四頭筋の筋挫傷からのリカバリー<第3話>

2019年04月23日 | 治療の話

さて、延び延びになっていた「四頭筋の筋挫傷からのリカバリー」の話。

だいぶ間延びしてしまったので今までのおさらいから。

事故は昨年9月5日に起こりました。

そのころ私は秋の大会(関東マスターズ)へ向けて練習を重ねており、

事故の日の私は疲れた体を引きずって義務感だけで練習に行きました。

事故は集中力を欠いたままクイックリフトの練習をし、手を滑らせてバーベルを膝に落とすというもの。

落としてはいけないジムであったためとっさに膝で受けてしまったのででした。

傷害部位は膝のお皿の上あたり。

肉離れでいうところの二度の筋挫傷。

発症から3日はテーピングとお薬(消炎鎮痛剤)のお世話になり、

4日目から損傷部位の回復を促す目的でペルビックティルトというエクササイズを開始しました。

【ペルビックティルト】

 

それから、前回の記事では書き忘れていたのですが

傷ついて狂ってしまった膝の動きを正常化するために日常生活では以下の二つの工夫をしていました。

 

<工夫1>

下肢の関節運動を正常化する効果を持つ「アンクルテープ」「ニーテープ」(別名「TOYOTAMAテープ」。

自身の編み出した手法です。

変形性膝関節症やジャンパーズニー、腸脛靭帯炎など膝の故障全般の治療に役立つテープです。

 

膝・足首の調整:ニーテープとアンクルテープ(TOYOTAMA TAPE)の張り方

<工夫2>

姿勢制御の正常化のために「フィジオエイド」という足につける装具を利用しました。

姿勢制御に関する反射を引き出すことで姿勢バランスの崩れを補正し、正しい姿勢と筋バランスを引き出す装具です。

現在、意匠登録に向けて準備中。

詳細はまたの機会に…

 

6日目にはさらにヒップスラストを追加しました。

【ヒップスラスト】

このヒップスラストをペルビックティルトと併せて行うと、体軸の安定性に対する効果はペルビックティルト単体よりも高くなります。

体軸が安定すると不良姿勢に起因した四肢の筋バランスの異常も解消されます。

下肢においては四頭筋やハムストリングスの異常緊張も解けますから、前屈も後屈もスクワット動作も広くスムースにすることができます。

傷からの侵害刺激を受けて生じた下肢の異常な筋緊張も大幅に緩和してくれますので、今回のような下肢の傷害では組織の回復に大いに役立ちます。

 

そうこうして8日目。

急性炎症も落ち着いたので、ダメージなくできる動作を探りに行くことを目的にリフティングの練習を再開しました。

〇受傷後8日目の練習メニュー

・ウォームアップ

ペルビックティルト / ヒップスラスト / 脛骨大体関節のMWMs

脛骨大体関節のMWMs 

・ハイスナッチ:3レップで70%の重量まで。1レップで82%までできましたがここで膝に違和感が出現。

・ハイクリーン&ジャーク:クリーン3-ジャーク1。こちらも70%で違和感出現。

※スナッチもクリーンもハイでやったのはしゃがみ込む動作が小さく膝への負担が小さいからです。

動作の理解に再度動画を載せます↓

high snatch 40kg

high clean & jerk 40kg

このころの練習では膝をキネシオテープとエラスティックテープで保護しました。

練習に対する感想としては思いのほか重量を触れたなといった感じでした。

損傷の程度としては決して軽いものではなかっただけに、ほっと胸をなでおろしたのを覚えています。

 

翌日(受傷後9日目)には膝以外の補強を行います。

運動刺激自身が回復に関わる種々のホルモンや再生因子を引き出すトリガーとなりますので、回復のためにも適度な運動刺激を入れるという選択をしたのです。

〇受傷後9日目の練習メニュー

・ベンチプレス:ほとんどやったことがないので少しずつ重量を挙げつつ5~3レップでフォーム練習。

・ディップス:目標は10レップ3セットでしたが8・6・4レップがやっとでした。

・チンニング(懸垂):これもストリクト(反動をつけない)で5レップできれば…と考えていたのですがなんと2レップでドボン。

 キッピングプルアップ(反動を使った懸垂)で5レップの3セットがやっとでした。

・レッグスラスト:これはペルビックティルトの強化版です。

 骨盤前面を支える下腹の筋をしっかり鍛えつつ、腸腰筋の遠心性収縮のコントロール(遠心性収縮は脳からのコントロールのみ)

 を学習させ腰椎・骨盤・股関節の正常なコントロールを手に入れるトレーニング方法です。

 膝の故障にはケアエクササイズとしても役立ちます。

動画はコチラ⇒【レッグスラスト】

 

以上、ここまでが前回までの話と補足説明。

 

ここからが続きのお話となります。

 

その後は3~4日に一度、「8日目のメニュー」を違和感を上限に回復状況を探りつつ行い、

間に「9日目のメニュー」を入れたり入れられなかったり(お仕事の関係で時間がコンスタントに作れませんでした)が続きます。

また棒を使ったウエイトリフティングのフォーム練習は日常の中で暇を見つけてはちょくちょく行いました。

そうして、受傷後3週間がたったところで自体重でのフルスクワットができるようになりました。

怪我の程度から考えるとかなり早い回復です。

今回のアクシデントでは実験的に普段患者様に提案しているセルフケアに絞って回復を追うことをテーマとしましたが、

それらのエクササイズたちがしっかりと機能してくれることが実体験として確認でき、仕事上の大きな収穫となりました。

 

そして自体重のスクワットができるようになってから3日後(受賞後24日後)、

今後の練習強度を決めるために、重りを担いでのバックスクワットのスコアを確認しました。

〇受傷後24日目の練習メニュー

・バックスクワット:アップセットは5レップ~3レップで挙げて行きます。

 ベストの-15kgあたりから違和感が出始めましたが、様子を見ながら重量を挙げてゆきました。

 2.5kg刻みで一本ずつ挙げて行き、-10kgで軽い痛みを感じたため終了しました。

 パフォーマンスとしては91.7%のできでした。

・ハイクリーン:クライアントの練習に「VBT:速度基準トレーニング」の導入を検討していたため計測器の試運転もかねて

 30%と60%のハイクリーンを行いました。

・補強:チンニング(懸垂)/ レッグスラスト / ディップス / FT(ヒップスラストの強化版。機能的側弯症の改善にも高い効果を発揮する優れものです。)

【FT】

この時点では膝の保護に貼っていたエラスティックテープは1/2ほどまで減らせていました。

スクワットの結果は当初予想していたよりもスコアも高く、回復も順調であることが分かります。

90%を超えたのでセットを組むこともできそうですが、損傷後2か月は瘢痕組織は脆い(リモデリング期といいます)ので追い込み過ぎには注意が必要です。

この日の練習は痛みをこらえるようなことはせずに終えましたが、翌日には傷跡に軽い痛みが現れました。

でも、これはいたって正常な反応で心配のないものです。

ダメージを受けた組織は正常な組織よりも弱いので、健常な組織と比べて「非常に強い運動をした」ことになり、いわゆる強い筋肉痛を起こすものなのです。

リハビリではよくある現象ですのでここでびっくりしないことです。

ここで大切なのはトレーニング後の回復を数日掛けて見極めることです。

動作痛(私の場合はスクワット動作)と傷跡に現れた圧痛が落ち着いたのを確認したら次の練習に移ります。

この圧痛や動作痛は問題のないものであれば通常、2日程度で消えます。

それ以上痛みが続く場合は練習中の「違和感」が「痛み」ではなかったか振り返ってみましょう。

上手くゆかないケースの多くは痛みを無視した追い込みをしていたケースです。

怪我をした時は

『これは痛みではない!こんな程度、痛みとは認めない!』

とおかしな思考にとらわれてしまうものです。

治ったときに振り返ってみると

『あれは痛みだったよなぁ…(^_^;)』

となるのですが、人間、早くもとの練習を再開したくて焦っているときには自分に都合の良い解釈をしてしまいやすいものです。

怪我からの回復記にはそれをぐっとこらえて、クレバーな対応を心がけましょう。

冷静な判断ができれば怪我はちゃんと治すことができます。

実際、この痛みは翌々日(26日目)には消えていました。

〇27日目の練習

・スナッチ:ロー(しゃがみ込む)スナッチに挑戦しました。ストラップを使用してですが、嬉しいことにベストの-3kg(70kg)まで取ることができました。

・クリーン&ジャーク:これもローでベストの-8kg(85kg)まで取れました。

クイックリフトは負荷が強いのでセットは組まず、サッと挙げられる重量を確認したら練習終了です。

回復期は欲張らないことが大切です。

次の練習までの間は自宅でディップスやレッグスラスト、FTに取り組みました。

その後の練習は以下の通り。

〇31日目の練習

 十分な時間がなく、27日の練習と同じ内容です。

エラスティックテープによる保護は外し、膝の保護はサポーターのみ(通常の練習と同じ条件です)で練習しました。

・スナッチ:ストラップを使わず-8kg(65kg)まで。

・クリーン&ジャーク:立てませんでしたが90kg(-3kg)をキャッチするところまでできました。

膝の痛みもなくキャッチができてホッとしたのを覚えています。

〇34日目の練習

 ・スナッチ:ストラップを使わずに3レップで82%まで挙げました。

 怪我前はハイスナッチ(下までしゃがまずにキャッチするスナッチ)で取れた重量ですが、

 ロースナッチ(下までしゃがみ込むスナッチ)で3本とるのが精いっぱいでした。

 つまり、怪我で失われた地力はまだ元のレベルまで育っていないということです。

・ボックススナッチハイプル:35cmの台にバーベルを置いて、そこから胸へ引き上げる練習種目です。

 脚の出力を高める(神経系の適応を促す)目的で90kgまで触りました。

・クリーン&ジャーク:脚が効いてしまったのか80kgまで。

・ベンチプレス

・懸垂:キッピングで5レップを5セット

・ポックン:韓国のウエイトリフターがやっている(いた?)というかなり負荷の高い腹筋です。

 これを5レップ5セット

 

〇36日目の練習

練習後の膝のダメージの抜けがよかったので、サラッとフロントスクワットだけ行いました。

嬉しいことに自己ベストタイ(100kg)を立つことができました。

 

〇38日目の練習

・スナッチ:ストラップを使っていますが自己ベストタイの73kgを立つことができました。

・クリーン&ジャーク:ジャークは失敗でしたが、クリーンベストの-2kg(93kg)まで立つことができました。 

 

両側四頭筋遠位部筋挫傷後38日目

 

当初は回復に2か月以上を見込んでいたので38日目でスタート地点まで戻ることができたのには驚きもありつつ、非常にうれしかったのを覚えています。

お気づきの方もおられるかと思いますが、ウエイトリフティングの種目練習を入れ始めてからスクワットはほとんどやっていませんでした。

膝の耐久性を考えたとき、クイックリフトとスクワットを両方やり込むのは負荷が大きすぎると考えたからです。

回復期の瘢痕組織は正常な強度を持っていません。

それは傷をつなぐコラーゲンの繊維が無秩序に張り巡らされていて、関節機能に沿った運動方向からの負荷に耐える力が低いためです。

正常な運動方向を支える線維だけを選択的に育てるためには適度な運動と適度な休養が必要です。

クイックリフトのような瞬間的な屈伸動作は負荷が強いのであまり多くの種目で患部を追いこむのではなくクイックリフト単体の刺激で十分と考えたのでした。

しかも、瞬間的な遠心性の伸張刺激は瘢痕組織内のコラーゲン繊維に対し、関節の支えに必要な繊維を強化し、必要のない繊維を排除するのに役立ちます。

もちろん「適度に行えば」の但し付きですが。

ともあれ、受傷後38日目を境にスクワットもデッドリフトもセットを組んで行うようになりました。

もちろん患部の違和感にはよくよく耳を澄ましての練習であることには変わりません。

セットを組み始めてからさらに2か月(つまり受傷後3か月)頃からスクワットで扱える重量も伸び始め、

1月にはスナッチもジャークも1kgの記録更新ができ、2月の頭にスクワットのベストを5kg更新できました。

それからさらに1か月半後の現在。

ボックススナッチでは80kg(+5kg)に成功し、クリーン&ジャーク95kg(+1kg)で、ボックス練習では100kg(+5kg)のクリーンに成功することができました。

バックスクワットもさらに2.5kg、フロンとスクワットも3kg伸びました。

今回の怪我は結果として怪我前の練習に戻るまで5か月弱かかりました。

学ぶことも多かったのですが、怪我がなければ今のスコアは昨年中に出ていたかもしれません。

そう考えるとやはり怪我はないに越したことはありませんね。

みなさんも怪我にはお気を付けください。

怪我をしてしまったら、怪我を抱えた自分(の数字)と向き合って、冷静にリハビリに取り組んでいただきたいと思います。

リハビリ期のトレーニングにおける基本ルールはいたってシンプルです。

痛みのない範囲で患部の違和感を上限とした安全なトレーニング強度を探ること。

決して痛みに挑みかかることの無いように。

これにつきます。

どうにもならんと思えても、視点を変えれば解決の方法は見つかるものです。

この記事が故障の繰り返しに悩む方の助けとなれることを願っています。

開けぬ夜などありません。

どうしたらいいか迷ったら、一人で悩まずいつでもご相談ください。

チーム単位のサポートも承りますので、お気軽にご連絡ください。

 

とよたま手技治療院 

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