5/8より診療を再開させていただいております

2018年05月09日 | 治療の話

今年のGWは長い人で9日間あったそうで、

みなさんのんびりリフレッシュされたことと思います。

私も4~8日の4日間、じっくり休養を取らせていただきました。

あ、治療院は3日からお休みしておりましたが毎週木曜日は大学生のケアサポートがありましたので5/3はお仕事。

GWのお休みは4~8日だったんです。

休暇中は筋トレ以外取り立ててイベントもなく、息子と焼き肉や回転すしにいった程度でしたがそれもまた楽しく、

あっという間の4日間でした。

 

さて、休暇明けの現在。

ここ数日の冷え込みのせいか崩れた天気のせいなのか、古傷が痛んだり体調を崩された方が多くみえられました。

例年ですとGWあけはちょっと暇になることが多いのですが、昨日今日と隙間の空いていた予約表も終わって見ればミッチリ…

忙しいことが良いことかはさておいて、困ったときに思い出して相談していただけるのは治療家冥利に尽きますね。

本当にありがとうございます。

これからもバリバリ治療してゆきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

そうそう、話は戻って…

最近では天候の影響で起こる痛みを「天気痛」というのだそうですね。

次回はその「天気痛」の仕組みについて書いてみようかな?と思います。

では、乞うご期待。


関節の故障と花粉症とRSI(反復性緊張損傷)

2018年04月14日 | 治療の話

今年の花粉はすごいみたいですね。

なんでも昨年の43倍の量の花粉が舞っている(た?)とか…

私も目・喉・鼻をやられてしまい難儀しています。

特に鼻が詰まってしまうのがつらい…

寝ていてもしょっちゅう目が覚めて、慢性的な寝不足の出来上がり。

ですので、普段は「昼寝しない派」※なんですが、この春は前半と後半の治療の合間に20分ほど仮眠をとるようにしています。

※治療院あるある:午前の診療が終わると午後に備えてお昼寝タイムを取る

 

さて、この話を前置きとして本題。

 

このところ、腱板損傷(肩の故障)や急性腰痛(ぎっくり腰)、CM関節症やドケルバン病(どちらも親指の故障)といった怪我の相談が多く寄せられています。

個人的な印象ですが、怪我寄りの相談が例年よりも目立って多いんですよね。

その内訳をみてみると、ほとんどが日々の生活動作の中で蓄積した「微小損傷」に由来する故障でした。

つまり、一見、故障のきっかけとなるような出来事がないケースなんです。

私たちの身体は日常の所作の中でごくわずかに傷ついてゆきます。

身体の歪みがあればそうした小さな傷はよりつきやすくなります。

「微小損傷(マイクロトラウマ)」というものは、通常であれば一晩寝れば治る程度の僅かな傷なのですが、

睡眠不足で回復する時間が十分でなかったり、風邪などをはじめとする感染症などで消耗していたりすると回復が間に合わず、傷がどんどん蓄積してゆくことがあります。

そうして蓄積した小さな傷の群が身体の許容量を超えた時、大きな炎症が起こります。

こうした故障の仕組みを「RSI:反復性緊張損傷」といい、明確な原因が見えない故障の原因と考えられているんです。

 

で、これがどう前置きと絡むのか?

 

私…

RSIの増加と花粉症が関係しているのではないか?と疑っているんですよ…

突飛な話と思われるかもしれませんが、そう考える根拠は以下の通り。

先ほど、RSIの背景には回復力の低下や回復時間の不足があると書きました。

花粉症にかかると冒頭で述べたように夜間の睡眠の質が落ちてしまいます。

すると組織の回復は遅れてしまいますからRSIの背景として筋が通ります。

さらにアレルギーは通常は無害なものに過剰な免疫反応を示す病気ですから

身体は花粉に対して感染症にかかった時の反応を忙しく起こして消耗しているわけです。

RSIの背景要因の内、「風邪などをはじめとする感染症などで消耗」のくだりを思い出してください。

微小損傷に対する回復力の低下もこれで筋が通るのではないでしょうか。

しかも、今年の花粉の量は43倍というじゃありませんか。

真偽は確かめようもありませんが、少なくとも回復力・回復速度が落ちているという前提を知っておく(疑っておく)ことで対策を練ることができます。

いつもより作業間のインターバルを頻繁に取るとか、

ちょっとの時間でもいいので仮眠をとるとか、

そういったことで不用意なケガを避けられるかもしれません。

可能性の話で恐縮ですが、心当たりのある方はちょっとだけ気を付けてみてください。

では。


付けただけで身体を整えてくれるセルフメディケーションツール「PHYSIOAID:フィジオエイド」

2018年02月27日 | 治療の話

先日の投稿でもちょっと触れたのですが、

年明け早々(もうすぐ3月ですが…)おもしろい発見と発明がありましたので報告させてください!

この装具、強い肩関節の痛みを訴えていらっしゃった患者さんの治療の際の閃きから生まれました。

その患者さん、肩関節周囲の筋肉のコントロールに難があるせいで腕が上がらなかったんですが、

その背景に対側の足の機能異常が見つかったんです。

そこでフィジオエイドの原型(当時はまだ名前もありませんでしたが)を足につけたところ

上がらなかった腕が嘘のようにスっと上がるようになりました。

この出来事に気をよくして諸々改良を加え数日が過ぎたころ、

今度は急に階段が登れなくなってしまったというお母さん(80代)がいらっしゃいました。

このころは問題点を洗い出す検査機器として使っていたのですが、

驚いたことにこのお母さん、フィジオエイドを付けただけで階段が登れるようになってしまったんです。

そこから「譲ってほしい」という声が聞かれ始め、

いまでは受注販売(治療にいらっしゃった患者さんには一組800円でお譲りしています)も始めています。

残念なことに条件次第では明確な効果を感じられない方も若干いらっしゃるのですが、

基本的には即座に柔軟性が改善したり、片脚立位でのバランスが向上したりするので、

治療効果を長く維持したり、故障からの回復を促進したり、

ご高齢者にあっては転倒予防に役立ったり、

スポーツマンには運動学習の効率化が期待出来たりと、

手前味噌ながらなかなかにいい仕事をしてくれるツールです。

先日、クリニックのリハ室に努める理学療法士の友人に紹介したところ

その翌日にパーキンソン病の患者さんの歩行訓練で大きな変化がみられたと興奮気味のメールをいただきました。

その友人が被検者となってくれた映像を二画面でビフォーアフターを比較する形で編集しましたので

もしよろしければご覧になってみてください。

○PHYSIOAIDフィジオエイド効果紹介


産後の故障:腱鞘炎・腰痛・肩凝り

2018年02月04日 | 治療の話

このところ、なぜか産後のママさんの相談が続きます。

相談が多いのが意外に土曜と日曜。

土日はパパにお子さんを預けられるから、安心して通院ができるんだそうです。

私的には赤ちゃん連れで来ていただいても全然OKなんですが。。

むしろ一緒に来てほしい。

私事ではありますが、ミルクの香りがした黒目がちな愛くるしい赤ん坊だった息子もすでに中学2年生。

伸張168cm体重71kg、そして高校生2~3年生に間違われるレベルのオッサン顔…

ああ、赤ちゃんだったころが懐かしい…

 

なので、赤ちゃんづれWELCOME!

治療中ギャン泣きしたって問題ないですよ!

泣くという運動は背骨や骨盤の安定性に寄与する腹部深層筋(インナ―ユニット)のトレーニングになりますから、

適度に泣いた方がむしろ筋骨格系の発育発達に善し!

そう考えれば気も楽になるでしょう!?

訳もなく泣かれると『私の何が悪いの~~~~~(´;ω;`)ウゥゥ』なんて、

理不尽に攻められているような気持ちになったりもしがちですが

赤ちゃんが立って歩くための準備をしていると考えればそう落胆することでもないでしょう!?

おむつ・ミルク・抱っこのチェックをしてもなお泣きやまないのなら

『人間だもの、泣きたいときもあるわよねぇ…(*´ω`*)』

てな具合でよろしいのではないかと思います。

身体の正常な発育を考えれば泣かなさすぎの方が損ですよ。

おっと、脱線。

 

話を戻して、産後ママのご相談の話。

寄せられる相談は主に「腰痛」「肩凝り(コリというよりも頸椎と胸椎の端境に生じる痛み)」

そして「腱鞘炎」です。

この腱鞘炎、産後の相談としてはかなり多い相談となります。

なぜ授乳中のママさんに腱鞘炎が多いのか?

その理由を腱鞘炎のご相談でご来院のAさんのケースでみてみましょう。

 

Aさんの相談は肩・腰、そして手首の腱鞘炎のトリプルコンボ。

Aさん曰く、

「日々すくすくと育つ我が子。

生まれた時は3キロ程度だった我が子の体重もグイグイと膨れ上がり、気が付けば米袋を大きく上回る重量に。

でも、その成長も歩くようになるまでにはまだ遠く、おんぶやだっこを繰り返し、気が付けばアチコチぬぐいがたい痛みに襲われるまでに…」

確かに育児は重労働。

にもかかわらず、回復に要する睡眠時間は4時間ごとの授乳で削り取られ、日常のダメージも回復しきれず蓄積しがちになります。

蓄積したダメージがリミットを超えると大きな炎症に転じることもあるので要注意。

こうした故障を反復性緊張損傷(RSI)なんていうのです。

頑張って頑張って、身を粉にして育児に専念した挙句に故障を負ったAさん。

これを献身と言わずしてなにを献身というのでしょうか。

しかし、だからといっても育児は回復を待ってくれません。

過酷ですよね。(*_*;

Aさんをはじめママさんたちのお話を聞くたびに育児ってホント肉体労働だなって思います。


産後は腰・肩の痛みの相談もよく聞かれますが、

授乳期ならではの故障というとなんといっても腱鞘炎(腱炎含む)ではないかと思います。

と申しますのも、

授乳期のお母さんはホルモンの影響でむくみやすい状態になっているんです。

これは母乳を作り出すための変化なんです。

身体がむくむと動く際に生じる筋腱の摩擦が強まります。

それがどう腱鞘炎につながるのかと申しますと、

手指は細やかな動きをする部分ですからその筋腱は張りが強く隙間も少ないつくりをしているんです。

そんなところにむくみ(浮腫)が強く起こると前腕から手にかけての筋腱の隙間が更に狭くなり、腱と腱鞘の摩擦が強まります。

そうなると日常で負うダメージも大きくなります。

それなのに、ゆっくり休んで回復を待つ暇ももらえない。

こうして腱鞘炎や腱炎に発展してゆくんです。

ちなみに

産後の腰痛の原因は、臨月で伸びた腹筋(腹部の筋膜群)が産後たわむことが大きな原因になってきます。

腹筋の長さが余って骨盤前面の支えが効かなくなり、腰椎部を支える起立筋やぎっくり腰の原因筋でおなじみの腸腰筋の負担が増してしまうのです。

加えて出産時には恥骨結合の損傷(出産時に切れることがしばしば)をこすことがしばしば。

恥骨結合の捻挫によって骨盤が不安定になり、これも腰痛の原因になります。

総じて腰椎から骨盤部の不安定性が高まることで産後に腰痛は起こりやすくなるのです。

さらに、

酷い肩凝りは赤ちゃんがまだ小さいため背を丸めた授乳姿勢が原因でしょう。

猫背の姿勢が定着し、頚肩の負担が増してしまうのです。

また、そうした姿勢の崩れから生じる上肢のポジションの崩れは腱鞘炎の発症を増長させる要因にもなっています。

ほんと、お母さんは大変ですね。


治療としては、

定着した不良姿勢の矯正、痛みに対する治療を行うと同時に、

故障の背景要因となっている腰部骨盤のガタツキを押さえるための運動指導をし、

痛みに対するセルフケア(ストレッチやお灸、簡単なテーピングなど)をお伝えしています。

私のところはベビーカーでのご来院もOKですので、気軽に赤ちゃんを連れていらしていただけたら嬉しい限りです。お困りの際には気軽にお声がけください。

とよたま手技治療院
TEL:03-3994-5048


年末は12/30(土)まで診療いたします。

2017年12月25日 | 治療の話

メリークリスマス!

いよいよ暮れも押し迫ってまいりました。

皆さんお忙しい毎日をお過ごしのご様子。

「年内に身体のケアを…」

というご依頼を多くいただいておりますため、

年末は仕事納めを12/29とさせていただいておりましたが、

急遽12月30日(土)を診療日とさせていただくことにいたしました!

この日は朝10:00~20:00まで受け付けております。

ご用命の方はコチラのメールフォームをご利用ください。

初診の方

再診の方

今年の疲れ、今年の内に!

12月30日は身体の疲れの大掃除!!

皆さまのご用命を心よりお待ち申し上げます。


「ぎっくり腰」にご用心~冷えと急性腰痛の関係~

2017年12月20日 | 治療の話

あなた、変わりはないですかぁ~♪

日ごと、寒さがつのりぃますぅ~♪

いやいや、このところ寒くなってきましたね。

寒さは足元から襲ってきます。

そうなると増えてくるのが腰痛の相談です。

と、いうことで…

今日は「ぎっくり腰」について書こうかと思います。

この時期ふえる相談に「ぎっくり腰」があります。

この「ぎっくり腰」という病名、正式な名称ではないってご存知でしょうか?

その病態は様々で腰椎捻挫から起立筋の筋膜損傷、大腰筋の筋痙攣からヘルニアと多岐にわたります。

それらをひっくるめて急に腰痛が現れたようなケースを「ぎっくり腰」と呼ぶんですね。

ちなみに、この時期のぎっくり腰でおおいのが大腰筋の痙攣(スパズムと言います)による腰痛です。

↓オレンジに表示されている筋肉が「大腰筋」です

大腰筋由来の腰痛は立ち際に起こることがほとんどで、後ろに反ることで起立筋に沿った痛みが生じるのが特徴です。

 

↓真ん中の図のお臍の横の×印が大腰筋のトリガーポイントです。痛みは左の図の赤い部分に生じます。

しかし、この大腰筋、背骨の前についてるのに痛むのが背中側って、不思議に思いませんか?

でもですね、こうした痛み方ってそう珍しいことではないんです。

背骨の腹側の両サイド、背中の臓器寄りと言ったらよいでしょうか、

この筋肉の壁を「後腹壁」なんて呼ぶのですが、ここに接する筋や臓器のトラブルは背中に痛みが出るんです。

膵炎なんかも左の背中に痛みが出ますが、それは膵臓がこの後腹壁にへばり付いているからなんですね。

なものですから、後腹壁にへばり付いている大腰筋の痙攣も背面に現れるんです。

 

おっと、話を戻しましょう。

 

このタイプの腰痛はデスクワークで座りっぱなしの方によく見られる傾向があります。

なぜでしょうか?

体幹の支えには主に起立筋をはじめとした背筋群や大腰筋(腸腰筋)のような腹部深層筋、そして腹筋(群)が働くのですが、座った姿勢では腹筋が働いてくれません。(これ、筋電図で確かめた先生がいるんです)

すると、起立筋と大腰筋の負担がぐっと高くなるわけです。

さらに、筋肉は縮めたままでいると痙攣をおこしやすくなるものですから、

座った姿勢で縮みきった大腰筋は痙攣をおこしやすい状態に追い込まれます。

ここまでを見ても、デスクワークでは大腰筋由来の腰痛はおこりやすいのが容易に理解できると思います。

でも、デスクワークだけが原因であればこの時期に多くなるということの説明がつきません。

そこには「寒さ」の影響があるわけです。

「寒さ」との関連を説明するためにちょっと寄り道させていただきますね。

私たちの筋肉は隣り合った筋肉同士つながりを持っていて、それらは特定の働き毎に協調して働くグループに分類することができます。

筋肉同士のつながりを「筋連結」と言い、協調して働く筋肉たちを「筋膜ユニット」なんて呼んだりします。

その筋膜ユニットの一部に緊張が走るとその緊張はユニット全体に波及します。

つまり、一部の筋が緊張するとユニット全体が緊張を高めてしまうんですね。

それを踏まえて、「大腰筋由来の腰痛」と「寒さ」の関連を読み解いてゆきましょう。

 

大腰筋は下図のような筋肉(筋膜)たちと連続性を持っています。

この筋連結の中で大腰筋は後脛骨筋(下の図のオレンジ色の筋肉)からの影響を強く受けます。

ここでちょっと皆さんに伺いたいのですが、

エアコンで室内の空気を温めていたとしても、冷気は足元にたまりますので「足元が寒い」なんて経験、ありませんか?

足元が冷えることで大腰筋と関連の深い後脛骨筋が緊張を高めます。

すると、その緊張に呼応するように大腰筋も緊張を高めます。

しかも、デスクワークのシチュエーションでは大腰筋は縮んだ位置におかれていて、それでなくとも痙攣をおこしやすい状況です。

こうしたお膳立てが揃っているため、ちょっと立ち上がるとか、床のものを取って身体を起こすとか、

不意に大腰筋が引き伸ばされるようなシチュエーションで容易に痙攣をおこしてしまうというわけなのです。

 

ちなみにこの大腰筋、呼吸を司る横隔膜や斜角筋とも仲がいいんです。

なので、くしゃみ一つでギクッと行ってしまうこともあるんです。

私の聞いた中では「ひゃっくり」で「ぎっくり」なんて方もいらっしゃいました。

本人としては笑い事ではないでしょうが、それを聞いたときは流石にちょっと噴き出しちゃいました。(;^ω^)

さて、こうしたケースへの対処として、2つの対処を提案したいと思います。


1、足元を冷やさない

2、後脛骨筋のボールマッサージをこまめにする


2、の方法は下の動画をご参照ください。

伸展型腰痛・アキレス腱部の疼痛のセルフケア=後脛骨筋のテニスボールマッサージ


今年も早いものであと11日となりました。

師走を乗り切り良いコンディションでお正月を迎えるためにお役立ていただけましたら幸いです!


肉離れの治療03~DTM:深部横断マッサージ~

2017年10月15日 | 治療の話

さて、01で「二部構成で…」などと言いながら、気が付けば3部構成になってしまった「肉離れ」も今回でようやく完結できそうです(;^ω^)

と、その前に前回のおさらいを少々。

前回私は

瘢痕組織と筋繊維とのあいだに生まれた「強度の格差」が「肉離れの再発」の原因と考えられ

「強度の格差」を是正することで肉離れの再発を防止することができるということになるだろう

というところまでお話ししました。

今回は、その「強度の格差」を是正するための手法についてお話しします。

 

「瘢痕」「筋組織」双方の組織間の「強度の格差」を正常化するということは具体的にはどういうことなのでしょうか?

それは、瘢痕を正常な組織へと置き換える作業を身体に促すということです。

手技療法にそんなことができるのか?

と思われる方もいるかもしれませんが、多少の時間はかかるものの決して不可能なことではない

というのが私の出した結論です。

私たちの身体に起こる通常の治癒過程では、

まずはじめに細いコラーゲンの繊維で傷をふさぎ、

次いでコラーゲンの繊維が太く成長するなかで断面同士を強固に引き寄せつつ、

その一方で傷跡を形成するコラーゲンの塊を吸収しながら新生した血管や筋繊維を傷跡に潜り込ませ、

最終的には正常な組織、つまり筋繊維や血管や神経を再配置して、不要なコラーゲン繊維の塊は吸収されて修復完了!

となります。

しかし、

残念ながら傷が大きいとコラーゲンの再吸収と正常な組織への置き換えが上手に進みません。

患部が治りきる前に運動を繰り返し、新たな傷が累積するような状況が続くケースも然りです。

治した先から壊されているわけですし、新たなキズが刻まれるたびに瘢痕組織も分厚く大きくなってしまいますからね。

治癒力の許容範囲を超えるような「大きな瘢痕組織」が出来上がってしまった場合、正常な組織に置き換えるのを身体が諦めてしまうこともあるんです。

手術の後の術創などはそのよい例でしょう。

しかし、だからと言って諦めるわけにはいきません。

こちらとしてはふたたび元気にスポーツを楽しんでもらうためにも、身体に正常な組織への入れ替えを完了してもらいたいわけです。

さて、この状況を打破するためにはどうすればいいのでしょう?

 

そんなときに役立つのが「DTM」という手法です。

DTMとは

Deep-深部

Tranceversuse-横断

Massage-揉捏法(マッサージ)

の略で、筋繊維を横に横断するように揉みしだくという、ある意味とてもシンプルかつ原始的な手法です。

このDTMは主に組織の繊維化や癒着を解消するのにつかわれる技法で、「肉離れ」の治療では組織の炎症が消退した時期を見計らって使用します。

非常に原始的な手法なのですが、実際の治療経過を見る限り「肉離れ」には相性の良い治療です。

DTMを施すことでなぜ瘢痕組織の吸収が再開されるのかは想像の域を出ませんが、

恐らくはDTMを施すことで瘢痕組織を構成するコラーゲンの塊が瓦解され(ほぐされ)ることが組織の新生のきっかけとなっているのだろうと考えています。

組織の修復の初期段階では傷口に露出したタンパクに遊走細胞(免疫細胞)が食いつき傷の断面を綺麗にしてから種々の治癒反応が展開されますので、DTMによって瘢痕組織が壊されることがきっかけとなってコラーゲンの再吸収が始まり、肉芽組織の入り込む隙間が作られ、組織の新生を促すことにつながるのでしょう。

上記はあくまで推論なのですが、私自身の治療経験を顧みる限りは「肉離れ」を繰り返す症例がDTMで順調な回復がみられる例は非常に多いので、そう的の外れた話ではないと考えています。

以上、「肉離れの治療」についてのお話しでした。

「肉離れ」でお困りの方がいらっしゃったら、一人で悩まずにお気軽にご相談ください。

 ~おわり~


肉離れの治療02~肉離れを繰り返してしまう理由とは?~

2017年10月06日 | 治療の話

さて、今回は「肉離れを繰り返してしまう理由」についてお話しします。 

肉離れを繰り返す理由はいくつか考えられると思いますが、思いつく範囲でさっとあげるならば、

「マルユース(誤用:身体の使われ方のエラー)」

「オーバーユース(使いすぎ)」

「瘢痕組織の残存」

といったあたりとなるでしょう。

そのなかで、今回のお話しのメインテーマとなるのは三つ目の「瘢痕組織の残存」という問題です。

「瘢痕組織」というのは怪我の修復過程で残ってしまった「きずあと」のことです。

コラーゲン繊維がからみあってダマになったような状態で、正常な組織に比べると硬くてのびにくいという特徴を持っています。

こうした「しなやかさ」に欠ける組織は正常な組織との境界で剥離しやすくなります。

「境界がはがれやすい」とする根拠なのですが、それを説明するために知っていただきたいことを書いてゆきますね。

例えば、均質な物質に張力をかけるとその力は構造全体にまんべんなく伝わってゆきます。

ですが、一部により「柔らかな部分」ができた場合は張力がその柔らかな部分に集中します。

特に固さが急に変わる部分に力は集まりやすくなります。

加わった力が「柔らかな部分」の耐久限度を超えれば「柔らかな部分」から千切れてゆくことになります。

 

この現象をイメージできるようにちょっとした実験をしてみました。

まずティッシュで太いこよりと細いこよりを作ってつなぎます。

太いこよりにはティッシュを一枚使い、細いこよりはティッシュ1/2を使いました。

こよりの両端をもって均等に引っ張ったところ…

 

こよりは結び目から千切れました。

 

千切れた断端を見てみると、細いこよりから千切れていました。

 

これを肉離れによって作られた瘢痕組織と隣接する筋組織に当てはめて考えてみましょう。

運動時、「固い瘢痕」とそれに連なる「柔らかな筋組織」に強い張力がかかったとします。

張力はそれらの境界に集まるでしょう。

力に耐えきれなければ組織は損傷をきたします。

この場合、上記の考察を踏まえると、より柔らかな筋組織が瘢痕組織との境界面から剥がれたということになるでしょう。

もし瘢痕組織と筋繊維とのあいだに生まれた「強度の格差」が「肉離れの再発」の原因になっているのであれば、「強度の格差」を是正することで肉離れの再発を防止することができるはずです。

ではどうやって?

次回は「癖になった肉離れの治療」についてお話しします。


肉離れの治療01

2017年09月26日 | 治療の話

今回は「肉離れ」のお話です。

長くなりそうなので、障害の概略、治療と2部構成で書いてみます。

まずは「肉離れ」という故障について解説します。

【肉離れ:筋損傷】

「肉離れ」という故障は、

スポーツなどで意図せず急に筋肉を引き延ばされたときや、自身の筋力発揮に筋や筋膜が耐えられなくなったとき、

部分的あるいは完全に千切れてしまった状態です。

肉離れの瞬間には「ビリッ!」とか「プチプチ!」といった音を自覚することもあります。

損傷部位は筋肉と腱と境目(筋腱移行部)に多くみられます。

困ったことに、足首の捻挫のように「肉離れ」も癖になってしまうことがあり、

また、繰り返すと徐々に重症化する危険性もあるため、治療家目線では軽症でもキチンと手を入れてほしい故障の一つになります。

発症頻度はハムストリングスやふくらはぎ(膝裏の内より)に多い印象ですが、

内転筋や起立筋など、基本どこにでも起きる障害です。

この「肉離れ」、治療では断裂の程度から重症度を3段階に分類します。

 

グレード1(治癒の目安:2~4週)

損傷の程度は軽く、内出血などは見られない状態

患部に自発痛や圧痛があり、軽い腫れもあるものの日常動作程度は可能

だが、スポーツ動作は痛みのため全力では行うことができない状態

(つまり、下肢の肉離れならば歩く程度はできるということ)

 

グレード2(治癒の目安:4~6週)

内出血を伴う部分的な損傷が生じた状態で、これを中等度とする

時間が経つと(1日程度あと)体表面にあざが現れる

患部には自発痛と圧痛があり、触察するとへこみ(陥凹)を見つける

日常動作は可能だが痛みのため難しく、スポーツ動作は行えない状態

(つまり、下肢のにくばなれであれば痛むけど何とか歩けるということ)

…といわれますが

経験としては深層の筋に生じるとあざが出てこないケースがあります。

アザが無くても痛くて日常動作にも事欠くようならグレード2以上を考えましょう。

ただ、痛みが強いからと言っても「痛みの大きさ=損傷の程度」とはならないこともあるんです。

痛みが強いのに損傷はそれほどでないというケースなのですが、

そのカラクリは患部のケイレンによる痛みです。

ケイレンによって痛みと運動障害が強くあらわれているいだけというケースの場合、

痙攣を上手に納めればすぐに痛みなく動けるようになります。

こうしたケースの診断として、ケイレンを治める手法を試しにとってみるという「治療的診断」という手立てを取ります。

結果として、

ケイレンを治めても痛みも運動障害も残るなら、それこそ痛みは「組織のダメージが深いから」ということになります。

反対に、ケイレンを治めることでグッとよくなるようでしたら自覚的訴えに反して組織のダメージは軽かったということになるのです。

以上、脱線終了。

 

グレード3(状態によっては完治しないこともあるので、いつまでに全治とは言えない)

筋が完全断裂や大きな部分断裂を生じた状態

キズが大きい分、陥凹も明確にみられる

内出血も大きく、当然自発痛も強く患部の圧痛も強い

外科的な処置が必要なレベル(縫ってつなげます)です

日常動作もできないので当然スポーツもできない状態

…はい、ここでも脱線。

グレード2や3の患者さんの病歴を聞いていると、

大きな断裂が生じる前に軽症・中等度と思われる「肉離れ」を繰り返していた

と思われるエピソードが聞かれることが多く、

後述しますが、刻み込まれた傷跡(瘢痕組織)が損傷の再発に関係しているものと考えられます。

なので、繰り返すようなら「症状が軽いから大丈夫」…とはせず、

専門家の眼を通してもらいたいなと思うのです。

脱線終わり。

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さて、本題。

上記のグレードを見ると、

グレード1で約3週間、2で5週間待てば治るかのような印象を持ちます。

私も専門学校の学生時代にはそんなもんかと考えていました。

でも、実際に治療に携わるようになると、軽いジョグすらできる軽症例にもかかわらず

いつまでたってもよりアクティブな競技動作での痛みが治まらず、

『ま、動いてればそのうち落ち着くか…』

と本格的に練習を開始すると再受傷を繰り返す、といった症例を見るようになりました。

みな同じような場所を繰り返し傷つけてしまう。

これには訳があるのです。

次回は肉離れを繰り返してしまう理由とその治療についてお話しします。

本日はここまで!


「耳閉感」と「目まい」の相談

2017年08月07日 | 治療の話

耳閉感(プールで耳に水が詰まったような感じを想像してみてください)と目まいの相談で来院されたAさん(30代男性)。

Aさんはデスクワーカー。

そんなAさんは、1か月前に右耳の難聴を発症しました。

その後、聴力は正常にもどったものの耳閉の症状がのこってしまったそうです。

病院では内耳の浮腫によるものとの診断で「メニエール病」ではないかとの指摘もあったそうですが

話を聞く限りではその線は大丈夫なようです。

その根拠は以下の通り。

Aさんのいう「めまい」はフワフワと身体が揺れるような感覚だといいます。

これを「目まい感:浮動性目まい」といいますが、

メニエール病の発作で生じる「目まい」は視界がぐるぐると回る「回転性目まい」なのです。

さらにこの「回転性目まい」が「耳鳴り」「難聴」といった聴覚障害といっしょにおこるのがメニエールの特徴です。

この点から、Aさんに「メニエール病」の線はないということが解ります。

Aさんのいう「フワフワと身体が揺れるような目まい」の原因は軽い脳貧血です。

ちょっと脱線しますが、

この「目まい感」の原因を

「耳砂障害(内耳の中にある平衡感覚をつかさどるセンサーの故障)」

としている文献も見受けます。

ですが「目まい感」の相談で「耳砂障害」を真剣にうたがうようなケースは私の診る患者さんにはむしろレアケース。

こうした「目まい感:浮動性目まい」は不良姿勢を背景とした「肩こり」や「頭痛」などの相談でよくみられるもので、

この症状の本態は不良姿勢の影響から脳幹や小脳に血液をおくる「椎骨動脈」やその先の「脳底動脈」に生じた軽度の循環不全だと考えるほうが無難です。

その証拠に、多くの「目まい感」の相談はストレートネックや猫背で頭をまえにつき出したフォーワードヘッドポスチャーといった「不良姿勢」を解消することで片が付くケースがほとんどです。

こうした結果からも、「目まい感」というものの多くは不良姿勢によって頸椎の関節が椎骨動脈を圧迫しているか、

窮屈な状況に置かれ続けた動脈が過敏性を持ってしまい一時的に攣縮してしまうか、といったことが原因して起こるのだろうと考えられるわけです。

ここまではそう怖くない話なのですが、この「目まい感:浮動性目まい」も高齢者に生じた場合は注意が必要です。

例えば、「高血圧」があって「目まい感」も続くような場合、

高齢者では脳底動脈の梗塞(動脈硬化によって血管が詰まってしまう)を生じているケースがあります。

こうしたケースでは姿勢がどうこう、肩凝りを解消してどうこう、という話ではもはやないのです。

この場合はちゃんと脳外科へかかること。

脳外科⁉なんていうと怖くなるかもしれませんが、「いきなり手術!」となることはまれだそうで、

まずはお薬で脳こうそくの予防を行うことになりますので、安心して受診してください。

 

さて、話を戻してAさんの場合。

先ほども書いた通り、Aさんには幸いなことに(?)メニエールを疑うための随伴症状がありません。

なので、メニエール病というのは現時点ではなさそう、という判断になるわけです。

では、Aさんの目まいや耳の聞こえ辛さ(耳閉)は何が原因なのでしょう?

ここから先はAさんの身体に聞いてみないことにはわかりません。 

Aさんの身体を調べると、胸椎は後弯が強くて固定的(丸いまま固まっているということ)です。

この丸い胸のために前述した「頭を前に突き出したフォーワードヘッドポスチャー」になっていました。

この姿勢では脳底動脈につながる椎骨動脈という動脈に並びの悪くなった頸椎による圧迫が生じます。

こう書くと関節による動脈の圧迫が血流障害の原因のように思えてきますが、

強い頸椎の変形でもない限りは直接骨が血管を圧迫して血流を止めることはありません。

そこで考えられる原因は血管の攣縮です。

動脈って筋肉質なものですから結構自力で伸び縮みできるんです。

その伸び縮みをコントロールしているのが「血管運動神経」という神経です。

この神経に刺激を与えると動脈はキュッと縮むんです。

この話を椎骨動脈に当てはめて考えましょう。

椎骨動脈にとって窮屈な関節の位置関係が慢性的に定着したとします。

すると刺激を受け続けた椎骨動脈をコントロールしている血管運動神経は過敏になり、

時に支配している動脈に痙攣をおこします。

痙攣した動脈は直径が細くなりますから血流量が落ちるわけですから脳貧血が起こるわけです。

これが軽度の場合は「目まい感」へとつながります。

※ここからまた脱線

長くなるので文字の色を変えます。


「椎骨動脈の攣縮」、これもひどいと回転性の目まいを生じたり失神することもあるんです。

そこから転じて、

むち打ち損傷の後、頸椎を乱暴に操作するとクラクラしたり吐き気を覚える原因を

椎骨動脈に分布する血管運動神経のダメージによる過敏症、

それによって生じた血管攣縮による脳貧血(脳幹の虚血⇒脳幹網様体の虚血で立ちくらみ/嘔吐中枢の虚血で吐き気・嘔吐)が原因していると考えている私です。


ついでに私はこれをボクサーの「落ち癖」の背景だと考えています。

「落ち癖」というのは軽いパンチをもらってもダウンしてしまうという症状です。

そうしたとき、現場では数か月間もスパーリング禁止にするんです。

その意味は血管運動神経の過敏症が落ち着く(傷ついたであろう血管運動神経が回復する)までそっとしておくという事なのでしょうね。

うん、経験則、侮りがたしです。

って…

脱線がはなはだしいので話を戻します…


Aさんの場合は右の後頭環椎間(第1頸椎と後頭骨の間)が狭く、動きを失っていました。

「浮動性目まい」の犯人はおそらくこれでしょう。

 

では「耳閉」の犯人はどこにいるのでしょうか?

Aさんの頭蓋を詳しく調べてみると右の側頭骨が外転したまま後傾して動きを失っています。

これは側頭骨の持つ生理的な運動から外れています。

『なんでこんな窮屈な形で固まってるんだろうか?』といぶかしく思うわけです。

どうやら右の胸鎖乳突筋と咬筋の緊張が側頭骨を引き込んでいたようです。

 図版引用:クリニカルマッサージ James H.clay/David M.pounds著 大谷素明 監訳 医道の日本社 出版

胸鎖乳突筋は内耳を包み込む乳様突起と鎖骨・胸骨をつなぐ筋肉なんですが、

フォーワードヘッドポスチャーを固定する筋肉でもあるんです。

この胸鎖乳突筋は耳鳴りなどの聴覚障害の原因にもなる筋です。

  図版引用:travel&simons' trigger point flip charts lippincot williams & wilkins

さらに、このフォーワードヘッドポスチャーでは顎関節の負担も強まるため咬筋の緊張も強まります。

この咬筋の故障は外耳道の違和感や痛みを引き出します。

図版引用:travel&simons' trigger point flip charts lippincot williams & wilkins

Aさんの治療では、症状に直結していた問題点として

「胸鎖乳突筋」「咬筋群」「第1頸椎」に手を入れたところ、症状の大幅な緩和を得ることができました。

あとは自宅でもできるセルフケアをお伝えして初回の治療を終えました。


ベンチプレスで肘が痛む~「肘の痛みとグリップ」の話~改

2017年07月07日 | 治療の話

~本編をお読みいただく前に~

下記はパワーの方にも、重量挙の方にも、あらゆるトレーニーの皆さんにお勧めしたい動画と動画を含む記事です。

普段の練習に、リカバリーにお役立てください。

〇プレスに伴う肘の故障のお勧め動画

〇お勧め記事(記事内にもセルフケア動画あり)

ベンチプレスの肩の痛み

リフターズケア:手首の痛み~セルフケア編~

リフターズケア:手首の痛み~テーピング編~

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今日はベンチプレスで起こりがちな「肘の痛み」についてのお話です。

トレーニングにおける『ビッグ3』の一つとしても有名な「ベンチプレス」は、おもに大胸筋と上腕三頭筋を鍛える種目です。

治療中、このベンチプレスをこよなく愛するAさん(ちなみにAさんは肩の故障で治療中)との会話。

 

Aさん

「僕の知り合いにベンチ(プレス)やっててテニス肘になったやつがいるんですよ。

肘の外側の痛みがなかなか取れないって困ってて…

なんでベンチやっててテニス肘になっちゃったんですかね?」

「おそらくは三頭筋の外側頭を傷めちゃったんだと思います。

ベンチは上腕三頭筋もメインターゲットになりますから。」

Aさん

「テニス肘って三頭筋の故障なんですか?

前腕の故障だって聞いたんですけど。」

 

▲ Right triceps brachii

「テニス肘もゴルフ肘も前腕の筋肉の故障だと言われていますが、

治療してみると三頭筋の故障を治療すると治るものがほとんどなんですよ。

反対に前腕だけを治療していてもなかなか治りません。

肘の外が痛むのをバックハンドテニス肘、内が痛むのをフォアハンドテニス肘とかゴルフ肘なんて呼ぶんですが

テニス肘もゴルフ肘もどちらも共通しているのは、得物をもって肘を曲げ伸ばしするところと

インパクトの瞬間は肘を伸ばす時で、三頭筋が強く働く瞬間だというところです。

三頭の強い筋力発揮が繰り返されるなかでダメージが蓄積して、肘の痛みが顔を出すんです。

ベンチは前腕の筋肉というよりは胸や三頭筋を鍛えるような種目でしょう⁉

だから三頭筋の過労が祟れば肘が痛むのも不思議じゃないんです。

ちなみに、

肘の外に痛みが出るときには三頭筋の外側頭、

内に痛みが出る時は内側等頭、

肘の頭に出る時は肘頭のすぐ上(三頭筋の長頭)にしこり(トリガーポイントを内包する硬結)が見つかります。

そのしこりを丁寧にほぐせば大体の肘の痛みは自分でも治せますよ。

そのお友達はサムレスグリップ(バーベルのシャフトから親指を外して四指と掌でバーを握る手法)ですか?」

Aさん

「あ~そうですね!

サムレスだと肘の外が痛むんですか?」

「サムレスでシャフトを持つと手首が反るでしょう⁉

この手首を反らせている筋肉の一つがテニス肘で犯人だと言われている長短橈側手根伸筋なんです。

手首が反ると長短橈側手根伸筋を含む前腕の伸筋(パーを作る・手首を反らせる側の筋肉)が固くなりますよね⁉

この前腕の伸筋は三頭筋の外側頭と肘の外側の上の部分(外側筋間中隔)に接点があるんです。

▲extensor carpi radialis brevis & longus / triceps brachii lateral head

※長短橈側手根伸筋は肘関節においては屈筋としての作用を持ち三頭筋は肘関節の伸筋としての作用を持つ。

これらの相反した作用は運動時の肘関節の安定化に貢献します。

作用がそう反することを拮抗作用と言いまして、関節の安定化にこの拮抗筋の作用も欠かせない要素になっている

という話はあまり知られていないところかもしれませんので付記しました。

構造的につながりがあるという事は前腕の伸筋は三頭筋の外側頭と一緒に働きやすい構造を持っているということになります。

ベンチでもテニスでも前腕の筋は得物との接点を安定させるためのいわば補助的な働きです。

これに対して動作のメインに働く(主動作筋となる)のは三頭筋ですからから、故障の原因も三頭筋がメインになるのだと思います。

そして、前腕の伸筋とつながりが強いのは三頭筋の外側頭なので肘の外が痛くなるんです。

反対にサムアラウンド(シャフトを包むように五指で握る支え方)で親指の握りが強い方は三頭筋の内側頭を故障しやすくなりますね。」

Aさん

「おれ、ベンチとかやると肘の内側が痛くなるんですよね…(;´∀`)」

「Aさんはサムアラウンドグリップですか?」

Aさん

「はい。」

「握りは結構強い方?」

Aさん

「そうかも⁉(;´∀`)

やっぱり腕(前腕)の筋肉とのつながりが関係してるんですね…」

「そうですね。

前腕の屈筋は三頭筋の内側頭と肘の内側の上の部分(内側筋間中隔)でつながりがあるようですので、

握りを強めると三頭筋の内側頭に力が集まります。」

▲thenar muscles flexor carpi radialis & ulna muscle / triceps brachii medial head

※母指の屈筋群の緊張や短縮は前腕屈筋の中でも手首のつまり(手関節のインピンジメント)に関与する橈側手根屈筋や尺側手根屈筋へと緊張を波及させます。

橈・尺側手根屈筋は肘関節においては屈筋としての作用を持ち三頭筋内側頭は肘関節の伸筋としての作用を持ちますので、

前述の長短橈側手根伸筋と上腕三頭筋外側頭と同じ関係性が生じます。


ここまでお話した時、やおらAさん三頭筋を触りながら手首を反らせたり曲げたりし、そして…

 

Aさん

「ほんとだ!手首反らせると三頭の外側に力が入る!握りこむと内側だ!!」

 

さすがはAさん。

話を聞くだけではなく、自身の腕を使って事の真偽を確かめ、そして、確証を得たわけです。

 

すると今度はAさんから興味深い提案がありました。

 

Aさん

「じゃあ俺の場合は痛い間だけでもサムレスグリップでやるのも手なのかな?」

 

と。

 

「いいアイデアです。

グリップを時折変えるのも怪我の予防や偏りなく鍛えるのに役立ちそうですね。

故障した部分は休ませつつ、今まで育て切れていなかった三頭筋の外側頭を鍛えられれば

故障が治ったときにはさらに効率的に三頭筋全体を使えるようになってることでしょう。

故障は後ろ向きな事柄ですけど、やりようによってさらに強くなるために役立てることもできるんです。

何度も失敗を繰り返すケースは怪我の痛みに挑んでしまったケースです。

『この痛みに打ち勝って…』というのは大きな間違いです。

それをして私はこの仕事に流れ着いちゃったんですよね(^^;

なので経験者は語ります。

痛みとは決して喧嘩をしないこと。

大事なのはケガを負った時にも冷静にその時々にできることに目を向けることなんです。

『痛み』は『痛まずにできること』を探るためのモノサシとして活用します。

厳密にいうと、痛みが出る前の『あっ!やばい!!』っていうあの感覚が出たらそれ以上追いかけないことです。

その場合は、動きの幅を『やばくない』範囲に狭めるか、『あっ!やばい!!』っていう感覚が出ない重量に下げてトレーニングをすることです。」

 

と、以上がAさんとの会話でした。

ベンチプレスで起こる肘の痛みの原因をお話ししたところ、

痛めた時にも成長をあきらめず、かつ傷を深めないための工夫に

「グリップに変化をつける」

という発想に行き着くあたりさすがはAさんです。

どのスポーツでも、気を付けていても怪我をしょい込むことはあります。

そんな時こそクレバーに現状を見極めて、できることを無理なく積んでゆく必要があると思います。

どんなときにも自棄にならず、まず冷静になること。

その上で前向きな変化を、競技者としての成長を諦めないという姿勢を貫くと、

必ず理に沿った答えが導かれてゆくものです。

そうして得た答えはさらに多くの気付きを与えてくれるから面白い。

Aさんとのやり取りが、そうした思考を持つ切っ掛けというかモデルになればいいなと思い

ブログに載せさせていただきました。

ちょっとした日々の治療の一幕ですが、

 

ハードにトレーニングをされている皆様にお役立ていただけたら嬉しいです。

=終わり=


「骨盤」「脊柱」の歪みと難産の関係

2017年05月30日 | 治療の話

骨盤や背骨のゆがみがあると難産になる!?

 

私の治療院へ訪れる妊娠さんたちの口からそういった不安が聞かれることは珍しくありません。

こんなこと言われたら、妊娠されているご本人はさぞや怖い思いをするだろうな…と思います。

でも、本当にそうなんでしょうか?

確かに妊娠出産は女性の身体に大きな負担がかかる出来事です。

決して舐めてかかれるようなことではないのは事実。

でも、だからと言っていたずらに不安をあおるのは母体に対していかがなものかと思うんです。

個人的には、

情報は困難を突き付けるものではなく困難を回避したり乗り越えるための手助けになってこそ意味を持つと思うんですよ。

とくに健康や医療の情報は総じて「安心」につながることが最も重要。(でもウソはだめ。)

と、いうことで今日は骨盤や脊柱の歪み(機能障害)と出産の関係について書いてゆきます。

 

私が治療のベースにしている「徒手医学:マニュアルメディシン」には産科学もあるんです。

海外では産科領域で徒手医学の知識・技術を役立てているお医者様方がいらっしゃるんですね。

そうした方々がまとめた情報を見てみると「骨盤や背骨のゆがみが~」という話には多くの誤解が隠れていることがわかります。

かいつまんで説明してみますね。

 

○骨盤の関節(仙腸関節/恥骨結合/腰仙関節ほか)が固まっているせいで出産が難しくなるのか?

という問いに対して。

妊婦さんの身体は出産に向けて関節の柔軟性を高める「リラキシン」というホルモンが分泌されます。

この「リラキシン」、「子宮」と「骨盤の関節」に強く作用する性質を持っています。

ですので、仙腸関節を含め骨盤周囲の関節が固くて出産を邪魔するという事は通常起こりません。

ここからは私見となりますが、

この場合問題となるのは仙骨の前後傾や骨盤下口の開閉をコントロールできないことだと考えています。

※書物には分娩時に仙骨の前後傾を補助することで分娩を手助けすることにも触れられています。

その原因は「関節の固さ」ではなく骨盤を支える筋肉と神経の連携が上手く行っていないことにあります。

とりわけ大切なのは下腹の筋肉たちのコントロールです。

これに対する解決策はストレッチをはじめとする「受動的な治療」ではありません。

上手に自身の身体を操作するための「運動」を身体に覚えこませること。

つまり運動療法(能動的な治療)が解決のカギとなると考えられます。

私の院では腰痛や膝痛のセルフケアにもつながる「ペルビックティルト」というエクササイズを妊婦さんにもお勧めしています。(血圧上昇への配慮と治療効果を高めるためのちょっとしたアレンジをしてお届けしています)

先日いらっしゃった妊婦さんはその体操だけで「仙骨の捻じれ(左斜軸上の左回旋)」と「右仙腸関節の固着」が取れてしまいました。

その理由も前出の「リラキシン」によるものでしょう。

なぜ運動だけで骨盤に生じた問題が解消できたのかと言えば、仙骨がそっぽ向いていたり仙腸関節が引っかかっていたりした原因が「関節が固まっている」ことにあるのではなく、骨盤の関節に備わる動きを支える周囲の筋肉、そしてその筋に通じる神経が「骨盤を上手にコントロール出来ていなかった」ことにあったからなのです。

骨盤の安定に必要なコントロールを失っていたという原因の結果が仙腸関節の「固まった状態」であるならば、やるべきことは「固まった仙腸関節」のストレッチではないのです。

これらの試みが出産に有利に働くかどうかを証明することは私にはできませんが、

骨盤の可動制限(仙骨の前後傾など)というものが出産を困難にする状況の背景にある以上、前向きな効果を狙えると考えています。

また同じ背景で生じる妊娠中の腰痛や膝の痛みにはすでに高い効果がみられています。


○骨盤の形体が出産を邪魔することがあるのか?

これはある条件によっては「ある」という事になるようです。

骨盤の出口の形状が狭い方の場合でかつ腰椎の反りが強い時(腰椎前方突出)には、出産時に神経痛を伴う腰痛や恥骨結合の分離(捻挫)が起こることがあるとされています。

でも、ですよ。

この場合の腰椎の問題は前出の下腹の筋群による骨盤への支えが弱くなった結果起こるものですから、

骨盤の形が悪くても、しっかりと下腹の筋群を含む骨盤(仙骨の前後傾/寛骨の開閉)を支える筋群の働きをキープできていれば回避し得ると考えることができます。

 

○脊柱の側弯症が出産を邪魔することがあるのか?

 中等度の側弯症までは出産の成功率に差はなかったそうです。(重症例に対する記載はありませんでした)

ただ、予定日よりも早い出産が多いとの指摘もあるそうです。

 

○尾骶骨の骨折は出産に影響するか?

これはある医師に聞いた話。

「よく『尻もちをついたら尾骨を骨折して、尾骶骨の先が内側へ折れ込んでしまったまま固まった』なんて話を聞くけれど

切ってみると尾骶骨はプラプラしているんだよ。

恐らく尾骶骨が動きを失っていた原因は周辺の筋肉たちの過緊張にあるんだろうね。」

という話を聞きました。

そう考えると尾骶骨が内に向いてるからと言って気に病む必要もなさそうです。

 

参考文献:『オステオパシー総覧』エンタプライズ 1998年

 

さて、いかがでしょう?

これらが海外の産科分野で「骨盤」や「脊柱」の徒手医学のスキルを活かしている医師の声だそうです。

ちょっとは不安が薄れましたでしょうか?

不安は一番の毒ですからこれを読んで、ホッと胸をなでおろしていただけたら書いた甲斐もあろうというもの。

 

あ、勘違いの無いように言いますが、

私は妊娠時に何もする必要がないと言っているわけではありません。

むしろ妊娠全期を通じて定期的に身体を整えることには大賛成です。

腰が痛い、手首が痛い、息が苦しい、そんな相談に徒手医学はちゃんと答えてくれますから、

都度現れる苦痛を我慢しすぎることなく気軽に頼ってもらいたいなと思います。

それから妊娠中の骨盤周囲への手入れは穏やかな手法をチョイスすることになります。

基本的にホルモンの影響で弛んだ関節に対して「ボキボキ」やるようなことはないんです。

ですので、その点もご安心ください。

 


過屈曲症候群⁉ 橈骨神経の広背筋腱での絞扼神経障害~三頭筋のマヒの治療から~

2017年02月27日 | 治療の話

先日の重量挙の大会でちょっと興味深い症例に出会いました。

相談者をAさんとしましょう。

Aさんはリフティングを嗜むナイスミドル(…というには早いか⁉(^^;)。

リフティングの腕前は私よりもずっとずっと上の方。

そのAさんが、この日はちょっとらしくない重量で試合をしていました。

不思議に思って聞くと「ここ半年、左の三頭筋に力が入らない」のだといいます。

見るとAさんの三頭筋は萎縮が始まっており、右よりもぐっと細くなっています。

どうやら筋のマヒ(不全麻痺)を生じているようです。 

Aさんの語る事の顛末はこうです。

半年前にセカンドプル(※1)の強化のためにダンベルスナッチ(※2)に取り組んでいたそうですが、

次第に三頭筋が痛むようになり、力が入らなくなっていったんだそうです。 

そして半年がたった今、Aさんの左の三頭筋はいまだ力が入り切らず委縮も見られるまでになってしまったそうです。

※1ウエイトリフティング用語。バーベルが膝上から股関節を通し、胸へと一気に引き上げるまでのフェーズを指します。

※2片手でダンベルを床から頭上に一気に持ち挙げる種目

 

三頭筋という筋肉は橈骨神経という神経に支配されています。

橈骨神経は頚神経の5~8番の神経線維と胸神経の1番で成り立つ神経ですが、

三頭筋へ向かう主要な要素は第七頚神経(7つある頸椎の中で、一番下の第7頸椎の上の隙間から伸びる神経束)となります。

Aさんの話を聞きながら私は、頸椎部(C7神経根)での故障よりも末梢(橈骨神経)での故障を思い浮かべていました。

ダンベルスナッチをしていて…という話でしたが、

初めは橈骨神経のマヒにありがちな「深酒をして隣の椅子にもたれて眠る」など、

上腕の外側中央を圧迫してマヒを起こすなんてストーリーを疑ってたんです。

なぜならAさん、お酒も大好きなので…

しかし、話を聞く限りそうしたエピソードもない様子。

また、仮にこの手の橈骨神経のマヒならば同じく橈骨神経に支配されている手首の伸筋もやられるはずで、

もしそうであれば、お化けの手のように手が垂れる「下垂手:かすいしゅ」という症状も出ていておかしくない。

でも「半年前には下垂手があった」といった話も無く、今現在も手首の動きはいたって正常運転…

 

となると、三頭筋単体のマヒを考えることになります。

重ねて聞けばAさん、一年ほど前に左の首の付け根をひどく痛めたことがあるとのこと。

なるほどAさんは左の胸鎖乳突筋が生まれつき短い先天性斜頚を持っています。

この特徴のせいで、Aさんの下位頸椎の左側の関節面は常に強い圧迫にさらされます。

こうした状況が続くと関節は傷つき変形し、さらには頚神経も損傷を受けやすい。

頚の故障のエピソードを聞くと、今度は一転して橈骨神経としてまとまる前の段階、

つまり頚椎症性神経根症のような頸神経の故障の線が疑わしく思えてきます。

ならば「下垂手」の現れなかったのも無理はないと言えそうです。

前腕の伸筋の中で第7頚神経が支配する指伸筋(指を反らせる働きのある筋)の働きが落ちていた可能性はあっても

第6頸椎が支配する長短橈側手根伸筋(手首を反らせる働きのある筋)なんかの働きが残っていたために下垂手が現れなかった…

といった筋も考えられるからです。

でも、指の伸筋を調べてみてもしっかり正常運転…

ついでに首の動きでの症状の再現(腕のしびれなど)もありません。

こうなると頚椎症性神経根症の線も根拠としてはちょっと弱くなります。

『もしかして、頸椎部の損傷自体は癒えてしまっていて、麻痺は後遺障害として残ったものなのかな?』

とも考えなくはなかったのですが、

首を痛めた1年前から腕の力が入らなくなった半年前では半年のブランクがありますし、

今現在のマヒの様子からも首の動きで症状の再現がないのはちょっと不自然です。

どうも頚椎症による筋力低下というには決め手に欠けるようです。

 

さて、困った…

 

とはならないんですね。

ここでちょっと脱線しますが、

治療では「評価」をすることがとっても大事なんです。

発症の背景を理解し、今現在の身体の状態を調べ…と、

判断は全容を把握した上で下す必要があるんです。

一つの現象だけで判断するのは誤診の元。

全容を把握するまで結論は急がない方が賢明です。

さて、話を戻して。

 

ここまでの調べで判ったのは

「どうやらまだ何かAさんの症状を読み解くには情報が必要なようだ」

ということなんです。

上腕の外側での問題も頸椎での問題も見られなかったことから、

今度はその二つの間、神経の経路上に何か問題がないか調べを進めます。

私はAさんの肩の動きを調べてみることにしました。

すると広背筋の腱の部分(脇の下に近いところ)に顕著な制限(動きの悪さ・短縮部位)を見つけました。

触れると三頭筋にしびれが広がると言います。

こうした反応は絞扼神経障害(神経が締め付けられて生じる障害)において神経線維が傷ついている部位によく見られるものです。

どうやらAさんの三頭筋のマヒは広背筋が絡んでいたようです。

この時、私の頭の中にはおぼろげな解剖図が浮かびます。

『確か橈骨神経は広背筋腱の前を通り過ぎたような…』

でも、広背筋の腱が三頭筋に向かう神経線維だけを狙い撃ちするなんてタイプの故障は聞いたことがありません。

しかし、状況証拠は広背筋腱での神経障害があると言います。

試しに広背筋の緊張を解いてみると、Aさんの三頭筋は力を取り戻してゆきます。

これを「治療的診断」というのですが、手を入れた後の反応もAさんの故障の原因はやはり広背筋腱部での絞扼神経障害であることを物語っています。

ここまで来た時にようやく気が付きました。

『これ、過外転症候群の広背筋版だ!』ということに。

過外転症候群というのは小胸筋という筋肉による尺骨神経の絞扼神経障害なのですが、

「つり革をつかむ」など、上肢を大きく横に開いたポジションによって生じる神経の故障なんです。

小胸筋は胸の筋肉でなので身体の前面についてます。

ですから、腕を横に開くことで尺骨神経を圧迫するんですね。

しかし、広背筋は身体の背面につく筋ですので、そのポジションでは神経を締め付けはしません。

でも、Aさんは発症時、ダンベルスナッチで腕を前へと振り上げる動作を繰り返しています。

この動作であれば広背筋で橈骨神経を締め付けても不思議はありません。

発症のメカニズムから言えば「過屈曲症候群」と言えそうだ、と、そう考えたんです。

 

しかし、それでも三頭筋単体のマヒの説明が付きません。

その点に関しては解剖学の資料を見てみないと結論が出せませんでしたが、

それでも結果から類推すれば

『橈骨神経の本幹から三頭筋への分枝が広背筋腱のあたりにあるんだろうな…』

と考えることができ、一人納得。

後日解剖のテキストで確認すると…

有りました

下の図を見ると「Radial narve:橈骨神経」の本幹から上腕三頭筋へ枝分かれした細い繊維が、見事に広背筋の腱を横切っています。

これであれば三頭筋だけにマヒを起こす原因として十分です。

図版引用:GRANT’S atlas of anatomy LWWより出版

 

まとめると、

結論としてAさんの症状は

ダンベルスナッチをする度に広背筋の腱で三頭筋を支配する細い神経繊維を繰り返し苛め続けたために

神経線維が傷ついたことで起きた「上腕三頭筋の麻痺」となります。

 

更に深読みすれば、

Aさんの「首の付け根をひどく痛めた経験」も今回の故障に絡んでいる可能性はなくはないでしょう。

というか、内心は大いに「ある」と考えています。

『ダブルクラッシュ』

という言葉を耳にしたことはありますでしょうか?

神経線維は複数個所での締め付けがあった場合に、

個々の締め付けでは神経症状を起こさない程度のものであっても神経症状を生じることがあるんです。

それが「ダブルクラッシュ」という故障です。

 

Aさんのケースで考えると、

1年前の「首の故障」というエピソードで第7頚神経のダメージが残っていたところにダンベルスナッチをやりこんだ。

頸椎部でのダメージに加え、脇の下でのダメージが重なった。

そのため、より容易に「麻痺」というより大きな症状に繋がった。

という可能性も否定できませんし、左右交互に「ダンベルスナッチ」を練習していて左にだけ麻痺がおこったことを踏まえればそう考える方が自然でしょう。

その「可能性」たちも踏まえれば、

「Aさんを治療する上では頚部の問題も考慮しておいた方がよさそうだ」

ということになります。

 

と、いうことで、

 

Aさんの治療では広背筋腱部へのケアに加え斜頚への対処も併せて行い、

さらにセルフケアを伝え、この日の治療を終えました。

 

しかし、まさか広背筋がねぇ…

Aさん独自の背景要因(斜頚や頚椎症の既往など)があったとはいえ

今まで知らなかった「過屈曲症候群」ともいえる故障のメカニズムに出会えたわけで、

とても学びの深い臨床を踏むことができて、この日は私にとってとても実りの多い日となりました。

臨床ではこうした発見がたくさん転がっています。

私たち臨床家は現場を離れたらだめですね。

やはり臨床家は現実と向き合えてこそ力を発揮できるし成長もできる。

知識先行の頭でっかちでもいけません。

でも、根拠を持たない独りよがりもいけません。

常々、私たちの学びは書物に記された2Dの情報を臨床を通じて3Dの解釈に落とし込んで初めて完成されるものなのだと思います。

そのことを忘れずに、これからも臨床と向き合ってゆこうと思う今日この頃なのでした。

おわり


「鼠蹊部から膝の内側が痛い」~大腿神経痛と誤診された内転筋・腰方形筋のトリガーポイント由来の痛み~

2017年01月30日 | 治療の話

↑大腿部の皮(知覚)神経の分布図

図版引用:Gray's Anatomy ヘンリーグレイ著

 

鼠蹊部から膝の内側の痛みの相談で来院されたAさん(70代女性)。

Aさんの既往症は変形性股関節症。

大腿部(鼠蹊部・大腿前面・大腿外側)の痛みの相談は、Aさんのような変形性股関節症の患者さんにはよくある相談で珍しい症状ではありません。

しかし、Aさんの口からはちょっと興味深い診断名が出てきました。

Aさん、病院で「神経痛」だと言われたっていうんです。

 

と、本題に入る前に、

ここでちょっと寄り道して「関節の変形と痛みの関係」と「変形性股関節症」について補足させてください。

 

まずは「関節の変形と痛みの関係」について

関節の「変形」というものは、その関節を取り巻く筋や靭帯による張力のバランスの狂いから、

長期間にわたり構造上無理のある運動を強いられることで生じます。

関節を支える「筋や靭帯」の張力バランスが狂った状態では、

過度に使われて疲弊してしまう部位や、使われなくなることで委縮してしまう部位が出てきます。

こうなると、過労を生じた筋などの組織は過労による痛みを

そして、委縮した筋や靭帯といった組織は脆弱性による痛み(組織は耐久限度を超えそうな負荷を与えると「痛み」を訴えます。ダメージを受けてもろくなった組織は軽い負荷でも痛みを生じるようになるのです。)を生じやすくなります。

また、構造上無理のある動きが繰り返されることで、関節周囲の軟部組織には細かな傷がたくさんできてしまいます。

この「細かな傷」が「できては治り、また傷ついて…」を繰り返すことで関節はその形を変えてゆくんです。

これが関節の変形の本態です。

よく「関節が変形しているから痛む」と考えられてしまいがちですが、それは勘違いなんですね。

正しくは「変形するような無理な動きが定着しているから、負担に耐えられなくなった組織から痛みが生じているのです。

だからこそ、徒手的な治療で「変形性関節症」に伴う痛みを癒すことができるわけなんです。

 

さて次に「変形性股関節症」について

この変形性股関節症というのは、書いて字のごとく股関節という関節に生じた関節の変形です。

この故障、僕らの間では略して変股(へんこ)って言われます。

その変股の特徴的な症状は、「股関節の強い可動制限」と「股関節周囲の痛み」です。

変股の患者さんでは股関節の外転動作(股を開く動作)と伸展動作(大股で一歩踏み出した時の後ろ側の脚を思い浮かべてください。あれが股関節の伸展です)の制限が強くあらわれます。

また、痛みは股関節の奥(関節炎を生じた時など)や鼠蹊部、太もも(内側が多いけど前面や外側、裏側にも出てきます)や膝(内側が多いですね)、腰(股関節の低可動性の代償として腰部の過用による故障を生じます)にも出てきます。

この変股、臼蓋形成不全(最近では発育性股関節形成不全とも呼ばれます)という乳児期に寛骨臼という骨盤側の大腿骨の受け皿の発達が上手に行われなかったケースに続発して発症することが多く、

その臼蓋形成不全は「男女比1:5~9」と、女性に多い故障なので変股もまた女性に多く発症します。

その多くは閉経後の、カルシウムの代謝がガクンと変わるころから問題が顕在化してゆきます。

変形性股関節症の場合、内転筋や腸腰筋、中小殿筋や梨状筋をはじめとする外旋六筋、ハムストリングスの過労による症状が生じやすくなります。

これは浅い臼蓋による股関節の不安定性を大腿骨頭に臼蓋を(骨盤を)かぶせる様にして安定させた結果、

いつも股関節を軽く曲げた姿勢で頑張ってるって状態を表しています。

こうした筋バランスをただすには大殿筋と下腹の腹筋群による骨盤を後傾させる(骨盤を立てる感じ)力を高めるといいんですが、

変形性股関節症では変形のために股関節の伸展や外転という動きが殺されてしまうので、

それらの筋群を運動に参加させるには関節の可動性を可能な限り取り戻すという手順も必要になります。

 

以上を前提として、Aさんの話に戻りましょう。

 

 

Aさんに病院での話を詳しく聞いてみると

「腿の付け根から膝の内側がいつも痛い」と話したところ、

レントゲンを撮り、膝の曲げ伸ばしを確認し、

「股関節も今まで通り。(股関節の変形はあっても炎症所見がみられていないということでしょう)

膝も問題がない。

腰椎に変形があるから、これは神経痛だよ。」

と言われたそうです。

おそらく病院の先生は外側型の腰部脊柱管狭窄症を疑われたようです。

たとえドクターの診断が下っていたとしても、

治療する以上は患者さんの状態をこちれでも調べてからでないと手は入れられませんので、

私の方でも早速Aさんの身体を調べてみることに。

 

始めに立位からの前後屈・左右の側屈回旋・スクワットなど、

全体の状態を見てみます。

しかし、「神経痛」と太鼓判を押されているならば出ていてほしい所見が見当たりません。

脊柱管狭窄症による下肢痛であれば立位での後屈や側屈でも再現がみられるはずですが、

それがないのです。

 

さらに、詳細を診てみることにしました。

しかし、

大腿神経のストレステストで有名なFNSテスト※をはじめ、

※うつぶせで踵をお尻につける運動から大腿神経をストレッチしてゆきます。

症状の再現があれば、つまり神経痛が出たら陽性と考えます。

大腿神経がダメージを負っているかどうかのストレステストです。


脊柱管狭窄を考慮してケンプテスト※を見てみても全く症状のショの字も出てきません。

※脊髄神経が末梢神経として脊柱から顔を覗かせる穴を椎間孔と言います。

その椎間孔は斜め後ろに脊柱をそらせることで狭めることができるんです。

例えば、右下肢の神経痛なら右斜め後ろに腰を逸らせると椎間孔が狭まることで神経を締め付けることができるんです。

で、神経に傷や腫れといったダメージがあれば神経痛(放散痛)が現れる、というテストです。

これもストレステストですね。

 

しからば脊柱管でのトラブルも踏まえ、立位体前屈(腰椎の屈曲)をチェック。

※これはヘルニアなんかで陽性になるテストですが、高齢の患者さんの場合は椎間板の変性による膨隆や椎体辺縁の骨棘による馬尾神経へのストレスの有無を見るために行います。

ついでにハイパーバックエクステンション※と、

※これは立位で行うケンプテストですね。

腰椎部での神経の絞扼(締め付け)を炙りだすのに必要なテストを追加しますが脚は一向に痛みません。

全部陰性です…

ちなみに皮膚の知覚も正常。

腱反射も正常。

つまり、痛みの感じられている大腿部(太もも)に通じる神経への検査では症状の再現が全くないのです。

 

これに対して、歩きつき(歩容といいます)を見てみると、異常歩行(トレンデレンブルグ徴候)がみられます。

どうやら動きの狂いの支点となるのは内転筋と腰方形筋のようです。

さらに痛い側の踵が付く瞬間と体重が乗る瞬間に痛みが感じられると言います。

これらの情報から、私の見立てでは同部の「筋膜由来の痛み」の線が濃厚となりました。

恐らく踵が付く瞬間(踵接地期)には大内転筋(股関節伸筋としての働きに着目)と腰方形筋が、

体重が乗る過程(~立脚中期)では長短内転筋(股関節屈筋としての作用に着目)が、

それぞれ引き伸ばされるように働く中で痛みを発しているのでしょう。

腰方形筋

長短内転筋

大内転筋

図版引用: Travel&Simons’ Trigger Point Flip Charts LippincottWilliams&Wilkins

 

確認のため、

内転筋や腰方形筋の長さを調べると、やはり健側(痛まない側)と比べて短く緊張しています。

さらに図にあるような圧痛点を丹念に探すとやはり図と同じ場所に圧痛点を見つけます。

それらを押圧すると件の場所(鼠蹊部から膝)に痛みが広がると言います。

ここまでで、すくなくとも痛みの訴えの原因の一つにトリガーポイントが確実にある、ということが解りました。

今度は、それぞれのトリガーポイントを可能な限り解放してみることで、推論の答え合わせを行います。

 

Aさんの歩容はだいぶきれいになり、鼠蹊部から膝の内側に広がる痛みは1割程度にまで減ったとのことでした。

どうやら見立ては間違っていなかったようです。

こういった手法を治療的診断と言います。

Aさんには神経痛の線は心配しなくていいことを伝えました。

でも、Aさんの顔には腑に落ちないと書いてあります。

そりゃそうですよね。

病院では「腰からくる神経痛」と言われたんですものね。

でも、こうしたケース、実はよくあることなんです。

多分、Aさんは結構上の腰椎(1番2番)まで変形があったんでしょう。

お医者さんもレントゲンだけを見て症状とかみ合う所見として『あ、これだ!』と考えたのかもしれません。

でも、私が行ったような「手」で行う昔ながらの理学検査をしなかったので、筋膜由来の痛みの可能性を見落とされたのでしょう。

診察での本当のところは当の先生しかわからないことですが、

一般的に病院では生死にかかわる重大な問題がないかを真っ先に考え判別してくれるところですので、

こういった生死の問題に直結しない問題について、忙しい診察の中では手順が省かれてしまうことも多いのかもしれません。

Aさんには、Aさんからうかがい知れた診察の様子(何をして何がされなかったか)を聞いた話と私の実施した検査で解かる範囲で考えられる線をお話し、無事ご納得いただくことができました。

お家でできるセルフケアを伝え、この日のAさんの治療を終えました。

=おわり=


オスグットシュラッター病~時には練習を休む勇気も必要です~

2016年09月12日 | 治療の話

中学一年生のA君の夢はバスケットボールの選手です。

小柄なA君は周囲の仲間に負けない強い気持ちの持ち主で、つらい練習にも音をあげることがありません。

しかし、自分よりも大きな身体を持つ仲間との練習は、時にA君にとってはより強い負荷としてA君の身体に襲 い掛かります。

そうした練習の中で、A君の膝は痛みで曲がらなくなってしまいました。

成長期の故障の中で軽視されがちなものの一つに「オスグットシュラッター病」という膝の故障があります。

要は四頭筋腱が付着する脛骨粗面に生じる疲労骨折の一種で、悪化すると、まだ骨として固まり切っていない軟骨の部分から脛骨結節ごと剥がれてゆきます。

痛そうでしょう!?

でも、現場では軽視されがちな故障なんですね。

「そのうち治るからほっとけ」 「気合で乗り切れ」

と言われがちな故障なんですけども、 ところがどっこい、そうそう治らないんですよね。

痛みが引かず練習を休む➡痛みが引いて練習再開する➡すぐに痛めて休む、

なんてことを身体が成長期を終えるまでの数年間ずっと繰り返してしまい、

選手として十分な成長ができなくなったり(「あ~、あのケガがなければきっといい選手になってただろうに…」ということ)、

スポーツを継続すること自体を諦めてしまうケースだってあるんです。

骨のケガを甘く見てはいけません。

A君の膝はパッと診ると「ジャンパー膝(四頭筋腱や膝蓋靭帯の故障)」のようでしたが、

注意深く見てみると痛みの出どころは骨膜で、骨の表面はかすかに肥厚しています。

そこからわかることというのは、腱の故障ではなくて骨の故障が疑わしいということです。

こじらせると成長期を終えるまでの数年間、膝の痛みと付き合う羽目になってしまいます。

できればここでしっかりと治しておきたいところ。

念のため1週間は安静にしてもう一度様子を見せてもらえるようお願いしました。

すると、A君も親御さんも「練習は休めない」と言います。

では、痛みの強い運動はやらないようコーチと話し合うようにアドバイスを送ると、それもできないとのこと。

練習に参加する以上は全力でやらなきゃいけない。

そういうルールなんだそうで…

幸い初回の診察でA君の膝はエクササイズに良い反応を示してくれています。

希望的観測の基に考えて、 エクササイズによる調整の力を借りて、故障の進展を食い止めることができないこともないかもしれません。

さらにA君の成長期の回復力にかけるというのもありかもしれません(個人的には子供にそんな博打を打たせたくないですが…)。

押し問答をしても仕方がないので、膝のセルフケアと患部の状態の確認の仕方を伝え、

悪化があるようならす ぐに練習から外れるよう念を押して、初回の治療を終えました。

1週間後、A君の膝はだいぶ良くなっていました。

まだ左右均等とは言えませんが、ほぼボトムまでしゃがむこともできています。

患部の痛みも1/2とのこと。

でも、骨膜を確認すると盛り上がってきていました。

やはりオスグットです。

こうしたケガは一旦こじらせると長く痛みと付き合うことになります。

「強い選手はみんなオスグットだよ!」 なんて話も耳にしますが、本当にそうでしょうか?

痛みと闘いながら行う運動では正しい身体操作が学べませんし、

崩れた動きによる二次的な故障のリスクも非 常に高い。

だから初期対応が大事なんです。

前出の一言には「オスグットを抱えてなかったらもっと優れた選手になっていたことでしょう」と、

私ならそ う答えますね。

成長期の故障はその後の人生に大きく影響してきます。

まだ、大したことのないうちにしっかりと治しておくことが、思いのほか重要です。

残念なことだけれども、今はまだA君はほかの子達よりも体格では劣っています。

声変わりも来ておらず、つまり成長のスパート期を迎えていません。

当然、骨もほかの子達よりも弱いんです。

それなのに根性とセンスだけで自分よりも成熟した身体を持つ仲間と渡り合っています。

相当な頑張りです。

でも、頑張れてきたから大丈夫!じゃないんです。

この二回で診た患部の変化は、今まさに、積もり積もった無茶による破たんが起き始めている、

という可能性 を示唆しています。

だからこそ「更に大きな故障をする前に、しっかり休んで患部の傷を治すことに専念したほうがいい」と伝えますが、それでも二人は「休めない」と言います。

もどかしいですね。

いったい誰が休めない状況を作ってるんでしょうか。
少なくとも子供たちじゃないですよね。

では誰でしょう?

答えは「大人たち」です。

A君にはこんな話をさせていただきました。

「おじさんはね、中学校の時に膝を壊してね、

かばって練習していたら腰を壊してね、

22歳の時に松葉杖が離せ なくなったんだ。

で、大好きだったものを手放して、今はこの仕事をしています。

おじさんの場合、この仕事が楽しくてしょうがないからこれで良かったんだけどね。(;^ω^) 」

 

そして親御さんにはこんな話をさせていただきました。

「だから、A君を取り巻く状況もこの後にコーチが下す判断もなんとなく見えるんですよ。

『いつまでチンタラやってんだ!練習出るなら死ぬ気でやらんかい!』

九分九厘こうなります。

だって多分、コーチはA君にフルスクワットテストをさせて、可動性や異常運動と疼痛の有無を確認する、

そ れから適切な練習メニューを組むなんていう視点や技術は持っていないでしょうから。

何とか走れるようになった彼を見て

『なんだ、できんじゃん。ビビッてねぇでガツンと行けよ!!気合気合!!!』

って、なると思うんですよね。

子供たちに「何があっても練習を休ませない」というルールに疑問を感じさせない「今」を作っていることを 考えればまず間違いないです。

で、あっという間にケガが悪化して、もっと長期の休養が必要になる。

私はそうでした。」

 

そして、もうこうなっては子供対コーチのコミュニケーションではどうにもならないと考え、

保護者の方に強くお願いをしました。

「大人の口からコーチに話してください。」と。

 

コーチ自身、子供たちの身体について十分な判断が付かないから目の前の事態が起こっています。

もちろんコーチだけを責めることはできません。

だって本人に聞けば「大丈夫です!やれます!!」としか言いませんもん。

それに、コーチ側の立場の方からは、保護者からの圧力で…(練習を厳しくせざるを得ない)といった話も聞 いたことがあります。

でもね、どっちも子供に目がいっていないというところが一番の問題です。

根っこにある目的を整理してみましょう。

何のためのスポーツなのでしょうか?

誰のためのスポーツなのでしょうか?

学校の部活は勝つためだけにやるんでしょうか?

違いますよね。

負けるという経験も含めて、勝つためのプロセスから得られる多くの気づき、

それを経験させてあげることで子供の成長を促すことこそが 目的なんじゃないでしょうか?

決して母校や周辺の大人たちの名誉のために身を捧げることが目的ではないですよね。

冷静になって根っこから考えてみれば、きっと大人(精神的な成熟という意味で)だったら誰でも解かるんです。

でも、大人同士が互いに正直な腹の内を明かせなくなって明後日の方向で綱引きをしてしまっていたらどうでしょうか?

一 番大切な子供に目が向けられなくなっていたらどうでしょうか?

治療をしていて、そんなケースって多いように思います。

間違っていたらすみません。

俺は違う!って意見もきそうですね。

そう、あなたは違う(たぶん)!

でも、そうした状況が多くあって、理不尽にケガでつぶれていく子供たちがいるってことも事実なんです。

それが問題だと感じています。

なんにせよ、ここは私の専門家としての意見を聞いてほしいところですね。

ケガが治らなくてどうにもならなかった時の私が学んだことは

「後悔は、後に立つから後悔なんだな」

ってことでした。

人生において、タラレバはありません。

後になってから「やっぱあの時こうしとけば…」は通用しませんからね。

いまの1~3週間のブランクなんてケガが深まってからの数か月~数年のブランクをしょい込むリスクを考えた ら…

言葉は悪いですが屁みたいなもんです。

A君にはこう言いました。

「練習を休むことも勇気だよ!」と。

大丈夫。

君の根性は1級品です。

身体が付いて来たらほっといてもドカンと行けるから、今は自分の身体に足並みを合わせて 「成長するための時間」を積み重ねていこうね。

 

=追記=

その後、A君の親御さんは先生と話し合いを持ち、しばらくの間、A君は練習を休めるようになりました。

どういった話し合いがなされたかはわかりませんが、A君にとっては必要な判断だったと思います。

勇気が要ったことでしょう。

さすがはA君の親御さんです。

 

実は、今年の夏は中学生の子達からの相談が例年よりも多かったんです。

どの子も故障の名前は違えども環境要因が一緒だったもので、 思い切ってブログに書いてみました。

コーチにたてついたらレギュラー獲れなくなる なんて声も聞もありました。

「その前に、お子さんつぶれちゃいますよ!?」

「冷静に本人のための選択肢を選んであげましょうよ。」

なんて話を親御さんにすることもしばしばでした。

ちょっと続くな…と思われましたので、

同じ中学生の子を持つ親として、 そして「ぶっ壊れても練習し続けるゼ!」ってやって失敗した人間としての本音を書かせていただきました。

集団の中での振る舞いとして「空気を読む」のは大事なことですが、

読んではいけない空気は読まない勇気を持つことも大事だと思います。

また、子供たちの周囲の大人たちが協力関係を上手に築けないと、

こうしたボタンの掛け違いも起こるのかもしれません。

それを変えるには、私たち大人にも勇気が必要なのかもしれませんね。

声を挙げることで面倒をしょい込むこともあるかもしれませんが、

互いの立ち位置から見えるものを子供たちの成長に還元するために共有し、

有機的な関係性が築けるように一歩前に進み出る勇気があれば、

もっと有意義な青春時代を子供たちに過ごさせてあげられるかもしれません。

以上、独白でした。


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