ふぶきの部屋

皇室問題を中心に、政治から宝塚まで。
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韓国史劇風小説「天皇の母」190(時限爆弾のフィクション4

2015-07-10 07:36:00 | 小説「天皇の母」181-

ただいま

学校から帰って来たマコは,

いつにない静寂を感じた。

「お母様はご公務?」

「いえ・・・今、宮様のお部屋に」

そう答えたのは古参の侍女で、書斎を指さす。

そう。じゃあ、ご挨拶

「それはおよしになった方が

どうして?」

なにやら御二方で悩んでおられます」

侍女は小さな声で囁いた。

歌会始の歌の事。最後の最後なんです。で、お二人とも同じようなお歌を詠まれて。

ええ、とっても微笑ましいと思いますわ。だけど」

何ていうお歌?」

コウノトリのお歌だそうです

コウノトリ。どんなかしらね

マコさま、お聞きになったら私にもこっそり教えてくださいませ。コウノトリといえば

両殿下は9月にコウノトリの里を訪問されてます。きっとその時の事を歌われたんでしょう

うまく出来ないのかしら」

いえ・・・」

侍女はマコのコートを受け取りブラシをかけてハンガーにつるしていく。それから

お茶の準備をし始める。時折、若い侍女を呼びつけてテーブルをふかせたり、

なかなかに忙しい。が、彼女の口もまた忙しく動いていた。

何でもお二人が同時にコウノトリの歌を詠まれたのが問題のようで。

コウノトリといえば、ほら・・・・ねえ・・・」

マコはよくわからないといった顔をしたが、それでもそれが東宮家に関わる事なのだと

いう事はうすうす気づいていた。

この所、東宮家に関する話はタブーだし、両親は言葉の一つ一つを選んで

話すようになった。

皇太子妃の誕生日。突如夕食会のキャンセルが来たのが1時間前で

準備が整っていた両親は、ため息をついて着替えていたっけ。

 

お姉さま。早くおやつを食べましょうよ」

勢いよくカコが声をかけてきたので、マコはそちらを向いた。

と、同時に書斎のドアがあき、母が出てきた。

お帰りなさい。マコ。早く着替えていらっしゃい。カコちゃんが手を洗って

何も変わったところはみえなかったのだが。

 

12月も中旬になると、恒例の「皇室ご一家」写真とビデオの撮影がある。

その日はマコもカコもおめかしをして参内する。

といってもいつも、パステルカラーの姉妹お揃いのワンピースだったり

ツーピースだったりするのだが。

カコはいつも平凡な形のワンピースを嫌って、何かかにか自分流に

アレンジをしょうとする。好みもはっきりしていて、それを押し通そうとするのだが

母に阻止される。

大きくなったら私、思い切りおしゃれしちゃう

カコはそんな風に言ってる。

マコはどちらかといえば、与えられたものを着るだけでよかった。

贅沢しようとは思わないし、何よりもその場にあってさえいればと考える。

カコみたいに髪型がどうの、リボンがどうのと考えられる頭脳はないなあと。

年に一度の撮影は祖父母に会えるのでマコもカコも好きな行事ではあったが

アイコが生まれてからというもの、一種の「苦行」になってしまった。

一つは皇太子一家の到着がいつも予定より遅れる事。

そしてもう一つはアイコの機嫌を取り結ぶのが大変である事。

予定が遅れるといっても1分や2分ではない。

一時間も二時間も平気で遅れるのだ。

天皇も皇后も公務に追われ、プライベートな時間があまりない。

その中でぎりぎり時間をとっているのだが、皇太子一家はとにかく時間を守らない。

アイコが生まれる前は、撮影の合間に天皇が話し相手をしてくれたり、一緒に遊んで

くれて、それが映像になって流れるという事もあったが、今では祖父母は

とにかく皇太子一家が何事もなく皇居に到着するかどうかで気もそぞろと言った感じだ。

アイコはいつもフランス製の恐ろしく高級な服を着ていて

皇太子妃はそれを自慢したいのか、毎年

そちらはどこで服を買うの?」と聞いてくる。その度に母は

さあ・・・どこだったかしらね」と笑うのだが、皇太子妃は

ベビー服はフランス製がいいと思わない?」などと畳み掛けてくるのだ。

そうでしょうね。娘達はもう大きくて。妃殿下が羨ましいわ」などと母は答えるが

内心はどう思っているのか。

カコはライバル心を燃やしているのか、そおっとアイコのレースに触ろうと

したりするのだが、「汚れるから」とマサコはその手を払いのける。

私の手は綺麗よ」と小さなカコは言うのだが、慌てて母が「ごめんなさいね」と

謝る。

失礼なのは皇太子妃の方だとマコは思ったけど、母の困った表情を見ると

可哀想になってカコの手を引っ張る。

ダメったらダメなの」

父は素知らぬ顔で聞こえないふりをするし。

こんな時、マコもカコも自分達がとても傷ついている事を感じる。

小さい頃から「皇族というのは国民に尽くす存在」であると教えられてきた。

公の場に出ない限りは普通の家と同じであると。

贅沢をしてはいけない。それは国民の税金なんだからとも。

そんな皇族の常識をことぼとく破っている一家が目の前にいる。

あちらは許されてこちらはダメな理由はなんだろう。

 

そしてもう一つ嫌なのは、アイコにはびったりと出仕のフクサコがついてくること。

通常、天皇皇后にお目見え出来るのは女官からだ。

出仕は女官よりも身分が低いので、プライベートな場には入って来ない。

フクサコは「皇太子妃の特別のはからい」で撮影場所にまで足を踏み入れ

カメラの撮影が始まってから終わるまで必死にアイコをあやす。

おもちゃを引っ張り出し、視線をカメラに向けさせようと、とにかく必死に大声で

アイコさまーーこっち。こっちですよ。ほら、うさぎちゃんです。可愛いでしょ?

こっちをご覧くださいーー

とやるのだ。これでは誰も笑えなくなってしまう。

とうとう今年は天皇が「もういい加減にしたらどうだい」と言い出した。

アイコも4歳になったんだから一人でいられるだろう。ここにはカコだっているのだし

フクサコを入れないならアイコは出しません

即座にマサコは口答えをした。その迫力に思わずマコは顔をそむけ

カコはキコに抱き着いた。

アイコはフクサコじゃないきゃダメなんです

アイコの瞳はフクサコではなく、カコの方を向いていた。

大人ではない女の子に興味を抱いたようだった。

しかし、その体はしっかりとマサコに捕まえられている。

もう・・・しょうがないね

壁の時計を見て天皇はつぶやいた。

次の予定が詰まっている。今はとにかく早く撮影を終わらせなければ。

身分違いで本来なら入る事が許されないフクサコは、意気揚々と今年もまた

「アイコ様、こっちこっち。こっちをご覧ください。私がいますよ」と笑顔いっぱいで

声をかける。

それに対し、爆笑寸前の皇太子夫妻とわれ関せずで微笑む天皇と皇后、

微妙な表情のアキシノノミヤ一家、そして笑いもせず、ただ音がする方を見る

アイコの姿がそこにあった。

カコはあからさまにふくれっ面になった。

いくら小学生でもムードの悪さには気づいたのだろう。

そんなカコに母は「にっこりしなくてはだめですよ」と厳しく言っている。

笑える筈がないじゃないかとマコは思う。

大人の事情があるのはわかる。わかるけど、それを今、小学生の妹に

押し付けなくてもいいのではないかとマコは心の中で叫ぶ。

そういう自分だってまだ中学生。

だけどカコとは違う。私は姉だし、宮家の長女。

いつもいつも笑うに笑えず、泣くに泣けず。じっと忍耐の両親を支えなくては。

カコ、ほら、少しお話しましょう

マコは無理に笑顔で話しかけた。

ちょっとおどけて見せる。それを見たカコが笑った。

そして笑ったカコに誘われたかのようにアイコも少し微笑んだ。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」189(時限爆弾のフィクション3)

2015-06-03 06:30:00 | 小説「天皇の母」181-

その文章を読んだ時、天皇も皇后も言葉も出ず、唖然茫然とするばかりだった。

互いに顔を見合わせ、どちらが先に言葉を発するだろうとさぐりあうかのような。

あまりの静寂に、隣室に控える女官達は何かあったのか?と勘繰ってしまう程だった。

慢性のストレス因子などが原因になっている場合・・・・というのは皇室の環境の事かね

天皇はうなるように言った。言葉の端々に多少の怒りを感じる。

皇室というのは一種独特な環境ですから

皇后はそう言って見解文に目を落とした。

発症に影響した環境面のストレス因子を積極的に取り除き、

ご活動の範囲を広げていっていただくことが大切になります・・・これが医者の言うことかね。

発症に影響したストレスが原因なら離婚すればいいのに」

陛下、トシノミヤがいるのですよ

皇后は厳しい顔つきで言った。

どんな母親でも娘は可愛いものです。今だって何とかトシノミヤを元気にさせようと

努力しているのではありませんか。環境のストレスというならそれは皇室ではなく

トシノミヤの事でしょう」

だったら療育すればいいだけの事だ。どうも東宮を見ているとただ単に隠したい

だけではないのかと」

当たり前です」

皇后は少しむきになった。

子供、特に初めての子供を育てるのは母親にとって大きな圧力です。

陛下のお子を間違って育ててはいけないというプレッシャーは計り知れません。

私だって」

ミーだって?」

色々悩みましたもの

そうはいってもね。不満たらたらではないの?出産後に公務をしたからとか

回りが配慮しなかったのですわ。私達と時代が違うという事を回りが理解しなかった

「随分とさっきからミーは庇うんだね。皇太子妃を

いいえ。そういうつもりはありません。ただ、女の気持ちというのは女にしかわからない

ものです。殿方にはどうしたって

そういう風に言われるとなにやら罪悪感にかられる天皇はおしだまる。

皇后も言葉をきってお茶を飲む。

この見解文を読み、皇后の心に去来したもの。

それは苦しかった「過去」

請われるままに皇太子と結婚した。あの時は若かったし怖いものがなかった。

どんな環境でもやっていけると自負していた。

裕福な家に生まれたお嬢様で終わりたくなかったから学問を身につけた。

美しさだけは天性ものだったけれど。

本当に努力したのだ。

努力しても認められた事はなかったと思う。

そもそも「努力」を顔に出す事自体「センスがない」と言われてしまうのだから。

それでも皇后は闘って来た。いつか頂点を目指す・・・・到達する・・・その日まで。

しかし、この若い(皇后からすればである)皇太子妃はそれほど打たれ強いわけでも

なさそうだ。

だけどやっぱりこの医師団の見解はおかしいと思うがね。

診察なんかしていないんじゃないか?ただの言い訳だよ。

これでは皇室と宮内庁が悪者に見えるじゃないか。医師団ときちんと話すべきだ。

今後の事もあるしね」

それはおやめになった方が

皇后はやんわりと止めた。

そんな事をしたら東宮妃が傷つきますわ

傷つくだって?」

ええ。自分達の主張が間違っていると真っ向から言われて傷つかない人が

いますか?ましてや陛下に」

だって事実だろう?」

けれど事実を明らかにすればいいというものではありませんわ。東宮妃は東宮妃なのです。

メンツを守ってやらなくては。たとえこれが医師が書いたものではないにしても

東宮職から出されているという事は、つまり承認されている訳ですから」

「じゃあ、どうするんだい?」

何も。今は何もできません。黙って見守るしか」

しかし、こんな馬鹿にした文章を国民が受け入れると思うかね」

受け入れているじゃありませんか。この文章に関してどこからか抗議が来ましたか?」

問われて天皇はまた黙る。

それよりも私達が気にしなければならないのは、どうやったら皇太子妃が心を開いて

くれるかという事。今は閉じているのです。心を閉ざしているから、疑心暗鬼になっているのです。

主治医がきちんと投薬をしていると書いてあるんですもの。きっと大丈夫です」

「いつになったらその疑心暗鬼が解けるのかね」

さあ・・・それは私にもわかりませんが

時間がないのだよ

天皇は苛立った。さっきから妻が嫁の味方ばかりするのが気に入らない。

皇統の問題はそんな軽い話ではないのに。

そうはいっても、皇太子妃に今さら子供を産めとはいえませんでしょう。もう40を

超えているんですもの」

「だからどうしたらいいかと悩んでいるんじゃないか。その事に比べたら・・・・・」

アイコがいるではありませんか?」

微笑んだ皇后のセリフに天皇は思わず「え?」と腰を浮かしそうになった。

一瞬、妻にも老いの症状が?と思う程に。

ミー、皇統は男系の男子と決まっている

アイコは男系女子です。男系女子の即位は過去にありました。ですから珍しくないのでは

ではその次はどうなるんだね。あのアイコが普通に結婚して・・・いや、内親王の即位は

独身と決まっている」

それだって皇室典範を改正すればすむ事です。だって本当にこんな事態はない事ですもの。

大昔のように皇室の状態によって法律を変える事が出来る時代ならよろしいけど

今は」

アキシノノミヤがいる

男女の間で差別する事を国民が許すでしょうか」

静かに皇后は言った。

「ことここに至っては流れに任せるしかないのでは?何かに拘って尾を切るような真似は

しない方がよろしいかと」

一言も言い返せなかった。もうすぐ70になろうとする天皇には。

 

マサコの誕生日は散々だった。

前日に、皇居に里帰りしたサヤコを交えての夕食会には出席したのに

その日は朝から「風邪気味」と言い出し、誰一人会う事が出来なかったのである。

事前に連絡でもあればみな無駄な外出をしなくてよかったのに

当日の朝になって突如「風邪」と言われたものだから、周囲は大慌てとなる。

風邪気味であっても風邪かどうかはわからない(侍医に見せなかったので)

ただ、延々と部屋に引きこもるマサコに、みな必死で声をかけたら無駄だった。

一応、学友と呼ばれた人たちや、学校などで世話になった人達も好きか嫌いかは

別にしてかけつけてくれたのだが、その誰にも会う事がなく、門前払いとなってしまった。

東宮職は謝る事もしなかった。

彼らはもう次からは絶対に来ないと心の中で誓ったろう。

こんな無礼千万な皇太子妃は初めてだった・・・・しかし、世間はまだ騙されている。

一番迷惑をこうむったのは天皇と皇后だった。

定例の「誕生日夕食会」の為に2時間も前から着替え等を済ませ、出発する為に

待機していたのに、夕方5時になって突如「夕食会中止」の連絡が来たのだから。

さすがの天皇は不快のあまり、表情をこわばらせ、自分の部屋にぷいっと入ってしまった。

残された皇后は「大丈夫かしらね」といいつつ、「スープを届けるように」と

大膳に指示をするのだった。

その気遣いに、侍従も女官もみな、涙を流さんばかりに感動したのだった。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」188(時限爆弾のフィクション3)

2015-05-26 08:00:00 | 小説「天皇の母」181-

12月1日。アイコは4歳の誕生日を迎えた。

幼稚園の受験に合格し、得意満面だった。

皇居に向かう車の中ではうさぎのぬいぐるみの手を振った。

みんなが喜ぶから」とキャプションがつけられたが、「喜ばれたからしてあげる」

という感覚を4歳の子供が持つとはとうてい思えず、周囲はしらけたものだ。

病気の時によくして貰ったから今度はしてあげる」というようなエピソードも披露

された事があるが、どれもこれも空々しくてしかも寒々としていた。

さすがにやりすぎじゃないの?」

と、アイコの誕生日の祝いに久しぶりに一家勢揃いした中華料理屋で

レイコはあざ笑うように言った。

ねえ、セッちゃんはどう思う?」

隣で黙々と食事を続けるセツコは小さく「私もやりすぎだと思うわ」と言った。

でもこれはお父様の深いお考えがあるんでしょうから

セツコの痛烈な皮肉もヒサシには褒め言葉に聞こえたらしい。

グラスを上げて「その通り」と大きな声を出した。

お義父さんのお考えにはなかなか及びません」と皇太子は笑い

追従するようにレイコの夫やセツコの夫も口角を上げた。

一人当たり5万は下らないこの中華料理店で夕方から夜中まで

どんちゃん騒ぎをするのが好きな一家である。

何かと言えばいつもここに来て、飲んで食べて喋り倒す。

店の迷惑など考えない。当然、費用は全て東宮持ちだから

ヒサシ達の懐は痛くもかゆくもない。

なかなか大変な事なんですよ。皇室典範を改正するというのは

ヒサシは多少酔いが回って来たのか舌が滑らかになる。

一度決まったものを覆すというのはね。しかし、世の中がそれを望んでいるのです。

日本というのはそもそもが旧弊な国だった。そうでしょう?殿下?

そうだろイケダ君、シブヤ君。家父長制度だの男尊女卑など、どれ程の人が

苦労して来たか。

私の母などもね、こういっちゃなんだが、あの時代の女でしたよ。

だからいつも父に怒鳴られ、けられ・・・だけど口答え一つ出来なかった。

うちが貧乏だったのは国の制度のせい。母が虐げられたのは大日本帝国憲法のせい。

全く嫌な時代に生まれたもんだと思いました。

しかし、マサコのお陰で。これは本当の事ですよ。マサjコのおかげで

私は・・今時の言葉では何というのかな。仕返し?いや・・・」

お父様、それはリベンジでしょ」

レイコが助け舟を出した。

そうそう、リベンジだった。リベンジ。人生のリベンジ。宮様が女性天皇になれば

泣きながら死んで行った私の母も浮かばれましょう」

そんな深いお心があったとは

皇太子はひたすら感心し、杯を傾ける。

私の人生はどうなるのよ」ぼそっとマサコがつぶやく。

しつこいようだが、マサコの心の中にあるのは

「強いられた結婚」であり「絶対に戻る事が出来ない実家への郷愁」なのである。

彼女は自らが興味本位で皇太子に近づいた事すっかり忘れていたし

そもそもがあっちこっちへ渡り歩く転勤族の家族にとって、どこが「実家」なのか

わかる筈もない。

アメリカなのかソ連なのか、それともコンクリートの家なのか。

あら、まあちゃんは今幸せでしょう?アイコちゃんはこんなに大きくなったんだもの。

これから幼稚園に入って小学生になって・・・・楽しみよね」

ユミコの言葉にマサコは「でも私は全然楽しくないわよ」と返した。

今以上に窮屈になるのは嫌」

夫が天皇になり自分が皇后になる。娘が皇太子となりやがて天皇になる。

一生海外旅行が許されない身なのだろうか。

心配するな。そのうちに外国に自由に行かせてやるから。その為にも

宮様の立場を強化する必要があるんだよ。母親ならそこの所をよく考えて

行動しなさい。誰のおかげでこんな生活が出来ると思ってる?

皇太子殿下のお陰ですよ。殿下なしのマサコなど想像できません」

その言葉に皇太子は気をよくしたのか、にっこりと笑って紹興酒を一口飲んだ。

宮様が私の孫というだけなら平凡でいいのです。レイコの子供のようにね。

しかし、宮様は殿下のお子です。将来の天皇のお子。だから皇太子にならなければ

いけないのです。わかりますね」

ええ。僕もそう思います」

だからこそ、イメージ大作戦ですよ。嘘をつくわけじゃない。宮様の現在

持っている能力を最大限に引出し、それを宣伝するんです。天皇家といえども

そこらへんは他の国の王族と変わりありませんな

まるで北の将軍様みたいね

またもぼそっとセツコが言ったので、マサコは顔色を変えた。

ちょっとどういう意味よ」

別に言葉以上の意味はないけど」

一緒にしないでよ。格が違うでしょ

やめないか」

ヒサシが怒鳴った。

全くお前たちはいい歳をして・・・・お前の躾がなっとらん

ヒサシはみなの目の前で妻を罵倒した。セツコはこっそり横を向いて舌をだし

マサコは母が貶められている事に気づきもしなかった。

「マサコ、何をやってもいいから私達の作戦に水を差す事だけはしないでくれよ。

前にも言ったが来年になれば新しい東宮大夫を入れてやる。そしたら誰も

お前を批判出来ないからな」

飴と鞭の使い分けが上手なヒサシの言葉にマサコは黙ってしまった。 

アイコに誕生日がやってくると、次はマサコの誕生日である。

あんなに夜中まで飲んで食べた事をすっかり忘れてしまったように

マサコは部屋にひきこもった。

通常なら行われる筈の記者会見など無視だ。

その代わり、奇妙な一文が公開された。

いわゆる「東宮職医師団の見解」である。

東宮職の医師達とオーノの共同執筆と言われたが、実際にはオーノ一人で

書いたものであったし、中身を見るとそれが本当に「医師」としての見解なのか

それとも「医師の感情的見解」なのかわからなくなる。

文章は3つに分かれていた。

病名と治療方針」と銘打たれた文は

すでに発表しております「適応障害」という診断は、国際的に広く使用されている

アメリカ精神医学会の公式の診断分類『精神疾患の診断・統計マニュアル

第4版改訂版DSM―IV―TR』に基づいて行ったものです。

DSM―IV―TRによれば、適応障害は、「はっきりと同定される社会心理的ストレス因子に反応して、

臨床的に著しい情緒的または行動的症状が出現することである」と定義され、

うつ病や不安障害などの他の精神疾患の診断基準は満たさないが、

著しい苦痛を伴うものであるとされています。

適応障害はストレス因子(またはその結果)がなくなれば6ヶ月程度で解決するとされてはいますが、

慢性のストレス因子などが原因になっている場合には長期間続くことがありうるとされており、

妃殿下の場合は後者に相当すると考えております。

治療に関しては、環境に働きかけてストレス因子を軽減することが最も重要であり、

精神療法(カウンセリング)を行いつつ、補助的に薬物療法を行い、

気分転換なども活用することが望ましいとされており、

妃殿下の治療もその方針にそって行ってきております」

次は「現在の御病状として

妃殿下ご自身は、治療に対して非常に前向きで医師団の指示を守ろうと努力していただいており、

ご病状は着実に回復されてきております。

また、こうした治療では、ご家族など周囲の方々のサポートが非常に重要ですが、

皇太子殿下が常にあたたかく、そして力強く支えて下さっていることが

最も大きい要素になっているものと拝見しております。

内親王殿下との間にしっかりとした心の交流がおありのことや、

天皇皇后両陛下に温かく見守り支えていただいていることも

治療の大きな助けになっております。

 ご回復の兆候としては、その時々の心身の具合に応じて上手に考えや気持ちを切り替えられ、

柔軟に活動に取り組まれるようにもなっておられ、ご関心のある学問領域の書籍や雑誌を

お読みになる機会も少しずつ増えてきていらっしゃいます。

また、様々な行事にも徐々にご出席いただけるようになっていらっしゃいます。

薬物療法に関しても、妃殿下のご努力もあって、服用量を減らせてきております。

しかし、その一方で、現時点ではまだご体調には波がおありで、

心身のストレスがご体調に影響を及ぼしやすい状態も続いております。

そのために、頑張って行動しようとされてもその前やその時に強い緊張を感じられたり

後でお疲れを感じられたりすることがあります。

したがって、妃殿下はご公務をまだ本格的に再開できないことを心苦しく感じていらしゃいますが、

医師団としては、続けてご公務をしていただけるまでにはまだ回復されていらっしゃらないと

判断しております。

今後さらに回復していっていただくためには、発症に影響した環境面のストレス因子を

積極的に取り除き、ご活動の範囲を広げていっていただくことが大切になります。

以下に、今後の課題に関する医学的な立場からの見解について述べさせていただきます」

最後は「今後の課題として

妃殿下は、皇族としてのご自身の役割や皇室の将来を真剣に考えていらっしゃいます。

したがって、医師団としては、今後そうしたお気持ちを大切にしていただきながら、

より望ましい形でご公務に復帰していっていただくことが重要であると考えております。

なお、ご公務の内容に関しては、皇太子殿下が先の御誕生日にお示しいただいた方向で、

東宮職で具体的に検討していただくのが望ましいと考えております。

とくに現在は、妃殿下はご回復の過程にあり、妃殿下のご体調をうかがいながら

その時々で可能なものをお願いしながら、焦ることなく徐々に復帰していっていただきたいと

考えております。

ご公務と並行して、ご成婚前の知識や経験が生かされるような形での

ライフワーク的なお仕事やご研究をされ、

それをご公務に生かしていっていただくことが、

今後大変重要になると考えております。

また、妃殿下が、ご自身の体験や知識を生かしてお力を発揮できるご活動を

今後積極的に行われることは、ご回復にとってはもちろんのこと、

改善された後にも心の健康を維持されるために重要です。

育児とご公務の両立も今後の重要な課題です。

妃殿下におかれては、ご流産に続くご妊娠、ご出産と初めての育児に関連した心身の

お疲れが残られているご出産後間もなくから地方のご公務が始まり、

その後も地方行啓を含めた多くのご公務が続かれ、

それがご病気の引き金になったものと考えられます。

とくにご公務のためとはいえ、深い愛情を感じていらっしゃる内親王殿下と

すごされる時間を思うようにとれないことに、妃殿下はとても心を痛められたものと考えております。

妃殿下は、ご公務の前にはご予定の調整やお出かけのご準備など、

ご自身でされなくてはならないことが多くおありです。

その一方で、ご家庭内のお仕事のほかに、東宮職から相談を受けながら

東宮内部の様々な懸案事項の処理などのご決定をされなくてはならず、

対外的なご公務以外にも非常に多くのことをされなくてはなりません。

したがって、今後のご公務に関しては、妃殿下が育児などご家庭で果たされる役割や、

妃殿下のライフワークになるようなご活動、ご研究とバランスをとりながら選んでいただけるように、

東宮職で慎重に検討していただきたいと考えております。

こうしたご公務やご研究に加えて、日常生活の中で興味を持って楽しまれることを

積極的に行っていただくことも大切です。

これまで妃殿下は、ご公務などのお仕事を大切にしたいというお気持ちが強く、

私的なお楽しみを控えられる傾向がおありであったために、

意識されないうちに心理的な閉塞感を強く感じられるようになられたのではないかと考えられます。

しかも、妃殿下はお立場上自由な外出がかなわないために、

必然的に情報遮断や感覚遮断の状態になられ、それ自体がストレスになるだけでなく、

ストレスに対する抵抗力を弱められることにもなりました。

そうした状況を改善するために、医師団は、私的外出や運動を可能な範囲で行って

いただくようにご提案してきました。

妃殿下は最初、ご公務がおできになっていない状態で私的な楽しみをもたれることに

躊躇される面がおありでしたが、

こうしたご活動を通して心によい刺激を与えていただくことが治療的に重要であるとの

医師団の説明をご理解いただき、ご協力いただいております。

こうしたことはご病状の改善に役立つだけでなく、心身の健康を維持していただくためにも

重要であると考えております。医師団は、この一年あまり治療に携わらせていただきましたが、

妃殿下がこれまでに直面されてきたストレスは、

医師団の想像以上に強いものであったということをあらためて実感しております。

今後は、上に挙げた課題の改善に加えて、

日常の生活でのプライバシーの確保やご負担の少ない取材設定の工夫など、

ストレス要因の軽減についても改善を進めていただくことが、

妃殿下が心の健康をさらに取り戻していかれる上で不可欠であると考えます。

治療の成果が上がるまでにはなお時間が必要ですので、

東宮職をはじめとして妃殿下の周囲の方々の協力がとても重要です。

幸いなことに、多くの人たちが妃殿下のために、

そして皇太子殿下や内親王殿下のために、

力をあわせてお手伝いをしていこうという気持ちを強くお持ちです。

医師団としては、そうした方々のお力を借りながらさらに治療を続けていく所存です。

特に、妃殿下におかれては、

ご公務に伴う心身のご負担は、私的なご活動の場合に比べて格段に強く、

次第に私的なご活動がおできになってこられることが

そのままご公務につながるものではありません。

妃殿下は元来精神的健康度が非常に高くていらっしゃり

順調なご回復の過程におありでもあり、これまでのような前向きのご努力によって、

たとえ時間がかかっても回復していかれるものと医師団は考えております。

現在はまだご回復の過程でいらしゃることを十分にご理解いただき、

静かに見守っていただければありがたいと考えております」

「これは・・・・・」

それを読んだ誰もが驚き絶句した。

何と解釈すべきかわからなかった。

それほどにこの医師団の見解は衝撃的であったし、さらにいうなら

完全に「錦の御旗」と化したのである。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」187(時限爆弾のフィクション2)

2015-05-19 07:00:00 | 小説「天皇の母」181-

クロダヨシキ・サヤコ夫妻の結婚を祝う茶会が開かれたのは

11月も下旬になってからの事だった。

公式行事などが開かれる大広間に、皇太子夫妻以下

ずらりと皇族や旧皇族、政府関係者が居並ぶ中、天皇と皇后に続いて

クロダ夫妻が入ってくる。

ヨシキはその張りつめたような雰囲気と一斉にこちらを見る視線に

ただただ心臓がドキドキし、いてもたってもいられなかった。

自分達が部屋に入ると(正確には天皇と皇后が)

全員が頭を下げる。

ヨシキとサヤコも視線を伏せるようにして広間に入ったのだが、

ふと視線がぶつかりあった。

それは皇太子夫妻だった。

全員が頭を垂れる中、皇太子夫妻だけは真一文字にこちらをみつめていたのだった。

それが「普通の事」のようににこにこ笑って見下げるような皇太子と

「格下に下げる頭はない」とばかりにツンとしているマサコを見た時

ヨシキの胸には大きな不安がよぎった。

この二人は両陛下でさえ怖いと思わないのだな

恐れを知らない者ほど怖いものはないとヨシキは思う。

なぜなら己のやっている事の重大さに気づかないからだ。

目の前の事で精一杯、自分の立場を守る事で精一杯の皇太子夫妻は

ヨシキからみれば故意に頭を下げなかったというより、「礼」そのものを

意識しなくなったがゆえの自然な振る舞いに見えた。

どんな英雄も格が上がりすぎると己が見えなくなる。自分の行為が

相手にどのように見られているかとか、相手はどう感じるかなどとは考えられないのだ。

側近は全てイエスマンばかり。

様々な国の独裁者はそうやって裸の王様になり、やがて滅びて行く。

でも、この二人は滅びないだろう)とヨシキは直感した。

少なくとも自分達が生きている間はこうやって誰よりも上から見続けるに

違いない。

皇太子の冷たい笑顔。これでも妻の兄、自分の義兄なのだ。

ヨシキは知っていた。

小さい頃、皇室番組で仲良く遊んでいた3人兄弟を。

幼いヒロノミヤは下の二人よりも歳が離れていたから、構うというよりは

脇から見つめているといった風。

でもそんな兄を妹はとても慕っていて、いつも眩しそうに見上げていた。

そんな兄と妹が今は互いに視線を合わせようとせず、素知らぬふりをしている。

兄と弟、兄と妹。

本当に血のつながり程やっかいなものはない。

素知らぬふりをしていても、サヤコの心は波立っていただろう。

兄にもう一度こちらを見て欲しいと。

だが、ねじれた糸は決してほどけず、力を入れて引っ張れば切れてしまう。

痛々しくも平静を装う妻を心底愛しいと思った。

ちらっとアキシノノミヤを見ると、宮もキコも静かに笑顔をたたえて

サヤコを見つめている。

その、どこかほっとしたような、けれど寂しいような表情を見て胸をつかれる。

自分はアキシノノミヤにとって大事な大事な妹を託されたのだ。

茶会の間、終始和やかに会話が続いているように見えたが

実際に皇太子夫妻はほとんど誰とも会話をする事無く、二人で固まっていた。

みな、何となく皇太子を避け、マサコを避け、けれどそれに気づいているのか

いないのか、皇太子は全く動じる様子もなく妻に話しかけている。

気を利かせた皇后が必死に皇太子とマサコに話しかけ、表面上は

誰かと会話をしているように見えた。

「新婚生活はいかがですか?」

新しい生活はいかが?もう慣れた?」

独身の時とは違うでしょう?」

お仕事からのお帰りは何時頃なの?宮様をお待たせするの?」

何かと大変でしょう。これから

等々、話題は尽きない。

ひっきりなし誰かかれかに同じような質問をされ、そして同じように答える自分がいる。

ええ。やっと落ち着きました」

「ええ、私は平気ですがサヤコが大変だと思います」

「ええ、確かに違いますね。家に帰ると母ではなくもっと若い妻がいる」

「公務員ですから基本的に9時ー5時です。なるべく早く帰るようにしています」

「そうですね。しかし私達は大丈夫です。ご心配頂きありがとうございます

コミュニケーションというよりはカンバセーション。

上流の会話というのに「本音」ない。

決まった質問に決まった答えがあるだけだ。

ようやく皇太子が近くにやってきた。

先日は失礼したね

内親王様のお具合はいかがでしょうか

うんまあね。マサコがつききりで看病をしていたから。アイコはよく熱を出す子で

そうですか」

子供が出来ると二人きりの時には考えられない生活が待っているんだよ

はい」

でもまあ、そんなに悪いものではないね。結婚生活は

はい」

皇太子が一方的にまくしたてている。ヨシキは何と答えたらいいのかわからず

ただただ「はい」だの「そうですね」だのと適当に答えるしかなかった。

弟の学友なんだってね

いきなり何の話だろう。

そんな事、1年前から言っている事なのに。

「昔の東宮御所に来た事ある?」

はい、アキシノノミヤ殿下のお誕生日に伺った事が」

そう。建物があの頃と変わっているからね。会った事あったかい?」

いえ・・・」

そうだよね」

皇太子は一人でその答えに満足したのか、あっさりと人の波に入って行く。

ヨシキはめまいがした。

どう・・なさったの?」

サヤコが心配そうに聞いた。

「慣れない席でお疲れでしょう?お話になりたくない時は無理しないで」

いや。そういう事じゃないんだけど」

でも少し汗が」

サヤコはハンケチでそっとヨシキの額を拭いた。

あら、見せつけるわね」

そう言ったのはマサコだった。わりと大声だったので、一瞬みんながこちらを見る。

いえ・・妃殿下」

サヤコは珍しくどぎまぎして、答えに窮した。ヨシキもまたとっさに言葉が出ない。

「新婚ですものね」

助けてくれたのはキコだった。

早くも夫唱婦随ですね。素敵」

キコはにっこり笑ってヨシキ達の袖を引っ張った。

宮様にご挨拶を」

ごく自然にキコは二人を引き離し、アキシノノミヤの元に連れていってくれた。

大丈夫か

宮は笑ってグラスをカチンとヨシキのグラスにあてた。

あらためておめでとう

ありがとうございます」

多分、今が一番幸せだろうなあ

宮様もそうだったんですか?」

いや、僕は今も昔も一番幸せだよ」

宮は茶目っ気たっぷりに言った。

ただ、妹はおっとりしているから世間の時間に乗れないのじゃ

ないかと心配で。君にも迷惑をかけているんじゃないか

そんな事ありません。そうだ、サヤコの手料理はおいしいですよ

作るのに何時間かかった?」

・・・・・・2時間・・・くらい

二人は大爆笑した。

妻たちは「失礼よねーー」と少し睨んだ。

秋の終わりに春がやってきたかのような温かな雰囲気がそこら中に広がり

人々が三々五々集まって来る。

ひとしきり、夫婦談義などして盛会のうちに茶会は終わったのだが・・・・

終了時、皇太子妃が消えている事は誰もが気づいていた。

ヨシキは時々宮が見せる憂欝そうな表情を見逃さなかった。

本来ならもう少し気楽な立場でいられる筈なのに、瞳に憂いが。

同い年なのに髪は真っ白で、目元には深い皺が刻まれている。

皇族でいるというのは本当に大変なのだ。

あなたを兄と呼ぶには恐れ多すぎる。けれど僕は心の中で

この方を尊敬をこめて兄と呼ぼう。血のつながりはないけど

縁あって義理の兄弟になったのだ。きっとお守りしよう。

サヤコと二人で)

ヨシキは強く心に誓った。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」186(時限爆弾のフィクション1)

2015-05-15 07:00:00 | 小説「天皇の母」181-

マサコの怒りは静まらなかった。

怒り・・・というより「悲しみ」だった。

オーノが言うように、悪いのは自分じゃない。

みんなが私を嫌ってる。だから意地悪をするのだ。

生まれた時からずっとそうだったような気がする。

小学校でも中学校でも大学に入ってさえ・・・・どうして誰もかれも

私に意地悪をするんだろう。

どうして嫌がらせをするんだろう。

それはまあちゃんが綺麗で頭がいいからなのよ」と母は言った。

みんな嫉妬しているの。辛いわよね。あなたみたいに何もかも揃っていると

やっかまれて

そうなのかも。

妹達もおおむねそんな状況だったらしい。とはいっても、あちらは2人だから

互いに助け合って来たのだろうが。

日本最高の家でナンバー2の自分が、よりによって使用人に嫌がらせされるとは。

誰がそんな事を許すのか。

皇太子妃ってそんなに権力がないの?

考えれば考える程わけがわからない。とにかくみんな信用できない。

マサコは部屋にひきこもった。

こうなるともう誰も手を出す事は出来ない。

ただただ天の岩戸が開く時を待つしか。

皇太子はどうすることも出来ず、彼もまた自分の部屋にひきこもり

気持ちを落ち着ける為にヴィオラを弾いてみたり、昼間からウイスキーを

飲んでみたりしたが、どうにもならない。

結婚式から2日後、クロダサヤコが夫と共に挨拶に来た。

目の前に立つ妹はまるで別人のように生き生きとしていた。

だけど、平民になってしまったのだ。

おめでとう」と皇太子は乾いた声で言った。

ありがとうございます」ヨシキはサヤコを守るように一歩前に出る。

これからは二人で力を合わせ、よい夫婦になりたいと思います」

そうだね。サーヤは幸せなの?」

二日しかたっていないのにこの質問。二人は顔を見合わせた。

「ええ・・・勿論」とサヤコは平静を装って言った。

あの・・・お姉さまとトシノミヤは

マサコもアイコも風邪をひいてね。移したらいけないから遠慮させてもらうよ

まあ。大変」

 見透かすようなサヤコの視線が、元は正直者の皇太子の心をざわつかせた。

お兄様もお元気で」

帰って行く二人を見送り、皇太子はため息をついた。

自分だって新婚の頃はあんな風に穏やかな顔をする時があったのに。

 

結果的に頼るのは義父しかいない。

皇太子は恥も外聞もなくオランダに電話をかける。

時差なんか考えている暇はない。

マサコの気鬱をどうしたらいいのか相談したい。

オーノ医師がいるんじゃないかね

電話の向こうのヒサシは時差もあってイライラしていた。

こんな時間に電話をかけてくるとは・・・・といういら立ちのよう。

皇太子は「すみません」と言いながら

でも、先生でもどうしようもないんです

「まず、そうだな。事の発端の女官を辞めさせたらどうでしょうね

事の発端の女官なんて存在しない。

誰でもいいんですよ。女儒なら大事にならないだろうし。退職金を弾んで。

それから今月中に有識者会議が「長子優先、女帝容認」の決議書を

提出します。間違いなく国会を通過しますから。だから機嫌を直せと

言ってやってください

本当に皇室典範が変るのですか

ああ。確かだ。総理も腹が決まったよ。今やみな殿下の味方です。

どうか安心して下さい。私は孫の為ならどんな事だってするんですよ」

「はあ・・」

皇太子はまだよくわかっていなかった。「どんな事でも」というのはどんな事を

やったらそういう結果になるのだろうか。

自分もまたそんな権力を持てるのだろうか。

「それから来年の人事で、こっちの息がかかった人物を東宮大夫に推しますから

え?」

マサコのわがままは本当に困った事です。父としてお詫び申し上げますよ。

お詫びの印といってはなんですが、マサコのお守りをする人間をやります。

そしたら殿下も楽になるでしょう

はい・・・」

私もそうですが、男というものはいつも妻や娘に翻弄されるものです。

まあ、それが男の甲斐性というものでしょうかね

笑ったヒサシの声が急に厳しくなる。

殿下。しっかりして下さいよ。何と言っても殿下は将来の天皇陛下なんですから。

その日もすぐに来るでしょう。アイコが皇太子になりさえすれば全ての憂いは消えます。

そうしたらマサコだって元気になります。それまでの我慢です。ああそれから

極め付けの手を使いますから、殿下、ご安心を」

電話を切った皇太子は暫くぼやーーとしていた。

ヒサシと会話をするといつも催眠術にかけられたような気になる。あまりにも確信的で

決めつけるその物言いが妙な安心感を与えるのだった。

「極め付けの手」とは一体何だろう。

何であれ、ヒサシに任せておけば大丈夫なのだ。

そして有識者会議が書類を提出し、女性皇太子と女性天皇が決まれば・・・・

決まれば・・・・

落ち込んでいた皇太子の顔に生気が戻り、もう一度部屋に戻ってヴィオラを奏でる。

何かよい事が?」

内舎人がウイスキーを持ってきて、さっきと違って妙に機嫌のいい皇太子を

いぶかしんだ。

皇太子はにこにこと笑って

何でもないよ。マサコの調子はどう?」

「まだお部屋に・・・

といいかけた所に「失礼します」と女官が入ってきた。

どうしたの」

妃殿下のご伝言です

女官は一枚の紙を差し出した。

それには「明日のこどもの城、送りと迎えお願いします」と書いてあった。

アイコは最近、リトミックと治療を兼てそんな子供が集まる施設に通っていたのだった。

表向きは「プレ幼稚園」という名目だったのだが。

通常は女官が付き添いをするものだが、マサコは「信用できない」と言って

自ら送りや迎えをやっていた。

それが次第に「迎え」だけになり、とうとう両方を皇太子に頼むという事にしたのか。

それはこちらで」

内舎人が言うと、皇太子は紙をくしゃっとしてから首を振った。

「いや、僕が送り迎えをするよ」

回りが信用できないというよりは、心底娘が可愛かったから。

不憫な娘に対して、皇太子の自分が出来る事といったら送り迎えだけだ。

義父のように道筋を整えてやることも出来ない。

アイコの将来を考えるとひどく落ち込んでくるのだが、しかし・・・女帝になれれば。

マサコの様子はどう?」

あの・・申し訳ありません。その紙はドアの下から出てきて・・お目にかかっておりません」

そうか

あ、でも、食欲がお出になったようで、今、食事を用意させております」

じゃあ食堂にいるんだね」

いえ、お部屋に」

出て来ないのか。せめて娘と一緒に食事くらいすればいいのに。

先ほど、長いお時間。電話をされていたようです

電話の相手は?」

さあ・・・

どうせオーノだろう。あの結婚式の夜も夜中まであの医師は部屋にいた。

その後も電話で随分長いこと話し込んでいた。

夫よりも医者の方が頼りになるのか・・・・・晴れかけた心がまた沈んでいく。

皇太子はごまかすようにぐいっとウイスキーを飲み干した。

 

女儒をくびにする必要はなかった。

女官数名が年度末を待たずに退職していった。

それで一応、マサコの気もおさまった。

11月20日。ベルリンフィルのコンサートに皇太子とマサコは

二人で出席予定だったのが、わずか10分前にマサコは行かないと

言って部屋に引きこもった。

東宮大夫や侍従は慌てて説得にあたったが、公演時間が迫っているので

結果的には皇太子が単独で出席する事になった。

皇宮警察にその知らせが入ったのは、皇太子が出発したあとで

現場は混乱・・・というより情報が交錯して右往左往していた。

東宮大夫は記者会見で「お加減が急に悪くなったので」と言い訳したが

マスコミは「具体的にどういう状態なのか」と追及する。

「侍医の判断」で押し切った東宮大夫の顔には疲労の色が濃くうつっていた。

そして11月25日。

ついに有識者会議が「長子優先、女帝容認」の報告書を提出した。

歴史上、例をみない「女系天皇」が承認される寸前だった。

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」185(失墜のフィクション)

2015-05-11 07:00:00 | 小説「天皇の母」181-

あんた達のせいよ。どうしてくれるの

マサコは思いきり壁にグラスを叩きつけた。

それは割れて粉々になり床に散らばった。

女官達は怯えて言葉も出ない。

私達のせい・・・・・とは」

さすがの女官長も気色ばんで口答えをする。

割れる音に気付いた侍従や女儒達も駆けつけてきた。

あんた達のせいだって言ってるの。私に恥をかかせて」

何の事か

「着物のことよ。私一人だけドレスだったじゃない

あれは妃殿下がご自分で」

本当にみんなが着物を着てくるというなら教えてくれたって

よかったでしょ。全員着物だって。そう言ってくれたら私だって

着物にしたわよ。一人だけあんな恰好で出る事はなかったのに

さすがに披露宴での自分の浮きっぷりは自覚していたらしい。

横に座った天皇に話しかけても、天皇はさりげなく皇后の方を向き、

同じテーブルの誰一人として、マサコとまともに目を合わせようとしなかった。

言葉をかけようとすらしなかった。

それはそもそもサヤコが主役の披露宴なのだから、当たり前の事であったが

そういう無視が一番耐えられない事だった。

みながそっぽを向く。自分が主役であるかないかなど関係ない。

無視されるのが一番怖いのだった。

私は妃殿下に、披露宴の御召し物は着物でございますと申し上げました」

女官長が果敢に戦いを挑んだ。

宮様が皇后陛下おさげ渡しの着物を着用される為、女性の出席者は全員着物だと」

それはマサコも聞いていたのだ。

しかし、本当に全員が着物だとは思わなかった・・・・というのが心情だ。

全員が着物を持っているとは限らないし、全員が着物好きとは限らない。

(そもそもプロトコルに好みはないのだが)

まして自分は「病気」で着物が負担だと言っているのだから、誰か一人くらいは

ドレスで・・・と思っていたのに。

本当に全員が着物だったのだ。

だから、そうならそれで私に着物を着せるべきだったでしょ

妃殿下は着物を見ると具合が悪くなるとおっしゃいました。この件は

皇后陛下にもご相談申し上げ、それなら仕方ないとのお言葉も頂戴しました」

それがひどいっていうのよ。まるで嫌がらせじゃない。いいわよーって言って

おきながら全員が着物で私をのけものにして

何でそういう発想になるんだろう・・・・・女官長はうんざりして黙った。

いたたまれなかった。傷ついたわよ。だからろくに食べる事も出来なかったじゃない

さすがのマサコも自分一人だけ洋装である異常さに気づき、

立食パーティの時は控室にこもっていたのだ。

普通なら皇太子も一緒に・・・・という筈なのに、この日ばかりは皇太子は

妻を気遣う暇もなかった。

たった一人で控室にこもった彼女は、ただただ止まらない涙を拭きつつ

屈辱に耐えていたのだった。

とりあえず、床をはきますので・・・・」

女官長は落ち着いてそういい、女儒に掃除を命じた。

それに向かって、マサコはなおも、手当たり次第のものを投げつける。

雑誌、新聞、灰皿。

灰皿は高級なガラス製で重い。きゃあっとみな、避ける。

しかし、女官長は避けなかった。

幸い、灰皿は彼女にあたらず、壁にぶつかってごとんと落ちた。

マサコの顔は涙でぐちゃぐちゃになっており、頬は紅潮し、目は完全に

正気を失っている。

オーノ先生を・・・・」侍従長がこっそりつぶやき、聞いた侍従が走って出て行く。

妃殿下。もう終わった事でございます。誰も気にしておりません

「気にしてない」というのがさらに怒りを煽った。

気にしてないってどういう事?誰も私の事なんかどうでもいいって事?

みんな無視?皇太子妃の私を無視するわけ?私がどう思うかとか私が

どう感じるかとか、そういう事がどうでもいいって事?みんなそう思ってるの?

一体、誰の使用人なのよ」

支離滅裂な言葉だった。

こうなると、もう手がつけられない。女官達は怯えきって今にも泣きだしそうだし

掃除をする女儒達も震えている。

女官長は・・・・・ここは納めなくてはならない。何が何でも。

彼女はその場に跪いた。

申し訳ございません。全て私の落ち度でございます。

どうぞお許し下さいませ。この責任はいかようにもとりますので」

全員驚いて固まった。

私に恥をかかせた事は認めるのね」

はい。妃殿下が何とおっしゃろうと着物を用意すべきでございました。

途中でお着替えになる事も出来たのに、私共が気が利かなかったばかりに

本当に申し訳ございません」

それ、皇居に行って言える?」

「はい。千代田の女官長を通し、皇后陛下にお詫び申しあげます」

マサコはつかつかと女官長に歩み寄り、それkらばしっと頬をひっぱたいた。

皆、思わず叫び声をあげた。

「妃殿下、いくらなんでもやりすぎでは

と、侍従長が庇ったが、マサコはきっと目をむけ

ここの主は誰なの?」と言った。

誰も答えられなかった。

宮内庁なんて馬鹿ばっかし。所詮ははきだめよ。それでいい給料貰ってる

んだもの。他の省庁が可哀想だわ」

全員、固まってしまった。

その時、「殿下のお帰りです」と声がした。

こ・・皇太子殿下がお帰りです

侍従長は聞こえなかったふりをして、出迎えに走って行った。

しかし、他の職員達はその場に微動だにせず突っ立っている。

どうしたの」

女官長は土下座して頬を真っ赤にしている。

床にキラキラ光るガラスが散乱し、灰皿の後がくっきりと壁についている。

誰もが動かない中、マサコだけが目をらんらんと輝かせて君臨している。

皇太子はその異様な光景に言葉が出なかったようだった。

皇太子はたった今、皇居の夕食会から帰って来たのだった。

披露宴や記者会見等が全て終わって、皇居で「家族」だけで夕食会をした。

そこにマサコは行かなかった。

表向きは「アイコの看病」であったが、それが嘘である事は誰もが知っていた。

それでも、結婚式での純白のドレスと披露宴での真っ赤なドレスのインパクトは

大きかったのか、食事会ではあまり会話がはずまず、みな、心のどこかに

重しをのっけたような気分で箸を進めていったのだった。

皇太子一人だけが、その場の空気が読めず、にこにこと祝いの酒を飲んでいたのだが。

 

いい気分で帰って来たというのにこの光景。

さすの皇太子もちょっと不愉快になって眉をひそめた。

「マサコ、アイコの熱はどうなの

アイコなんてどうだっていいわよ。あなたは楽しかったんでしょうね。

娘の看病もせずに一人でおいしいものを食べて来て。いつだってアイコの事は

私に任せきりじゃない。おまけに私は職員に裏切られて」

裏切った?ってどういう事?」

みんなが私にドレスを着せて恥をかかせたって事よ。これは女官長が仕組んだの

話がどんどん大きくなっている事に職員達は内心驚き、そして本当にやっていられないと

思っていた。

両陛下が今度、みんなで食事会をしようとおっしゃってたよ。アイコの幼稚園合格を

祝って」

皇太子は話をそらそうとした。

みんな、マサコがアイコの看病で来られないのを残念だって言ってた。

サーヤ達はあさって挨拶に来るっていうから、その時は」

どうだっていいって言ってるでしょ!私は恥をかかされた事に腹を立ててるの。

男のあなたにはわからないかもしれないけど、みんな着物を着ている中で

一人だけドレスって本当にひどい事だったのよ」

わかるよ。それは本当に。だけどマサコは病気なんだから仕方ないじゃない。

他の人間ならそんな事許されないけど、マサコだからいいって事なんだよ。

だからそんなに言わなくてもいいんだ。みんなわかっていたから」

嘘よ。みんな心の中では私を笑っているんだわ」

笑ってなんかないって

「笑ってるって言ったら笑ってるのよっ!」

もう何をどう言っても無駄な感じがして、早く時が過ぎないかと思い始めた時だった。

オーノ先生がいらっしゃいました

女官に案内されて入って来たオーノは、普段着のセーターを着ていた。

背広に着替える暇も惜しんで来たらしい。

皇太子がきちんとした服装で、主治医がセーター姿というのはどう見ても

順序が違うような気がしたが、みな、そんな事を考えている余裕もなかった。

ぶしつけに部屋に入ってきたオーノは、いきなりマサコの手を取ると

大丈夫です。妃殿下。さあ、お泣きください」と言った。

マサコはそう言われると、いきなり子供のように泣き始める。

大丈夫ですよ。妃殿下。大丈夫。話は私が聞きますからね。誰か、

温かい飲み物を持ってきて下さい」

夫の目の前で妻の手を取る主治医。しかし、皇太子はそれに怒るというより

むしろほっとしてしまった。

女官長が立ち上がり、ホットコーヒーを持ってくるように命じ、

全員が部屋を出た。

背後で

妃殿下は悪くありません。悪いのは回りです。だから妃殿下はちっとも

悪くないんです

という声が聞こえた。

女官長は唇をぎゅっと噛みしめ、無表情で部屋の扉をしめた。

ここはお医者様にお任せしましょう。それより殿下、お召し替えを」と

侍従長がいうので、皇太子は言われた通りに部屋に帰った。

今日は一日色々あって疲れていた。

任せる相手がいるならその方がいいと・・・・・皇太子は思ったのだった。

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」184(華燭のフィクション3)

2015-05-08 18:20:00 | 小説「天皇の母」181-

その日の朝、北海道でマグニチュード6の地震が起きた。

幸いにして何の被害もなかったのでニュースにすらならなかったけど。

それは姫の降嫁を嘆く地の神の怒りだったのか悲しみだったのか。

それとも、これから起こる様々な不愉快な事を予兆しての事だったのか。

 

住み慣れた皇居からノリノミヤは御料車で帝国ホテルに向かった。

御料車は本来、天皇しか使う事の出来ない車である。

それを特別に嫁ぎ行く娘の為に使用許可を与えたのは天皇だった。

宮は静かに手を振りながら沿道で見送る人々に「皇族」として別れを告げた。

慌ただしく朝食をとり、出発の準備をする娘を父は黙って見つめた。

母は抱きしめて「大丈夫」と言った。

ええ、ドンマーインよね」と娘は答えた。

宮内庁の職員はみな宮の事が大好きだった。

だから見送る時は誰もが涙を流した。

古くからの職員も呼ばれて見送りを許されたので、車寄せは人でいっぱいになった。

「降嫁」と一口に言うけれど、その環境の激変は想像を絶するものだろう。

身分が皇族から平民になるだけではない。

生活環境が変わる。

今までは女官がいて全てを仕切ってくれていた。

「殿下」と敬称を付けて呼ばれていた。

自分の事はなんでも自分で出来る宮ではあったけど、そののんびりとした

性格が世の中に出てうまく機能するのか、それが一番不安だった。

可哀想に」

ぽつりと皇后が口にした事がある。

平民から皇族に登るのは大変ではあるが、一つの「シンデレラストーリー」だろう。

しかしその逆は・・・・

自分の娘がそうなる事に一抹の理不尽さを感じているらしい。

宮はそれを一蹴しただ、「ドンマーイン」と言った。

そして全てのものを自分のかつての部屋に残して行った。

「これくらいは・・・」と言われたものまでおいて行った。

それが内親王としてのプライドであった。

 

時刻通り帝国ホテルに到着したノリノミヤは早速、おろしたてのドレスに

身を包んだ。

それは小石丸で作られた極上のシルク。

純白というより黄金色に見える上質のもの。

そのデザインはいたってシンプルで、どこにもなにも飾のない。

「クラリスのドレス」と宮は呼んでいたが、実際にクラリスよりは袖の

ふくらみはなかった。

無論、花嫁のベールすらない。

神式の結婚式なのにどうして十二単とか白無垢じゃないのかしら

などとひそひそ女官達は話していたが、お構いなしだった。

ティアラすらない、内親王の格式に果たしてそれがふさわしいかどうかは

別にして。紀宮自身が望んだ結婚式だった。

 

式には天皇と皇后も出席。異例の事だった。

皇族の冠婚葬祭には出席しないのが慣例だからである。

平等性や穢れを嫌う性質だからではないかと思える。

皇太子夫妻もホテルに着く。マサコは例の純白のドレスだった。

それはフラッシュの光でまばゆいばかりに輝いた。

記者達はさすがに唖然としたが、それを言葉にする事は許されない。

アキシノノミヤ達も出席。キコは地味なブルーグレイのドレスに身を包んでいた。

神式の結婚式は身内以外出席は許されない。

どのような雰囲気で行われたのか、誰も知らないのである。

神の前で告げるとはそういう事だのだ。

ただ、ノリノミヤからクロダサヤコになった女性はとても美しく幸せそうだった。

式後に行われた記者会見では先にヨシキが

本日に至るまで、様々な方々に支えて頂きながら

よき日を迎える事が出来ました。

両陛下を始め、皇族方のご出席を頂き、滞りなく式が行われた事を

心より感謝いたしております」と言えば横からサヤコが

両陛下、そして、黒田の母に見守って頂きながらとどこおりなく

式が執り行われた事を安堵しております。

婚約を発表しました日より多くの方々に、お祝い頂き

支えて頂きながら今日を迎えられましたことを深く感謝いたしております」

と答える。

夫唱婦随のよい例になりそうな会見だった。

互いの考えを尊重しつつ、心安らぐ静かな家庭を築いていきたいと

存じております。新しい生活を始めて間もない頃は

慣れない事も多かろうと存じますし、また、予期せぬことも

あろうかとは存じますが二人で力を合わせて一歩一歩進んで

参りたいと思います」

それはヨシキの本音だったろうと思う。しかし、この先、そのような

穏やかな生活が来るとは決していえない状況ではあったのだ。

 

披露宴は引き続き、帝国ホテルで行われた。

男性はモーニング。女性は着物とされた。

通常は新婚の二人の親達は末席に座るものであるが、皇室であり

天皇と皇后は誰よりも各上なので、それに連なる皇族方が上座になった。

ここでも、取材の記者達が一瞬、ぎょっとなった。

女性達が全員、あでやかな着物なのに、一人だけ真っ赤なドレスで

登場したのが皇太子妃だったからである。

しかもバックストラップの靴まではいて。

その堂々とした登場ぶりに「さすがマサコ様」と思う向きもあったが

浮き上がっている事だけは確かだった。

これが10年前なら「着物を着るとは知らされていなかった」とか言いそうなもの。

しかし、今回ははっきりと何か月も前から披露宴は「着物」と決まっていたわけだし

その知らせも東宮職は受けていた。

その上で尚且つ、マサコはベルベッド地の赤いドレスを着たのだ。

「着物を着ると気持ち悪くなる」という理由で。

しょうがないので、雑誌は「着物はご負担なので特別にお許しを頂いた」と書くしかなかった。

しかし、隣に座った天皇がさりげなく目をそらすに至って、さすがのマサコも

自分が回りからかなり浮いている事に気づかないわけにはいかなかった。

最初こそ笑顔で座っていたのものの、しまいにはいたたまれず

披露宴の立食式パーティが始まると、姿を消した。

 

それで皆は安心して心行くまで降嫁した内親王に祝辞を贈った。

母から贈られた着物に身を包み、だれよりもしとやかに歩く姿は

どこからみても「クロダ家の妻」であった。

しかし、皇后はそんな娘から目を離さずじっと見つめ続けていた。

例え、今日この日から皇族でなくなったとしても「娘」である事に

違いはないのだからというように。

 

その日の夜、皇居では改めて「家族」だけの食事会が行われた。

天皇・皇后・アキシノノミヤ夫妻に皇太子が出席しての小さな小さな

夕食会だった。

この時もマサコは「アイコの具合が悪い」と言って姿を見せなかった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」183(華燭のフィクション2)

2015-04-29 07:00:00 | 小説「天皇の母」181-

女官部屋がざわついているのに気付いた女官長は

そっとドアの外から様子を伺った。

いよいよ明日はノリノミヤの結婚式という日。

東宮家でも結婚の儀、その後の茶会の儀への参加

準備が進んでいた。

とはいえ、昨日の皇居での食事会にも参加しなかった皇太子夫妻は

目出度い日の前日であっても「普通」を貫き、それぞれの部屋に

引きこもっている。

マサコが食事会に出なかった理由は表向き「アイコの具合が悪い」という事だった。

確かにアイコは風邪気味ではあったが、別段気にする病状ではなかったし

ゆえに侍医も呼んでいない。

にも関わらず、アイコを盾にしての不参加は、裏から見れば

東宮夫妻が宮の結婚をあまり喜んでいないという事になる。

皇太子からすると、前年12月の突然の婚約発表はまさに寝耳に水だった。

まさか両親である天皇と皇后まで、噂一つ自分に持ってこなかった・・・という

事がショックだった。

正式にどうなるかわからなかったの」と皇后は言い訳をしたようだが

この件に関しての英雄はアキシノノミヤだった。

よりによって弟の学友と妹が結ばれようとは。

これではやり方が「藤原氏」ではないのか・・・・などと余計な気を回す。

もっともそう吹き込んだのヒサシに他ならなかったのだが。

弟君がご自分の学友を妹君にめあわせるという事は、皇太子殿下への

挑戦ではありませんかな。うちのマサコは学習院を出ておりませんので

学習院閥など作りようがありませんが。

アキシノノミヤは妃も学習院。後ろ盾は常盤会でしたな。学友を取り込むとは

頭のいい宮様で」

例の人格否定発言以来、東宮からは学習院関係の学友達はどんどん去っていた。

頼りになるのはOBオーケストラのみ・・・という状況下において、

アキシノノミヤ家にはいまだ、そんな連中が出入りしているのかと思うと腹が立つ。

アキシノノミヤ様は皇位継承権第2位の方ですし、後々殿下が即位されれば

学習院閥を広げて権力を握るでしょう。後々、宮様のお子達が交流・・・という事も

ありますし。うちのアイコ様が不憫ですなあ。あちらの内親王方の方が

いい目を見るという事も考えられるし」

皇太子は心が重く沈んで行くのを感じた。

アキシノノミヤ家の2内親王の方が、アイコよりずっと利発である事は知っている。

アイコでは将来的に太刀打ちできないだろう。

「大丈夫です。所詮、あちらは地方公務員。それほどの学歴があるわけじゃなし。

華族に連なるとはいっても傍系であるし。私達がおまもりします

ヒサシの声は少し甘くなった。

皇后陛下をお許しになって下さい。陛下が殿下に何もおっしゃらなかったのは

多分、恥ずかしかったからですよ。親なら自分の娘には最高の縁をつけたいと

思うもの。陛下とて同じ。私共などは恵まれましたからな。最高の婿に嫁がせる

事が出来て幸せでした。庶民の私ですらそうなんですから陛下なら。

きっとイギリス王室とかベルギー王室などに縁付かせようとされていたのかも

しれませんよ。それが果たせなかったので気落ちしていらっしゃるのです」

そうかもしれないと皇太子は思った。

そうなると「恨み」の気持ちは母というより、この縁組をまとめたアキシノノミヤへ

行くもので、弟とは顔を合わせたくなかった。

ゆえに夕食会欠席は「抗議の欠席」でもあったのだ。

 

そんな雰囲気は東宮内にも広がっている。

常識派がいる一方で「アキシノノミヤ様って政治家だったのね」と

くちさがない女官達の噂にもなる。

そもそもキコ様を選んだ時点でそうなのよ。野心家のお妃よ。いつも張り付いたように

にこにこ笑ってわざとらしい。大学に入った時から宮様狙いだったって

話しよ。好きで皇室に入ったんだもの、適応できて当たり前よね

そうそう、殿下のお子をおろした事があるんですってよ

それ、私も聞いた事ある

と、いつの間にか信憑性のない噂話が部屋中に広がり、喧々囂々となる。

それもこれも東宮家が暇だったからなのだが。

 

しかし、今回は少し様子が違うようだった。

女官長は部屋に入り、大きな声をだした。

一体、何を話しているの。御役目はどうなっているの?」

申し訳ございません。女官長」

女官の一人がすぐに謝って散会しようとした。

ちょっと待って。何を話していたの?」

女官長が引き止めると、女官達は待ってましたとばかり集まってくる。

なんていうか・・・明日の妃殿下のドレス、本当にこれでいいのかなって」

明日のドレス。

それは結婚の儀に着る「お長服」と茶会で着る赤いドレスの事だった。

何か変?」

私達庶民は、結婚式とか披露宴に花嫁と同じ白は着ません。

っていうか、着ちゃいけないんです。でも皇室はいいのかなと。

皇室って私達庶民とは違ったしきたりがあるから」

そうそう、庶民は目出度い時は紅白の幕だけど、皇室は白黒だったり」

だから間違いではないのよ。きっと」

女官達のいう事はもっともな話しだった。

マサコが着る予定の「お長服」はゴージャスなアイボリー色だったのである。

無論、ノリノミヤの衣装も多分純白だろう。

つまり花嫁と皇太子妃が同じような衣装で式に出ると言う事なのだ。

他の妃殿下方はどうなんですか?」

こういう場合、一応、皇后以下、各宮妃から衣装の色が教えられる。

皇后はグレー、アキシノノミヤ妃は薄いブルーの予定だった。

ほら、やっぱり白じゃないわよね」と誰かが言った。

花嫁と同じ色っておかしくないですか?これは白といっても

金に近い白でとても豪華なものです。下手したら花嫁さんよりゴージャスに

なってしまうのでは」

いいんじゃないの。皇太子妃殿下の方が身分が上なんだから

そうよそうよ。マサコ様がそれでいいっておっしゃるんだから

女官長は軽く頭痛を覚えた。

いいわけないのだ。女官長として一応、白はやめるべきだと進言したのだが

聞き入れなかったのはマサコ。

最近のマサコはどういうわけか白にこだわりをみせ、買う服は

みなその色目だった。

夏でも冬でも白。季節感もへったくれもない。

白が一番自分に似合うと思い込んでいるかのようだった。

赤い方はどう?茶会は着物だって聞いたけど、どなたか洋装の予定はあるかしら?」

「さあ・・・私は着物としか」

「きっと全員着物よ。どうしてマサコ様は着物じゃないのですか?あとであれこれ

言われませんか?」

これもまたマサコ自身の希望だった。

結婚の儀の後の披露茶会では全員が着物で出席する様にとのお達しで

それは随分前から決められていた。

女官長もすぐにマサコの着物を誂えようとしたのだが

私、着物を見ると気持ち悪くなるのよ」と言い出したのだ。

き・・・気持ち悪くなる?」

そう。あんなに窮屈でみっともない服ったらないわ。合理的じゃないもの。

なのに色がどうの、扇子の位置がどうのってうるさい事ばかり。

どうして日本の民族衣装はああも地味で動きにくいのかしらね。

チマチョゴリの方がよっぽど動きやすいわよね」

いくらなんでもそれは皇族のセリフではないのでは・・・・と女官長は

喉まででかかった言葉を飲み込む。

着物は負担だって言ってもらうわ。オーノ先生に。医者の判断なら

誰も文句言えないもの

という至極簡単な理由でドレスになったのだが。

まさか「赤」を選ぶとは女官長も思わなかった。

出来上がったドレスを見て「これではどっちが主役かわからない」と

思ったのは女官長だけではないだろう。

なんせベルベッド地の真紅のドレスだったのだから。

用意された靴はバックストラップで、おおよそ正式な場には

ふさわしくないもののように見える。

しかし、「普通のパンプスは負担」とマサコが言い出し、歩きやすいものに

代わってしまったのだ。

「皇室の常識は庶民の非常識かも」

と誰かがおどけて言ったのでみんな笑った。

もういいから。お仕事が終わったのなら交代して。明日は忙しいのよ」

女官長は手を叩いてみなを散らばらせた。

みながいなくなった部屋に残り、衣装を見ながら女官長はため息をついた。

さっき、誰かが言った「皇室の常識は庶民の非常識」という言葉が

耳について離れなかった。

誰もがそういう目で見る事になったら皇室はどうなってしまうのだろうか。

これからマサコがやろうとしている事は、もしかしたら皇室の権威を

著しく貶める事になるのではないか。

そしてその責任は誰がとるのだろう。

女官長は帰宅するのも忘れてずっと衣装を見つめていた。

ゴージャスなアイボリーのドレスを。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」182(華燭のフィクション 1 )

2015-04-21 08:00:00 | 小説「天皇の母」181-

結婚の儀の二日前。

ノリノミヤは宮中三殿に参拝した。

正確には「賢所皇霊殿神殿に謁するの儀」という。

濃色の長袴に濃色の単、小袖は表濃色、裏紅。

長袴は精好の織、単は幸菱の文様で固地綾。

五衣は、表が萌黄色で松立涌文の固地綾に萌黄の匂いの平絹を

落としたもの。

打衣は、表が濃色無文で裏は同様の平絹。

表着は表が紅色人小菱文に白窠に八葉菊の上文を配した二倍織物で

裏は黄色の平絹。

唐衣は、表が紫亀甲文に白の雲鶴の丸を上文とした二倍織物で裏は紫の

小菱文の固地綾。

未婚を示す濃色の袴でしずしずと賢所に歩んでくる妹を見た時

アキシノノミヤは思わず涙がこぼれそうになって、ぐっとこらえた。

この衣を着たのは即位の大礼の時以来。

あの頃、妹はまだ20歳の若さだった・・・・そして自分は自分の事で精一杯だったのだ。

時から取り残されるようにして、気が付けばノリノミヤは30を超えていた。

いつも静かに父や母に寄り添っている、そんな娘だった。

その妹が。

今日は歴代の内親王の中でも一、二を争う品の高さで歩んでいるのである。

眼がしらを抑えた宮の手にそっとキコの手が触れた。

妻もまた涙ぐんでいた。

現在の皇室典範では内親王は結婚したら臣籍降嫁しなくてはならない。

35年も「内親王」として生きてきた彼女が結婚と同時に皇族でなくなる。

全く違う環境に赴こうとしている妹は雄々しさすら感じた。

この日、賢所の前で見守ったのはアキシノノミヤ夫妻、ミカサノミヤ夫妻

そしてタカマドノミヤ妃のみだった。

皇太子夫妻はもとより欠席だった。

どうやらマサコはこの手の行事には出るつもりはないらしい。

エガシラ家の葬儀には早々に夫と娘を伴って駆けつけたマサコであったが

随分と冷たい態度だった。

マサコにとって今、一番重要な事はアイコの幼稚園の面接だったらしい。

 

午後からはローブ・デコルテに着替え、正殿にて天皇と皇后に別れの挨拶を

する「朝見の儀」が行われた。

静まり返る正殿。前に並んでいる天皇と皇后。

そしてコツコツと小さな靴音を響かせながら、ノリノミヤがまず天皇の前に進み出る。

今日までの長い間、深いご慈愛の中で御育て頂きました事を

こころよりありがたく存じます。

ここに謹みて御礼申し上げます」

目を細めた天皇は

この度の結婚は、まことに喜ばしく、心からお祝します。

内親王としてその務めを立派に果たし

また、家族を支えてきた事を、深く感謝しています。

結婚の上は、これまでの生活の中で培ってきたものをさらに育み

二人で力を合わせて楽しい家庭を築き、

社会人としての務めを果たしていくよう願っています。

二人の幸せを祈ります」

結婚の儀に天皇と皇后は参列しない。これが本当に別れだった。

ノリノミヤは粛々と頭を垂れ、姿勢を正すと、またコツコツと靴音を響かせ

皇后の前に進みいでた。

今日までの長い間、深いご慈愛の中で御育て頂きました事を

こころよりありがたく存じます。

ここに謹みて御礼申し上げます

口上は同じだったが、目があえばお互いの気持ちはわかる。

この度はおめでとう。これまで内親王として

また、家族の一員として、本当によく尽くしてくれました

かつての日。貝殻を耳にあてて二人で波の音を聞いた日があった。

果樹園でみかんの収穫に笑った事もあった。

本当に辛い時も「ドンマーイン」と笑って励ましてくれた娘。

どうか新しい生活においても、生活を大切にしつつ

社会のよき一員となっていかれますように。お二人の健康と

幾久しい幸せを祈ります」

嬉しい事なのに、なぜか心がざわめきたつ・・・・

 

しかし、ノリノミヤはそんな母のざわめきなど目に入らず

またも粛々と頭を垂れ、そして凛とした背中を向けて退出して行った。

 

その日の夜はノリノミヤ主催で夕食会が開かれた。

内親王主催はこれが最初で最後だろう。

嫁いでいけばかたや皇族、かたや一般人。

身分の壁にあたる。

誰も言葉には出さないけれど、これが内親王としての

晴れの夕食会なのだ。

しかし、ここには皇太子夫妻の姿はなかった。

「アイコが風邪気味なので」というのが欠席の理由だった。

内輪の夕食会とはいっても、そこは皇室である。

普段着で行くというわけにはいかず、皇后はじめ、キコも

宮も着物だった。

供されたのは大膳が腕によりをかけた料理で、うす味であったが

華やかな彩を添えている。

皇太子夫妻が出席しない事に誰も何も言わなかった。

最近、少し批判的になった妹に対する嫌がらせなのか、「適応障害」に

苦しむ妻を庇っての事なのか、それはわからない。

ただ、祝う気がない事だけは確かだった。

 

ともあれ、こういう場に出てくると必ず色々やらかしてしまう

皇太子夫妻がいないので、穏やかで和やかな夕食会になった。

天皇は一抹の寂しさを隠すように、殊更に明るく

これからは母がしてきたように、黒田君に、そして黒田君に連なる人々に

使えるんだよ。男は何と言っても仕事が大事だ。夫の仕事を支えるのは

妻の役割だよ」と説教のように言った後、少し笑って

「一旦嫁したからには実家の敷居をまたぐものではないとはいうけどね。

いつでも帰っておいで。身分は代わっても、ここはあなたの家だからね

と言った。

皇后はただ黙って娘を抱きしめた。

何も言わなくてもいい。そこには「大丈夫よ」という励ましの気持ちがあったから。

おもうさま、おたあさま、私、必ず幸せになります

少し湿っぽい空気の中、

あーあ、クロちゃんが気の毒だなあ。こんなじゃじゃ馬を妻にして」

とアキシノノミヤが大声で言ったので、みんな大笑いした。

じゃじゃ馬じゃなくてよ。私、しとやかな妻になるもの

朝ご飯が出来たと言われて気が付けば夕方だったりしてね」

まあっ。お兄様っ

笑い声は深夜まで続いて行った。

 

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