちんと食べてね?体が資本なんだから、」
明るい笑顔から受けとったトレイの温かな湯気は旨そうでいる、それなのに空腹感がよく解からない。
こんな状態なのは美代の涙の所為だろうか?それとも15分前に決まった進路の緊張感だろうか?
そんな思案めぐらせながら食卓の間を歩いて、窓近い指定席の二人に笑いかけた。
「おつかれさまです、遅くなってごめん、」
「おつかれ、宮田。あれ?」
隣から笑ってくれながら、藤岡が軽く首傾げこんだ。
なんだろう?そう目で訊きながら箸を取ると、人の好い貌が笑ってくれた。
「アレだ、国村流に言ったらさ、悩ましい別嬪って顔になってんよ?なんかあった?」
悩ましげ、そんな言葉を藤岡が言うのが可笑しい。
可笑しくて箸を持ったまま笑いだすと、精悍な瞳が意外そうに笑った。
「国村さんってそういうキャラ?」
「そういうキャラだよ、見た目からだと意外ですよね?」
丼飯を抱えながら藤岡が応えてくれる。
その返答にも可笑しくて笑いながら英二は酢の物を口に運んだ。
確かに原にとっては意外すぎるだろうな?そんな納得の隣と前が話し始めた。
「ああ、気さくでも真面目だと思ってた」
「あははっ、確かに真面目なとこもあるけどさ。悪戯大好きってことは知ってます?」
「知らんけど、そうなのか?」
「はい、国村の悪戯の餌食になって無いヤツは青梅署にいないんです、」
箸を運びながら聴く会話に光一の悪戯が懐かしい。
それこそ自分は毎日のよう仕掛けられて、いつも可笑しかった。
そんな光一の悪戯も今、第七機動隊では一種の武器になっている。
From :光一
subject:無題
本 文 :コッチはフェイクで捕物、電話出れなくてゴメンね。俺はちょっと無理だけどさ、隣人は電話するんじゃない?
光一と周太が第七機動隊に異動した五日目の夜「フェイクで捕物」を光一は仕掛けた。
おかげで第七機動隊は盗聴器に対する警戒を強め、ランダムな時間に毎日探索を行っている。
この状況を作りだして第七機動隊舎内では周太を「監視」から晦ますことに光一は成功した。
―あれから周太は電話で名前を呼んでくれる時もある、でも…光一の電話は短くなったのは、
心裡めぐらす現実が密やかに胸を噛む。
光一はもう自分を私人としては必要としない?そんな考えに竦んでしまう。
だから尚更に美代の好意を気づきたくない、美代は光一にとって大切な姉代わりと知っているから触れたくない。
もう自分は「雅樹」に踏みこんで光一を傷つけたと解っている、周太のことも結局は奪ってしまった。
もう、これ以上は光一の大切な存在に触れて壊したくない、光一を孤独に追い込みたくない。
―美代さんのことで光一に嫌われたくないんだ、俺は…やっぱり俺は自分勝手で、残酷だ、
美代は光一の大切な家族、そして周太の大切な友達。
そう解っているから余計に触れたくない、だから美代の好意は気づかないままでいたい。
そう想って今日まで「ただの憧れ」だと片づけてきた、けれど今日の涙から逃げる事は赦されない。
『宮田に惚れてるからだろ?大事な友達なら逃げんなよ、』
そう原に言われて、もう逃げられないと気がついた。
それでも本音の自分は今、余裕なんて無くて美代のことを考える隙が無い。
馨の日記帳と晉の拳銃、周太と2つの家、引継ぎと異動、後藤の体と責務、光一の補佐と登山計画。
そこに30分前から救急救命士の件まで加わった、こんなに公私とも熟考が求められる今は時間が足りない。
―それでも逃げる訳にいかないよな、そう解ってるけど、
情けないけど弱音が苦しくなる、だから食欲も感じられないのだろう。
それでも逡巡ごと箸を運び口を動かす、その味もいつものようには旨くない。
でも食べなければ体から保たない、そんな想いごと何とか膳を腹に納めて箸を置いた。
「おまたせ、行こうか?」
既に食べ終えている2人に笑いかけて立ち上がる。
一緒に立ってくれながら、精悍な瞳が膳と英二を見比べて低い声が尋ねた。
「飯、一杯しか食ってないな?」
「酒の前ですから、」
さらり笑って返答に言い訳してしまう。
いつも酒の前だろうが飯はきちんと食べたい方だ、けれど今日は欲しくない。
そんな想いごと下膳口にトレイを戻すと廊下を歩きはじめた。
「屋上、誰かの部屋、どっかの店。どれにする?」
陽気な声が提案してくれる、そのトーンも人好い笑顔も「酒だ」と笑っている。
明るい酒の同期に和まされて微笑んだ隣、日焼顔が愉しげに唇の端あげた。
「地元の酒あるけど?」
「飲みたい!」
藤岡の即答で、店呑みは却下になった。
そのまま持ちよりで屋上に車座組むと、LEDランタンと星明りで乾杯した。
山で使うチタン製のマグカップから酒は香る、その豊潤な風味に英二は微笑んだ。
「すごく良い香しますね、地元の酒ってことは静岡の?」
「ああ、静岡は酒処なんだ、」
頷いてくれる日焼顔が和んでほころぶ。
その横で満足げな笑顔が愉しげに訊いてきた。
「宮田、何か悩ましげだけどさ、今日なんかあった?話すの嫌なら別に良いけど、」
今日は色々とありすぎだ。
そんな今日の中でも話せることに英二は口を開いた。
「今日から町の人にも異動のこと、話して良いって岩崎さんから言われたんだ。あと俺、救急救命士になる話を頂いたんだよ、」
あと本当は美代のことがある、けれど藤岡にも言い難い。
原は現場を目撃しているから話した、でも他には言えないと想ってしまう。
美代の負けず嫌いな勝気は涙を見せたがらない、だから泣いた事実を言われることは嫌いだろう。
そんな想いに口噤むことを決めて微笑んだ英二に、人の好い同期は嬉しそうに言ってくれた。
「へえ、すごいなあ、宮田。ソレって公式の話で来たんだろ、後藤さんからの話ってこと?」
「ああ、全国の警察で山岳救助隊に救急救命士を育てるんだけど、まだ試験段階なんだ。今回の成果次第で継続するか決めるらしい、」
「それで警視庁のテスト生は宮田ってことか、選ばれるなんて凄いなあ。がんばれよっ、」
素直な賞賛に同期で同僚の男は笑ってくれる、その笑顔は明朗に温かい。
こういう率直さが藤岡は良い所だ、嬉しくて微笑んだ前から原が訊いた。
「公費で学校に通うってことか?」
「はい、七機で勤務しながら夜学に通います。来年4月から2年間の予定です、入学許可が下りたらですけど、」
10月一日に願書提出をして通れば本決まりになる、そうすれば2年間は忙しいだろう。
だから出来得ることなら「50年の連鎖」から周太を絶つチャンスが3月までに欲しい。
そんな思案を隠して微笑んだ手許のマグカップに、原は一升瓶を傾けてくれた。
「宮田なら大丈夫だ、」
いつもどおり短い言葉、でも日焼顔は信頼に笑ってくれる。
チタンのカップで酒は表面張力に堪えだす、その満水に藤岡が笑いだした。
「すげえ、きっちり一杯に注げてる。原さんって酒は器用なんだ?」
「まあな、」
精悍な瞳ほころばせ、逞しい手は藤岡のカップにも酒を注いだ。
車座の3つ全てのカップが充たされて、酒の水鏡は天穹の星きらめかす。
その光に黄昏の涙を見て、思わずため息吐いた横から藤岡が訊いてくれた。
「宮田、さっきから溜息やたら多いけどさ?異動のことを町の人に話すの、やっぱ寂しい?」
「うん?まあ、そうだな、」
図星の近くを言われて微笑んで、その笑みがほろ苦い。
こんな自分をもてあましながら酒を啜りこむ、同じよう酒ひとくち飲んで人好い笑顔が言った。
「宮田の場合さ、秀介と美代ちゃんには泣かれそうだもんなあ?あの二人に話すのって覚悟が、うわっ?」
だから図星を突くなよ藤岡?
そう言いたい本音が酒と一緒に噴き出されて、LEDランタンの前が酒浸しになった。
途端に甘く芳香が充ちた屋上の空間に、英二は盛大に噎せこんだ。
「ぐぉっほ、ごほっ、原さ、ごほっすみませ、ごほほんっ、」
原のLED灯なのに酒を噴きかけてしまった、この失態に困ってしまう。
そんな隣からランタンに手を伸ばしながら、精悍な瞳が笑い声を噴いた。
「ふはっ、あははっ!あんたホント噎せるよなあ、あははっ、」
「すみませ、ごほんっ、らんたん濡れ、けほっ、ごほほんっ、」
「気にするな、防水仕様だし今は濡れてない、」
笑いながら原はランタンを確認してくれる。
その言葉に安心しながら酒を呑みこんで、なんとか噎せが治まった。
ほっとして息ついた手許に一升瓶が傾けられる、ゆっくり一杯が充ちると藤岡が訊いてきた。
「あのさ、もしかして既に泣かれたとか?それで宮田、ため息吐いて凹んでる?」
もうバレてるんだな?
そう諦観が笑いながら英二は酒に口付けた。
それなら藤岡に相談も良いのかもしれない、けれど素面では話し難い。
―恋愛沙汰を話すのに酒の力を借りるなんて、らしくないな?
いつも女性関係を話すのに素面も酔いも関係なかった。
元から深酒に酔うこと自体滅多に無いから、呑んでも素面と大差ない。
それでも今はどういうわけか「酒でも呑まないとやってられない」というヤツらしい?
こんな自分がなんだか可笑しくて、笑って英二は白状した。
「秀介にはまだ言えてない。でも美代さんには泣かれたんだ、原さんも目撃してるよ、」
事実だけを正直に告げてマグカップに口付ける。
チタンふれた唇から芳香ふくんで喉おりてゆく、その通り道が温まる。
ふわり吐息に酒を感じながら、少し心軽くなったことに英二は微笑んだ。
―口から出しただけで楽になるって、あるんだな、
口から出せない、そんな時間に馴れっこになっている?
そう気がついて数えた時間は1年に満たなくて、そして抱いている秘密の最初を思い出す。
もし馨の日記帳を見つけていなかったら違う今だった、そんな思案に傾きかけたとき同期が口を開いた。
「やっぱり泣かれちゃったんだなあ?美代ちゃん惚れてるもんな、で、どうした?」
藤岡から見ても解かるらしい、そう知らされてまた逃げ道が絶たれてしまう。
こんな袋小路の気分は初めてだ?この初体験に困りながら英二は微笑んだ。
「泣いてる美代さんが出て行くのを見送っただけだ。どうして良いのか俺、今ほんとに解らない、」
「そっか、宮田でも解らないことあるんだな、」
人の好い笑顔は軽く首傾げてマグカップに口付けた。
酒を啜りながら考えるようランタンを見ている、その隣で原が片胡坐に頬杖ついた。
精悍な瞳も灯を映したままで、大きな手のマグカップを膝元に置くと低い声が微笑んだ。
「このままでいいだろ、」
「え、」
声に視線を向けた先、日焼顔がランタンに笑ってくれる。
すこし困ったような照れくさいような笑顔は英二を見、原は言ってくれた。
「惚れられたからって態度変えんなよ、大事な友達なんだろ?今まで通り友達で大切にすればいい、」
ずっと「大事な友達」で大切にすればいい。
それはごくシンプルなことだろう、けれど納得が肚に落ちてくる。
今、途惑うまま「美代」がどんな存在なのか見えなくなって、重荷にしかけていた。
どこか美代を責めたい気持すら起こしかけていた、そんな不甲斐なさに英二は笑った。
「俺が態度変えそうだなって、解かりました?」
「まあな、」
頬杖のまま頷いて精悍な瞳が笑う、その表情が温かい。
こんなふう話せるようになると20日前には思っていなかった、こんな予想外は嬉しい。
そしてもう一つ予想外なことに気がついて、英二は質問と笑いかけた。
「原さんって、告白されたこと何回あるんですか?」
問いかけに、ランタンの車座で空気が止まる。
凛々しい眉顰めた原の顔は仏頂面が蔽いだす、その瞳が返答に詰まる。
このまま黙秘されてしまう?そんな空気に人の好い笑顔で藤岡が乗っかった。
「1回って事は無いですよね、今のアドバイスも経験者って感じだしさ?結構モテるんですね、原さんって、」
「…結構、で悪かったな、」
ぼそっと低い声が言って唇の端上げて笑う。
いつも寡黙なだけに原はちょっとした笑顔が際だちやすい、そういう所もある意味で得している?
この先輩の口を割らせてみたくなって英二は一升瓶を持つと、原のマグカップを表面張力まで満たした。
「原さんって口数少なくてミステリアスな雰囲気ありますよね、なんか受身だし、小さい頃からコアなファンがいそうです、」
一升瓶を置きながら笑いかけた先、仏頂面がまた笑顔に近づく。
満水のカップから酒を啜りこんで、低い声が可笑しそうに訊いてくれた。
「受身でコアって俺はマニア向けか?」
マニアって凄い表現だな?
そんな言葉に笑わされながら英二は率直に答えた。
「正直なとこ、センターでモテるってタイプじゃないですよね?」
「まあな、」
短い言葉で頷いて精悍な瞳が笑う。
自分でも解かってるけど?そう言いたげな笑顔の隣から藤岡が、からり言った。
「あ、それって解るな?戦隊ものならアウトサイドのブラックか、訳アリで味方になる悪役って感じだよな、」
―戦隊ものに悪役って、どうよ?
しかも「訳アリ」って限定が面白い、けれど納得してしまう。
そんな心の声のまま英二は笑いだした。
「藤岡、その表現で言ったら藤岡は何になる?」
「俺はイエローとかじゃない?三枚目ってヤツな、」
さらっと自分を三枚目限定して人好い貌が笑う。
こういう所が藤岡は良い、この陽気な同期に原も愛嬌の笑顔ほころばせた。
「俺がマニア向けのブラックで藤岡が三枚目のイエローなら、宮田はレッドか?」
「そうそう、熱血王子なイケメンセンターのレッド。またはラスボスとかさ、超カッコいい最強悪役っているじゃないですか?アレで、」
センターか最強悪役って両極端だな?
そんな感想が自分ごとなのに可笑しくて噎せそうで酒を飲めない。
ただ笑っているその車座で、藤岡と原の掛け合いが始まった。
「それだと副隊長はやっぱり隊長か?」
「あははっ、まんま適役っすよね。で、国村はブルーで美形の飄々キャラです、」
「なるほどな、確かに国村さんは綺麗だよな、」
「でしょ?脱ぐともっと綺麗ですよ、筋肉の付き方も完璧でさ、」
「脱ぐとって…その表現ちょっとどうなんだ?」
二人の会話を肴に笑い堪えて酒を呑む。
この二人も最初は全て正反対で噛みあうのか疑問だった、けれど今は良いコンビだ?
そんな想いと笑って見上げた先、銀砂はるかな河を夜空きらめかす。
―この空も、あと一週間で遠くなる、
十ヵ月間の日常だった奥多摩の空は、今夜も星に輝く。
この空を望郷に自分は想うだろう、そのとき今この瞬間もきっと懐かしい。

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