山での遭難には、道迷いや疲労での行動不能が多いが、とりわけ中高年登山者(=登山者の大半)に目につくのは、バランスを崩しての滑落(打ち所が悪ければ即死)。
これは中高年固有の弱点によるもの。
何しろ、片足立ちの標準タイムは、年齢が高くなるにつれ短くなり、さらに”閉眼”を付け加えると、その標準タイムはグッと短くなる。
整地されていない普通の山道(斜面に岩や木の根が露出、あるいは崩壊地で、片側は谷底)はただでさえバランスを崩しやすい。
言い換えれば、平地の歩行では凍結でもしていなければ経験しないスリップ・つまづき現象が山道では普通に発生する。
ということは、山道ではスリップは起こりうるものとして、そうなった時の瞬時のバランス回復(転倒・滑落の防御)が重要となる。
その瞬発的バランス回復力が年齢に比例して落ちるわけだ。
このバランス回復には、まずは下半身のあちこちの筋肉の収縮力が必要。
簡単に言えば、直立を維持するための筋肉群の連動。
さらに、倒れない=重心からの垂線を足底部内に収めるための重力感覚が、姿勢を維持する動きの前提となる。
その感覚は内耳の耳石に由来し、そしてその感覚と筋肉反射とをつなぐ小脳の機能がポイントとなる。
中高年登山者は、これらが衰えている(きちんと鍛えていない)から、滑落しやすくなるのだ。
大学で山岳部だったが今では高尾山や御岳山レベルで満足している私でも、”閉眼片足立ち”のトレーニングを(ときどき)して、直立維持の筋肉群と小脳(の神経回路)を鍛えている。
なので、先日滑落死者を出した戸隠山の難所”蟻の門渡り”なら今でも平気で歩けるだろう→関連記事「閉眼片足立ちが困難な理由」。