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歴史の定説を破る 保坂正康

知人に勧められた一冊。明治以降に日本が行った日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦という4つの戦争の顛末を教えてくれる解説書だ。題名と目次をみると、「日清、日露は日本の負け」「第二次世界大戦は日本の勝ち」というのが定説の逆であるかのように書かれているが、中学校の授業でも日露戦争は勝ったとは言えないと習ったので、定説と逆というほどではないし、第二次世界大戦も戦後の日本の平和や経済発展を考えれば物は言い様というところだろう。そんな感じなのでほとんど期待しないで読み進めたが、そうした無理やり逆説であることを強調する必要のないくらい面白いし為になる一冊だった。最も強く感じたのは、既に国家間の戦争が勝ち負けを云々するものではないくらい破壊的で残虐なものになってしまっていることと、いくつもの戦争を経て何を学んだか、何を教訓とすべきかという2点だ。近代化以前の2国が争った日清戦争では、戦後多額の賠償金と領土的権益を得て、日本は戦争は儲かると「学んで」しまった。その為、賠償金の8割が軍事費増強に当てられることになる。また、ロシアの国内事情で終結した日露戦争では、賠償金ゼロで思うような権益が得られず、もっと軍備を拡張して徹底的な戦果を上げなければダメだと「学んで」しまう。さらに漁夫の利を得たような第一次世界大戦では、戦地となった欧州各国が武器の強力化による膨大な人的被害から、軍縮などで戦争のあり方を見直すべきことを学んだ一方、日本ではそうしたことを学ばずに第二次世界大戦へと向かってしまう。また第一次世界大戦で大きな損害を被った欧州では戦争が経済の消耗戦という意味での国力総力戦であることを学んだにも関わらず、日本ではそれを国民全員が命を賭けるという意味での総力戦と思い続けてしまった。そして、第二次世界大戦で多くの空襲や原爆被災による甚大な人的被害でようやく近代後の戦争がどういうものかを学び、「戦争で失ったものは戦争で取り返す」という考えの間違いを学んだということになる。こうしたことを頭の中で整理できる有意義な読書だった。(「歴史の定説を破る」 保坂正康、朝日新書)
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