水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

ものの見方

2020年10月14日 | 学年だよりなど
  3学年だより「ものの見方」


 友人の○○君が、そばに座っている――。この事象は、科学的にどう見えるか。
 「60㎏の質量を持つ物体が速度ゼロでそこにある」状態とか、「OとCとHとN分子が動的平衡状態を保っている」状態と見えるのだろうか(適当ですいません)。
 文系の人が見れば、「18歳で選挙権を手にしたばかりの一市民」とか「いつも明るいが実は内面に深い悩みを抱えている存在」に見えたりするだろう。
 恋愛感情を抱く誰かが目にしたなら、「いつも眠そうな目がセクシーでたまらない」と見えてしまうかもしれない。
 「ここに友人Aが存在すると考えているのは自分だけであり、本当は存在しないのではないか、存在を証明するものはないのではないか」と哲学的に考える人もいるかもしれない。
 世の中のあるとあらゆる事象は、見る人によって見え方が異なる。
 同じ人が見ていても、その時の体調や気分で見え方が異なる。
 たとえば文学は、「死を意識したとき人は世の中がどう見えるのか」を小説という形で具象化する。
 たとえば音楽は「苦しみの果てに得られたかすかな喜び」をメロディに具現化する。
 いろいろなものの見方があり、それを他者に伝えるいいろいろな方法がある。
 勉強とは、その無限にある「いろいろなもの」のうちのいくつかを、自分のものにしていく行為だ。
 大学に進んで学ぶということは、「ものの見方」を一つでも身につけることであり、同時に「その見方が絶対ではない」とわかることだろう。

 2012年6月。ブラジルのリオデジャネイロで国連の「持続可能な開発会議」が行われた。
 世界各国の政府関係者、国会議員などおよそ3万人が参加し、「自然と調和した人間社会の発展や貧困問題」が話し合われた。
 会議初日、各国首脳によるスピーチの最後に、南米のある小国の大統領が演壇に立つ。


~ 会場にお越しの政府や代表のみなさま、ありがとうございます。
 ここにご招待いただいたブラジル国、そしてディルマ・ルセフ大統領に感謝いたします。
 私の前にここに立って演説した、心良きプレゼンターのみなさまにも感謝いたします。
 国を代表する者同士、人類が必要とする国同士の決議を議決しなければならない。その素直な志をここで表現しているのだと思います。
 しかし、頭の中にある厳しい疑問を声に出させてください。
 午後からずっと話されていたことは、「持続可能な発展と世界の貧困をなくすこと」でした。
 けれども、私たちの本音は何なのでしょうか。
 現在の裕福な国々の発展と消費モデルを真似することなのでしょうか。
        (佐藤美由紀『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』双葉社) ~


 ノーネクタイのラフな出で立ち。国連演説らしからぬ語り口。
 そして建前に隠された本音は何かとストレートに問いかけるスピーチに、会場の人達は引き込まれていく。
コメント
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