水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

一年後の今日(2)

2020年01月10日 | 学年だよりなど
2学年だより「一年後の今日(2)」


 人は一瞬で変わる可能性をもってはいるが、なかなか変われないのも事実だ。
 脳がそのように働いているからだ。
 人間の脳は「自分」という生命体の維持を最優先しようとする。
 人が変化を好まず惰性で生きようとする姿は、生命体としてはごくあたりまえだと言える。
 だから、何かを変えようとするには、苦痛をともなう。
 逆に考えると、いったん何かを変えることができたなら、変わった後の状態が普通になる。
 勉強するのが普通になっている人は、本を読んだり、ノートをとったりすること自体に苦痛を感じないが、何もしない日には微妙にものたりなくなる。
 毎日運動するのが普通の人は、運動できなかった日に体がモゾモゾして眠れないのと同じだ。
 ひとたび何かをやると決めてやりきった後は、その経験が基準となる。
 つまり「普通」のレベルが上がる。
 進学校とよばれる学校、とくに東大に何人も入るほどの学校になればなるほど、生徒たちは「たいして勉強していない」という。
 実際に彼らのなかでは「たいして」やってないのだ。
 もちろん、世間一般の感覚では、ものすごく頑張っているように見える。
 しかし彼らは「せいぜい5時間くらいしか勉強してなかったですから」と言う。
 勉強に慣れてない人は、1時間、2時間でやった気になり、そのあと三日ぐらい休んでしまう。
 運動に慣れていない人が突然5㎞ほど走ってみると、筋肉痛が……と言ってその後一ヶ月何もしないのと同じかもしれない。何もしないどころか「ご褒美に」暴飲暴食までしてしまう。
 ここで一発何かをやると決めたときは、とことんのめり込んでみるといい。
 友達づきあいを断ち切ってかまわないし、趣味的なものに費やす時間はゼロにする。
 生命を維持するためにすること以外は、すべてをそれに捧げるような生活をする。
 ラグビー日本代表チームが過ごしてきた日々のように。
 小惑星リュウグウでの探査を終えたハヤブサ2は、今年の終わりに地球に帰還する。
 人工探査機の打ち上げで最もエネルギーを要するのは、打ち上げの時だ。
 地球から飛び立つ時と、軌道にのってからとでは、エネルギーの使い方が全く異なる。
 みなさんが過ごす高校時代は、人生におけるロケット打ち上げ時にあたる。
 莫大な費用をかけて開発し、大量のエネルギーが注ぎ込まれて地球を飛び立っていくロケットのように、人としてのリソース(資源)のすべてを、今やることに注ぎ込んでみよう。
 飛び立って、人として普通のレベルが変わった後は、エネルギーを減らしていい。
 自分的にのんびりしていても、周囲からは思い切り飛び続けているように見えるだろう。
 そしてまた、「これだ!」というものを見つけた時には、すべてのリソースを注ぎ込む。
 そうやって、人としてなし得る仕事の「普通」を節目節目で上げていけることが、人生の豊かさだと言える。その最初の段階にみなさんはさしかかっている。
 一年後、別人に生まれ変わったみなさんの姿を見るのが楽しみになってきた。
コメント
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