低気圧と神経痛、高気圧と筋スパズム:後編

2016年08月31日 | 治療の話

さて、前編では「低気圧と神経痛」の関係性について触れました。

後編では「高気圧と筋スパズム」の関係性について触れたいと思います。

ただし、ここで語られるのはあくまでも私の臨床を通じて行き着いた推論、

つまり仮説であることを踏まえたうえでお読みください。

 

まず前提条件として、僕らの関節の中は体外の気圧よりも低く保たれているという事実。

そうすることで、関節する骨同士は吸盤のように引き合う力が働いて、安定することができるんですね。

ヒトの身体ってホントよくできてます。

 

でも、気圧が低くなると関節内の圧力との差がなくなってきますから関節の安定性も低くなってしまいます。

これも通常の関節だったら問題ないのですが、機能障害を持つようなガタついた関節にとっては一大事。

気圧の低下に伴って関節の不安定性が強まった分、周辺の筋肉の緊張を高めることで関節する骨同士を引き寄せ、安定性を保とうとします。

この時、関節の安定化に関与する関節周囲筋(スタビライザーやインナーマッスルと表現されたりもします)の内包する筋紡錘は感度を高め敏感になります。

そうなると伸張反射がより感度良く現れるため、関節が不用意にグラつくことを抑えるのに役立つわけです。

ヒトの身体ってホントよくできてます。

 

しかし、そんな状態が続いたあとで低気圧が過ぎ去って気圧が高くなるとどうなるでしょうね⁉

関節内外の気圧の差を取り戻し、関節する骨同士を引き合う力を取り戻しますから関節は安定します。

良かったね!めでたしめでたし!!

ではないんです。

この時、陰圧によって安定性を取り戻した関節の距離は近くなっています。

すると、関節周囲の安定化筋もより短い状態でバランスすることになります。

筋肉は短縮域で(弛緩させた位置関係で)働かせると、筋紡錘の感度が過剰に高まって痙攣をおこしやすくなるんです。

低気圧から高気圧に転じることで、雨模様の間に感度を高めた筋紡錘に輪をかけて感度を高める条件がそろいます。

そんな状態で急に姿勢を変えたりすると、

引き伸ばされた筋膜に内包される筋紡錘は過激に反応し痙攣をおこすことになります。

それが腰に生じれば「ぎっくり腰(急性腰痛)」、首に起これば「寝違え(急性斜頚)」の出来上がりです。

さあ、何が言いたいのかわかりましたでしょうか⁉

そう!台風が去ったあと、ぎっくり腰や寝違えに気を付けましょう!!ということです。

なってしまったら…

ご来院、お待ち申し上げます。(;^ω^)


低気圧と神経痛、高気圧と筋スパズム:前編

2016年08月24日 | 治療の話

このところ神経痛の相談が増えていますねぇ。(*_*;

脚がしびれる、腕がしびれる、頭が痛いetc

いつもは筋膜由来の障害がほとんどなのに、ここしばらくは末梢神経に由来する本当の「シビレ」の相談が続いています。

どの方も雨降り前から痛み出し、晴れ間に入ると症状が消失もしくは軽減していましたので、

原因はおそらく天気、低気圧。

その仕組みに関する仮説を解説してみようと思います。

 

まず、気圧が低くなると身体全体が細胞レベルで膨張します。

すると神経が通り抜けている「体の中の隙間」も狭くなります。

普通の状態なら問題は起こりませんが、普段から神経線維が圧迫を受けていて、

かつ多少のダメージを抱えていると、このちょっとした変化にやられてしまうようです。

こう書くと「晴れたら一件落着⁉」と思われるでしょうが、

気圧が高くなると今度は痙攣による故障が増えるから面白い。(当事者にとっては面白くないことですが…)

理由は気圧による関節の安定性の変化にあると考えられます。

 

むむ…

もう結構な時間ですね…

かえって発泡酒のまなきゃ(*´Д`)

続きは後日!

see you soon!

<つづく>


運動療法としての「ウエイトトレーニング」=ストリクトムーブメントによる関節の動的安定性の獲得=

2016年07月19日 | 治療の話

今回は7/16の記事の補足として動画を作ってみました。

と、その前に前回の記事のおさらいをしましょう。

「ストリクト」な運動の治療的な意義~シェアリングという異常運動への対処~では

・関節機能障害が退行変性(関節の変形)に進展する背景に関節のシェアリング(ズレ運動)がある。
・関節に生じた疼痛への対処として、即時的効果ではなく長期的な効果を見据えた場合、障害関節の骨運動に際して生じてしまうシェアリングを抑止し関節回転中心を動的に安定させるための方策が必須である。

・具体的な手法として「ストリクト」に行われるリフティング動作があげられる。

といったことをお話ししました。

記事では「パワーリフティング」の競技種目:デッドリフト/バックスクワット/ベンチプレスを例に挙げました。

でも、「関節のシェアリングを起こさないようにコントロールする」というルールにのっとっていればどんな動作でも大丈夫です。

ただし、その良し悪しの判断が一般的には難しいので、「その道のプロの手を借りるようにね!」といった落ちを付けたわけです。

動画では肩関節の故障の回復期を想定した方法として、

ウエイトリフティングのスナッチを利用した方法を紹介してみました。

どの運動も「シェアリング」を止める目的で行うには、一連の動作を通じて関節のシェアリングが生じずにコントロールしきれる程度の軽い負荷(手ごたえを感じないほどの軽い負荷はNG)を選ぶことが条件です。

なんでデッドリフト/バックスクワット/ベンチプレスにしなかったのかというと、

私の持っている動画の中でストリクトにやっているケースととクイックな動作で行っているケースの対比ができるものが無かったというのもあるのですが、

肩関節から首の故障までをカバーするには紹介した動画が最適だったというところもあったからなんです。

例えば紹介した動画の動作による効果には「肩関節の動的安定性の向上」に加え「胸郭の伸展性の向上」が見込めます。
頚椎症などは胸(背中)が丸まって首だけにテコがかかり続けることで起こりますから、胸が開くという効果からは頚椎症のような首の故障の運動療法としても有効なんです。

こんな感じでウエイトリフティングやパワーリフティングといったウエイトを利用したトレーニングには治療に使えるエクササイズがいっぱいあります。

キチンとしたフォームを目指して積んでゆけば!の但し書きが付きますが、ウエイトトレーニングは

より故障から遠い生活を実現することができる素敵なメソッドなんだということを多くの方に知っていただきたいなと…

それには「きちんとした動き」と「間違った動き」を見極めてくれるコーチがいる環境であることが条件なので、

さぁ!いまから市営のトレーニング場へGO!!とは言えないのが歯痒いところではあります…(*_*;

ま、ともかく「ストリクト」のイメージが付いたらいいなと思い、動画を上げさせていただきました!(^◇^)

もしよろしければご覧になってみてください。


「ストリクト」な運動の治療的な意義~シェアリングという異常運動への対処~

2016年07月16日 | 治療の話

いやぁ~ありがたい!

今日はどういうわけだか貰い物が多い1日でした。

CASE1

「先生~、焼酎お好き⁉」

「ハイスキデス!」

「道で試供品の『そば焼酎&ソーダ』配ってたから持ってきたよ!」

「イヤァ~マイッタナ。チリョウオワルマデマテルカナァ⁉」

CASE2

「先生~、アタリメってお好き⁉」

=以下同文=

なんて感じでただいまいい気分でblog更新酎(中)

 

えっと、今日はですね「ストリクト」な動作の治療的な意義について書こうかと思います。

ストリクトというのは「厳格に」という意味で、トレーニングでは「ゆっくり丁寧に動く」といった意味で使われます。

で、そのストリクトな運動はリハビリにいいですよ!と声を大にして言いたいのですよ、僕は!!!

 

関節の故障の中でも徒手医学的な治療対象は機能障害と言われるもので、

その機能障害をいう状態は長引くと関節の変形へとつながってゆくんです。

で、関節の変形のような病態を「器質的疾患」なんて言って機能障害とは対極の障害と位置付けるわけですが、

関節の変形にみられる「形態的変化」こそは「器質的疾患」と言えますが、

変形した関節から発せられる痛みは変形した関節がもたらしたものではないものも多いのです!

ん?!マークつける割に歯切れの悪いい言い回しだって⁉

ま、その点について深堀したい方は「そば焼酎雲海」を飲みながらじっくりと語り明かしましょうね。

はい!

大まかにいえば変形した関節からの痛みの多くは「変形するような異常運動によって生じた痛み」なんです!

だから、変形するような異常運動を止めたら落ち着くんです。

え?

酔ってるか⁉

酔ってないってば!(って言ってる時点で怪しい)

で、その異常運動を止めるキーワードが「ストリクト」!

あ、いかん。

酔ってきた。。。

今日はご飯食べる暇がなかったからなぁ…

朝昼抜いて、もう21:44分。

夕飯時。

アタリメをかじりつつそば焼酎のソーダ割…

染みるな…(*´з`)

 

えっと、ストリクト!

そうそう!

その前に関節が変形してしまう原因となる異常運動について長々説明しましょうかね。

覚悟はいいでしょうか⁉

はい、始めます!

故障を負った関節を調べてみると、一定の方向へのグラ付き(不安定性)が見つかります。

この異常運動を「せん断運動」とか「シェアリング」なんて表現するのですが、

困ったことにいったん定着すると普通に身体を動かしただけで意図せずに繰り返されてしまうようになっちゃうんです。

なぜに困っちゃうのかというと、こうした関節のグラ付きは関節を支える組織に対していろんな悪さをするんです。

ガタガタとズレ動くたびに骨から関節包や靭帯組織を引きはがし、関節面を削り、筋肉の負担も増やし…

あの手この手で関節周囲の組織を傷つけてゆきます。

なんでこんなおかしな動きが出てしまうのかというと、

関節の運動に参加する拮抗筋の内でも多関節にわたって(中にはレバーアームの長い一関節筋も含まれますが…それは置いといて)付着する筋同士の張り具合(張力バランス)の狂いが原因しているんです。

多関節にまたがって付着している筋肉は強く収縮すると間に位置する関節にズレを生じさせる力を発します。

通常であれば関節の安定性に寄与するスタビライザー(いわゆるインナーマッスルですね)の働きによって関節がズレ動くような異常運動は止められるんですが、

不良姿勢や単一作業の過剰な反復のどによってスタビライザー(インナーマッスル・安定化筋)が十分に働けない状態に追い込まれていたりすると、多関節筋の張力による関節のズレ運動が止められず、上記のような悪さをしだすんです。

とはいえ、姿勢の悪さやら単一作業の過度な反復があったからと言って、初期にはシェアリングなんて異常な動きは現れません。

でも、異常運動が現れてなくたって関節自体やその周囲の組織に無茶な力はかかってはいます。

慢性的に無茶をし続ければヘタッてしまうのは人の常。

筋による支えがヘタれば今度は靭帯や関節包に寄りかかってでも関節を安定させようとします。

でもそれらにも限界があるわけで、無茶に対抗しきれなくなると靭帯や関節包もヘタッてしまい、異常な運動を止めるものがなくなるために「シェアリング=ズレ運動」が認識できるようになっちゃうわけです。

 

ここでちょっと「靭帯や関節包」について補足します。

 

靭帯や関節包はコラーゲンという非常に張力に強い繊維で作られています。

このコラーゲン、瞬間的な張力にはめっぽう強いんです。

なので、筋による支えが十分に効かなくてもしばらくは問題なくうごけます。

でもね、コラーゲンの繊維は持続的な張力には弱いんです。

どうなるかっていうと、ズルンッって伸びちゃうんです。

そんな性質を持っているので、習慣的に靭帯や関節包に寄りかかるような、

いわゆる不良姿勢をとっていると緩んでいってしまうんですね。

 

と、いうわけで 

こうなるともう運動時のグラ付きを止めるものがありませんから、動くたんびに関節が傷ついて行ってしまうわけです。

そうした傷も、自然回復する速度が傷つく速度に勝っているうちは問題にはなりません。

でも、往々にして関節の異常運動によるダメージを負う組織は靭帯や関節包、関節軟骨といった再生の遅い組織なので、損傷が回復速度を凌駕してしまいます。

ダメージが蓄積してくると我々の身体は「違和感」や「痛み」を覚えるようになり、その時点で正しい対処がなされなければ徐々に大きなケガに発展してゆきます。

そうこうして私のような治療院に依頼が来るというわけです。

 

さて、こうした問題への治療ではまず関節のグラ付きを生み出している動力を黙らせなくてはなりません。

シェアリングの原因となっている多関節筋(あるいは長いテコを持つ一関節筋)の緊張(もしくは短縮)を見つけ出して取り除きます。

それがすんだら今度は関節の安定性を高めるために

・安定化筋の関節運動への参加

・相同性筋(前出の多関節筋だと考えてください。要は手足を大きく動かすための筋肉たちです。)と安定化筋の協調性の再建

を見据えた処置を行うわけですが、これが中々なされないケースが多いんです。

なぜならこうした反応を引き出すには患者さん自ら運動をしてもらう必要があるからなんです。

私自身は治療手技自体にそうした効果が含まれるものを使うことでフォーローしますが、

それでも強い日常動作※に耐えうる状態にまで引きあがるかどうかは個々の患者さんの身体が持つ条件次第となってしまうんです。

※例

・スポーツをする

・お子さんやお孫さんを高い高いする

・思春期の子供が暴れた際に制圧する

ちゃぶ台をひっくり返す

など

 

一般的な治療現場では自動運動(「お辞儀すると腰が痛いんだよねぇ…」とか「バンザイすると肩が痛いんだよねぇ…」とか)での痛みがなくなったら世間一般の認識では治療終了!となりますが、

ところがどっこい、痛みの消失だけでは一件落着とはいかないもんなんです。

 

どういうことか?

例えば、

「やれやれようやく痛みが引いた!」

となっても、それは自分の身体を普通に動かす程度の軽い負荷の運動で痛みが感じられなくなっただけという可能性もあるわけです。

そうした軽い負荷ていどではグラ付かない強さが関節周囲に戻ってきたとしても

ちょっと強い運動をしたら実はまだグラついてしまう!って程度の機能しか取り戻せていなければ

ちょっとアグレッシブに動いただけですぐに治療が必要な状態に逆戻りする…

なんて憂き目にあってしまうんですな。

 

「また痛くなっちゃった!」って戻ってきた患者さんを診て、良識ある治療家は「まいどあり!」といかないわけです。

こういった時には『なんで治らなかったんだろうか?』って悔しがるほうが良識ある治療家でしょう⁉

でもってすぐに『さて原因は何だろうか?』ってさらなる改善を狙って情報収集のアンテナを立てるのが真っ当な治療家だとおもいますよ。うん。

 

 

 

そうでない先生は…

僕はいないと思うなぁ…ってかいないといいなぁ(;´∀`)


 

じゃあどうするか?ってなると、もう少し強い負荷をかけてもシェアリングを起こさない強さを手に入れてもらうための手を打てばいいってことになりますね。

で、その際に肝になるのが「ストリクト」な運動です。

ストリクトっていうのは、一つ一つの運動を勢いを使わずに正しいフォームで行うということです。

では何をもって正しいと言えるのか⁉

一つの答えは関節にシェアリングを起こさない運動ということになるでしょう。

え?

禅問答みたい⁉

 

そうですね。(*´ω`)

でも、実際にはそんなに難しくはないんです。

重力に負けずに、関節の構造に則った運動の集積としての全身運動を行えばいいんです。

 

え?

もっと難しい⁉

 

そうですか…(*´Д`)

 

じゃ、具体的に書いてみましょう!

痛みは引いたけど…ってなったらまずは単純な動作から動きの良し悪しを体感することから始めるといいんです。

それにはスクワット/デッドリフト/ベンチプレスなんて種目がいいですよ。

ただし、これらはパワーリフティングの競技者として実力を持った先生に教えていただいた方がいいと思います。

実践なくんば証明されず

証明なくんば信用できず

ですからね。

高強度の鍛錬から導き出された答えほど強い答えはないでしょう⁉

頭でっかちな先生の考えた実践も照明もされてない運動処方ほど頼りないものはありませんよ。

ん?

なんか爆弾発言かな…

ま、事実ですな。

持論ですが、実践から得た結果に学問はついてゆくものです。

ま、尻切れトンボですが、そういうことで!


妊娠中の治療

2016年06月20日 | 治療の話

このところ、妊婦さんから肩こりや腰痛の相談を頂くことがチラホラ。

併せて「お通じ」や「手のシビレ」などの相談もされる方が多いですね。

妊娠するとホルモンバランスの変化から浮腫みやすく、便通も滞りがちになる傾向にあります。

手足の浮腫みは末梢神経の絞扼症状にもつながりやすく、「手が痺れちゃう」なんて声が聞かれるのも不思議なことではありません。

しかし、それらの症状に結びつく原因はなにもホルモンバランスの変化だけではないんです。

身体の癖といいましょうか、とりわけ股関節(骨盤を含む)と胸郭の機能障害が種々の症状の発現に大きくからんできますので、

これらへの対処を適切に行うことで肩や腰はもとより、お通じや手のシビレの悩みの解消につながるケースは珍しくはありません。

今日いらっしゃったお母さんは肩こりの他に指のシビレを訴えていましたが、古い頚椎の故障に加え前腕部での末梢神経の締め付けが原因していたようでした。

(円回内筋症候群がメインで背後には頚椎症が隠れていたという感じです。

これはダブルクラッシュという故障の仕方なんですが…その説明はまたいずれ。)

デリケートな時期ですからね、困っていつつもこういう治療を受けることに心配もあるかもしれません。

どうしても怖いな、と思ったら妊娠初期と後期の3か月は変化が大きな時期ですので様子を見るというのも手です。

でも、その初期と後期の3か月がしんどいんですよね(^^;)

施術に不安があったら都度聞いていただいて結構ですので、

あまり我慢せず気軽に頼っていただけると嬉しいですね。

 

○マッサージ・鍼灸・整体治療の専門院|とよたま手技治療院|東京・練馬区
http://toyotama.net 


続・グロインペインシンドロームの治療

2016年05月13日 | 治療の話

さて、ちょっと間が空きましたが、「グロインペインシンドロームの治療」の続きです。

前回のお話は、

恥骨の骨膜を痛めた私。

この状態から組織の効率的な治癒を、治療によって機能を正すことで求めるだけに止まらず、

T先生お勧めの「スロートレーニング」を運動療法として取り入れることで

「筋の連携の正常化(リクルートメントパタンの正常化)」に加え、

組織の回復に関与する種々の「ホルモン分泌の促進」を得ることで

積極的に損傷部位の回復と筋肥大を獲得するという試みが効を奏した

というお話でした。

そして今回はその続きとして「もう一つの工夫」のお話。

不利な状態でも競技力の向上を狙うために行った工夫についてお話ししますね。

 

積極的な回復に結び付いた「スロートレーニング」でしたが、

冷静に考えて、怪我の回復と筋肥大(期間も短いので恐らくはわずかな筋肥大)だけで、

重量挙げの競技動作を全くせずに試合当日を迎えたとしたら、

記録の更新は難しかったでしょう(というか不可能です)。

しかし、頭の片隅には『このどん詰まりの状況にあってもあわよくば…』という邪念も燻っていたわけです。

我ながら諦めが悪いですよね(^^;)

で、これに対する明確な答えはS先生とH先生からいただきました。

何をしたのか?

答えは「出来る範囲(の角度)でウエイトリフティングはする!」というもの。

具体的には「ボックススナッチ」「ボックスクリーン」でした。

これらを自分にとっての85~90%の強度で行いました。

え?

全然わからない!?

そりゃそうですよね(^^;)

スナッチやクリーン&ジャークは下記をご参照ください。

スナッチ

クリーン&ジャーク

これを「ボックス」という木製の台の上にバーベルを乗せたところから行うのが「ボックススナッチ」「ボックスクリーン」です。

なんとなくイメージが付いたでしょ!?

この時の私は、下までしゃがみ切ると股関節が痛んでしまう状態だったので

バーベルを台の上にのせて、深くしゃがまなくていい状況を作って練習をしたということです。

これだったら痛まない角度での運動で「瞬間的な筋力発揮」に関する運動要素を安全に補うことができます。

さすがはS先生とH先生です。 

こうして、ケガを負った最中であっても消極的にならずに「攻めの姿勢」で試合に向けた練習をすることができたことが自己ベスト更新の勝因でした。

この経験から、普段から患者さんに言い続けていたことの正しさを身をもって体験することができたのも収穫でした。

この仕事を始めたきっかけが自身の故障でしたから、

故障で苦しむ方の助けになる仕事をしようと、精進してきたわけです。

それがケガに負けてたら話になりませんからね。

どんな事からでも前向きな学びを、と常々考えて臨床に当たってきましたのでね。

あらためて、故障で苦しんでいる患者さんに言いたいですね。

どんなに暗くて寂しい夜にあっても、明けぬ夜というものはありません。

どん底でも諦めることはない。

と。

痛めた時には以下のルールを守りましょう。

・痛めてしまったら、痛む運動は避ける

・患部の強化は患部の状況に沿って痛まない運動の中で行うこと

・患部への刺激は腹7分目にとどめる

・十分に回復のための休養を取る

・元気な部分は元気な部分に合わせてしっかり追い込む

 

と、いうわけで、

今回の経験で今までの引き出しに「ホルモン分泌の促進」という新たな引き出しが加わりまして

これからの臨床がまた楽しみになりました。

 

やはり現場から、そして自身の体験を通して得る学びは深くて濃いですね。

ホンや活字からのお勉強ではこうはいきませんからね。

 

以上、「グロインペインシンドローム」を通じて気付いた事でした!

おしまい。


グロインペインシンドロームの治療:改訂版

2016年05月07日 | 治療の話

先日もグロインペインについて書いたと思いますが、もう一度。

サッカー選手に多い故障として知られるグロインペイン。

腿の付け根や睾丸の裏や会陰部やその奥の痛みが特徴とされ、

一度こじらせるとなかなか治りにくい故障です。

なかなか画一された治療法もないと言われていますが、

それは痛みの原因が単一の組織の損傷によるものではなく、

複数の組織の損傷が絡み合って一つの症状として現れているからだと考えられます。

私的には、原因として内転筋群や腸腰筋遠位部の故障を考えています。

なぜならば、これらの筋肉が故障した際に現れる筋膜性の痛みのエリアが、

グロインペインで診られる痛みのエリアに合致していますし、

実際に治療してみるとそれらの筋膜性の故障が見つかることが多いからなんです。

 

図版引用:トラベル&サイモンズ トリガーポイントフリップチャート

 

そして「なかなか治らない」とされるのは、その損傷部位に理由があると考えます。

臨床で見る限り、遷延化するケースでは腱骨移行部から骨膜に損傷を負っているケースが多いように感じます。

治りやすいのは腱や骨膜の損傷を伴わないケース。

筋膜組織の損傷に由来しているものは治りも速いもので、これはシンスプリントにも言えることですね。

一般的に、血行の乏しい組織の再生は遅いものなのです。

骨膜組織は筋膜組織に比べ血流が少ないので、治りが遅いわけです。

また、骨膜表面は知覚神経も多いので、痛めると治ってからも痛みが長く続きやすいのです。

なので、腱や骨膜の損傷に発展していない初期の状態であれば筋膜への介入だけでも十分痛みを除くことができます。

ですが、腱や骨膜のダメージが累積し、それらの組織の肥厚や圧痛が出てきているときには治るのに手間も時間もかかります。(*_*;

 

と、ここまでは前回の解説とさほど変わらないと思います(前回なにかいたか覚えていませんが…)。

なのに、つい最近書いたテーマをまた書くということは、ちょっとした発見があったからなんですよ。( *´艸`)ムフフ

 

さて、今日の話。

「前出の治りにくい状態、そこまで行っちゃったら運動療法もいいですよ」という話です。

では、どうぞ!

 

今回は練馬区在住のF君の話。

F君…

そう、私です。

やってしまいましたグロインペイン!

右腿の付け根が痛いの痛くないのって( ノД`)シクシク…

ま、これ書いている時点では1/10程度の痛みに回復したんですがね(^^;)

事の経過を書いてみると以下の通り。

・3月上旬にデッドリフトの自己ベストに挑戦し、挙がったは良いものの、無茶なフォームで腰と頚を痛める。

・数日後、腰椎および頸椎症による根性痛=神経痛発症。

・自分で治療をしながら4月のミニコンペで無事スナッチもジャークも自己ベスト更新(SN60/CJ80)。この時、意地で挙げたは良いものの、無茶なフォームで今度は右内転筋と腸骨筋を痛める。

・2日のアイシングと内転筋および腸骨筋の緊張緩和で痛みは3/10に落ち着く。ここで、止せばいいのに軽めのトレーニング実施し再燃。(←我慢のできない子供のようですな(-ω-))

・翌日、結構な痛みに襲われる。触察により恥骨骨膜の肥厚を見つけ『これ、あかんやつやぁ~(゜Д゜;)』と大いにビビる。

・治癒に専念し三日で痛みは2/3に。

・念のために更に二日治療をしながら様子を見て、痛みは1/2まで落ち着き、受傷後6日目ではあるが5/1に試合を控えているため軽めのスクワットに挑戦。

 

さあ、ここからが本題です。

この時、50kgの重量でも痛みなくしゃがめるのはハーフスクワットが良いところでした。

それを超えると鋭い痛みが股間を貫きます(*_*;

『さて、どうしたものか…』

と宙を仰いだその時です。

T先生「どうされました?」

私「実は、股関節を痛めまして…(^^;)」

T先生は迷わずにこう言いました。

「スロートレーニングをしましょう!(゜Д゜)ノ」

と。

スロートレーニングとは、一回の動作をゆっくりと行うことで筋肥大に有効な成長ホルモンや男性ホルモンの分泌を引き出すトレーニング法です。

効果も作用機序も加圧トレーニングと同じです。

扱う重量も少なくて済みますから再受傷のリスクも低く抑えることができますし、上述のホルモンの分泌促進は損傷した組織の積極的な回復にも役立つはずです。

『なるほど、その手があったか!!!!!』と心の中で叫ぶ私。

T先生「痛めたからって成長をあきらめるのはまだ早い!痛めた時には痛めた時の攻め方があるんです。( ̄ー ̄)

動ける範囲で筋肥大を狙って行きましょう!」

ということで、50kgでゆっくりとスクワット再開。

「おろすのに5秒、止めて3秒、挙げるのに5秒」で3レップ10セット、レストは1分で実施。

この時、ホルモン分泌の促進以外にもう一つ利点があることに気が付きました。

バーを担ぎ、ゆっくりとしゃがんでゆくと、件の痛みがうっすらと顔を出してきます。

でも、殿筋やハムを締めることで痛みが消せることに気が付いたんです。

上手に周囲の筋を運動に参加させることで故障部位の負担をうまく分散させることができたのでしょう。

痛みなく通常のスピードでは下せなかった角度までしゃがむことができました。

そして、3秒を数え立とうとした時です。

今度は重心がつま先に乗ってしまうことに気が付きました。

しかも、重心が前に泳ぐとお股が痛む…(+o+)

このまま立とうとすると、お辞儀した分だけ担いだバーの重さが支持面の中心から離れてしまいます。

すると、テコの腕(レバーアーム)が長くなり、腰にかかる負荷が強くなってしまいますし、前かがみになる分メインに鍛えたい殿筋も上手に使えません。

このことから、股関節の故障はアクシデントだけではなく、筋の動員順序の誤りによる代償運動としての内転筋の過用があったんだということが判りました。

これに気付いた後は、ゆっくり動く中で丁寧に重心の位置と動作を修正し、痛みなく、しっかりと殿筋を使って立ち上がることができました。

正しい動作で行えば怪我はしない、といいますが、まさにその通り。

 

そして翌日。

いつもなら起きてから治療院に付くころまで固く強張り、かつ痛みを発していた股関節ですが、

この日は強張りも痛みも大きく減じていました。

患部を触察してみると圧痛も大きく減じ、肥厚していた腱骨移行部もいくぶん薄くなっています。

なるほど、ホルモン分泌の促進効果は確かにありそうです。

 

その後、スローで行うことに馴れてきたのもあり、

最終的には「おろす」「止める」「あげる」を各5秒で4~5レップ×5~6セット※行う様になりました。

※ホルモン分泌を促すには50~75秒間の緊張維持が必要とされます。 

 

と、ここまでで、この「スロートレーニング」を通じて解ったことをちょっとまとめますね。

 ○「スロートレーニング」を行う利点

1、関節の安定に関与する筋群の協調性を高めることができる

⇒動作に伴う負荷を上手に分散し主動作筋の過用を緩和させることができる

 2、組織の回復に関与するホルモンの分泌を促すことができる

 

「1,2,」より、

安全に、かつ積極的に組織の回復を狙うことができる。

以上。 

 

そうこうして迎えた5/1。

調布で行われたウエイトリフティング大会では、自己ベストタイ記録を怪我前よりも綺麗に、そして楽に挙げることができました。

その間、スクワットやデッドリフトで扱った重量は最高でも50㎏まででしたので

まさかスナッチ60㎏/クリーン&ジャーク80㎏を挙げられるとは思ってもいませんでした。

この結果は治療を生業とする者としてはとても興味深いものです。

もちろん『試合に出るからにはあわよくば…』と考え、今できる最大の努力として他にも準備はしました。

T先生に勧められたスロートレーニングの他にS先生とH先生に助言を頂いて行ってきたちょっとした工夫があったのも、勝因だったと思います。

これに関してはまた後日書かせていただきますね。


長引く故障に悩まされている方へ

2016年05月03日 | 治療の話

故障を引きずりながらの競技生活。

ジリジリと下がるスコア。

反してジリジリと強まる痛み。

競技者としてのピークから離れて数年。

募る焦りから休養⇔再受傷のループから抜けられなくなる…

 

私のブログを見てくれている方の中にも、

長引く(繰り返される)故障に悩まされ、

『もう「あのころ」に戻ることはできないのか⁉』

と苦しい日々を送っている方もいらっしゃるでしょう。

そんな方に聞いていただきたい。

大丈夫!

明けぬ夜はありません!

※いま現在が50歳とか60歳とかで、20代の頃のスコアに戻りたい!ってのはまた別の話(^^;)


治らないには治らないなりの理由があるものです。

そして、治るには治る道筋というものもある。

なかなか治らないで困っている方の相談に共通するのは、早く元の力を取り戻したいがために患部の耐久性を無視した強度の運動を繰り返しているということ。

長引く故障に悩まされるようなケースでは、

傷が癒え、日常の動作では痛みがなくなったとしても、

怪我を負った後の患部は競技動作に耐え得るほどの強度を持ち合わせていないという事実が見落とされています。

また、傷が治りきらないうちに再受傷を繰り返しているケースもありますね。(数年間経っていたとしても、です)

傷が癒えていないままならば、先ずはしっかりと治るための条件を整えることから始めましょう。

こういった時には治療の専門家の手を借りることも大切です。

上のどちらも共通した注意点は「決して痛みと勝負しないように!」ということです。

故障を負ってしまったら、メモ帳に「痛みを伴わずにできるトレーニング」を書き出して整理してみましょう。

痛まずにできることの多くは「どんどん攻めてOk」なもの。

そうした種目まで自粛する必要はありません。

痛みを伴うけども競技上外せないトレーニングは、痛みなくできる範囲を探りましょう。

できれば「痛まず動ける範囲がどの程度であるか?」「痛みなくできる反復回数は?」といったことをメモしておきましょう。

これは今後の回復の基準にもなります。

 

ところで、

なぜ「痛みと勝負」してはいけないのでしょうか?

答えは簡単です。

 

痛めた個所は周囲の元気な組織と違って弱くて脆くなっています。

いってみれば、痛めた個所だけ寝たきりのお爺ちゃんやお婆ちゃんがいるようなもの。

元気な部位と同じ強度のトレーニングを繰り返せばオーバートレーニングですぐに故障してしまいます。

しかし、故障個所(お爺ちゃんやお婆ちゃん)が受け入れられる負荷の中で、

かつオーバーロードの法則にのっとってトレーニングを積みあげることができれば、

故障個所の強度が周囲の組織に追いつくことがちゃんとできるんです。

そして回復期のトレーニングについてもう一つ知っていてほしいことは、

再受傷のループを断ち切るためには「正しいフォームで行うことが大切だ」ということ。

『こっちのほうがそれらしくできるから…』

と我流のフォームに流れてゆくいうのは陥りやすい過ちで要注意です。

大切なことは正確なフォームをたどれる範囲内でたどること!

 

繰り返しますが、

患部に痛みを起こさない範囲で、

かつ、正しいフォームで行うこと。

これを尊守しましょう。

 

それから、焦らないこと。

競技者への復帰を登山に例えますと、8合目に差し掛かるころに魔がさすことが多いので要注意です。

『ああ、だいぶ落ち着いたなぁ(*´з`)』からしばらくすると

『むむ、あと2~3割で足踏みが続くなぁ(;一_一)』

『これぐらいなら、我慢できるし…』

で、無茶して『振出しへ戻る』(T_T)

経験上、焦りを感じてから3週間は堪えどころ。

治り際が一番の山場だってことをお忘れなく。


イヤープルがマイブームに…

2016年04月28日 | 治療の話

職業柄、より効果の高いセルフケアをいつも探しているんですが、最近両耳を軽く引く「イヤープル」という手法に注目しています。

それはなぜか?

 

脊柱管狭窄症のAさんは左の側屈で左仙腸関節から下肢に向けて放散痛が現れます。

膝の手術を受けてから1年たち、現在協議復帰に向けリハビリ中のBさんは片脚でのスクワットをすると、まだ膝が痛みます。

どちらも仙骨側に機能障害を認め、その仙骨は硬膜管を伝って頭蓋に引き込まれているという側面がありました。

それも若干。

若干…

ここがミソなんですが、前出のイヤープルをしてもらうと、なんとAさんの放散痛もBさんの膝の痛みも消えてしまうんです。

巡り巡って患部に作用するだろうな…と思ってやってみたわけですが、思いの外切れがいい。

ちょっとビックリしています。

しばらくはセルフケアの定番になりそうな予感です。

以上、臨床上の発見からのつぶやきでした。


膝蓋軟骨軟化症に伴う雑音~ランナーズニーの臨床より~

2016年04月08日 | 治療の話

つくづく思うのは、

『私たち治療家は患者さんの身体を通じて学ばせていただいているのだなぁ』

ということ。

 

 

 

いきなりどうした!?

と言われそうですが、ま、そんな感じな出来事があったんです。

 

数か月に一度、本当に困ったときか気合のこもったレースの前にいらっしゃるAさん。

今回は膝のお皿の上の痛みのご相談でした。

なんでも、10㎞ほど走った翌々日から膝が痛みだしたとのこと。

調べてみると、膝のお皿と腿の骨(膝蓋大腿関節といいます)の間に問題があるようです。

お皿を圧して上下にずらすとゴリゴリというかザラザラといった雑音がきかれます。

このことから膝蓋骨の裏面か大腿骨側の関節面に傷跡ができていることが判ります。

私「これ、痛みますか?」

と伺うと、Aさんは痛み方はさほど激しくはないものの、痛みが感じられるといいます。

軟骨のように血流が極端に少ない部分に傷ができると、腫れて痛みだすまでにタイムラグができたりするんです。

このことは痛みを誘発するエピソードから実際に痛むまでの経過とも合致します。

どうやらAさんの痛みの正体は「膝蓋軟骨軟化症」という関節症のようです。

でも、テストでの痛みが小さいことから幸いなことに治りかけの状態でもあることが判りました。

四頭筋の緊張を落とし、脛骨の変位を正す通常の処置をした後、Aさんの膝は痛まず滑らかに動かせるようになりました。

あとは実際に走ってみて、痛みなく走れる距離を伸ばしてゆくことになりますが、

Aさん、まだ浮かない顔をしています。

私「どうされました?」

Aさん「膝の奥がゴリゴリいうのは治らないのでしょうか?」

なるほど…

残念ながら、雑音の出所が膝蓋骨の軟骨面が傷つきできた傷跡の凹凸から生じるものなので、「音を消す」のはなかなか難しい相談なんですですが、「できる限りのことを」と探した一手で面白い結果が待っていたんです。

 

場所は膝蓋骨の上縁、内外側広筋の切れ間の大腿直筋の下層。

恐らくは中間広筋遠位だと思われますが、痛みをさほど伴わない硬結が見つかりました。

この硬結にポジショナルリリースを施したところ、膝蓋大腿関節の雑音が大幅に減少したのです。

当然これだけでは『この硬結が雑音の犯人だ!』とも『これで雑音が減らせる!』とも言えません。

私自身この時点では『偶然か!?』とも考えました。

さて、そうとなったら検証しない手はありません。

痛みのない側の膝を調べてみると、症状こそないもののこちらもゴリゴリザラザラ雑音が聞かれます。

渡りに船とはこのことです。

こちらの側にも同様の処置をしたところ、やはり雑音が小さくなる。

中間広筋は膝のお皿を関節に安定させる作用を持つ筋ですから、ここが円滑にコントロールでるようになることで関節の摩擦も低減させることができるのでしょう。

いままで雑音は構造的な問題なので仕方のないものと考えていた節があったので、考えを改めさせられた出来事でした。


斜視の治療03

2016年04月06日 | 治療の話

さて、斜視の男性に提案したセルフケアの話。

治療に対する反応の経過から推察できることは、

『男性の斜視の改善には頭蓋の変位および可動性の正常化と、仙骨の変位および可動性の変化を同時にもたらすものが望ましい』

ということでした。

であれば、エクササイズは立位で行うもので、頭蓋をハンドルとして仙骨側の動きも解放できる方法が望ましいということになります。

そこで浮かんだのが「蝶形後頭関節のFRAT」でした。

このFRATという手法は私のオリジナルの手法でYOUTUBEのページにもよく乗せている手法です。

この手法を試行し、全身の運動を見ると側屈・回旋の運動範囲をほぼ左右均等にまで揃えることができました。

眼球運動のチェックをしてみると動きもよく、

本人に感想を聞くと、身体の動きも視線のコントロールもストレスなく容易になったと言ってくれました。

この男性には前出の手法を自宅で行うセルフケアとして提案し、初回の治療を終えました。

「蝶形後頭関節のFRAT」の動画はこちらです。

ご興味があればどうぞご覧ください。


斜視の治療02

2016年04月05日 | 治療の話

さて、前回の続きです。

頭蓋骨への対処で仰臥位では滑らかな動きを取り戻した男性の右目。

身体を起こし立ち上がってみると、左の肩こりもなくなったといいます。

ですが、再び右目が内によります。

身体全体の動きも右への側屈回旋の易可動性(「動きすぎ」の意)も4割減といったところです。

このことから、『恐らくは腰から下の荷重関節に問題が残るんだろう』と考えました。

調べてみると、仙骨の可動性に問題が見つかりました。(左下外側角の後方変位・右腰仙関節が閉じたまま開かない=仙骨の右側屈右回旋制限)

仙骨の可動性を取り戻すと、体幹の動きもさらに改善されるとともに男性の右目は再び正面に向き、眼球運動の改善も現れました。

頭蓋と仙骨は硬膜を介して互いに連動して動きますので、こうした現象も珍しくはありません。

初期評価では頭蓋に主要な制限を感じたわけで、仙骨は頭蓋の変位の影響を受けた二次的な障害だと踏んだんですが、結果からいえば、仙骨側にも器質的な制限(拘縮)があったわけです。

このことから、長い月日の間、歪んだ位置関係で使われたために、仙骨に生じた機能障害が器質的な変化(一部の寡動による線維化)にまで発展していたという推論が成り立ちます。

私は講義で「二次的な障害も長期にわたると一時的な制限因子として振る舞う」と話してきましたが、正にそうした例でした。

こうしたケースでは、頭蓋・仙骨双方へアプローチしなくてはなりません。

どちらか一辺倒では、起こった側がまた元の状態へと導いてしまうからです。

さて、ここまで来て、次の課題は「セルフケア」です。

一般な患者さんにやれることの中で、治療効果の高いものを見つけなくてはなりません。

そこで、まだ若干残る全身の右回旋右側屈の易可動性の変化を判断基準に、ある手法を試行していただきました。

つづく


斜視の治療01

2016年04月04日 | 治療の話
先日、久しぶりに斜視の相談を受けました。
患者さんは二十代の男性です。
緊張すると右の目が内に寄ってしまったり、左の肩がやけに凝ると言います。
立位で身体全体の動きを調べると、右への側屈と回旋が大きく、
眼球運動を調べると、右の眼球の外転・外転位での上下動が左に比べて遅れます。
身体の癖のわりに脊柱の機能障害は軽く、頭蓋の機能障害が際立ちます。
特に前頭骨の右半分はほとんど動きを失っていました。
斜視が始まった時(18年前)なにか特徴的な出来事はなかったか伺うと、
右の眉の上をぶつけて切ったと言います。
試しに前頭骨の機能障害に手を入れると、眼球運動もスムーズになります。
さらに蝶形骨の傾きを正すと頭蓋全体の動きも大分きれいに出てきました。
寝た姿勢ではもう充分改善が得られましたので、
「これでいいか⁉」と思いましたが、念のため再び立って眼球運動を診ると…

つづく

花粉症から寝違い(急性斜頸)、そして神経痛(頸部神経根症)へ

2016年03月22日 | 治療の話

最近の花粉の量はすごいですね(;´・ω・)

量と症状は関係ないといいますが、ところがどっこい、飛散する量が多ければ曝露する機会も頻回になりますからね。

休まる暇がないってもんです(-_-;)

花粉に言いたい。

俺の鼻に受粉しても鼻水しか出ないぞ、と。

いや、鼻かみ過ぎて鼻血もでるから血もでるか…

でもな!

花も咲かんし実もできんぞ!

もうほんと迷惑(+o+)

 

はい、愚痴はここまで。

今年は花粉症の方にはつらい年になりましたね。

こういう時には寝違え(急性斜頸)の相談が増えてきます。

寝違い(急性斜頸)とは、肩甲挙筋や胸鎖乳突筋(頚板状筋や斜角筋もダメージを受けてるケースが多い)などの痙攣による症状で、『あっ!やばい!!』と思った次の瞬間から借金がなくても首が回らなくなる、というシュールな故障。

この故障は『あっ!』っと思ったときの初期対応が重要です。

『あっ!』っとなった時に無理に動かさず、そっと『あっ!』っと思う前の姿勢に戻して落ち着くのを待つことです。

間違ってもそのままグイッと動かさないこと!

発症したら次善の策としてアイシングをしましょう。

痙攣は神経がパニックを起こして目いっぱい興奮した状況です。

なので、ガッツリ冷やすことで神経を眠らせ、上手くすれば痙攣を抑えることができます。

上手くしなくても過度の興奮をなだめることができ、症状を緩和することができます。

初っ端が大した痛みにならなかったケースでも

『あれれ?ストレッチすれば治るかな???』

なんてあっちこっちへ引っ張っているうちにとどんどん緊張が高まって、立派な寝違いになっちゃった…

なんてケースもよく聞きますから気を付けてくださいね(*_*;

 

この寝違え、発症後うかうかしているとすぐに筋膜炎に発展してしまうのが困りもの。

そうなると治癒までの期間が長くなります。

だいたい落ち着くのに2週間ほどを要するのは皆さんも経験上ご存知の方も多いでしょう?

 

で、この寝違えと花粉症がどう関連するのか?

この寝違い(急性斜頸)の痛みの主役と言える肩甲挙筋や胸鎖乳突筋は呼吸の補助をする筋肉でもあるんです。

鼻をすすったりくしゃみをしたりするとき、呼吸に関与する筋は補助筋も含めて総動員されます。

花粉症になると鼻はすすりっ放しのかみっ放しだし、くしゃみもしょっちゅうでてくるでしょう!?

鼻をすすると吸気に関与する筋肉が、鼻をかんだりくしゃみをするときには呼気に関与する筋肉が強力に使われます。

そんなことが頻回に、かつ長期間繰り返されるので、前出の補助筋たちは疲労困憊してしまい痙攣を起こしやすくなるというわけです。

なので、この時期は寝違えの相談が増えるんですね。(;´・ω・)

 

しかし、今年はちょっと症状が平年の上を行っているようです。

急性斜頸に加えて頚椎症性神経根症、つまり首から腕や背中に伸びる神経の故障=神経痛を起こしているケースが多い。

 

なんで頚の神経痛につながるのか、不思議に思われる方もいるかもしれませんが、

頚椎部から延びる神経が傷つく仕組みとその背景を知るとそう不思議なことでないことがお分かりいただけると思います。

 

くしゃみや鼻づまり(⇒鼻をかむ・鼻をすする)が続くせいで、呼吸の補助筋たちがカチカチに固まると

呼吸のための装置でもある「胸郭=あばら骨で囲まれた籠」を猫背の形で固定してしまいます。

背を丸め、首だけを振ってくしゃみをする。

背を丸め、首だけを反らせて鼻をすする。

でも、胸郭というフイゴは大きく動くことができない。

切れよく花粉交じりの鼻水を、のどの粘液を吐き出すことができない。

仕方ないので数で賄おうと頑張る。

呼吸筋はさらに疲労困憊して固まってゆく…という悪循環(ノД`)・゜・。

そして、この状況で「神経」のケーブルにとってまずいのが「動きを失った胸椎」と「動きの自由な頸椎」の境にテコがかかるようになることです。

動かない胸椎を支点に下位頚椎が可動限界一杯にガックンガックン振り回されることになるわけで、

この状況がつづくことでテコの支点に選ばれた関節が傷つき炎症に発展することがあるんです。

頸部椎間関節の炎症は、近くの組織にも波及してゆきます。

頚椎の椎間関節の近くには何があるのかと申しますと、腕や肩甲骨の間に枝を伸ばす神経があるんです。

なので、寝違いもひどくなると神経痛に発展してしまうことがあるんですね。

また、このシチュエーションでは過剰に動き続ける椎間関節自体に神経が傷つけられて「神経痛」を発症することもあります。

 

まとめると、

くしゃみ・鼻水

呼吸筋が疲労困憊

呼吸の補助筋が痙攣⇒寝違え

呼吸筋群の緊張亢進が胸郭を固定し、頸椎での過剰運動が誘発

頸部椎間関節の炎症(=神経根への科学的ストレス)

頸部椎間関節での神経根の圧迫(=神経根への物理的ストレス)

神経根のダメージとして「神経痛発症」

 

神経のダメージにまで発展してしまうと回復に時間がかかりますので、

この時期の寝違いは早め早めに治療の手を入れたいところです。

何はともあれ、心当たりのある方はお気を付け下さいね。

はやく花粉の時期が終わるといいですね(´;ω;`)


最近の変形性膝関節症の臨床

2016年01月27日 | 治療の話

臨床…

一般的にはピンと来ない言葉かもしれませんね。

要は日々の「治療」のことです。

さて。

 

最近、変形性膝関節症の相談が以前より増えています。

変形性膝関節症は、クリニック勤務時代に毎日いやというほど見てきた疾患です。

でも、現在の私のような自由診療(保険外の治療)だと、あまり多い相談にはなりません。

…のはずが、最近増えているんです。

遠方からいらっしゃる方も多く、ありがたいやら申し訳ないやら。

だって、新幹線や特急を乗り継いで練馬まで通うのは大変ですもん。(-_-;)

ただ、幸いなことにこの疾患、セルフケアさえしっかり覚えてしまえば自力で結構治せてしまうんです。

乱暴な言い方しちゃえばたったの二手覚えてしまえば何とかなっちゃうんです。

なので、(遠方の方の場合は特に)セルフケアの習得に力を注いでいます。

なんにせよ、骨の変形があるとはいえやりようはあるんです。

経験上、再び正座ができるようになるかは変形の程度によりますが、痛みなく生活できるようになるケースは珍しくありません。

諦めずに頑張りましょう!

いらっしゃれない方のために、動画を載せますね。

どうぞお役立てください(*^^*)

〇一手目

 

〇二手目

1/2

2/2


おすすめ動画