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デフ・ヴォイス 丸山正樹

初めて読む作家。警察を退職し手話通訳士として再起を志す主人公が、自分や周囲の人々との関わりを見つめながら、正義と公正さをもってある殺人事件の真相に迫っていく。本書で著者が書きたかったのはあとがきにもあるように、ろう者を巡る様々な事実や問題点で、ミステリーという衣を纏わせているのは世の中の人一人でも多くにこの話を読んでもらいたいという強い意志の表れだということがひしひしと伝わってくる。ろう者には、生まれつき、中途から、重い難聴といった人々がいて、それぞれが違う意見を持っているということ。更に全員ろうの家族、両親がろうの聴者の子ども、といった立場の人々もいる。また、手話には「日本手話」という伝統的な手話と比較的新しい「日本語対応手話」の2種類があって、使う人の来歴などで使われ方や使われる場面も違う。更に、教育の現場においても、できる限り聴者の発音に近づけるための「口話法」や「バイリンガル教育」などがあり、それも立場によって賛否が様々だという。本当に知らなかったことばかりで、読んで良かったと強く思った。前半、主人公が被告人と検察の通訳を担当する中で「被告人は黙秘権という概念を理解していない」と言い切る場面は、この本の重みを象徴しているようで特に印象的だった。(「デフ・ヴォイス」 丸山正樹、文春文庫)
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